TUP BULLETIN

TUP速報995号 反逆者の集い――スノウデンに会いに行く(4)

投稿日 2016年2月15日

反逆者の集い


「スパナを放り込んで戦争マシンを止めることができる人は限られている。素手よりもわずかに多くを持つなら、君には特別な役割があるはずだ」

反戦の歴史家、故ハワード・ジンは常々「小さな反逆」を人々に説いていた。そして反逆する多くの人々とつながる喜びについても頻繁に語った。そんな時、ジンはいつもいたずらっ子のような笑い顔だった。

素手よりもわずかに多くを持つ反逆者、ダニエル・エルズバーグ、ジュリアン・アサンジ、エドワード・スノウデン。そして無名の内部告発者たちがジンの系譜を踏み、今、新しい歴史を綴っている。

彼ら内部告発者の支援団体「報道の自由基金https://freedom.press)」の理事の一人であるジョン・キューザックは、ロシアに亡命し ているスノウデンをエルズバーグと共に訪れるというアイデアを思いついた時、ふと、もう一人の反逆者を誘うことにした。子供のような好奇心で本質に切り込 むアルンダティ・ロイだ。

エルズバーグ、キューザック、ロイ、スノウデン、アサンジ。笑いと涙が交錯するこの反逆者の集いの記録を読みながら、ジンのあの嬉しそうな顔が脳裏をかすめた。

キューザックによる記録を4回のシリーズで配信します。

(前書き:宮前ゆかり、翻訳:宮前ゆかり/TUP)

スノウデンに会いにいく — 4

<何を愛したらいいのでしょう?>

人類は戦争なしには生きていけないようだけれど、愛なしにも生きていけない。

アルンダティ・ロイ

2015年11月16日


モスクワでの非・首脳会議は公式のインタビューではなかった。スパイ小説のような地下の密会でもなかった。嬉しい結論は、わたしたちが会った人物は用心深く如才ない、無難なエドワード・スノウデンではなかったことだ。その反面残念なのは、ルーム番号1001の中で展開した冗談、ユーモア、当意即妙な会話を再現できないという点である。この非・首脳会議は、書くにふさわしい詳細について書く事ができない。それでも、当然それについて書かないわけにはいかない。なぜかというと、起きたことだから。それに、世界は何百万もある本物の対話へとにじりよっていくヤスデだから。そしてこの対話は確かに本物だった。

何が語られたかよりも多分もっと大切なのは、あの部屋の中の気迫だった。そこには、彼自身の言葉によれば「迷わずブッシュを称賛し」9/11の後にイラク戦争に志願したエドワード・スノウデンがいた。そして、9/11の後に迷わず正反対の行動をしていたわたしたちがいた。もちろん、これはやや手遅れの会話だった。イラクはすでに破壊されてしまっている。見下すかのように「中東」と 呼ばれている場所の地図は、今や(またもや)容赦なく描き変えられている。しかしそれでも、わたしたちはこうして皆でロシアのとある風変わりなホテルに集まって話し合っていた。

確かにそこは風変わりな場所だった。モスクワのリッツカールトンの華やかなロビーは、 成金で気分上々に酔っぱらった富豪たち、そしてご機嫌取りの男たちの腕にしなだれかかる半分田舎娘で半分スーパーモデルの女たち、 名声と富を求めて走るガゼルに渡し船を用意する好色なサテュロスを相手に渡し銭を払う煌びやかで気取った若い女たちで溢れかえっていた。廊下では、殴り合いの喧嘩や大声の歌、そして、部屋から部屋へと食べ物や食器を山積みにしたカートを運んでいく、お揃いの制服の寡黙なウェイターたちとすれ違った。私たちの1001号室は、窓から手を延ばせば触われそうなほどクレムリンに近かった。外は雪が降っていた。私たちはロシアの深い冬————第二次世界大戦で果たしたその役割の重大さが認識されることのなかったその冬のただ中にいた。

エドワード・スノウデンは、わたしが想像していたよりずっと小柄だった。小柄で、しなやかで、きちんとしていて、飼い猫のよう。エド[*]は有頂天になってダン[*]を歓迎し、わたしたちを温かく迎え入れてくれた。

[*]エドはエドワードの通称、ダンはダニエルの通称。ファーストネーム、
さらに通称で呼び合うことで親愛関係を表明する。

「君がなぜここにいるか、知ってるよ」エドは笑いながら言った。
「なぜ?」
「僕を急進化させるためだよ」

笑ってしまった。わたしたちはいろいろ座れる場所、腰掛け、椅子、ジョンのベッドなどに腰を下ろした。ダンとエドがあまりにも嬉しそうに顔を会わせ、話すことがたくさんあるようだったので、彼らに割って入るのは少し失礼なように感じた。時々二人は門外漢には分からない暗号の言葉を急に使いだすこともあった。「僕は路上の無名の人間からすぐにTSSCIに飛んだんですよ」「いいえ、なぜかというと、これもまた全くDSじゃない、NSAですからね。CIAではCOMOと呼ばれている」「...似たような役目だけど、サポートの下ですか?」「PRISEC または PRIVACですか?」「彼らはTALENT KEYHOLEなるものから始めるんです。その後で、全員がTS、SI、TK そして GAMMA—G クリアランスへと進むのですが...誰もそれが何なのか知りません...」

二人の邪魔をしてもよいと感じるまでには、しばらく時間がかかった。アメリカの国旗を両手で抱いた写真を撮られていることについて質問すると、スノウデンは目を上に向けあきれ顔で拍子抜けする返事をした。「そんなこと、分からない。誰かが国旗を僕に手渡して、写真を撮ったんだよ」。次に、世界中の何百万人という人びとが反対デモをしていた時に、なぜイラク戦争のために志願したのかと訊くと、彼の返事は同じように拍子抜けするものだった。「プロパガンダに引っかかったんだ。」

しばらくの間ダンは、ペンタゴンやNSAに参加した米国市民で米国の例外主義や米国の戦争の歴史に関する文献を読んだことがある人がどれほど稀であるか(そして、一旦参入してしまうと、その分野に興味を持つ人はほとんどいない)ということについて話をした。ダンもエドも、それをリアルタイムで目の当たりにし、その事実にあまりにも身の毛がよだち、内部告発者になることを決めた時には、自分たちの命と自由を犠牲にするほどの覚悟を固めたのだった 。この二人の明らかな共通点は、善悪に関する 、およそ肉体的とさえ言えるような倫理的正義感だった。その正義感は、倫理的に許しがたいと感じたことに対して二人が内部告発を決めた時だけではなく、ダンは母国を共産主義から守るために、エドは母国をイスラム主義テロリズムから守るために、それぞれの任務を志願した時に二人を突き動かしていたものだ。この二人が幻滅を感じた時にとった行動があまりにも衝撃的で、並外れて劇的だったため、彼らはその倫理的勇気による単一の行動によって認識されることになった。

わたしはエド・スノウデンに、多くの国を破壊する米国政府の力と、(巨大な監視にも関わらず)戦争に勝つことができない無能について質問した。この質問はかなり無礼な言い方だったと思う。「米国が最後に戦争に勝ったのはいつでしたか」というような感じだ。わたしたちは、経済的制裁とその後のイラク侵攻は正確には組織的大量虐殺と呼ぶことができるかどうかについて話した。世界が単に国家間の戦争ではなく、集団監視で国民を管理する必要がある国内戦争の場面に移行していることを、どれほどCIAが知っており————そして実際にその準備をしているか————ということについても話し合った。そして、侵略し占領している国々を支配するために軍隊を警察勢力に変えていること、インドやパキスタンや米国ミズーリー州ファーガソンのような場所で、国内の反政府暴動を鎮圧するために警察が軍隊のような行動をとるように訓練されていることなどについても話し合った。

わたしたちは戦争と欲望について、テロリズムとその正しい定義について語り合った。国家、国旗、そして愛国心の意味について語り合った。

「夢遊病のように無自覚に完全な監視国家を成立させる」ということについて、エドは時間をかけて話をした。エドの言葉を引用しよう。なぜなら以前から彼はしばしばこの話をしているからだ。「僕たちが何もしなければ、夢遊病者のように完全な監視国家を無自覚に成り立たせるようなことになる。そのような国は、無制限の力を使って(監視対象の人びとについて)知ることができ、同時に権力を無制限に行使する能力をも備える超国家であり、非常に危険な組み合わせです。それが暗黒の未来です。彼らがわたしたちについてあらゆることを知っていて、わたしたちは彼らのことをまったく知らないということ——なぜなら彼らは秘密であり、特権を持ち、エリート階級、政治的階級、資源を持つ階級という切り離された階級だから——わたしたちは彼らがどこに住んでいるのかを知らない、何をしているのも知らない、彼らの友達が誰なのかも知りません。彼らはわたしたちに関するあらゆることを知る力を持っています。これが未来の方向ですが、これを変える可能性があると僕は思います...」

NSAはエドの暴露行為に苛立っているふりをしているだけで、実際には全知全能の組織として知られることを密かに喜んでいるかもしれないのではないか、————というのも、人びとを恐怖に陥れ、バランスを失わせ、いつもビクビクさせ、管理しやすいようにしておくのに都合がよいのではないか、とエドに訊いてみた。

ダンは、米国内でさえ、もう一度911事件があればすぐに警察国家になりうるということについて語った。「わたしたちはまだ警察国家の中にいるわけではありません、まだです。わたしは何が起こりうるか、ということについて話しています。そういう言い方をしてはならない、ということに[今]気がつきました...わたしのように、白人で、中産階級で、教育を受けた人びとは、警察国家の中で生きていません...黒人、貧しい人たちは警察国家の中で生きています。弾圧の対象となるのは、白人ではない人びと、中東出身の人びとや彼らに味方をする人なら誰もが含まれ、そこから広がっていきます...[今は]警察国家ではありません。もう一度911が起きれば、何十万人もの人びとの身柄拘束がきっと起きるだろうと思います。

中東の人びとやモスレムの人びとが収容所に入れられたり、強制送還されたりするでしょう。911事件の後、 何千人もの人びとが罪状もなく逮捕されました...でも、わたしは将来のことを話しています。第二次世界大戦で日本人に起きたレベルのことを話しているんです...収容所に入れられたり強制送還されたりした何十万人もの人びとのことです。それには監視が大きな意味を持っていると思います。誰を拘禁するべきなのか、分かっています————データはすでに集められています」。(エルスバーグがこう言った時、わたしは質問をしなかったけれど、心に疑問が浮かんだ————もしスノウデンが白人でなかったら、物事はどれほど違っただろうか、と)

わたしたちは戦争や欲望について、テロリズムについて、そしてその正しい定義とは何かについて話し合った。国家について、国旗について、そして愛国心の意味について話し合った。公共の意見について、公共の倫理という概念について、そしてそれがいかに移ろいやすいものであるか、どれほど簡単に操られてしまうかについて話し合った。

それは質疑応答のような会話ではなかった。わたしたちは調和に欠けた集まりだった。そう、わたしと厄介な三人のアメリカ人たち。このとんでもない企画を丸ごと思いついてまとめたジョン・キューザックもまた、どんなに美しく飾られているものであれ戯言には騙されない音楽家、著者、俳優、スポーツ選手という素晴らしい伝統の出身だ。

エドワード・スノウデンはどうなってしまうのだろうか。いつか彼は米国に戻ることができるだろうか。その可能性はあまりなさそうだ。米国政府は————その隠された深層国家機構も二大政党も————スノウデンを、国家安全の秩序に膨大な損害をもたらした張本人と見なして懲らしめたいと思っている。(国家権力はチェルシー・マニングやその他の内部告発者を思い通りの場所に閉じ込めている。)スノウデンを殺したり投獄したりできない場合には、権力のあらゆる手段を使って、スノウデンが起こした、そして今も起こし続けている損害を阻止しなければならない。その手段のひとつは、内部告発に関する議論を封じ込め、吸収し、都合のよい方向に導こうとすることだ。そして、ある程度、それに成功している。西欧の体制側報道機関で起きている公共の安全対大量監視という議論での愛の対象はアメリカだ。アメリカとその数々の行動だ。それらは道徳的か不道徳か。正しいか、正しくないか。内部告発者はアメリカの愛国者かアメリカの裏切り者か。この道徳という名の、この狭い枠組みの定式の中で、米国の戦争の犠牲者も含めて、他の国々、他の文化、他の会話は、公式の裁判の単なる証人としてのみ現れるのが通常だ。そして、それは当局の乱行の火に油を注ぐか、弁護側の憤りをいや増すかのどちらかだ。このような条件で行われる裁判は、穏便で道徳的な超大国が存在しうるという考え方を補強する。わたしたちはそれを目の当たりにしているのではないか?超大国の心痛?その罪?その自己修正機能?その権力監視を担うメディア?普通の(罪のない)アメリカ市民が自分たちの政府によるスパイの対象となることを支持しない活動家たち?果敢で知的に見えるこれらの議論には、「公共の」とか「安全保障」とか「テロリズム」といったような言葉が飛び交っているけれど、それらはいつも通りに、定義も曖昧のままだし、米国という国家が望むような形で使われていることのほうが多い。

バラク・オバマが二〇人もの名前が載った「暗殺リスト」を承認したことはショックですか?あるいは、ショックでしたか?

米国の今までの戦争で殺された何百万人にもおよぶ人びとは、「暗殺リスト」でなければ、一体どんなリストに載っているのでしょうか?

スノウデンは亡命中でもあり、こういったことすべてにおいて戦略的かつ戦術的であり続ける必要がある。スノウデンは、彼によって裏切られたと感じている米国の制度そのものによって行われる自分の裁判の条件や恩赦の条件を交渉し、しかも、「偉大なる人道主義者」であるウラジーミル・プーチンを相手にロシアでの在住条件を交渉するという不可能な立場に置かれている。こうして、超大国のために、真実を語る者は、自分が得た注目をどのように使い、公に何を言うかについて、今や極度に注意しなければならない立場に置かれている。

それでも、言えないことを置いておいたとしても、内部告発に関する会話はスリルに満ちていて————本物の政治的な話題————せわしなく、重要で、専門的な法律用語に満ちている。スパイもいればスパイ狩りもいる、突拍子もない企てもあれば、秘密や秘密の暴露者もいる。それは大変大人で、惹き込まれる独自の世界だ。しかし、それがより広範で、より急進的な政治的思考の代用になってしまうのであれば、そして時にはそのようになってしまいそうになるものだが、そうなるとイエズス会の神父、詩人、戦争抵抗者ダニエル・ベリガン(ダニエル・エルスバーグと同時代の人物)が「すべての国民国家は帝国的なものに向かう傾向がある—それが問題なのだ」と言った時にベリガンが望んでいたような会話が、なんとなく都合の悪いものになってしまう。

わたしは、スノウデンがツイッターに初登場した(そして、0.5秒内に五十万人ものフォロワーを記録した)時に、「以前、僕は政府の仕事をしていた。今は一般市民のために仕事をしています」と言ったのを見て嬉しかった。この一文の前提にあるのは、政府は一般市民のために仕事をしない、という考え方だ。それは不穏で都合の悪い会話の始まりだった。「政府」とは、勿論、スノウデンは米国政府、彼の元の雇用主を意味していた。しかし、彼がいうところの「一般市民」とは誰のことだろうか?米国の一般市民だろうか?米国一般市民のうちのどの層だろう?スノウデンは、進みながらそれを決めなくてはならないだろう。民主制では、選挙で選ばれた政府と「一般市民」との間の境界線は決してそう明らかではない。エリート階級は普通、政府とほとんど見分けがつかないほど溶け込んでいる。国際的な視点から見ると、「米国の一般市民」というものが本当にあるのならば、それはまったくのところ非常に特権的な地位を占める一般市民だ。わたしが知っている唯一の「一般市民」とは、気が狂いそうなほどに面倒な迷宮だ。

不思議なことに、モスクワのリッツでの会合のことを思い出す時、先ず心に浮かんでくる記憶はダニエル・エルスバーグの姿だ。何時間にもわたる会話の後で、ジョンのベッドに仰向けになり、キリストのように両手を広げたまま、自国の「最良の人びと」が牢獄に入れられるか亡命しなければならないような国に米国がなってしまったことに涙を流すダンの姿。わたしはダンの涙に心を動かされたのと同時に心が乱れた————なぜかというと、その涙はマシンを間近に見てきた男の涙だったからだ。この冷徹なマシンを動かし、地上の命を抹殺するという考えを冷徹に検討した人間たちとファーストネームで呼び合っていた男。すべてを賭して彼らを内部告発した男。ダンは、賛成も反対も、あらゆる議論を知っている。ダンは頻繁に帝国主義という言葉を使って米国の歴史と外交政策を説明している。ペンタゴンペーパーを公にしてから40年経った今、当時特定された人びとはもはや去ったとは言え、マシンは今も動き続けていることを、ダンは知っているのだ。

ダニエル・エルスバーグの涙を見ることで、愛について、損失について、夢について、そして 何よりも失敗について、考えさせられた。

わたしたちが国に対して抱くこの愛とは、いったいどういう愛なのだろう?わたしたちの夢に応えることができるような国とはいったいどういう国なんだろう?壊された夢というのはいったいどのような夢だったのだろう?偉大なる国のその偉大さとは、冷酷で大量虐殺的な能力と直接比例するような関係があるのではないか?国の「成功」の度合いが高ければ、それは通常その国の道徳的な破綻の深さを示しているのではないのか?

そして、わたしたちの破綻はどうだろう?物書き、アーチスト、急進主義者、反国家主義者、無党派、反体制派————わたしたちの想像力の失敗はどうだろう?国旗や国家という概念をもっと破滅的ではない愛情の対象で置き換えることができなかったわたしたちの失策はどうなんだろう?人類は戦争なしには生きることができないようだけれど、同時に愛なしにも生きていけない。だから問いはこうだ。わたしたちは何を愛していくべきか。

これを書いている今、避難民がヨーロッパに押し寄せている————何十年にもわたる米国とヨーロッパ諸国の「中東」外交政策の結果として考えさせられることがある。避難民とは誰だろう。エドワード・スノウデンは避難民だろうか?確かに、そうだ。彼がやったことのために、彼は自分の国だと考えている場所に戻ることができない(でも、彼が最も居心地のよい場所、インターネットの中で生き続けることが可能ではあるけれど)。アフガニスタン、イラク、シリアの戦争を逃れてヨーロッパに流れている避難民は、ライフスタイル戦争の避難民だ。しかし、同じライフスタイル戦争によって投獄され殺されているインドのような国にいる何千人もの人びと、土地や農場を追われ、————自分たちを形作った言語、歴史、風景など————知っていることすべてから追放された何百万人もの人びとは、避難民ではない。無理に押し付けられた「自国」の境界線の中に苦難が閉じ込められている限り、そういった人びとが「避難民」として扱われることはない。しかし、彼らは避難民だ。そして確かに、数から言っても、こういった人びとは現在の世界で大多数を占めている。残念ながら、国と国境の網の目から抜け出せない想像力の中、国旗に収縮包装された思考力の中では、そういった人びとはその基準を満たすことができない。

多分、ライフスタイル戦争の最も有名な避難民は、ウィキリークスの創立者で編集主幹であり、現在ロンドンのエクアドル大使館の一室で逃亡者・賓客として四年目を迎えるジュリアン・アサンジだ。英国の警察が正面玄関のすぐ外の狭い戸口に駐在している。屋根の上には狙撃者がおり、法律上は国際的国境となっているその入り口からアサンジがつま先を出そうものなら、彼を逮捕し、射撃し、引きずり出すように命令を受けている。エクアドルの大使館は世界で最も有名なデパート、ハロッズから道を隔てた向かい側にある。わたしたちがジュリアンに会った日、クリスマスの買い物客が大挙して何百人、いや、多分何千人とハロッズに吸い込まれては吐き出されていた。その粋なロンドンの目抜き通りのど真ん中で、豪華で不謹慎な臭いと、監禁と言論の自由を怖れる自由社会の恐怖心の臭いがばったり出くわした。(両者は握手をし、決して友達にはならないと約束した。)

わたしたちがジュリアンに会った日(実際には夜だった)、電話やカメラやその他の記録用機器を部屋に持ち込むことを警備が許さなかった。だからその会話も記録には残っていない。

創設者・編集者が不利な状況に追い込まれているにも関わらず、ウィキリークスはその事業を涼しい顔で何事もなかったかのように継続している。ごく最近では、大企業の収益に悪い影響をもたらすようなことをする独立国家の政府を告訴する権限を多国籍企業に与えることを目的とする、ヨーロッパと米国との間の自由貿易協定、環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に関し「決定的な証拠となる」文書を提供できる者に対し 10万ドルの賞金を提供している。この協定では、労働者の最低賃金を上げたり鉱山会社の作業を妨げたりする「テロリスト」の村人を厳しく取り締まっていないように見える政府、またはモンサントが用意する企業特許遺伝子組み換えの種を退けるような厚かましい政府の行動が、犯罪的な行動とされている。TTIPは、ライフスタイル戦争で使われ、どこまでも押し入ってくる監視や劣化ウランなどの武器のひとつにすぎない。

ジュリアン・アサンジは、900日もの間5分たりとも皮膚に日光を浴びず、青白く疲れ果て、それでも敵が望むような形では消えたり降参したりすることを未だに拒んでいる。そんなジュリアン・アサンジがテーブルの向こうに座っているのを見ながら、誰もアサンジのことをオーストラリアの英雄だとか、オーストラリアの裏切り者だとは考えていないと思い当たり、わたしは微笑んでしまった。アサンジの敵にとって、アサンジは一国以上のことを裏切っているのだ。アサンジは、支配権力という観念そのものを裏切ったのである。このため、権力はエドワード・スノウデンよりももっとアサンジを憎んでいる。これは多くを物語っている。

種としての人類は底なし地獄の淵に佇んでいる、とよく言われる。人類の思い上がった、高慢な知性は、生存に対する本能を凌駕してしまい、安全に戻る道はすでに押し流されてしまったのかもしれない。その場合は、すべきことは何もない。もしも、何かすべきことがあるのであれば、一つだけ確かなことがある。この問題を作り出した人びとは、解決策を考え出す人びとではない、ということだ。わたしたちのメールを暗号化することは役に立つだろうけれど、それほどたいしたことはない。愛とは何か、幸せとは何か、 ————そう、国とは何か————、そういったわたしたちの理解をもう一度改めてみることは、何らかの役に立つかもしれない。わたしたちの優先順位を考え直してみることは役に立つかもしれない。原始林、山並みや渓谷は、史上のどんな国よりもずっと重要で、間違いなくずっと愛おしい。わたしは渓谷のために涙を流すことができるし、涙を流したことがある。でも国のために?そんなこと、どうだろうか...


原文:

EXCLUSIVE: MEETING ED SNOWDEN [IV]
What Shall We Love?
Human beings seem unable to live without war, but they are also unable to live without love.

著者: ARUNDHATI ROY
URI: http://www.outlookindia.com/article/what-shall-we-love/295799