TUP BULLETIN

速報979号 イスラエルによる空爆の性質を現地調査 ― ヒューマン・ライツ・ウォッチ7月16日付け報道(前半)

投稿日 2014年7月20日
◎  戦時国際法と国際人道法に違反する攻撃の結果、犠牲者の77%は市民(国連発表)




7月10日付け朝日新聞朝刊10面の記事は「イス ラエル軍は夜間を中心に、ハマスなど武装勢力の幹部を狙った空爆を続けている」と報じています。イスラエル軍の発表をそのまま事実扱いで記載しているので すが、それは事実なのか。どちらの当事者にも属さない人権団体、ヒューマン・ライツ・ウォッチが現地調査を行ない、被害の実態とイスラエル側の説明を裏付 ける証拠が提示されていないことを報じました。

パレスチナの人々の生存権が容赦なく攻撃、剥奪されている現実がもっと広く認識され抗 議 の声が大きくなって、人間の命と尊厳が蹂躙されている現実が正されない限り様々な抵抗が止むはずはありません。現在の危機が正しく終焉するように、直接の 攻撃にさらされていない私たちがなすべきことは何かを考える資料の一つとして、この翻訳記事をお役立ていただければ幸いです。

長文の記事なので、二回に分けて配信します。

記事前半前書き、翻訳: 高橋真澄

イスラエル・パレスチナ問題:イスラエルによる違法な空爆で市民が殺されている

民間建造物の破壊はイスラエルの政策の違法性を示している

(ガザ発)

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によれば、ガザに対するイスラエルの空爆は、民事施設と見られる建造物を標的としており、戦時国際法に違反して民間人を殺害している。イスラエルは、軍事施設を標的としない、おそらくは集団的処罰あるいは民事施設の大規模な破壊を狙いとする違法な攻撃を停止すべきである。戦時国際法を蹂躙する意図的あるいは見境のない攻撃は戦争犯罪である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

2014年7月7日に始まるイスラエルによるガザ攻撃で、イスラエル当局の発表によれば、500トンを超える爆発物がミサイル、空爆、砲兵射撃で使用され、国連によれば、7月14日現在、少なくとも178名が殺され、1,361名が負傷した。その中には635名の女性と子どもが含まれている。国連の予備調査では死者のうち138名、すなわち77%が民間人であることが確認された。うち子どもは36名であり、1,255戸の家屋が破壊され、少なくとも7,500名が住まいを奪われた。

「イスラエルはもっぱら攻撃の精度について言辞を費やしているが、軍事標的がなく犠牲者の多くが民間人であるような攻撃は、精度が高いとはとても言えない。最近のガザに関する報告事例は、嘆かわしいことに、イスラエルが長年積み重ねてきた、違法な空爆と民間人死傷者の記録と符号している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東部長サラ・リー・ウィットソンは述べる。

パレスチナの武装集団も、イスラエルの人口密集地区に向けて発射される無差別ロケット攻撃を停止すべきである。イスラエルのメディアは、パレスチナ武装集団がイスラエルに向けて1,500発のロケットを発射し、イスラエル人5名が負傷、家屋に被害が出ていると報じている。

イスラエル軍とパレスチナ武装集団は両者ともに、5月から6月初旬にかけてはそれほど多くのロケットを発射しなかった。6月11日にイスラエルが行ったガザ空爆中のある爆撃で、バイクで移動中の武装集団のメンバーとされる人物とその息子が殺され、それをきっかけにパレスチナ武装集団側からロケットが発射され、7月7日のイスラエルによる大規模な戦闘行為の拡大に発展した。イスラエルはまた、7月12日にヨルダン川西岸のある入植地付近で発生した未成年のイスラエル人3名の誘拐・殺害事件をハマスの犯行と断じ、6月13日に西岸に対する軍事作戦を開始し、少なくとも6名のパレスチナ人が殺害された。ハマスは誘拐を賞賛はしたが犯行は否認していた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、民間人を死傷させ、しかも正当な軍事目標の攻撃を含まないまま、あるいは戦果に見合わないほど大きな犠牲が民間人に出る可能性があるにもかかわらず行われたイスラエルによる7月中の4回のガザ爆撃を調査した。このような意図的な、あるいは見境なしの爆撃は、すべての当事者に適用される戦時国際法の下で戦争犯罪を構成する。これらの事例では、イスラエル軍は、それらが適法な軍事目標を爆撃するものだということ、あるいは民間の犠牲を最小限にとどめるべく行動したことを示すいかなる情報も提供していない。

イスラエルは不当にも、軍事的役割を持たない民事メンバーをも、「テロリスト」であり、したがって適法な軍事目標であると、政策上断言しており、これを根拠に、これまでも何百もの違法な爆撃を行ってきた。イスラエルはまた、武装集団のメンバーと推定される者の家族の住まいを、それらが軍事目的で使用されているという証拠を示すことなく爆撃してきた。

7月11日の、ハーン・ユーニス市付近のファンタイムビーチというカフェに対するイスラエルによる爆撃で、9名の民間人が殺された。その死者のうち2名は15歳の子ども、3名の負傷者のうち1名は13歳の少年だった。イスラエル軍報道官は、この攻撃は「テロリストを狙ったものだ」と述べたが、サッカー・ワールド・カップの試合を観戦するためにカフェに集まっていた客のいずれかが軍事行動にたずさわっていたとの証拠は提示していない。また、混雑したカフェにおける推定「テロリスト」の殺害は、予想される民間人の犠牲を正当化できるとの根拠も示していない。

7月11日に行われた別の攻撃において、イスラエルは、ブレイジ難民キャンプで1台の車両に対してミサイル攻撃を行い、車内にいた自治体職員2名が殺害された。二人は、空爆で損傷を受けた道路の瓦礫を片付けたあと、自治体の公用車であることを示す標識をつけた車で帰宅する途中であった。彼らの身内は、両人のいずれもいかなる武装集団ともまったくかかわりがなく、運転していた人物は7月7日以降毎日、同じ車で同じ行動をとっていたと述べた。爆発によって車の屋根が吹き飛ばされ、その一部は現場近くにある自宅の玄関先で座っていた9歳の少女の腹部に命中して死亡させ、その8歳の妹を負傷させた。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調べでは、その車の中にもその地域内にも当時、軍事目標は何も存在していなかった。

7月10日、人口が密集するハーン・ユーニス難民キャンプ内にある、Mohammed al-Hajjという仕立屋の住居に対して行われたイスラエルの空爆によって、こども2名を含む家族7名が殺され、20名以上が負傷した。住民がヒューマン・ライツ・ウォッチに述べたところによると、8人目の死者、al-Hajjの20歳の息子は、ハマスの武装組織であるカッサム隊の下級兵士であった。イスラエル軍は、この攻撃については調査中であるという。この息子が標的であったとしても、攻撃はその性質上無差別攻撃であり、いずれにしても目標に対する攻撃方法が不適切なものとみなされることは否めないだろう。

ウィットソンは、「下級兵士がひとり存在しただけでは、一つの家族全体を抹殺するという残虐行為を正当化することはとてもできないだろう。(攻撃を受けたのが)イスラエルなら、イスラエル国防軍の兵士の住居が正当な軍事目標であるという主張を決して受け入れないだろう」と言う。

四番目の、7月9日にイスラエルが行った空爆では、妊娠9ヶ月のAmal Abed Ghafourと1歳の娘が殺され、夫と3歳の息子が負傷した。この一家は、複数の目撃者によれば、何発かのミサイルの攻撃を受けたアパートの向い側に住んでいた。付近の住民によれば、イスラエル軍はミサイル攻撃の数分前に非爆発性の小さな「警告」ミサイルをこのアパートを狙って撃ち込んだという。しかし、この一家は警告に気付かず、あるいは逃げる時間がなかった。イスラエル当局は、このアパートを標的にした理由を明らかにしていない。

イスラエル軍報道官が7月8日に発表した最初の簡単な声明では、軍事攻撃は「イスラエルに対する高度軌道のミサイル攻撃を指令・実行した、ハマスのテロ組織に所属する活動家らの4軒の住居を狙った」と主張されているが、それ以上の裏づけは提示されていない。その後に続く声明でイスラエル軍は、「司令統括」センターまたは「テロリストのインフラ」として使用されている住居を、住人に退去勧告を行ったのちに攻撃するのが軍の方針だと述べているが、このような曖昧な主張の裏づけとなる情報は何も提供していない。

イスラエルの人権団体ベツェレは、7月13日に、イスラエル国防軍報道官は現在の軍事攻勢に関する声明の言い回しを変更してきたが、攻撃した家屋に武器が隠されていたと軍が断言したのはただ一件のみであったと述べている。イスラエルのYnet というニュース・ウェブサイトの報道によると、7月12日にイスラエル軍当局は、ガザで「軍は、100戸を超える、様々な階級の司令官の住居を」攻撃していると述べた。

住居などの民間建造物が適法な標的とされるのは、それらが軍事目的に使用されている場合に限定される。戦時国際法において、民間人の犠牲を最小化するために効果的な事前警告を行うことが奨励されているが、警告を行ったとしても、もともと違法な攻撃が適法になることはない。

警告が効果的であるためには、民間人には、攻撃を受ける前に退避して安全な場所に移動するための十分な時間が必要である。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査した数件の事例では、イスラエルは警告を行なったが、5分以下の猶予しか与えないで攻撃している。ガザには防空壕は存在しないことを考えると、民間人は現実には多くの場合どこにも逃げ場がない。

民間人または民間施設を標的とする爆撃は違法であり、民間人と戦闘員を区別できない爆撃もまた違法である。敵の司令官や戦闘員の家族を処罰のために爆撃する場合も、違法な集団処罰を構成することになる。違法に、あるいは見境なく広範な資産の破壊をもたらす爆撃もまた禁止されている。

ウィットソンは、「家族に逃げるよう警告することは、民間人の死傷者を減らすことにつながるかもしれないが、それでも違法な攻撃の違法性を減じることにはならない。民間人を殺害している爆撃が適法である理由をイスラエルが示せないでいるため、これらの爆撃は民間人を標的にしているか、あるいは民間人所有の建造物を見境なく破壊することが狙いなのではないかとの深刻な疑問が持ち上がっている」と述べる。

国連人権理事会は特別委員会を開催して紛争が起こっている中での国際的人権蹂躙と国際人道法違反に対処すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。人権理事会は、国連人権高等弁務官事務所に対して、調査団を組織し、すべての当事者の違法行為に関して公平な調査、迅速な公的報告及び当事者と国連に対する勧告を行なうことを義務づける必要がある。

欧州連合(EU)とその加盟国は、特別委員会の開催と調査団の組織化を支持すべきである。またEUは以下を内容とする決議を挙げるためにも尽力する必要がある。

・民間人を保護するための、国際法の下での紛争当事者の義務の強調

・人道支援と医療活動のため国境を開放しておき、支援を必要とする者には、手を差し伸べて退去できるようにする必要性の強調

・すべての当事者による人権蹂躙と国際人道法に対する違反行為への非難

・重大な違反行為に対する説明責任の必要性の強調

イスラエル当局もパレスチナ当局も、これまでの武力衝突においてそれぞれの軍が犯したとされる戦争犯罪を調査する本格的な行動をとっていない。ヒューマン・ライツ7・ウォッチは、過去10年間、イスラエル軍による夥しい件数の深刻な戦時国際法違反、とりわけ民間人に対する無差別攻撃を記録している。

2005年から2012年末までで、イスラエル軍のガザにおける作戦の結果、1,474名の民間人が死亡し、何千もの建物が破壊された。同時期に、ハマス及びガザにいるその他の武装集団は、8,734発のロケット弾をイスラエルの人口密集地に向けて発射した、ロケットが標的に到達できなかったケースでイスラエル人26名、外国人2名、パレスチナ人10名の計38名が死亡した。

パレスチナ解放戦線(PLO)はマフムード・アッバース自治政府大統領に対して、パレスチナの領土内で犯された深刻な国際犯罪に対する国際刑事裁判所の権限による調査を求めることを要請すべきである。

イスラエル、ハマス、あるいはガザ地区で活動する武装集団に武器を供与している各国政府は、国際人道法に違反して使用されているとの記録がある、あるいはそのおそれがあるとの推定に信憑性があるすべての物資の輸送を中止する必要がある。また、そのような物資調達のための資金供与や支援も同様に中止すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。米国はイスラエルに回転翼及び固定翼の戦闘機、ヘルファイア・ミサイル及びその他違法なガザ空爆で使用されてきた武器を供与している。

「双方がガザにおける戦争犯罪を訴追しないまま長い年月が経過しているため、正義をもたらし責任を取らせるための有意義な選択肢は、国際刑事裁判所における訴訟のみとなっている。アッバースがパレスチナをこの裁判所の審理に付すまでに、いったいどれだけの民間人がイスラエルの違法な攻撃で死ぬことになるのだろうか」とウィットソンは述べる。

(後半の各事例の詳細報告に続く)

原文:
http://www.hrw.org/news/2014/07/15/israelpalestine-unlawful-israeli-airstrikes-kill-civilians