TUP BULLETIN

TUP速報1023号 ロシアによるウクライナ侵略についてのコードピンクからの声明

投稿日 2022年3月2日
NATOの東方拡大(1949-2020), original file created by Patrickneil and fetched from https://commons.wikimedia.org/wiki/File:History_of_NATO_enlargement.svg with country names and title added by Masa Sakano, under a license of Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 UnportedNATOの東方拡大(1949 – 2020年)。原作者 Patrickneil (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:History_of_NATO_enlargement.svg), 国名とタイトルとをM Sakanoが加筆。(Licence: Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported)
◎ロシアによる侵略は言語道断。しかし蛮行を誘発した西側諸国の行動もまたあった。

2月24日、プーチン大統領率いるロシアが、隣国であるウクライナに対し、大規模かつ全方位的な軍事侵略を突如開始しました。欧州内においてある国が別の国をこれほどあからさまに軍事侵略するのは、第2次世界大戦以降初めての暴挙です。

「『強い国家』だけが危機を生き残る力を持つ」と公言する[1]プーチン大統領と政権による外国への積極的軍事介入は、枚挙に遑がありません。なかでもシリアでは、アサド政権と協同して過去7年間、今に至るまで各地で大虐殺を繰り返しています。シリア最大の都市アレッポを、病院を含めて灰燼に帰したのは特に有名です。ウクライナへの軍事介入も今回が初めてでは全くありません。2014年にはウクライナ領クリミアを軍事制圧してロシアへの併合を宣言し、同じく2014年以来現在に至るまでウクライナ領ドネツィク州(ロシア語読みドネツク)に軍事介入しています。乗客・乗組員298人が全員死亡したマレーシア航空17便撃墜事件もこの時に起きました。しかし、「(西側諸国が干渉するならば)ロシアは直ちに反応し、その結果は歴史上誰も見たことがないものになるだろう」[2]とあからさまに脅しをかけながら、独立国一国全体を軍事制圧しようとする今回の侵略行動は、それらとも一線を画するものと言えるでしょう。

今回、プーチン大統領は、恐ろしいことに、国際社会による「違法な経済封鎖に対抗する」として、核兵器部隊に臨戦態勢に入ることを命じました。クリミア併合にせよ今回のウクライナ侵略にせよ、国際常識的には「まさか本気ではあるまい」と考えられたことを実際に実行に移してきた同氏のこと、この行動が単なる脅しとは言い切れない恐怖があります。実際、プーチン大統領は、「ロシアがないならば、地球が存在する必要なんてない」という内容のことを過去繰り返し発言しています[3]。あるいは、ロシア軍による2017年の大規模演習では、プーチン大統領自身が4発の弾道ミサイルの発射命令をすべて発した、と伝えられていることからも、核使用を現実的選択肢と見做している恐れがあります[1]。

米国および西側も、強面のプーチン政権に対抗する形で、近年、核の軍拡に舵を切っています。たとえば、米国は中距離核戦力全廃条約(INF条約)から2019年8月に脱退しました。そもそも、米国と西欧を中心とするNATO(北大西洋条約機構)が、この四半世紀にわたり東欧諸国を取り込んでいて、ロシアから見るとこれは明らかな軍事的脅威です。地政学的に「緩衝国」であったウクライナのNATO編入への危機感が今回、ロシアが攻勢(ひいては侵攻)をかける引き金になったという指摘には説得力があります[4]。(参考までに、「緩衝国」の政治的に難しい外交政策について、フィンランドについてまとめたスレッド[5]が興味深いです。)

以下、米国発の草の根の非暴力反戦市民組織であるCODEPINK(コードピンク)によるプレスリリースを邦訳します。CODEPINKは、2002年、(TUPに似て)米国によるイラク戦争を阻止するために、女性を中心として結成されました--名前(ピンク色)の由来でしょう(なお、今は性別を問いません)。この声明も、主に米国に呼びかける形になっています。プーチン政権のウクライナ侵略が非道であり、最大限の非難に値することは言を俟ちません。しかし、米国(と西側諸国)にもまたできること、すべきだったし今すべきことはある、という内容です。人類生存をかけた気候変動問題に英知を結集して立ち向かうべき現在、一刻も早く軍事衝突を解決し今後の道標を示す理性的な呼びかけだと考えます[筆者後記(2022-03-02): CODEPINKのウェブサイトの説明によれば、当時のブッシュ政権がテロ警報に黄色や赤色で色付けしていたこと(参考: TUP速報349号、レベッカ・ソルニット著)に対するアンチテーゼとして平和を願ってピンク色を含む名前にした、ということです]。

なお、コードピンクによるこの声明の題名は、実は、英国最大の反戦市民同盟であるStop the War Coalitionが今週末(2022年3月6日)にロンドンで企画している大規模デモの題目そのものでもあります(イベントのウェブサイト)。同デモは、「世界連帯行動」と銘打たれています。憶測ですが、コードピンクのこの声明もその世界連帯行動の一貫かも知れません。

(前書き・翻訳: 坂野正明/TUP)


参考文献



  1. 現代ロシアの軍事戦略』 (小泉悠著、筑摩書房、2021-05-06刊行)

  2. Can anyone in Russia stop Putin now?』 (Angus Roxburgh、The Guardian、2022-02-25)

  3. Ukraine invasion: Would Putin press the nuclear button?』 (Steve Rosenberg、BBC、2022-02-28)

  4. なぜウクライナで欧米とロシアが対立? 経緯や今後は…知っておきたい基礎知識5選』 (六辻彰二、Yahoo! Japan、2022-01-31(ウクライナ侵略の3週間前発表))

  5. Twitterスレッド: ウクライナ情勢を理解するためにフィンランドほど適切な例はない』 (よしログ(@yoshilog, 山本芳幸)、Twitter投稿のまとめスレッド、2022-02-25)


コードピンクは求める。ウクライナ戦争の停戦、ロシア軍の撤退、そしてNATOの拡大停止を

コードピンクは、ロシアのウクライナ侵略を強く非難します。35万人以上の市民が爆弾やミサイル攻撃を恐れて国を脱出し、一方で東西ウクライナ国内に留まった国民は地下道地下鉄や防空壕に退避しています。国際平和組織のコードピンクは、関係国が直ちに停戦し、前提条件なく交渉し、ロシア軍はウクライナから撤退し、NATO[北大西洋条約機構]は拡大に終止符を打ち、そして関連国と組織が安全保障上の利害に関する交渉の場に戻ることを求めます。コードピンクは、容赦ない攻撃に晒されているウクライナの人々と、そしてモスクワやサンクトペテルブルクの路上で逮捕と投獄の危険を顧みずに抗議する何千人もの勇敢なロシアの反戦活動家とに、連帯の意を表します。

ウクライナは、否応ないことに、世界で最も強力な核装備国である米国とロシアの板ばさみになってしまっていて、その紛争に軍事的解決はあり得ません。コードピンクは、NATO加盟国に対する核兵器の使用を仄めかすプーチンの無分別な脅しを非難します。その一方で、核兵器の拡散および配備において米国政府も非難を免れ得ず、米国政府は核の再軍備を行う決定を取り消してその代わりに検証可能な形で世界中を非核化していく協定制定に向けた努力を行う義務があることをここに確認します。

コードピンクは、プーチンが独立国であるウクライナを侵略したこと、そして病院を砲撃し、キーウ[ロシア語読みではキエフ]へ戦車隊列を迫らせていることを非難すると同時に、米国の行動–端的には民主的に選ばれたウクライナ政権を転覆した2014年のクーデターを支援し、NATOを東欧に拡大しないという約束を破ってルーマニアとポーランドの戦略ミサイルがロシアに数分で着弾できる状況にしたこと–がこの紛争激化に大きな役割を果たしたこともまた認識しています。

NATOは30カ国の防衛的な同盟だと主張する向きもあります。しかし、NATOが軍事的にロシア包囲網を敷いているほか、爆撃の雨で推定100万人が死亡し何百万人もの人々が国内避難民となったコソボ、アフガニスタン、イラク、リビヤにおける米国の軍事攻撃を支持したことに鑑み、コードピンクは、NATOを世界平和への脅威と見做しています。NATOが、こちらも核保有国である中国に対して攻撃的な姿勢を取っていることもまた世界平和への脅威であり、それは気候変動危機に対して人類が種の存続をかけて一致団結して取り組む努力への脅威にもなっています。

コードピンクは、6月のNATO首脳会談に先立って、すべての欧州諸国の権利を守るために、国際安全保障協定を結ぶことで、諸国が戦争と占領の恐れから解放されるよう求めています。そのような協定は、ソビエト連邦が崩壊しワルシャワ条約機構が解体した段階で結ばれておくべきものでした。しかし現実は、米国とNATOは、韓国からベトナムに至るまでいくつもの激しい戦争を引き起こした冷戦体制の継続として、さらなる軍備拡張を追求したのです。

ウクライナでのさらなる戦闘を防ぎ、人命の損失、殺戮、軍需工場の爆撃による深刻な環境破壊を止めるために、ウクライナ東部を震撼させた内戦に終止符を打って平和への青写真を確立した2015年のミンスク2協定(ミンスク合意)に戻りましょう。ウクライナは中立国であるべきです。外交交渉の出発点として、ウクライナのNATOへの編入はそもそも議題からはずすべきです。

さらなる軍事的エスカレーションは、チェルノブイリ原発の放射能汚染を引き起こしたり、あるいは核戦争による人類絶滅の危機につながりかねません。そのような現在の危機的状況において、コードピンクは、バイデン大統領と米国議会に以下のことを強く求めます。ウクライナへの兵器供給を停止し、むしろ人道的支援と安全な避難場所の提供に尽くし、米露ともに見捨てた軍備管理条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約[ABM条約]、中距離核戦力全廃条約[INF条約]、領空開放条約[オープンスカイズ条約])に再調印し、我々と同じく平和と安心を願うロシアの市民を苦しめることになる大規模経済制裁を却下することを。

ロシア経済全体に対する包括的な制裁は、エネルギー消費を短期的には削減するかもしれませんが、長期的には石油掘削と化石燃料の破壊的な使用を促進するかもしれません。エネルギー価格の上昇によって、経済的、環境的な痛手を欧州、ひいては国際社会に広げる可能性があります。

コードピンクは、ロシアと欧州全域の反戦市民と連帯し、前線に立つ徴兵兵士も含めて平和を愛する世界市民に向けて呼びかけます。現在の危機に際し、皆で世界的に連帯して大きな声を上げましょう。

「ウクライナの戦争にノーを、交渉と平和にイエスを!」