FROM: Schu Sugawara
DATE: 2003年10月12日(日) 午前0時19分
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■□■ ★≡ 星川 淳のピースウォッチ #2(03.10.11) ■ ■ ■ ■□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ………………… 気になる海外ニュース&論考をダイジェストで …………………
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > 自腹で帰宅休暇の米軍兵士 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡米西海岸スポケーン市の夫婦が、イラク従軍中の義理の息子について、黙っ ていられず新聞に投稿。軍がようやく2週間の帰宅休暇を認めたと思ったら、旅 費は自己負担なんてあんまりだ、と! 命がけで出かけた兵士が家族の顔を見た くても、イラクとアメリカの往復旅費など払えない家庭も少なくありません。ラ ムズフェルドのめざす“安上がりの米軍”の実態でしょう。このほかにも兵士と 家族の不満材料は積もるばかりで、「部隊を帰せ!」の声が高まりつつあります。
Soldier must pay for his trip home Spokane Spokesman September 28, 2003 http://www.spokesmanreview.com/news/letters.asp?date=092803&id=l16340
“Bring Them Home Now” Website http://www.bringthemhomenow.org/
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > アメリカ先住民の退役軍人も撤兵要求 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡アメリカ先住民ナバホ族の言葉は難解なため、第2次大戦で暗号に使われ、 ナバホ兵士は「コードトーカー」(暗号会話者)として活躍しました。現在生存 する350人のコードトーカーのうち、海兵隊退役軍人からなる「ナバホ・コー ドトーカー協会」会長サム・ビリソンが、イラクからの米軍撤退を求める声明を 出しました。開戦理由は理解できたが、大量破壊兵器が見つからず、毎日のよう に米兵が殺される状態では戦争の大義に疑問があるし、日本がはっきりアメリカ に宣戦布告した太平洋戦争と今回とはちがう、と。
Code Talker president wants troops out of Iraq October 6, 2003 http://www.azdailysun.com/non_sec/nav_includes/story.cfm?storyID=74404
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > ボツリヌス試薬は戦争の理由になるか? ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡90年代、国連査察団(UNSCOM)の化学兵器チームの一員としてイラ クを査察したロン・マンレーが、アメリカのイラク探査グループ(ISG)によ る中間報告を検証。マスコミで発見が伝えられる「ボツリヌス菌」は、自然界に も存在するうえ、食中毒検査用程度の微量試薬で、戦争をしかける大義になると は思えません。これまでUNSCOMとUNMOVICの査察報告や、ハンス・ ブリクス、スコット・リッターをはじめ査察関係者が主張したとおり、91年以 前の化学生物兵器はほぼ廃棄されたか、無害化していたとの見方が裏づけられま した。あとは、「サダムが引き続き大量破壊兵器開発の野望を捨てていなかった」 というだけ。
マンレーの解説は科学者らしい客観性を保っていますが、最後に「軍備管理と 大量破壊兵器拡散防止の観点からは、開戦前のイラクのWMD実態が米英の機密 情報とマッチしていたかどうかより、湾岸戦争以来の国連査察と封じ込めが、サ ダムのWMD開発をストップさせていた事実のほうが重い。なぜなら、その有効 性が実証されれば、大量破壊兵器の開発や保有を理由に武力行使する必要が減る からだ」と述べています。
THE IRAQ WEAPONS REPORT: A REVIEW The chemical weapons expert RON MANLEY examines the Iraq Survey Group’s report on the fate of Saddam’s WMD October 9, 2003 http://www.opendemocracy.net/debates/article-2-95-1529.jsp
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > 当てが外れたイラクの石油 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡最近、ペンタゴンが2003年秋の時点でイラクの石油をめぐる状況を調べ た秘密報告書の厳しい内容が明らかになり、戦費や復興経費が戦後の石油収入で すぐまかなえるというブッシュ政権(ペンタゴンのトップ、ラムズフェルド国防 長官やウォルフォウィッツ副長官を含む)の主張は虚言だったことがわかりまし た。湾岸戦争とその後の経済制裁による石油インフラの疲弊、フセイン政権崩壊 と米英占領後の破壊工作、電力事情の改善遅延からくる掘削・輸送の不調などが あいまって、原油売却年間収入200〜300億ドルという開戦前のバラ色の予 想をはるかに下回るばかりか、いまのところ日産200万バレル強の戦前レベル さえ回復できないのです。
現在、バグダッドのブレマー行政長官によれば、石油収入が復興・占領経費を 上回るのは早くても2005年との読みで、予想外の障害や破壊工作が続けばさ らに遅れる可能性も。ようするに、ネオコンが夢見たほど儲かる戦争ではなかっ たのです。当面は、ブッシュが来年度のイラク復興予算として米議会に求めてい る200億ドルをつぎ込まないと石油も出ません。
Report Offered Bleak Outlook About Iraq Oil By JEFF GERTH October 5, 2003 http://www.nytimes.com/2003/10/05/international/middleeast/05OIL.html?ex=1066471271&ei=1&en=0ddff89ea58a5584
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > 開かない宝箱 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡腕利き中東ジャーナリスト、ロバート・フィスクが、そのイラク石油事情を 現場から暴露します。パイプラインの破壊工作は報道される以外にも頻発し、キ ルクークなど北部からのルートは険しい地形や部族地域のため完全に守ることは 不可能で、アメリカが売却できるのは南部油田からの原油のみ。8月の平均産油 量は一日100万バレルを切って、アナリストによると「壊滅的」。米軍が侵攻 直後、油田の確保にばかり気を取られ、パイプラインと石油省の重要データを守 らなかったツケがまわってきています。
ベイルートのアメリカン大学専門家は、原油生産を日量350万バレルに上げ るには、アメリカはいま騒がれている870億ドルどころか、2000億ドルの 復興予算を必要とするかもしれないと分析。イラクには世界の埋蔵原油の12% から最大25%が眠っているといわれ、アメリカは2025年に国内石油需要の 70%を輸入に頼る事態に備えて宝箱を押さえたものの、箱の蓋を開ける出費は 米国内経済を破綻させかねないので、立ち往生の状態です。
U.S. can’t hide concern for Iraq’s oil By ROBERT FISK Seattle Post-Intelligencer October 2, 2003 http://seattlepi.nwsource.com/opinion/142115_fiskoil02.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > 国際刑事裁判所を敵視するアメリカ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡クリントン時代に国際刑事裁判所(ICC)の開設を支持したにもかかわら ず、ブッシュ政権になって署名を取り消したアメリカは、ICCの正式設立にと もなって米軍人保護法を制定し、ICC条約に加盟する国からは軍事援助を引き 揚げるし、戦争犯罪容疑で捕まった米兵の身柄奪還には武力行使も辞さないと宣 言。ICC条約加盟国と、米兵を例外扱いにする個別の2国間協定を結ぶ交渉を 進めてきましたが、さる10月1日、この2国間協定を拒否した32の友好国に 対し、2004年度は合計3000万ドルの軍事援助を打ち切ると発表しました。
NATO加盟国や日本、韓国、イスラエルなどの同盟国は例外扱いされるもの の、アフリカのマリ、ナミビア、南ア、タンザニア、ケニア、そしてエストニア、 ラトビア、リトアニア、スロベニア、スロバキア、セルビア、ブルガリアを含む 中欧・東欧諸国の多くが2国間協定を拒否したと伝えられます。ICC条約には メキシコ、コスタリカ、コロンビアをはじめ、ボリビアを除く中南米の大半も加 盟しているいっぽう、アメリカの軍事援助に頼らざるをえない国もあって、パナ マ、ホンジュラス、ニカラグアがICC条約と対米2国間協定の苦しい両立を選 択。このほか、モーリシャス、ドミニカ共和国、ナウル、マーシャル諸島など島 嶼国や、中央アジアのアフガニスタン、タジキスタン、東欧のアルバニア、ボス ニア=ヘルツェゴビナ、ルーマニア、ナイジェリアを含むアフリカの一部が2国 間協定に応じました。
しかし、ブルガリアやスロバキアなどイラク合同軍に派兵している国でも、2 国間協定を拒否して軍事援助を削られる例があります。また、ドラッグ撲滅でア メリカに協力するエクアドルやペルーも、アフリカの平和維持活動に貢献する南 アも、同じ理由で多額の援助を失います。国際刑事裁判所は、テロや戦争犯罪の 防止にもっとも有効な枠組みと期待されるのに……
And justice for all? By Jim Lobe http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/EJ08Aa02.html
―――――――――――――――――――――――――――――――――――― > 発熱する世界 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ★≡地球温暖化の実態を調べるため、5つの大陸を3年がかりでまわったイギリ スのライター、マーク・ライナスが、世界各地で進行する窮状を報告します。きっ かけは、少年期に家族ですごしたペルーの氷河地帯のスライドを見て、それがい まどうなっているか地質学者の父親と意見が割れたこと。
南太平洋のツバルでは、サンゴ礁起源で浸透性の高い陸地に海水が沁み出して、 生活が難しくなり、ニュージーランドへの移民がはじまりました。21世紀中に 国土消滅が危ぶまれています。同じ悩みを抱えるキリバスやモルディブと声を合 わせ、先進国に二酸化炭素の排出削減を求めていますが、京都議定書の批准を拒 否するブッシュ政権に代表されるように、対策は進みません。
いっぽう、母国イギリスは記録破りの猛暑。この旅で訪れたどこよりも暑かっ たそうです。一年で20メートルずつ南へ移動している計算になり、オクスフォー ドの雪景色は過去のものとなりました。
アラスカのフェアバンクスでは、80年前に比べて春の川の解氷が1週間以上 早まり、かつて零下40〜50度Cまで下がった冬の気温は、ようやくマイナス 20度C程度。過去30年で6度Cも上昇しています。この傾向は、カナダやシ ベリアの北極圏でも同じ。永久凍土が解け出すために、道路はうねり、家は傾い て、アラスカ州だけで年間3500万ドルの対策費用がかかっています。
オーストラリアのグレートバリアリーフでは、サンゴ礁の大量白化(はっか) を目撃。サンゴ虫と共生する褐虫藻が海水の温度上昇で逃げ出すと、石灰質の骨 格だけが白い残骸をさらす現象で、98年には全世界のサンゴ礁の6分の1が死 滅したといわれます。世界の森の6分の1が、ひと夏で消滅したら大ニュースで しょう。グレートバリアリーフでは700年も生き続けたサンゴが死に、数十年 のうちに白化は恒常化すると予想されます。[注:サンゴ白化は日本でも発生]
中国――揚子江に続く世界第2の大河、黄河下流域では、過去10年のうち9 年が旱魃。1年の半分以上、黄河の流れが絶える「亡流」が日常化しました。砂 漠が迫り、農地を埋め、大量の表土が黄砂となって吹き飛ばされていきます。
そしてペルーのワラス山地では、子ども時代に見た巨大な氷河が完全に消え失 せていました。リマ市の水源が、30年で8億立方メートル以上失われたことに なります。アメリカでもインド亜大陸でも、高地の氷河が消失すると、海岸人口 は維持できません。証拠写真を見た筆者の父親は、「信じられない」と絶句。
◎マーク・ライナス著 High Tide: News from a Warming World(上げ潮:発熱 する世界からの報告)は、2004年春刊行予定。http://marklynas.org/
At the end of our weather By Mark Lynas October 5, 2003 The Observer, Review http://observer.guardian.co.uk/review/story/0,6903,1055893,00.html
(要約解説:星川 淳/TUPメンバー)