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[TUP速報]246号 地球を覆う米軍基地戦略 2004年1月28日

投稿日 2004年1月28日

FROM: minami hisashi
DATE: 2004年1月28日(水) 午後11時43分


チャルマーズ・ジョンソンの「基地の帝国」現況報告第2弾です。


前回のTUP速報242号『帝国の治外法権―米軍地位協定と沖縄』
( https://www.tup-bulletin.org/?p=266 )
では、筆者は、地面の位置から虫の眼で、沖縄の人びとに寄り添って、アメリカの軍事基地と帝国戦略を見つめましたが、本稿では、(白頭ワシではないが)天空高く舞う鳥の眼で、地球規模に展開するアメリカの軍事基地再配置戦略を眺望します。


 TUP  井上 利男


トムグラム: チャルマーズ・ジョンソン、地球を覆う米軍基地戦略を語る。
トム・ディスパッチ 2004年1月15日
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[編集者トム・エンゲルハートによる前書き]

米政権は、基地マニアがいよいよ嵩じて、今や2020年までに月面上に観測
「基地」を開設したいそうで、先日、ブッシュ大統領がはっきり宣言した。この
計画は、それなりに筋が通っている。ここに掲載する記事でチャルマーズ・ジ
ョンソンが指摘するように、現在の勢いが衰えなければ、そのころまでに、地
球上にはもうアメリカの基地を置く場所が残されていないだろうから。

言うまでもなく、広がりすぎた米軍と広がりすぎた「基地の帝国」が、その時点
でどうなっているかは分からない。つい先頃、陸軍大学が公表した報告は、イ
ラクとアフガニスタンで継続している戦争で、陸軍は「能力の限界に近づいて
いる」と断言する――
●春までに、イラク駐留米兵の40パーセントは、予備役または州兵が占める
と予測され、その任務も、もはや前線部隊の支援ではなく、自ら最前線に立つ
ことになるだろう。(今のイラクで、どこが最前線であると区分けできるかど
うかは別だが)
●イラク駐留米兵の自殺率が上昇している。
●戦時離脱停止令が出されて、退役の道を絶たれた兵士たちが4万人におよん
だ。その半数近くが予備役と州兵だ。つまり、「完全志願制」を標榜する陸軍
が、
絡め手の徴兵制に変わりつつあるわけだ。
●再志願し、戦闘地帯で任務につく意欲のある兵士たちへの特別手当が、ここ
へきて急に増額されている。

また(ニューヨーク州の地方紙)オルバニー・タイムス・ユニオンによれば、ま
もなく軍による退役在郷軍人の召集が始まるという噂が広まっている。それで
も国防総省の「基地前進配置」計画は、推進の勢いがとどまることを知らない。

ここに掲載する記事で、チャルマーズ・ジョンソンは、アメリカの「基地ワー
ルド」の骨格構造を解明しながら、過剰展開と重武装を特徴とする軍事帝国の
姿を鮮やかに描き出してくれる。しかもその指導者たちは、さらに軍事展開の
最先端を月にまで広げようというのだ。

ジョンソンが9・11以前に発表した前著『アメリカ帝国への報復』は、人目
を避けたアメリカの帝国政策が数かずの報復を招き寄せるだろうと予言してい
たが、つい最近、彼の「アメリカ帝国シリーズ」に新刊『帝国の悲哀――軍国主
義、秘密主義、共和制の終焉』(仮題)が加わった。この新著は、アメリカ最大
のタブーである軍国主義と、米国内外に与えるその影響というテーマに果敢に
挑んでいる。これは、新たな道を切り開く壮大な仕事であり、世界の全体像を
理解したいと心から願うあなたにとって、必読書であると断言できる。どうぞ、
お見逃しなく。トム(署名)

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『アメリカの軍事基地帝国』
――チャルマーズ・ジョンソン
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アメリカ国民が他国の人びとと大きく違っているのは、米国が軍事力で世界を
支配していることを認めない、あるいは認めたがらない点だろう。政府の秘密
主義が功を奏し、米軍駐屯地のネットワークが地球を一周している事実を国民
は知らないことが多い。

南極大陸を除く地球上の全大陸に置かれた米軍基地の巨大なネットワークは、
現実に新しいタイプの帝国を形つくっている。高校の地理の授業ではおよそ教
えられない、独特の地理概念にもとづく基地の帝国である。この地球を一周す
る基地ネットワーク構造の全体像を把握できなくては、アメリカの帝国的野心
の大きさと内実が見えないだろうし、新種の軍国主義がアメリカの憲法秩序を
どれだけ蝕んでいるかも理解できないだろう。

米軍は、優に50万人を超える兵士、スパイ、技術者、教師、扶養家族、民間
業者を諸外国に配備している。

世界の海を支配するために、アメリカはざっと13海軍艦隊を編成し、各々を
率いる航空母艦は、キティ・ホーク、コンステレーション、エンタープライズ、
ジョン・F・ケネディ、ニミッツ、ドワイト・D・アイゼンハワー、カール・
ビンソン、セオドア・ルーズベルト、エイブラハム・リンカーン、ジョージ・
ワシントン、ジョン・C・ステニス、ハリー・S・トルーマン、そしてロナル
ド・レーガンと、軍国主義の勇ましい遺産を連ねて命名された。

アメリカは米国領土の外で膨大な数の秘密基地を動員して、自国民を含む世界
の人びとの通話、ファックス、Eメールを傍受している。

海外展開した米軍は、兵器類の開発・製造を担ったり、全世界に散らばる前哨
基地の建造・維持を請け負ったりする民間企業に利益をもたらす。後者の代表
格は、テキサス州ヒューストンに本社があるハリバートン社の子会社として名
高い関連企業ケロッグ・ブラウン&ルート社だろう。

受託企業の仕事のひとつは、快適な居住区に住む帝国の兵士に、よい食事、娯
楽、楽しくて料金が手頃な休暇施設を提供するサービス事業である。アメリカ
経済の全部門が軍需に売上を依存するようになった。例えば、第2次イラク戦
争の前夜、国防総省は、巡航ミサイル、対戦車劣化ウラン砲弾を追加発注した
他に、ネイティブタン日焼け止めクリーム27万3000本を仕入れた。これ
は1999年度実績の3倍増に迫る発注量であり、元請けのコントロールサプ
ライ社(オクラホマ州タルサ)および下請け製造業者サンファンプロダクツ社
(フロリダ州デイトナビーチ)にとっては、願ってもない特需だった。

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700ヵ所を超える海外基地

アメリカの基地の帝国の規模や、その正確な価値を算定するのは容易ではない。
これに関連する公表データは誤解を招きやすいが、示唆には富む。

在外・国内米軍不動産を詳細に記す国防総省の年報『基地造営物報告書』20
03年度版には、次のように書かれている――
●現在、国防総省は海外130ヶ国に702ヵ所の基地を保有または借用。
●加えて6000ヵ所の基地を、米本土および海外領に「保有」。
●国防総省官僚の計算によれば、海外基地だけでも、資産価値は少なくとも1
132億ドル。これは非常に大幅な過小評価であるのは確かだが、たいていの
国の国内総生産よりも高額。
●海外・国内基地すべてを合算した評価額は5915億1980万ドル。
●米軍最高司令部は、ざっと25万3288名の軍人を海外基地に配属。これ
にほぼ同数の扶養家族と国防総省文官が加わり、さらに4万4446人の現地
採用外国人を雇用。
●国防総省所有の兵舎・格納庫・病院施設などの建造物は4万4870棟、他
に借用物件は4844棟。

以上の数値は驚くべきものだが、それでも全世界を覆う米軍基地のすべてを網
羅してはいない。

例えばコソボには、1999年にケロッグ・ブラウン&ルート社が建設し、そ
の後も維持管理を請け負っている巨大なキャンプ・ボンドスティールほか、い
くつもの米軍施設があるにもかかわらず、2003年度版『基地現況報告』に
はどれひとつ掲載されていない。

9・11以降2年6ヶ月の間に、いわゆる「不安定性の弧」の全域を通じて、米
軍は巨大な基地施設を建設してきたが、報告書はアフガニスタン、イラク、イ
スラエル、クウェート、キルギスタン、カタール、ウズベキスタンにある基地
についてはまったく触れていない。

過去58年間、アメリカの軍事植民地でありつづけた日本最南端の島・沖縄に
ついて、表向きの報告書は、海兵隊基地キャンプ・バトラー1ヵ所のみを記載
している。だが実際のところ、このこじんまりした島は、海兵隊関連だけでも、
県内第二の都市の中心部4.8平方キロメートルを占めている普天間航空基地
をはじめ、10ヵ所の基地用地をアメリカに「提供」しているのだ。(普天間に
比べると、マンハッタン、セントラル・パークの敷地面積は3.4平方キロメー
トルにすぎない)

また国防総省は、英国にある50億ドル相当の軍事および諜報施設についても、
ずっと前から便宜的に英空軍基地を装い、やはり公表を避けている。

アメリカ軍事帝国の実態を正しく表せば、他国領土に配備した基地は1000
ヵ所を下らないはずであり、近年、その数はいちじるしく増大している。だが
正確な数は、おそらく国防総省自身も含めて誰も把握していない。

生活の場としても、職場としても、基地の居心地は悪くはない。志願制になっ
た現在の兵役は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、あるいはベトナム戦争当時のそ
れとは似ても似つかないほど様変わりしている。洗濯、「炊事当番」、郵便配
達、
トイレ掃除など、日常雑務のおおかたは、ケロッグ・ブラウン&ルート社、ダ
インコープ社、ヴィネル社などの民営軍需企業に外注されている。例えば、先
のイラク戦に支出された資金(約300億ドル)の丸々3分の1は、まさにそう
した業務の代価としてアメリカ民間企業に渡っている。

戦地とはいえ、およそ可能なすべての側面がアメリカ本国暮しのハリウッド版
に見えるように、日常生活が整えられている。ワシントンポストの記事によれ
ば、バグダッドのすぐ西、ファルージャの第82空挺師団基地では、厳重警護
のもと、士官クラスに晩餐を給仕するウェイターたちが、白シャツ、黒ズボン、
黒蝶ネクタイで決めている。アメリカがバグダッド国際空港に建設した巨大な
軍事基地の中に、すでにバーガーキング1号店がオープンしている。

基地のいくつかは途方もなく広大である。バグダッド北方サッマラーからタジ
まで、イラク領内ざっと3900平方キロメートルの治安確保を担う第4歩兵
師団第3旅団の司令部キャンプ・アナコンダの例では、土塁と蛇腹形鉄条網で
囲まれた構内を兵士や請負業者が移動するために、バス路線が9系統も必要な
ほどである。アナコンダでは、占有面積は25平方キロメートルであり、最終
的に2万もの兵士たちが配属されることになっている。厳重な警戒態勢にもか
かわらず、この基地はしばしば迫撃砲攻撃を蒙っている。とりわけ2003年
7月の4日(アメリカ独立記念日)のそれは、現地野戦病院でアーノルド・シュ
ワルツネッガーが傷病兵たちを慰問している最中だったので、注目を集めた。

米軍基地の模範となるのは、アメリカ国内でいえば人が集まる大都会より、バ
イブル・ベルト(南部・中西部聖書信奉地帯)のキリスト教原理主義者が住む小
さな町だ。

例を挙げよう。米軍の海外基地に、兵士、軍人の配偶者・縁者合わせて10万
人以上の女性が居住していて、軍隊内の性的暴行ないし同未遂は年間約1万4
000件に達する。にもかかわらず、基地内の軍病院では、中絶処置が禁止さ
れている。海外で妊娠してしまい、中絶を望むなら、現地社会で可能性を探る
しか選択肢はない。バグダッドであれ、今日の帝国のどこであれ、それには困
難と苦痛がともなう。

アメリカの海外派遣軍人たちは、自己完結型の閉鎖空間で生活し、移動の世話
も自前の航空路線網にお任せだ。空輸機動司令部の航空隊が、長距離輸送機C
17グローブマスター、同C5ギャラクシー、同C141スターリフター、空
中給油機KC135ストレイトタンカー、給油・輸送兼用機KC10エクステ
ンダー、救急医療機C9ナイチンゲールなど各種機材を取り揃えて、グリーン
ランドからオーストラリアまで地球上の隅々の前哨基地を結んでいる。

将軍たちや元帥たちのためには、軍御用達のリアジェット71機、ガルフスト
リームIII型13機、セスナ・サイテイション豪華ジェット17機のどれかが、
バイエルン・アルプス山地ガルミッシュの軍用スキー保養センターでも、ある
いは世界234ヵ所のペンタゴン直営ゴルフ場のどこでも、お望みの目的地へ
連れていってくれる。ドナルド・ラムズフェルド国防長官は専用機ボーイング
757(空軍型式名C-32A)で飛び回っている。

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地球に記すアメリカの「足跡」

アメリカ帝国の軍事的影響力を表わすのに、わかりやすくても無神経な言葉が
いろいろ使われてきたが、その筆頭が「足跡」だろう。統合参謀本部議長リチ
ャード・マイヤー大将も、ダイアン・ファインスタイン委員(カリフォルニア
州選出・共和党)をはじめ上院・軍事建設歳出小委員会の委員たちも、口を開
けば、「アメリカの足跡」を連発する。

イラク征服の余勢を駆り、いまや従来よりも大きな足跡を記すことこそが、ア
メリカ帝国版図の大幅な拡張、ならびに在外基地と部隊の(公表済み)再配置計
画を正当化する新たな大義名分の一端となった。

この大事業を率いる人物が、国防長官の戦略担当・補佐官代理アンディ・ヘー
ンである。ブッシュ大統領が掲げる「ならず者国家」、「悪党」、「邪悪な者」
に対
抗する予防戦争戦略を実行に移す計画は、ヘーンとその同僚たちが立案するこ
とになっている。

彼らは、南米アンデス山地(すなわちコロンビア)から北アフリカに抜け、中東
を横断し、フィリピンとインドネシアにおよぶ、いわゆる「不安定性の弧」を設
定した。これはもちろん、かつて第三世界と呼ばれていた地域にほぼ一致する
ばかりか、もっと重要なことに、世界の主要石油埋蔵地帯に重なっている。
ヘーンは、「アメリカの足跡をこの弧状地域に重ねてみれば分かるとおり、今
後直面することになる諸課題に対処するのに、わが国はさほど有利な地歩を築
いていない」と強調する。

その昔、帝国主義の拡張の跡を辿るには、植民地を数え上げればよかった。植
民地の現代アメリカ版が軍事基地である。地球上の基地配置にかかわる政策変
化に着目すれば、増強の一途をたどるアメリカの帝国主義的姿勢と、それにと
もなう軍国主義の膨張について、多くのことが分かるだろう。軍国主義と帝国
主義は腰から下が同体のシャム双生児であり、たがいに持ちつ持たれつの関係
なのだ。

アメリカ国内では、帝国主義と軍国主義の双方とも、すでに高度な発展を遂げ
ているが、今やさらなる大飛躍の間際にある。次の段階で、米軍が軍事力の限
界を踏み越えることはほぼ確実だろう。そうなれば財政破綻を招くばかりか、
伝統の共和制も致命的な打撃をこうむる可能性が非常に大きい。こうした事実
がアメリカの言論界で取り上げられるのは、基地政策および在外部隊配備の転
換計画についての極めて難解なルポルタージュを通してのみであり、仮に一般
メディアで報道されたとしても、鵜呑みにはできない。

紅海の出入口にあたるジブチには、かつてフランス外人部隊の駐屯基地だった
キャンプ・ルモニエがあり、現在はアメリカ海兵隊1800人が駐留している。
その旅団長マスティン・ロブソンによれば、「予防戦争」の実行には、米軍の
「全地球的なプレゼンス」が必要であるという。つまり、まだアメリカの支配が
およんでいないあらゆる場所に、覇権を広げなければならないという意味だ。
右派シンクタンク『アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所』によると、
敵の情報をつかみしだい、「辺境の砦」から出撃して、「悪党たち」を撃ち殺す
「地球騎兵隊(機甲部隊)」の創設が狙いらしい。

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オーストラリア、ルーマニア、マリ、アルジェリア……
世界を取り巻いて連なる「蓮の葉」

新しく”発見”されたこの「不安定性の弧」内にあるすべての紛争地帯や危険地域
に近接して米軍部隊を展開するため、いわゆる「再配備」の名で、国防総省は多
数の基地新設計画を提起してきた。

その中には、少なくとも4ヵ所、多ければ6ヵ所の恒久的なイラク駐留米軍基
地も含まれる。バグダッド国際空港構内、ナシリア近郊のタリル空軍根拠地、
シリア国境に近い西部砂漠、北部クルド人地域のバシュル離着陸場など、イラ
ク国内ではすでにいくつかの基地が建設されつつある。(これには前述のキャ
ンプ・アナコンダは含まれず、現在は単に「作戦基地」と呼ばれているが、やが
て恒常的基地になることも十分考えられる)

これに加えて、アメリカは、クウェートの総面積1万7700平方キロメート
ルの中で4100平方キロメートルにおよぶ同国北部全域も支配下に置きつづ
けるつもりだ。この地域は現在、イラク駐留米軍の兵站・補給地として、また
グリーンゾーン(バグダッド市内の連合軍暫定統治当局所在地)の官僚たちがく
つろぐ保養地として使われている。

この他、コリン・パウエルが言う、アメリカの新しい「基地家族」に連なる国ぐ
には次のとおり――
●「新しい」ヨーロッパの貧困地帯では、ルーマニア、ポーランド、ブルガリ
ア。
●アジアでは、(すでに米軍基地が4ヵ所ある)パキスタン、インド、オースト
ラリア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、そして信じられないことに
ベトナムも。
●北アフリカでは、モロッコ、チュニジア、特にアルジェリア(この国では、
アメリカとフランスの支援を得た軍部が、選挙結果を覆すために政権を掌握し
た1992年以降、一般国民10万人が虐殺された)。
●西アフリカでは、セネガル、ガーナ、マリ、シエラレオネ(1991年以降、
内戦で分断されたまま)。

国防総省筋によれば、これら新しい軍事基地のモデルになるのは、バーレーン、
クウェート、カタール、オマーン、アラブ首長国連邦といったペルシャ湾を取
り巻く非民主的な独裁諸国に、アメリカが過去20年間をかけて構築した一連
の基地群である。

これら新設基地の大半は、軍にしては洒落た比喩で、「(水面に浮かぶ)蓮の葉」
となる。つまり、アメリカ本土の基地や米軍が駐留するNATO基地、あるい
はどちらも従順な衛星国家である日本と英国の基地から、完全武装の米軍部隊
が大挙して飛び移る足場というわけだ。

このような基地拡張策の費用を捻出するために、国防総省はドイツ、韓国、そ
れにおそらく沖縄にある冷戦期の広大な軍用地の多くを閉鎖する計画をほのめ
かしている。それも、ラムズフェルド国防長官が提唱する米軍「合理化」の一環
なのだ。

イラクでの勝利を受けて、アメリカはすでにサウジアラビアとトルコから事実
上すべての兵力を撤退させた。これは、戦争協力を惜しんだ両国に対する懲罰
の意味も込められている。

アメリカは、おそらく今日の世界で最も反米的な民主国である韓国に対しても
同様な措置をとりたいと考えており、北朝鮮と接する非武装地帯に配備した第
2歩兵師団の駐留任務を解いて、米軍兵力がもっとも手薄なイラクに移すこと
もありうるだろう。

ヨーロッパでは、ドイツ国内数ヵ所の基地返還がこうした計画の一環になって
いる。その理由も同じく、ゲアハルト・シュレーダー首相が、国民の絶大な支
持を背に受けて、ブッシュのイラク戦争に果敢に抵抗したことにある。

しかし現実的には、この計画は実行が難しいかもしれない。一番単純なレベル
で考えてみよう。ドイツ一国に7万1702名の米陸空軍兵が駐屯している。
彼ら兵士たちが、どれだけ多くの建造物を使っているのか? また、彼らの大
部分を、ヨーロッパで最も貧しい国のひとつであるルーマニアのような旧共産
主義国に移駐し、ドイツに既にあるものに少しでも匹敵する基地を建設し、お
まけに必要な社会基盤を整備するのに、合わせてどれほどの経費がかかるの
か? 答えは、ペンタゴンの政策立案者たちにも本当は把握できていないよう
だ。

ドイツのハーナウに駐留するアミー・エーマン中佐は報道陣に、ルーマニアに
も、ブルガリアにも、あるいはジブチににも、「これだけの人間を収容する場
所がない」と語り、最終的に米軍兵力の80パーセントはドイツに残留するこ
とになるだろうと予測する。最高司令部の将軍たちにしても、ルーマニアのコ
ンスタンツァのような僻地に住む気がないのは明らかで、シュトゥットガルト
の米軍司令部を大切に維持し、ラムシュタイン空軍基地、シュパンダーレム空
軍基地、グラーフェンヴォール訓練場も手放すまい。

国防総省が、ドイツや韓国のような裕福な民主主義諸国からの撤退を考慮し、
軍事独裁国と極貧の従属国に貪欲な眼差しを向けている理由のひとつに、後者
には、ペンタゴンが「寛大な環境規制」と呼ぶ利点があって、これを活用する狙
いがある。

国防総省は、米軍が駐留する国に、いわゆる『軍隊の地位に関する協定』の締
結を常に迫るが、これには、米軍が引き起こす環境破壊を修復または賠償する
責任を免除する条項が盛りこまれることが多い。沖縄では、環境をめぐるアメ
リカの実績は言語道断としか言いようがなく、かねてから県と住民の不満の種
になっている。

このような姿勢は、一般国民の生活を規制するルールには縛られたくないとい
うペンタゴンの欲求にも根ざしていて、「アメリカ本国」でも、こうした傲慢な
特権意識が目立つようになった。たとえば、4013億ドルの予算を盛り込ん
だ2004年度防衛権限法案が、2003年11月にブッシュ大統領の署名を
受けて成立したが、これには軍が『絶滅危惧種(保護)法』および『海棲哺乳類
保護法』の順守義務を免除されると定められている。

第三世界に際限なく蓮の葉を増殖させたいという衝動に歯止めがかかるとは思
えない一方で、拡張にしろ縮少にしろ、国防総省の壮大な計画の中には、実現
が疑わしいものもある。たとえ実現したとしても、テロの問題を現状以上に悪
化させる恐れも否定できない。

ひとつには、ロシアが、自国の国境に迫るアメリカの軍事力の拡大に反発して
いて、すでに米軍基地からの出撃をグルジア、キルギスタン、ウズベキスタン
の領域内に封じ込めようとする動きに出ている。つい先頃、ソ連崩壊後初めて
のロシア空軍基地がキルギスタン領内に完成したばかりであるが、これはビシ
ケクの米軍基地からわずかに60キロメートルしか離れていない。ウズベキス
タンには、米軍基地がすでにあるにもかかわらず、2003年12月、同国の
独裁者イズラム・カリモフが米軍駐留の恒久化は認めないと宣言した。

逆に規模縮少の話になると、国内政治が絡んでくる。国防総省の基地再編閉鎖
委員会は、法定期限の2005年9月8日までに5回目であり最終の諮問案と
して、閉鎖すべき国内基地の候補リストを大統領に提出しなければならない。
ラムズフェルド国防長官は、効率化政策に立って、国内にある陸軍基地の少な
くとも3分の1、空軍基地の4分の1を廃止したいと発言したが、これは間違
いなく連邦議会に大論争を巻き起こすだろう。

上院・軍事建設歳出小委員会のうるさがた女性二人組、ケイ・ベイリー・ハチ
ソン(テキサス州選出・共和党)、ダイアン・ファインスタイン両委員は、それ
ぞれが代表する州にある基地を守るために、ペンタゴンに対し、まず海外基地
を閉鎖して、駐留部隊を本国に呼び戻したうえ、国内基地は存続を図るべきだ
と要求している。

ハチソン、ファインスタイン両委員は、現在不要になっている海外基地を審
査・報告する独立委員会の設置予算を、2004年度軍歳出法に盛り込んだ。
ブッシュ政権はこの条項に反対だったが、結局、そのまま採択され、大統領署
名を得て、2003年11月に発効した。老獪なペンタゴンは、おそらく委員
会を骨抜きにするだろうが、国内基地閉鎖騒動の嵐は確実に迫っている。

いずれにせよ、「地球騎兵隊(機甲師団)」戦略の最大の欠点は、的外れな軍事攻
撃でテロ攻撃に応えようとするワシントンの衝動的な姿勢を浮き彫りにしてし
まうことである。

英国の著名な軍事史家コレリ・バーネットが卓見しているように、アフガニス
タンとイラクへの米国の攻撃は、アルカイダの脅威を大きくしたにすぎない。
1993年から2001年9・11攻撃までの、アルカイダによる主な攻撃は
世界全体で5件だった。ところがその後の2年間で、イスタンブールの英国総
領事館と香港上海銀行支店に対する自爆攻撃を含め、同じような爆弾攻撃は1
7件にのぼった。

テロに対する軍事行動は解決にならない。バーネットは言う――「玄関を蹴破
り、『自由と民主主義』ブランドのインチキ万能薬をひっさげて、古代から続
く複雑な社会に押し入るのではなく、相手国の人びとと文化を深く理解しなが
ら、深慮遠謀をめぐらした駆け引きを行うことが必要だ。ワシントン中枢の政
策立案者たち、とりわけペンタゴンの幹部には、これまでこうした理解が欠け
ていた」

ラムズフェルド国防長官が、イラク情勢に関する2003年10月16日付け
の悪評高い「長く苦しい骨折り仕事」メモに、「今のところ、われわれには、自
分たちが対テロ世界戦争に勝利しているのか敗北しているのかを測る術がな
い」と記した。コレリ・バーネットは、別の「測る」方法があることを示唆して
いる。
(訳注: USAツゥデイ紙のスクープ記事で、国防長官が省内高官4名に宛て
たと伝えられる部内検討メモ。「連合国はアフガニスタンやイラクに一定の範
囲で勝利しうることは明らかだろう。だがそれは長く苦しい骨折り仕事になる
だろう」と書かれている。和訳全文と詳報:
http://www.asyura2.com/0311/war41/msg/833.html )

だが、結論を言えば、「対テロ戦争」も、アメリカの軍事戦略という大仕掛けの
小さな弾み車にすぎない。赤道を一周して、本稿で論じたような新しい米軍基
地の環を構築しようとする本当の理由は、アメリカの帝国版図の拡張、ならび
に世界におけるアメリカの軍事的覇権の強化である。

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[チャルマーズ・ジョンソン著作(帝国シリーズ)]
○新刊『帝国の悲哀―軍国主義、秘密主義、共和制の終焉』(仮題・未邦訳)
“The Sorrows of Empire: Militarism, Secrecy, and the End of the
Republic,” Metropolitan Books, Jan.,2004
○既刊『アメリカ帝国への報復』(鈴木主税訳・集英社刊 2000年6月第1刷)
“Blowback: The Costs and Consequences of American Empire”
原書は、新しい序文を加えて改訂されたばかりである。
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[原文]
Tomgram: Chalmers Johnson on garrisoning the planet
America’s Empire of Bases, posted January 15, 2004 at TomDispatch
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=1181
Copyright C2004 Chalmers Johnson 著作権者によりTUP配信許諾済み
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翻訳: 井上 利男 監修: 星川 淳 + チーム / TUP