TUP BULLETIN

速報944号 ヒズブッラー議長:ハサン・ナスルッラー ーアサンジ連続インタビュー「明日の世界」第2回配信

投稿日 2012年8月3日

アサンジと語る「明日の世界」エピソード1(TUP速報第2回配信)


ジュリアン・アサンジが監修しホストを務めた連続インタビュー番組「明日の世界」は、4月中旬に開始され、7月3日に今期シリーズの幕を閉じた。毎週火曜日にRT(ロシアの公共放送機関)その他のテレビ・ネットワークやユーチューブなどインターネットを介して、多言語、世界規模[注*]で12回のエピソードが放映された。

アサンジ連続インタビューの初回を飾ったゲスト、サイェド・ハサン・ナスルッラー。彼の名前を聞いてピンと来ない人でも、「ヒズブッラー」と聞けばなんらかのイメージが浮かぶのではないだろうか。それはどんなイメージだろうか。

漠然としたイメージは浮かんでも、ヒズブッラーというグループが何を目指しているのか、そのリーダーであるナスルッラーがどのような人物なのか、それを具体的に知る外国人は多くない。ヒズブッラーがイスラエルに敵視されている以上、イスラエルは米国政治経済界に強い影響力を持つことから、西側諸国や日本のマスコミで流される情報や印象はイスラエル寄りになりがちだ。

また、レバノンの文化や社会について無知と思われる筋からの話がまことしやかに流され、その間違った情報を元にヒズブッラーやナスルッラーのネガティブなイメージが広められていくということがしばしば見受けられる。このインタビュー中にも出てくる例として、テイクアウトの食事はレバノンでは贅沢品ではなく比較的安価な食べ物であること、シルクの服は特にイスラム教徒の男性は好まないことなど、レバノンの文化的背景を知らないと思われる人物の流した情報がアメリカ大使館の外交公電として流れている。結果として、ヒズブッラーに対するレバノンはじめアラブ世界の人々の印象と西側諸国の人々の平均的な印象とには、大きなギャップがありそうだ。

以下、その状況を鑑みて、このインタビューの背景理解への助けになることを願い、いくつかの基礎的な、アラブの人々にとっては常識と言える事実を述べる。

まず、ヒズブッラーは、レバノンで民主的な選挙によって選ばれた国会に議席を持つ一政党、それも、現在レバノンで連立政権の一部を形成している主流政党の一つである。すなわちレバノン民衆の支持を集めている政党であり、なかでもリーダーのナスルッラーはレジスタンスの闘士として人々に人気がある。

人気の理由のひとつに、ナスルッラーは常にクリーンで庶民の近くにあり続け、?そして今もそうであることが挙げられる。これはナスルッラー支持の人もそうでない人も認めざるを得ない事実であり、汚職が当たり前で自分たち一族の利益を優先し、権力にしがみつくことしか考えないアラブの政治家が多い中、際立った点と言える。

一例として、ナスルッラーは、自分の息子をレジスタンスの戦士たちと共に前線へと送り出したことが挙げられる。多くのアラブのリーダーたちにとって、自分の子弟は安全な海外へ留学させたり贅沢させたりすることが当たり前であることを考えれば、これは稀有な決断である。その息子はイスラエル軍に殺され、かつ遺体を返還してもらえない状況になったが、ナスルッラーは決して自分の息子だけ有利になるよう遺体返還交渉をすることはなかった。あくまで他のレジスタンスの仲間と同じように扱い、彼らと一緒でなければ自分の息子の遺体を返してもらおうとはしなかった。死後息子のことを美化してプロパガンダに使うこともなかった。

また、ナスルッラーは約束したことは実行する人物としても名高い。2006年のイスラエル・レバノン戦争の際、テレビで演説中に海上にいるイスラエル軍の船を攻撃すると言い放ち、その直後に生中継で本当に爆撃した。またこの時の戦争で被害を受けた家々をヒズブッラーの責任で新しく再建すると約束し、それを実行した。レジスタンス活動で父親や夫を失った子どもや未亡人に対する保護も厚い。本来は政府の役割であるべきことながら、現実には政府が何もしない中、ヒズブッラーが実行している。

ヒズブッラーのイデオロギーや手法を支持するかしないかは、レバノン人の間でも意見が分かれる。ヨーロッパ人の間でも意見が分かれる。最近、ヒズブッラーをテロ組織として指定して欲しいというイスラエルの要求を、EUが加盟国間の合意が得られないとして拒否した。誰がテロリストで誰がそうでないのか、何を基準に誰がそれを決めるのか。

話し合いによる問題解決や非暴力不服従の考えにより親しみを感じる人ならば、ヒズブッラーの武器を使ったレジスタンスに納得できない部分もあるだろう。ただ、これらの手法が可能であればヒズブッラーは生まれなかったと言っても過言ではないと筆者は考える。実際、ヒズブッラー率いるレジスタンスが武器を取るまでに払った犠牲や辛抱の大きさや、レバノン人がイスラエルから受けて来た仕打ちに対する国際社会の無視・無関心が語られることは少ない。

ヒズブッラーの手法すべてに賛成できなくても、いやむしろ理解できない部分があればあるほど、その主張に注意深く耳を傾けることに意義があるのではないだろうか。レバノン国内においてもアラブ世界においても、彼らがキープレーヤーの一つであることは確かなのだから。

メディアの作り話を鵜呑みにするのではなく直接当事者に話を聞きたい、とアサンジ自身が述べているように、ヒズブッラーとナスルッラーの素顔に触れる貴重な機会、日本語情報としては尚更です。書き起こし全文を邦訳してお届けします。




[注:全世界100カ国以上におけるこの番組の対象視聴者は、RTの契約者5億3000万人。番組放映日には一日中、二時間おきに放送され、インターネッ ト上でも同時に視聴可能だった。この契約者数には8500万人の米国ケーブル視聴者(タイムワーナー、コムキャスト)が含まれており、全世界のケーブル・ テレビ視聴者の25%。放送後1日ほど経つとインターネットでユーチューブに番組全体がアップロードされ、この視聴回数は世界各地で少なくとも7億回を超えた。]

RT放送日:2012年5月1日(火)(12回シリーズの第1回)

RTリンク:?http://assange.rt.com/nasrallah-episode-one/

Youtube:http://www.youtube.com/watch?v=GDLXPpooA18

公式リンク:http://worldtomorrow.wikileaks.org/episode-1.html/

(訳注/岡真理、前書き・翻訳/宮地葉月:TUP)

「The World Tomorrow(明日の世界)」は、世界で最も興味深い人物たちとジュ リアン・アサンジとの対話をお届けする12回シリーズのインタビュー番組です。この番組は、国内放送局および国際放送機関に対するライセンス供与を行って います。お問合わせは配給会社Journeyman Picturesまで電子メールmark@journeymanpictures.comにてご連絡ください。

**表示-非営利-改変禁止(CC BY-NC-ND)"CC non-commercial noderivatives" license

2012年2月[番組ナレーション] :私はジュリアン・アサンジ、ウィキリークスの編集長だ。我々は世界の秘密事項を暴いてきたため、権力者たちから攻撃を受けている。私は現在何の罪状もなしに500日間拘束されているが、そんなことで我々を止めることはできない。我々は明日の世界を変えることができる革命的なアイデアを追求する。

今週お迎えするゲストは、レバノン国内の秘密の場所から参加してもらっている。中東で最もたぐい稀な人物の一人で、イスラエルと何度も戦火を交え、今シリアをめぐる国際闘争に巻き込まれている人だ。私が知りたいのはこういうことだ。なぜ彼は何百万人もの人々に自由の戦士と呼ばれ、同時に他の何百万人にはテロリストと呼ばれているのか。2006年のイスラエル・レバノン戦争以来、彼が欧米メディアのインタビューに応えるのはこれが初めてのことだ。彼が属する政党、ヒズブッラーはレバノンの連立政権のメンバーである。そのリーダー、サイェド・ハサン・ナスルッラーをお迎えしよう。

 

ジュリアン・アサンジ(以下JA):

準備はいいですか?イスラエルとパレスチナの将来について、あなたのビジョンはどんなものでしょう?ヒスブッラーにとって勝利とは何ですか?それと、もしその勝利を手にしたら武装解除しますか?

 

サイェド・ハサン・ナスルッラー(以下SHN):

イスラエルは違法な国家で、他の人々の土地を占領することによって、つまり、他の人々の土地を強奪することによって建国された国です。他人の土地を力ずくで統治し、追い出されたパレスチナ人の虐殺に手を下しましたが、被害者のパレスチナ人にはイスラム教徒もキリスト教徒も含まれていました。ですから、正義は・・・正義は十年経とうともパレスチナ人の側にあり、歳月が経ったからといってその正義を否定することなどできないのです。もしこれが私の家だったら・・・(それとも)あなたの家だったら・・・私がそこへ行ってあなたの家を力ずくで占拠しても、ただ単に私があなたより強くてその家を占拠し続ける力があるという理由だけで、その家が50年や100年経ったら私の家になるというわけではないでしょう。それは私があなたの家の所有権を合法的に主張できる根拠になどならないのです。少なくとも、これが私たちのイデオロギー的見解であり法的な見解で、パレスチナはパレスチナ人のものだと信じています。でもイデオロギーと法律、そして政治的な現実を総合して実際の状況に即して考えると、唯一の解決策は―私たちは誰も殺したくないし、誰にも不正義を強いたくない、ただ正義を取り戻したいだけです―そうすると、唯一の解決策はひとつの国家を作ることだと思われます。パレスチナの地にイスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒が平和に民主主義的に暮らせる国を。これ以外の解決策は、どう考えてもうまくいかないし長続きもしないでしょう。

 

JA:

イスラエルはヒズブッラーがイスラエル市街地に向けてロケット弾を発射したと言っていますが、本当なんですか?

 

SHN:

過去ずっと、1948年にパレスチナの地にイスラエル国家が建国されて以来ずっと、イスラエル軍は市民を砲撃してきました。レバノン人市民を、レバノンの町々を、レバノンの村々を。1982年から92年のレジスタンス時代、この10年間のレジスタンスの後、私たちは反撃し始めたのです。でもそれは純粋に、私たちの市民に対するイスラエルの砲撃を止めさせるため、唯一、そのためだけに行われたものです。それから1993年になってレジスタンス勢力とイスラエルの間に間接的な暗黙の了解ができ、それが1996年に再認識されたのですが、その了解は双方が市民への砲撃はしないという明確なものでした。私たちは常々、「あなたたちが我々の村や町を攻撃しないのであれば、我々もあなたたちの村や町に攻撃は加えない」と宣言していました。ですからこのヒズブッラーの手法は、レバノン人市民に対する長年の武力攻撃の後に取られたもので、イスラエルによるレバノン人市民の殺戮を食い止めるための抑止力を働かせる、という目的のみに使われているのです。

 

JA:

レバノンのアメリカ大使館からウィキリークスに流れた情報によると、あなたはヒズブッラーのメンバーがどんなに汚職にまみれているかを知ってショックを受けたそうですね。あなたが「我々はなんて者に成り下がってしまったんだ」と言ったのは、ヒズブッラーのメンバーたちが、SUV(スポーツ用多目的車)や大型車を乗り回し、シルクの服を着て、テイクアウトの食べ物を買ったりしているからだと言われています。これはヒズブッラーが(レジスタンス活動から)レバノン国内における選挙政治へと主眼を移した当然の帰結でしょうか?

 

SHN:

まずはじめに、この現象について彼らが言っていることは正しくないですね。これは彼らがヒズブッラーの評判をおとしめ、イメージダウンを図るための噂のひとつに過ぎません。私たちに対するメディア戦争の一部なんです。彼らがヒズブッラーのことを、マフィア組織だとか、世界中で麻薬取引組織を運営しているとか、そういった噂をしているのはご存知でしょう。でもこういったことは我々の宗教やモラルからしても完全に忌むべきことであって、私たちが戦うべき項目のひとつなんですよ。彼らは根拠のない噂をたくさんしますが、私がまず念を押しておきたいのは、これは正確な情報ではないということです。二つ目に、彼らが最近言及した現象についてですが、これは非常に限られたものであって、こういうことが起きる理由として、以前はヒズブッラーやその方向性、イデオロギー、方針を支持していなかった裕福層の中に、今はヒズブッラー支持の人たちがいるということです。ご存知のように、レバノンのレジスタンスとヒズブッラーが―そしてヒズブッラーはレジスタンスの主力だったわけですが―2000年に南レバノンを解放することに成功した時、それは奇跡のように思われ、レバノン社会に衝撃を与えました。それに、(2006年のイスラエルとの戦争で)ヒズブッラーのように小さな勢力が中東で最も強大な軍隊を相手に、打ち負かされることなく33日間対峙できたなんてどういうことだ、というわけです。ですからレバノン社会にはこの後ヒズブッラー支持に回り始めた人がいて、彼らの中にはその経済力に見合った裕福な生活をしていた人もいました。この現象がヒズブッラーにも顕著になってきたと言われますが、それは正しくありません。私はこれを自信を持って言えますし、私の持ちうる情報からしてもヒズブッラーに巣食う改善しなければならない現象というわけではありません。

 

JA:

あなたは、チュニジア、イエメン・・・エジプト、そして他のアラブ諸国のアラブの春を支持してきたのに、なぜシリアだけはしないんですか。

 

SHN:

それには明白な理由があります。まず、私たちは他のアラブ諸国の内政に干渉しないことを基本姿勢としていますし、これは常に私たちのポリシーでした。(でも今)とても切実で重大な事態がアラブ世界では展開されていて、誰であれ、どんな運動や政党であれ、これらの出来事に関して何らかの立場を取らずにいることはできないのです。シリアでは、バッシャール・アル=アサド政権がレバノンのレジスタンスを支持し、パレスチナ人のレジスタンスを支持してきたことは誰もが知っています。イスラエルやアメリカの圧力に屈することがない現政権は、パレスチナ人の大義のためには適任です。私たちがシリアに呼びかけているのは、対話、改革、そして改革案の実行です。なぜなら、シリア国内の多様性やシリア情勢のデリケートさを考えると、その他の代案はシリアを内戦へと追いやることになり、それはまさにアメリカとイスラエルが望んでいることだからです。

 

JA:

サイェド、この週末には100人以上の人々が(シリアの)ホムスで殺されて、その中には私が1年前に一緒に食事をしたジャーナリストのメアリー・コルヴィンも含まれているんです。何の目的もなく国を破壊するのではなくて、できれば改革するほうがずっといい、というあなたの論理は分かります。でもヒズブッラーには、越えてはならない一線はあるんですか?例えば10万人が殺されたらとか、百万人が殺されたらとか、ヒズブッラーはいつ、もうこれで十分だと声を上げるんでしょうか。

 

SHN:

そもそもシリアで一連の出来事が起こり始めてからずっと、私たちは(シリア政権と)連絡を―コンスタントな連絡をね―取り続けて来たんです。友人としてシリアの指導層と話をして、はじめからずっと改革を実行することの重要性についてお互いにアドバイスし合って来ました。個人的には、アサド大統領は抜本的で重要な改革を実行する意志があったと思っているし、私たちがシリアを信頼する理由もそこにあったわけです。一度ならず、私は公の場で、これと同じことをスピーチでも言って来ました。レバノンや他のアラブ諸国の政治リーダーたちとのミーティングでも同じことを言って来ました。それは、アサド大統領は改革をしたいと思っているし、改革を―現実的で真摯な改革を―すると私は信じているというものですが、反政府勢力は話し合いに応じなければなりません。更に付け加えましょう―これを言うのは初めてですが― シリア政権との話し合いを促し、仲裁するために、私たちはシリアの反政府勢力にも連絡を取ったのです。けれども彼らは話し合いを拒み、その一方ではじめから改革と話し合いに応じる用意のある政権があったわけです。話し合いに応じるつもりもなければ、どんな改革も受け入れるつもりのない、政権を打倒することしか頭にない反対勢力がいるというのは問題です。それから、シリアで起こっている出来事は片目でなく両目で見なければなりません。シリアの(反政府)武装勢力は、多くの民間人を殺しています。

 

JA:

シリア情勢はどういう方向に向かうと思いますか。シリアでの流血を止めるにはどうすればいいんでしょうか。あなたは話し合い、というけれど、それを言うのはとても簡単ですね。シリアで起こっている流血を止めるのに、現実的な方策はありますか。

 

SHN:

前の質問の時に言わなかったことがあるので、ここで加えたいことがあります。お金や武器を提供して、シリア国内の戦闘に油を注いでいる国々があることは確かです。アラブの国もあれば非アラブの国もあります。これがひとつ。確認されているとても重大な問題としては、アル=カーイダのリーダー、アイマン・アル=ザワーヒリー博士が、武器を取ってシリアで戦うよう呼びかけ、様々な国からシリアへ集まったアル=カーイダ戦士たち、更にそれに続く者たち、こういう者たちがシリアを戦場と化そうとしています。ですから、武器やお金を提供している国々は、話し合いのテーブルについて政治的な解決策を目指そうとしている反政府グループを買収することができるのです。これは数日前にも言ったことですが、アラブ諸国の中にはイスラエルと政治的な対話を今後十年単位でする用意をしているところもあるんですよ、イスラエルが今まで中東でしてきた数々の蛮行にも関わらず、です。でもこれらの国々は、シリアに対しては一年や二年、いえそれどころか数ヶ月の政治的解決の猶予も与えないんです。こんなことは理に叶っていないし、不公平でもあります。

 

JA:

これらの反政府勢力とアサド政権の仲裁をするつもりはありますか。あなたはアメリカやサウジアラビア、イスラエルの手先ではないと信用されていますが、あなたがアサド政権の手先でもないということを人々は信用すると思いますか。もし彼らが話し合いに応じることに合意したら、平和の仲裁役を買いますか。

 

SHN:

ヒズブッラーの30年に渡る経験が、私たちはシリアの友人であり、手先ではないことを証明しています。レバノン政治において、ヒズブッラーとシリアの関係があまりよくなかった時期もありました。私たちの間に問題があったのです。それが今となっては、かつてレバノンにおけるシリアの政治的影響力によって利益を得ていた人々が私たちに反対を唱えているわけですが、私たちはかつてシリアの圧力下にあったのですよ。つまり、私たちは(シリアと)友人なんです、手先ではなく。シリアの反対勢力自身、そして中東のすべての政治勢力はこのことを知っています。我々は友人なんです。これが第一点。二点目に、私たちが政治的解決を支持すると言った場合、その目的を達するためにはあらゆる努力や協力を惜しみません。私たちは(反政府の)政党に連絡を取ったと言いましたが、政権との話し合いを拒否したのは彼らなのです。ですから、シリア政権と話し合いを持ちたいと思っているあらゆるグループの仲介は喜んでしますが、他の人たちも政治的解決のために努力をして欲しいと言っているのです。

 

JA:

もしあなたがシリアのアサド政権に対して、我々にも限界があるのだと告げたら、これら反政府勢力にとってヒズブッラーの役割はより信頼できるものになると私は思います。ヒズブッラーとしては、シリア政権は何をするのも自由だと思っているのでしょうか。それともヒズブッラーとしてこれは受け入れられない、ということはあるのでしょうか。

 

SHN:

ええ、もちろんバッシャール・アル=アサド大統領にも一線というものはあると思いますし、我々のシリアの兄弟たちにだって一線はありますし、私たちはみんなこの一線を守らなければならないと再認識しています。でも問題は戦闘が続いていて、結果的に一方が引けばもう一方が前進する、といった具合なのです。政治的解決策への道が閉ざされている限り、これは続くでしょう。なぜなら一方が引いても、もう一方が前進するだけのことなんですから。

 

JA:

チュニジアはシリア政権をもう政権として認めないと宣言しました。チュニジアはなぜ、このようにシリアと関係を断つような強い態度を取ったのでしょうか。

 

SHN:

チュニス、あるいは他のどこかでなされたこの決定は、不完全な―間違ったとは言いません、不完全なんです―証拠に基づいていたからだと思います。もちろんアラブや欧米諸国の政府に伝わった情報には、間違いや不正確な情報もありました。シリア政権は数週間すれば倒れるだろう、といった情報で、多くがその予測された勝利を分け合う者たちの仲間入りをしたいと思ったのです。それに私の考えでは、彼らがこのような態度を取った理由はおそらく、できたばかりの新しい政府は難しい試練に直面しているので、今は欧米と事を構えている場合ではない、とりあえずなだめておいて長いものには巻かれておいた方がよい、といったものだと思います。

 

JA:

ヒズブッラーは国際的なメディア・ネットワークを作りましたね。米国は国内でアル=マナールが放送されるのを禁止しているにも関わらず、自分たちは言論の自由の砦だと宣言しています。米国政府は、なぜそんなにもアル=マナールを恐れているのだと思いますか。

 

SHN:

米国は、ヒズブッラーはテロリスト組織で、人を殺し、殺害するのだと言えるようにしておきたいのですが、人々に我々の言うことを聞かせようとはしません。例えば、公正な裁判において、被告は少なくとも自分を弁護する場を与えられますが、米国政府のやり方だと、私たちは容疑者扱いされても自分たちを弁護して世界の人々に私たちの意見を聞いてもらう、という最も基本的な権利さえ認められていないのです。つまり、米国は私たちの声が世界に届くのを阻止しているのです。

 

JA:

サイェド、戦時中のリーダーとして、あなたはどうやって敵の砲撃を浴びている人々を団結させたんですか。

 

SHN:

私たちに関して言えば、重要なのは私たちには目的があって、その目的を明確にしていることでしょう。この目的は人道、モラル、信仰に基づいたもので、愛国的でもあるんです。これに議論の余地はありません。私たちの目的は自分たちの土地を占領から解放することです。これが本来の、そして真の、そもそもヒズブッラーが設立された理由であって、レバノン人の間でこれに関する議論はありません。私たちはレバノン政府に入りたいわけでもないし、政治権力のために争いたいわけでもありません。私たちが最初にレバノン政府に入閣したのは2005年でしたが、それは権力の分け前が欲しかったからではなく、レジスタンスを守るためでした。2000年に組閣された政府がレジスタンスに対して間違った態度を取らないように、です。そういう怖れがありましたからね。目的、正しい目的があると、そして私はこの目的を最優先してそのためには他のすべての対立を避けるようにしているのですが、人々を団結させ、目的に向かって協力させることができるのです。そこに到達できる日が来るまで、私たちはレバノン国内の抗争に巻き込まれないよう最大限の努力をしています。レバノンには多くの、本当に多くの重大な議論や意見の違いが存在することは知っているでしょう。私たちは時として、自分たちの見解を表明することや、ある立場を取ることすら避けて来ましたが、これも人々とのいざこざに巻き込まれないためです。私たちの最優先項目は、今でも自分たちの土地の解放とイスラエルの脅威からレバノンを守ることです。レバノンは今でもその脅威にさらされていると私たちは考えているからです。

 

JA:

あなたが子どもの頃の話に戻りたいと思うのですが、あなたは八百屋さんの息子ですね。あなたが子どもの頃、レバノンの家での最初の思い出というのはどんなものですか。そして、幼少の頃の思い出があなたの政治思想に影響を及ぼしましたか。

 

SHN:

私が子どもの頃、ごく小さい子どもの頃、私が生まれ育って15年間住んだ東ベイルートにある地区は独特の雰囲気がありましたし、もちろん環境は自然に人の性格に影響を及ぼします。この地区の特徴のひとつは、貧しい地区だということでした。私が子どもの頃は、ここにはイスラーム・シーア派、スンナ派、キリスト教徒、アルメニア人、クルド人、そしてレバノン人とパレスチナ人も両方一緒に住んでいました。私はこの非常に多種多様な人々が混在した環境で生まれ育ちました。ですから自然にこの環境のおかげで、パレスチナとパレスチナ人が被らなければならなかった不正義に気づき、関心を持つことになりました。私の近所のパレスチナ人はみんな、自分たちの故郷、ハイファから、アッカから、エルサレムから、ラーマッラーから追い出された人たちでしたから、私はごく小さい時からこの問題について知っていました。これが私が生まれ育った環境だったのです。

 

JA:

イスラエルが行っている暗号化と暗号解読について、あなたが言った面白いジョークを読みました。私の専門は暗号化で、ウィキリークスは厳しい監視下に置かれているので、私にとっては興味深いものでした。このジョークを覚えていますか。

 

SHN:

ええ、私が話したのは、シンプルなことがどうやって複雑なことを打ち負かすか、についてでしたね。例えばレバノンにいたイスラエル軍はとても洗練されたテクノロジーを使っていて、武器であれコミュニケーション手段であれ、とにかく洗練されていました。逆に、レジスタンスは民衆によるレジスタンスですから、ほとんどの若者たちはただ普通の村の男の子たちで、農場や小さな町、農業コミュニティから来ているのです。彼らは普通のトランシーバーで話をするのです。何も複雑なことはないし、とても簡単な機械です。でも彼らは暗号化して話す時、自分の村や家族の間だけで使われている俗語を使って話すのです。ですから盗聴機械の向こうでコンピューターを使って彼らの言葉を暗号解読しようとしても、その村に長年住んでいないことにはその言葉の意味を探し当てるのは至難の業です。例えば彼らはこういう言葉を使うのです―単なる村の言葉です―鍋とか、ロバとか、村のことわざとか、そう、「鶏のお父っつぁん」とか言った類いのものです。イスラエルの諜報機関にもコンピューター解析の専門家にも、誰が鶏のお父っつぁんなのか、なぜその人が鶏のお父っつぁんと呼ばれているのか、全く分からないのです。でもこれはウィキリークスの役には立たないですよ!この方言を(笑)使うのはね!

 

JA:

ここでひとつ、とても挑発的な質問をしたいと思います、でも政治的なものじゃないですよ。あなたは米国の覇権主義と戦ってきました。アッラー、あるいは神という観念は、究極的な超権力(スーパーパワー)じゃないんですか。自由の戦士として、あなたは人々を全体主義的な概念からも解放するべきなんじゃないでしょうか、つまり一神教の神から。

 

SHN:

私たちは全能の神が、この存在の、人間の、そしてすべての生き物の創造主だと信じています。神が私たちをお造りになった時、私たちに能力を下さり、体を下さり、心理的、精神的な能力も下さいました―私たちはこれを本能と呼びます。孤立した人々、つまり宗教的な枠組みから孤立した人々はこの本能だけ持っているのですが、真実を見極める本能を持っています。彼らは、真実はよいもので嘘は悪いものだ、正義はよいもので不正義は悪いものだ、貧しい人や不正義を受けている人を助けたり彼らを守ったりするのはよいことで、他の人を攻撃したり血を流したりするのはひどいことだ、ということは本能で分かります。米国の覇権主義に抵抗すること、占領に抵抗すること、自分たちに対する攻撃に抵抗すること、これらはモラルの問題、本能的な問題、人間的な問題なのです。

そして神もこのように望んでおられるのですから、モラルと人間的な理念は天の法則と合致するのです。なぜならアブラハムの宗教 [訳注] は、心や人間の本能と矛盾するようなことはひとつもないからです。それは宗教の創造主と人間の創造主は同じであるため、このふたつは一貫性があるからです。どこの国へ行っても、それが例え家であろうと国であろうとリーダーが二人いるのは破滅の元ですから、何十億年もの間こんなにも美しい調和の中に存在してきた宇宙に、神が一人以上いるでしょうか。もし一人以上の神がいたとしたら、宇宙はちりぢりになっていたでしょう。これが証拠です。私たちは誰かに信仰心を強制するために戦ったりしません。預言者アブラハムは、いつも対話と証拠を示すことを好みました。そして私たちはみんな、この預言者の教えに従っているのです。

JA:

ありがとう、サイェド。


[訳注] アブラハムの宗教 (Abrahamic religions) :アブラハムに信仰上の起源を見出すユダヤ教、キリスト教、イスラームの、いわゆる「 セム的一神教」を指す、比較宗教学上の呼称。ユダヤ教では、ユダヤ人はアブラハムとサラの息子であるイサクの息子ヤコブ(別名イスラエル)の子孫とされる(他方、アブラハムとエジプト人ハガルの息子イシュマエルの子孫がアラブ人とされる)。キリスト教は、そのユダヤ教の一セクトとして発祥した。また、イスラームでは神の命であれば息子(創世記ではイサクとされるが、クルアーンではイシュマエル(イスマーイール)をも殺そうとしたアブラハム(イブラーヒーム)に、アッラーへの絶対的帰依(=イスラーム)の姿を見出し、イスラームは彼を「最初のムスリム」と考える。