TUP BULLETIN

速報279号 鎖を解かれた日本の軍用ペット犬 04年4月1日

投稿日 2004年4月1日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年4月1日(木) 午後5時19分

◎日本国民への直言
『鎖を解かれた日本の軍用ペット犬』
――チャルマーズ・ジョンソン
初出: ロサンジェルス・タイムズ紙  2004年2月18日

かつて日本が戦後の貧困と放心状態を脱し、経済成長への道を歩みはじめたころ、ロストー、ライシャワーなど米国の知日派論客たちは日本を経済と民主主義の優等生と誉めそやし、当時の日本の為政者たちと国民の自尊心をくすぐり、いよいよ“大国"への道に邁進する決意を固めさせました。

その道の延長線上に、現在の日米軍事同盟関係、そしてブッシュ大統領と小泉首相の盟友関係があると言っても間違いないでしょう。今、日本国民(と政治家たち)に必要なのは、ワシントンからのお褒めの言葉ではなく、ジョン・ダワー、ティム・ショーラック、ガバン・マコーマック、チャルマーズ・ジョンソンなど、硬派ジャパン・ウォッチャーたちの耳に痛い直言なのではないでしょうか?  TUP 井上 利男

◎日本国民への直言
『鎖を解かれた日本の軍用ペット犬』

――チャルマーズ・ジョンソン
初出: ロサンジェルス・タイムズ紙 2004年2月18日

2月初め、日本軍のイラク派兵が決議されたが、これによって多くの国民が、日本は1952年に主権を回復したはずなのに、実際には、国としての主権が大幅に制限されたままであり、アメリカが手放さない支配権がいかに大きいかを改めて思い知ることになった。

ブッシュ大統領のプードル犬が英国のトニー・ブレア首相であるなら、小泉純一郎首相はいわばブッシュのコッカースパニエルである。

元文部官僚であり、現在は大学総長を務めているわたしの知人が「わが国は、いまだに米軍に占領されているのです」と語った。「日本は衛星国家なのです。わが国の外交政策はひたすらワシントンの意向を中心に動いているのです」

第2次世界大戦後初めて、日本の軍隊が戦闘が頻発する戦地への“出撃”を命令されることになったのは、小泉があまりにも力不足であり、ブッシュ大統領に逆らうわけにはいかないからだと、この知人は信じているが、同じ考えの日本国民は多い。

先日のNHK世論調査によれば、国民の51パーセントが、イラクに対する米国政府主導の戦争に日本が巻き込まれることに反対であり、小泉の決断に賛成する声は42パーセントである。さらに重大なことに、調査対象者の82パーセントが、混迷するイラクへの派兵についての首相の説明を信用しないと答えている。大多数の人たちが、小泉はブッシュに従うしかなく、さもなくば米国との同盟関係が損なわれる恐れがあると信じている。

米国にとって日本が取るに足らない存在であることは疑問の余地がない。第2次世界大戦後の日本の米軍主導による民主化が、いかに上首尾に達成されたかをブッシュ政権は得意げに吹聴し、イラクでも同じような成功を収めるだろうと好んで口にする。だが、日本の県である沖縄を国防総省の直轄植民地として1972年まで保持していたこと、それに今でもこの小さな島に38もの軍事基地を保有していることは黙して語らない。

沖縄は日本国民130万人の生活の場であり、1945年以来、県民たちは米兵による凶悪犯罪の被害を何度も耐え忍ばなければならなかった。日常的には、米本国でも、日本本土でも、とうてい許されないはずの環境汚染、“爆音”被害、轢き逃げ、そして酒場での乱闘騒ぎと醜態に絶えず苦しめられている。

米国が定める軌道に日本を繋ぎとめる役目を担っているワシントン官僚は、リチャード・アーミテージ国務副長官である。日本の報道に、アーミテージの名は他の米政府要人よりも頻繁に登場する。1991年のイラク相手の戦争では、米国に対する日本の軍事的貢献がなかったではないか、今度は「バスに乗り遅れるなよ」と、1年以上も前から、アーミテージは小泉を責めたててきた。(湾岸戦争では、日本は130億ドルもの軍資金を大盤ぶるまいしたのだが、アーミテージは都合よく忘れているようだ)

小泉みずからが、自衛隊をイラクに派兵すれば、おそらく日本国憲法第9条を侵害することになると認識しながら、昨年9月、首相再選を果たすと、強行採決という手段を用いて派遣を承認する国会決議を勝ち取った。

戦後の日本国憲法の要(かなめ)である第9条は、国による「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。小泉は、この禁止条項の裏をかくために、将来において憲法“改正”に努めると表明し、日本軍がイラクへ行っても、“人道復興活動”に従事するだけであると主張している。

だが、これは軍事・政治両面ともに危険を伴わない作戦であるとはとても言えない。日本国内には、憲法改定も果たさないうちに海外派兵をすれば、日本は法治原則を信じていないと世界に示すことになるという批判がある。小泉の与党である自民党の二人の元幹事長・加藤鉱一と古賀誠、それに元政審会長・亀井静香は、派兵承認決議案の採決投票を棄権した。

2月8日、派遣予定の日本兵約1000名のうちの第1陣がバグダッド南方約270㎞に位置するサマワに到着した。その4日後には、部隊は迫撃砲攻撃に直面した。米国主導の連合軍に参加したことで、自衛隊はアルカイダの脅迫を受けており、このテロ組織がトルコに対して同じような警告を発した後で、イスタンブールが被害甚大な打撃をこうむったことを考えれば、日本は軍人と民間人の人的被害を覚悟しなければならない。

おそらく日本人にとってさらに深刻なのは、1991年と2003年の2回にわたる戦闘で、米軍がサマワで実戦使用した劣化ウラン弾だろう。日本人ジャーナリスト豊田護[*]が持参のガイガー計数管で測定すると、街での放射線レベルは平常値の300倍に達していた。やはりサマワに駐屯しているオランダ軍部隊は、地域内に散在する[破壊された兵器などの]残骸を除去するどころか、近寄ることさえも拒否している。ヒロシマ・ナガサキを経験した日本国民すべてにとって、放射線疾患による死亡と傷病は格別な恐怖の対象である。[*独立系メディア『週刊MDS新聞』特派記者。該当記事『占領拒むイラク民衆―サマワの人々むしばむウラン兵器汚染/400倍の放射線量を検出』http://www.mdsweb.jp/doc/823/0823_08a.html ]

英国政府とオーストラリア政府は、ドイツやフランスのように中立の立場に立つこともできたのに、国民の声を無視して、ブッシュの“力こそ正義”式火遊びの渦中に跳びこんだ。日本が同じ道に進み、戦争放棄の憲法を永久に損なうとしたら、あまりにも残念なことだ。

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[筆者] チャルマーズ・ジョンソンはカリフォルニア州バークレーの『日本政
策研究所』代表。 http://www.jpri.org/
○新刊『帝国の悲哀―軍国主義、秘密主義、共和制の終焉』(仮題・未邦訳)
“The Sorrows of Empire: Militarism, Secrecy, and the End of the
Republic,” Metropolitan Books, Jan.,2004
○既刊『アメリカ帝国への報復』(鈴木主税訳・集英社刊 2000年6月第1刷)
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[原文] Published on February 18, 2004 by the Los Angeles Times
Tokyo Lets Loose Lapdogs of War by Chalmers Johnson
http://www.commondreams.org/views04/0218-08.htm
Copyright 2004 Los Angeles Times 筆者によりTUP配信許諾済み
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翻訳 井上 利男 /監修 星川 淳 /協力 TUPスタッフ