TUP BULLETIN

速報128号 03年7月9日 対テロ戦争を超えて

投稿日 2003年7月9日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2003年7月10日(木) 午前7時46分

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2001年9月11日直後から、軍事力によるテロ制圧は、かえってその温床
を育てるだけであり、世界の貧困、不平等、抑圧を解消する国際的な努力のみ
が、まっとうな解決策になりうると言われてきた。アフガニスタンとイラクに
おける2度の戦争が『一応の終結』を見た今、もう一度、この原点に立ち戻っ
て、真の安全保障への道を探るようにと、マーク・エングラーが訴える。

わが日本でも、イラク復興・人道支援を名目に、自衛隊が占領軍隊列に馳せ参
じようとしている今、この声を共有し、伝えるべきであろう。

TUP 井上 利男

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『対テロ戦争を超えて』

――マーク・エングラー
デモクラシー・アップライジング
2003年6月30日
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イラク侵攻を正当化するとされた情報に疑惑の目が向けられ、ワシントンでス
キャンダルの匂いがたちこめている。ホワイトハウスが意図的に事実を歪曲し
たと実証されるかどうかはさておいても、いまこそは、もっと大きな問題――
タカ派の右翼保守勢力によるアメリカ外交政策の乗っ取り――を世論に訴える
チャンスであるはずだ。

アメリカの対外政策は国際世論からあまりにも遠く隔たってしまい、そうなっ
てしまったのはどうしてなのかさえも、いまでは判然としないほどである。
9・11テロに対する反応が軍事侵攻一辺倒になってしまったのは、どうして
なのだろうか? 国の安全を守りぬくための、どのような代替政策が考えられ
るのだろうか?

テロ攻撃へのブッシュ政権の対応は、はじめから軍国主義的な言葉で語られて
きた。ホワイトハウスは、アメリカの安全保証は軍事力が支えると唱え、国際
的な警察活動――人道に対する罪を繰り返すテロリスト集団の追跡――ではな
く、『戦争』に賭けた。

『アメリカの圧倒的軍事力』が世界秩序の基盤になるべきであると論じたてる
ネオコン(新保守主義者)の高官たちが、この対テロ戦争の主導権を牛耳るよう
になっていった。つい最近まで片隅で語られていたドクトリン――『体制転
換』とか『先制予防戦争』といった外交用語をちりばめた世界観――を、この
勢力はまんまと日常会話にまぎれこませてしまった。

イラクでの戦争に、このような過激主義の烙印があからさまに開示されている。
バグダッドが陥落した後になって、アメリカへの本物の軍事的脅威の除去が戦
争の目的ではなかったことが明らかになった。イラクの大量破壊兵器に焦点を
絞ったのは、「この問題は誰もが納得できる理由になりえたので……官僚主義
的に」設定された侵攻の口実に過ぎなかったと、ネオコンの寵児であり、国防
副長官であるポール・ウォルフォウィッツがヴァニティ・フェア誌のインタビ
ューで認めたことはよく知れわたっている。

あいにく、ネオコン流の対テロ戦争が世界をいっそう危険な場所にしている。

ニューヨーク・タイムズ・マガジン最近号の特集記事が、9・11テロ攻撃後、
アメリカが最初に侵攻したアフガニスタンを『軍閥の国』とみなし、ブッシュ
政権が約束した『安全、資金、民主主義』が空証文になっていると指摘してい
る。怠慢にも、ホワイトハウスの官僚たちは当初予算案にアフガニスタン再建
資金をなんら計上しなかった。

対イラク戦争では、サダムの弱体化した軍勢を米軍が圧倒するだろうことは、
だれも否定しなかった。しかし、安定した平和の達成ははるかに困難であろう
とも、専門家たちは一貫して説いていた。イラクは『混乱、貧困、絶望、(そ
して)憎悪』がはびこる国になり、『テロリストの温床』になってしまうだろ
うと、ロバート・バード上院議員(民主党、ウエストバージニア州)が2月に警
告していたが、不幸にも、いまのイラクはまさしくその予言どおりの状況にな
りつつあるようだ。

アメリカ国民は、この落第成績を見せつけられたからには、協調と社会的投資
に基づく新しい対外政策を要求しなければならない。

第1に、いかなる安全保障戦略であっても、効果を発揮するためには、国際社
会の善意と協調にもとづかなければならないと政府当局者たちは認識しなけれ
ばならない。アメリカの同盟国、フランスとドイツは対テロ国際警察活動には
かりしれない貢献をなしてきたにもかかわらず、ブッシュ政権は両国の首脳た
ちを疎遠な立場に追いやるように血道をあげてしまった。

アメリカの反対を押しきって設置された国際刑事裁判所は、ネオコン勢力にと
っては、まさしく自国の力の行使に邪魔であり、唾棄すべき類の制度である。
だが、国際安全保障のための強固な協力の枠組みを構築するためには、この国
際刑事裁判所を含め、いま、ワシントンが拒絶している多国間共同政策が緊急
に求められている。

第2に、長期的視野にたったテロの解消策は、社会的公正と人道にもとづく投
資から醸成されなければならない。この概念の理論的基礎をきずき、政策の方
向性を定めるために、長年、努力してきた国連開発計画の革新的な職員たちも
いる。軍事優先主義そのものが緊張を増幅する原因であるのに、『実力』こそ
が唯一の対処法であると固執すれば、緊張の解消策として、保健医療、教育、
民主的統治制度の整備への関与の重要性が見えなくなってしまう。

残念なことに、ブッシュ大統領とヨーロッパの同盟諸国の首脳たちが開発途上
諸国援助を口にはしても、彼らがいう貧困撲滅計画には、緊縮財政などの交換
条件がついていることがあまりにも多く、貧困諸国が必要な支援を得るために、
きまって公衆保健医療と教育予算を削減せざるをえなくなる。

ネオコン流のアメリカ覇権主義と、貧困に対する現行の経済政策は、公正な、
あるいは効果的な人間開発モデルを提供できないでいる。それどころか、これ
らは敵意、不平等、暴力をまねいている。わが国がもう一つの戦争に引きずり
こまれる前に、別の選択肢があることを、別の道を追求することこそが本当の
安全保障の前提であることを、アメリカ国民はホワイトハウスに告げなければ
ならない。

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筆者: マーク・エングラー。ニューヨーク在住の作家。コスタリカ、サンホセ
『平和と人間進歩のためのアリアス財団』の元アナリスト。
[連絡先] www.DemocracyUprising.com.
調査協力: ケイティ・グリフィス
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[原文] Beyond the War on Terror, by Mark Engler
http://www.democracyuprising.com/articles/2003/ny_against_war.php
Copyright C 2003 Mark Engler(TUP翻訳・配信許諾済み)
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翻訳 井上 利男 / TUPスタッフ