パレスチナ人ラッパーたちのヒップホップな闘い
岡 真理[TUP]
いかに抑圧されようと、人間が「自由を求める自由」だけは
誰にも奪えない――
忘れもしません、あれは2009年12月のこと。東京の友人から、
興奮した声で、京都に住む私に電話がありました。「すっごく
良かったから、明日の晩に京都でも試写会があるから、絶対に
見て!」
パレスチナ映画「スリングショット・ヒップホップ」の試写会
を見た彼は、映画館を出るなり公衆電話から(料金滞納で携帯が
止められていたため)、電話をかけてきたのです。その晩、
東京の別の友人たちからも同じ趣旨のメールが複数あり、ML
にも同様の投稿がありました。みな、メールの文言から興奮が
伝わってきました。
翌日、仕事を終えるや、試写会場のライブハウスに自転車で
駆けつけました。東京の試写の反応が伝わって、狭い会場は
超満員、みなの期待で異様な熱気に満ちていました。そして
いよいよ映画が始まり……
イスラエル占領下のガザ、西岸、そしてイスラエルで、ラップ
に生きるパレスチナ人の若者たちの、ヒップホップな物語です。
ラッパー青年たち(女の子もいます)の、なんとチャーミング
でかっこいいこと! ガザ、西岸、イスラエル領内に分断されて
生きる彼らが、ラップでつながり、まさに「壁」を越えて合同
ライブの開催を目指します。パレスチナのドキュメンタリー
なんて、きっと深刻で暗くて…という思い込みを、根底から
ひっくり返してくれます。
「音楽は自由をめざす」(中川敬)、
どんなに抑圧されようと、人間の「自由を求める自由」(竹中労)
を奪うことなど誰にもできない……
この映画ほどそれを実感させてくれる作品はありません。
(個人的には、キンシャサのもう一つの奇蹟を描いた「ベンダ
ビリリ」、売れないロックグループの、それでも絶対めげない、
諦めない活動を描いた「アンヴィル」と並ぶ、音楽ドキュメンタリー
の傑作です。)
その「スリングショット・ヒップホップ」が、今、『自由と壁と
ヒップホップ』とタイトルを変えて、東京、青山のイメージ
フォーラムで上映中です(11:15、13:15、15:15の1日3回上映)。
東京の方は、ぜひご覧ください。(このあと随時、全国公開の
予定。関西では、大阪第七藝術劇場で2月1日から。)
予告編はこちらを
http://www.cine.co.jp/slingshots_hiphop/trailer.html
オリジナル・タイトルにある「スリングショット」とは、石を
飛ばすパチンコのこと。イスラエル占領下でイスラエル占領軍
と闘うパレスチナ人の少年たちの武器です。「スリングショット・
ヒップホップ」とは、ラップが、歌が、占領と闘う彼らの武器
だということ。
マスメディアによる刷り込みで、私たちは、「ガザ」や「パレ
スチナ」と聞くと「ハマスのロケット弾」や「自爆テロ」を
想起しがちです。でも、それらは、占領下のパレスチナ人の
抵抗のごく一部の話。映画「壊された5つのカメラ」が描く
ように、彼らはずっと非暴力の闘いを続けています、笑いと
ユーモアを忘れずに。人間であることを忘れずに。
5年前の今頃、ガザはイスラエルによる一方的な攻撃に見舞わ
れていました。あのとき殺戮と破壊にさらされていたのは、
この映画に出てくる青年たちであり、彼らの家族や友人たち
だったのですね……。あの攻撃が起こる前に、もし私たちが
この作品を観ていたならば、ガザ攻撃に対する私たちの反応も
また、違っていたかもしれません。
元気をいっぱい貰える作品、寒さも何もかも吹き飛ばしてくれ
ます。まさに新年に観るにふさわしい1本です。面白さは保証
します。ぜひ、お見逃しなく!
公式HP http://www.cine.co.jp/slingshots_hiphop/