TUP BULLETIN

速報208号 マーク・トウェーンがイラクへ? 03年11月8日

投稿日 2003年11月7日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2003年11月8日(土) 午前0時28分

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マーク・トウェーン(1835-1910)。その名を聞いて、思い出すのは……トム・
ソーヤ、ハックルベリー・フィンの冒険……アメリカが若かったころの、ユー
モアたっぷりで元気な物語。

でも、晩年のトウェーンは、ベルギー王室領コンゴの植民地経営の醜悪な実態
を暴いた著作『レオポルド2世の独白』(邦訳あり。ただし絶版で出版社も不
明)など、暗い気分の辛辣な時事評論で知られています。

そのマーク・トウェーンが現代に蘇り、祖国のイラク侵略/占領を目撃したな
らば、どのように語るのでしょうか?

TUP 井上@奥会津から

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『マーク・トウェーンがイラクへ行ったならば?』
アメリカの気高い伝統、反帝国主義を主張した著名作家

――マーク・エングラー
デモクラシー・アップライジング・コム 2003年10月27日
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季節は秋だった。選挙戦たけなわであり、アメリカの対外干渉の是非が候補者
たちを二分する論戦の焦点になっていた。その熱気のさなかに帰ってきたアメ
リカを代表する作家は、祖国で歓迎されもしたが、政治的な緊張を招きもした。

その作家はマーク・トウェーンであり、時代は1900年、アメリカ・スペイン
戦争が終結し、アメリカが2000万ドルの対価を支払って領有することにな
ったフィリピンでの軍事行動が、国全体を激しい論争に巻き込む政治課題にな
っていた。10年近くも海外で暮らしていたトウェーンは、先を見通せる状況
分析の眼を持ち合わせていた。

当初、彼は戦争に賛成だった。「フィリピンの人びとは苦しんでいると私は考
えた」と、トウェーンはホワイトハウス説明にある軍事行動の論拠そのままに
弁明した。「わが国のと同等な自由を(フィリピンの)人びとに与え、彼らの政
府と国家を建設し、アメリカ憲法現地版を流布し……まったく生まれ変わった
共和国を立ち上げて、世界の自由諸国の一員に加えることが、アメリカにはで
きる」

「だがその後、私はもう少し掘り下げて考えてみた」と彼は語った。トウェーン
は1898年パリ協定書を読み、公言されている戦争目的の真偽を判定したう
えで、結論を下した――「アメリカはフィリピンを征服しに行ったのであり、
義務を果たしに行ったのではない」

「言うなれば、私は帝国主義反対論者である。私は、鷲(ハクトウワシ=アメリ
カの象徴)が外国の地に爪を立てるのには、それがどこであっても、反対する」

マーク・トウェーン――本名サミュエル・クレメンス――は、20世紀初め、す
でにアメリカでもっとも尊敬を集める作家の地位を確立していた。彼は政治の
世界に口を出すのを控えるような人物ではなかった。(バカになりたければ、
連邦議員になればよい――彼は広く知られた警句で皮肉った。「それでも、何
度でも言ってやるさ」) トウェーン研究家ジム・ツィックの説明によれば、この
作家が生涯でもっとも真剣な政治関与に踏み切った動機は、反帝国主義の信念
だった。

新しい世紀最初の10年間、アメリカの太平洋関与政策に対するトウェーンの
懐疑論は膨らみ続けた。1902年7月4日、セオドア・ルーズベルト大統領
がフィリピンにおける戦争の公式上の終結を宣言したが、その後の数十年間、
アメリカは軍の駐留を維持することになり、軍事衝突が頻発した。トウェーン
は、「アメリカは困った状況に陥り、泥沼から足を引き抜こうにも、一歩ごと
にますます抜き差しならない深みにはまっている」と警告した。

表向きにはフィリピン独立を支援する戦争であると言われていたが、結局、米
軍はフィリピン利権を手厚く保護しているだけだと、著述家トウェーンは憤慨
し、「アンクル・サムはあの2000万ドルを『泥棒主権クラブ』入会金として
支払ったのだ」と決め付けた。

例えばフレデリック・ファンストン将軍など、ホワイトハウスの代弁者たちは、
帝国反対論者を「反逆罪で縛り首」と喚いていた。トウェーンは、「非国民呼ば
わりされて、まことに結構――名誉ある非国民の勲章は心から望むところ――
いわれもなく愛国者の汚名を着せられ、ファンストンの同類にされては、神に
誓って困る」と鋭く切り返した。

もしもマーク・トウェーンが現代に生きていれば、ジョージ・W・ブッシュ大統
領が『セオドア王(ルーズベルト)』を称賛すると公言したとしても、あるいは
つい最近、フィリピンはイラク『解放』の前例であると持ち上げたことにも、
言うまでもなく驚かないだろう。

6ヶ月ばかり前、ブッシュが、トップガン(海軍のエリート・パイロット)の虚
勢を張って、「任務達成」を宣言したにしても、わが国の軍隊がイラク占領の深
みに引きずり込まれただけのことである。公式発表で言う『平和の代償』――
殺害された米兵の数――は10月中旬で100人に達した。ヨーロッパが早期
の選挙を要求しているが、ブッシュ政権は拒否していて、出口が見えてこない。

すでに知れ渡ってしまった競争入札もない契約で、数十億単位のドルを受領し
たハリバートンとベクテルのような、ホワイトハウスと密着している企業以上
に、米軍占領を熱烈歓迎している者はいない。

歴史は繰り返し、ブッシュ政権は「われわれの側か、さもなくば敵か」と迫り、
反対論者を非国民、あるいはもっと悪い売国奴とレッテル貼りするような政治
風土を培ってもいる。つい先ほど、米国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、
イラク戦争への批判がテロリストを助けていると、ある機会に口走った。

アメリカ軍国主義に逆らったトウェーンの闘いは、孤立していたのではない。
背後には、ルーズベルト流の拡張主義が国民国家の中心理念である自主と自由
を侵犯していると発言した団体『反帝国主義者同盟』があった。これまでにも
増して今は、わが国のであれ、他国のであれ――帝国の創設に反対するアメリ
カの国民的伝統を尊重した方がよい。

さて、イラクの状況を目の当たりにして、フィリピンの人びとへの接し方を述
べたマーク・トウェーンの意見を、私たちは思い起こさなければならない――
「(わが国があの国民に)完全な自由を与えるのはすごいことだと私は考えてい
た……だが今の私は、彼らの自由に任せたほうがよいと思う」

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マーク・エングラー: ニューヨーク市在住の作家、『フォーリン・ポリシー・イ
ン・フォーカス(焦点の外交政策)』解説者。
連絡窓口: http://www.DemocracyUprising.com.
取材協力: ジェイソン・ロウ
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[原文]
Mark Twain in Iraq?
The famous writer championed a proud tradition American anti-
imperialism.
by Mark Engler
http://www.democracyuprising.com./articles/2003/mark_twain.php
Copyright (C) 2003 Mark Engler
マーク・エングラーによりTUP配信許諾済み
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翻訳 井上 利男 / TUP