TUP BULLETIN

TUP速報1002号 英国EU離脱とトランプの次に起こることは? 歴史の教訓から考える

投稿日 2016年12月20日
◎排外主義とポピュリズムの行き着く先を歴史的視点で考えると?
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2016年は、イギリスそして米国で、政治的に激動の年になりました。いずれも、世論調査の予想を裏切る衝撃的な投票結果が出て、今後の政治が今までと大きく異なる方向、おそらくは内外の大多数の市民にとって歓迎せざる方向に、動いていくことになると懸念されます。

まず、英国では、6月に欧州連合(EU)からの脱退を問う国民投票が実施され、僅差ながら欧州離脱派が勝利を収めました。その結果、12月現在、欧州離脱(Britainとexitをかけて、Brexit(ブレキジット)と呼ばれる)に向けて、英国は舵を切り始めています。

一方、米国では、現オバマ大統領の任期満了に伴い11月に実施された大統領選にて、これも僅差ながら共和党のトランプ大統領の誕生が決まりました。トランプ氏は、選挙戦当初から、排外主義を前面に出し、人種、性別、宗教に基づく露骨な差別発言を行って、物議を醸してきました。大統領選の結果が出た直後、ドイツのメルケル首相やスコットランドのスタージョン第一閣僚らが、トランプ次期大統領に対して、人種差別は決して許容できない、と釘を刺す声明を発表しました。就任前の米国大統領に対する他の先進国の首脳の発言としては極めて異例のことです。世界市民の懸案を代弁したと言ってもよいでしょう。

英国の欧州離脱が決まって間もない頃、英国の歴史家のトビアス・ストーンが、人類の歴史的な視点から英米の現在の世情を考察し、今後どういうことが起こり得るかまとめた論説を発表しました。トランプ氏はすでに共和党の正式な大統領選候補に確定していて、過激な発言にもかかわらず(過激な発言だからかも知れませんが)、アメリカ市民の支持を拡大していて、すでに世界の注目を集めていた時期です。当時、同論説は英国のSNS(ソーシャルメディア)上で、特に英国のEU離脱を憂える人々の間で、それなりに広く回覧されたものでした。その後、11月の米国大統領選の衝撃の結果が出てトランプ氏の次期大統領が確定したのを受けて、同氏の論説がまたSNS上で脚光を浴びることになりました。

英国のEU残留・離脱の議論の中で、離脱派の傾向を表す概念の一つが反知性主義です。トランプ支持派にも共通します。もし論理的に考えて予測するならば、離脱派市民の大半は、実際にEU離脱した時に直接間接に被害を被ることはほぼ明らかでした。政治経済の専門家もほぼ全員口を揃えてそう訴えていたように。トランプ支持派も同様でしょう。実際、投票後、結果が出た少し後になって、その意味と自分の生活に与える影響を理解して恐れ戦く人の数々が報道されました。多くの人々を非論理的な投票行動に駆り立てるのに、反知性主義は都合のよい概念だったことは疑いありません。実際、警告する専門家の声はおしなべて無視されたわけですから。

歴史家ストーンの論説は、その対極にあると言えます。同論説では、過去の事実の深い造詣とそこから結論を論理的に演繹する知性とが光ります。英国内で、EU離脱派の虚飾と非論理的主張にうんざりしていた人々には、ストーンの論説はとくに光って見えたことでしょう。

このストーンの「予言」は背筋を寒からしめるものがあります。実はストーン自身、今後の進行の一例は出しているものの、それはあくまで想像をたくましくしての一例に過ぎず、現実に具体的に何が起こるかは分からない、とはっきり明言しています。しかし、物事がどう進行するにせよ、と断った上で、氏の結論は、ほぼ諦念とも呼べる悲観的なものになっています。深い教養と知性とに基づく見解であることが明らかなだけに、説得力が感じられます。
加えて、米国大統領選の結果が出た後の現実の状況は、大統領選のはるか前に発表された氏の論説を、結果的に裏付けるものになっているとも言えそうです。大統領選の後にこの論説が再度脚光を浴びたのも頷けます。

排外主義が跋扈しているのは、何も英米に限ったことではありません。改憲も視野に入っている安倍政権下の日本、難民受入れを事実上拒絶して、また近隣諸国への憎悪と軽蔑とを煽る勢力が力を得ている日本は、人ごとではないでしょう。温故知新、人の振り見て我が振り直せ、が古人の智慧ならば、今こそそのよい機会かも知れません。

以下、TUPから、トビアス・ストーンによる、英米の現状を歴史的視点から考察して未来予測する同論説の邦訳をお送りします。

坂野正明/TUP(前書き)、キム・クンミ/TUP(本文訳)

英国EU離脱とトランプの次に起こることは? 歴史の教訓から考える
トビアス・ストーン
2016年7月23日

人類はかなり規則的な間隔で愚かな時期を自らに課していますが、私たちは再びそれに突入しているようです。本稿では情報に基づいた私の見解をおおまかに述べます。後になって振り返った時に、正しかったことになるか、あるいは間違っていたことになるかわかりませんが、これは一つの試みであり、また広い文脈での議論の材料の一環になればと願っています。

私は考古学、また歴史学と人類学も修めました。その関係で、歴史上で大局的に繰り返されるパターンというものが見えてきます。私は、ほとんどの人の歴史観は親や祖父母によって伝えられた経験、つまり50~100年に限られる、という仮説を立てています。それを超えるには、読書し、勉強し、語られる歴史に必然的についてくるプロパガンダを解読することを学ばなければなりません。ひと言で言えば、大学では、少なくとも2つ、でなければ3つの異なる意見を比較しなければ、その論文は失敗に終わります。比較分析手法こそ英国の学術界の中核をなすものですから、ある一つの出来事を福音のように語っては、信用されません。(私は他国の学術界のことを明言できませんが、そんな言論が信用されないことは疑いありません)

一歩下がって眺めてみると、人類には大量破壊の時期を繰り返す傾向があって、それも自ら進んでと一般的に言えなくもないことがわかります。こちらの便利な表に、過去のすべての戦争が列記されています。戦争は実は人類にとって普通のことではありますが、時々大きな何かがやってきます。私はヨーロッパを荒廃させた黒死病に興味があります。ボッカチオの『デカメロン』の冒頭でペストの魔の手につかまれたフィレンツェを描写しています。それはソンムの戦い(※訳注)やヒロシマ、ホロコーストのような、想像を絶するものです。つまり文字通り、自分がその場にいればそれがどんなものなのか想像することはできません。ペストの流行の真っ只中にいれば、世界の終わりのように感じたに違いありません。

訳注 ソンムの戦い:フランス北部のソンム河畔で1916年7月から11月に渡って英仏連合軍対ドイツ帝国軍が戦った、第一次世界大戦中の最大の会戦。英軍がはじめて戦車を実戦に投入したが戦闘は消耗戦で、英軍に42万、仏軍に20万、独軍に45万人の犠牲者をだし、勝敗なく終わった。

しかし人間を人間たらしめているのは、その弾力性です。現在のわれわれにとっては、人類が当時のペスト大流行を生き延びたのは明らかなことですが、当時の人びとにとってはその後も社会が続いたことは信じがたいことに違いありません。実際、多くの人が黒死病は長期的にはプラスの効果をもたらしたと考えています。こちらのサイトの解説が良いまとめです――「年齢を問わず虚弱な人を対象とし、非常に短い期間に数十万人を殺すことによって、黒死病は自然淘汰の強力な力となり、ヨーロッパの広範囲で最も弱い者を取り除いた。さらに、黒死病はいくつかのヨーロッパ地域の社会構造を大きく変えた。悲劇的にも人口が減ったことで労働力が不足することになった。この不足により労働賃金が上昇した。製品価格も同様だ。その結果、生活水準が高まった。例えば、人びとはより質の高い食品を消費し始めたのだ。」

しかし、二つの世界大戦、ソ連の飢饉やホロコーストと同様に、そのなかで生きた人びとにとっては人類がそこから立ち上がることは想像も出来なかったに違いありません。ローマ帝国の崩壊、黒死病、スペインの異端審問、30年戦争、バラ戦争、イギリスの内戦…、リストは延々と続きます。人類がその後には回復し、多くの場合はより良い形で前に進む、大規模な破壊を伴った事件の数々です。

そのときの地域レベルでは人びとは大丈夫だと思っています。そして物事が急激に悪循環に陥って制御不能になり、止めることができなくなり、自らの手で大規模な破壊を引き起こすのです。真っ只中で生きている人びとには、そんな破壊が起こっていることを見てとるのも、ましてや理解するの困難です。後の歴史家にはそれらすべてが意味をなし、どのようにして一つの出来事が次の出来事を引き起こしたのかが明確にわかります。ソンムの戦い100周年のとき、私はそれがボスニアのオーストリア大公暗殺の直接的な結果であったことに驚きました。当時の誰が、ヨーロッパ王室の殺害が1700万人の死につながると考えたでしょうか。

私はそれがサイクルなのだと言いたいのです。何度も何度も繰り返されているのですが、50年から100年の歴史的視点しか持たないほとんどの人には、そんなことが再び起こっているようには見えません。後に第一次世界大戦につながることになる事件が展開されたとき、ヨーロッパ内の網の目のような国際条約が戦争を引き起こす可能性をはらんでいると警告し始めた少数のずば抜けた秀才がいました。しかし、そういう人々は、ヒステリックだ、狂っている、または愚か者だと退けられたのでした。現在、プーチンや英国EU離脱、そしてトランプのことを心配する人たちが退けられていることも例外ではありません。

そしてすべての戦争を終わらせるための戦争[※訳注]の後に、人類はまた別の戦争をおっ始じめたのです。それはまた、歴史家にとってはそこそこ予測可能なことでした。祖国と運命のコントロールを失ったと感じるように誘導し、人びとは誰かのせいにできないかと躍起になる、そんな世情を感じ取ったカリスマ的な政治家が台頭して、不運な犠牲者をやり玉にあげます。そのカリスマ政治家は内容のない巧言をあやつって語りかけ、怒りと憎しみを煽ります。ほどなく大衆は、何一つ裏付ける論理がないにも関わらず、一つのまとまりとなって行動を始め、全体が止まらなくなるのです。

[訳注 すべての戦争を終わらせるための戦争: 第一次世界大戦の最中および直後、同大戦がそう呼ばれた。]

それがヒトラーでした。そしてムッソリーニ、スターリン、プーチン、ムガベ、他にもまだまだいます。ムガベは非常に良い例です。ムガベは国のなかでは少数派の(たまたま農場の経営方法を知っていた)白人地主に対する国民の怒りと憎しみを煽りたて、彼らの土地を接収し大衆に再分配しました。すばらしい人気取り政策といえますが、その結果、経済や農業は壊滅的打撃をうけ、人びとは土地を所有するものの飢えるに至りました。ソビエト連邦がつくりだした飢饉や、20世紀に2000万人から4000万人が死亡した中国共産党の事例も参照してください。理由もなく数千万人もの人びとが死ぬ状況を作り出すことは想像を超えることに思えます。しかし何度も何度も繰り返しているのです。

しかし、そういう時、人びとは破滅期に通じる道に進みつつあるとは気づきません。自分たちは正しいと思っています。怒りの暴徒の激しい野次でさらに勢いづき、批判は冷笑されます。こうした一連の流れは、たとえばベルサイユ条約からヒトラーの登場へ、そして第2次世界大戦へとつながった例が挙げられます。そしてそれがいま現在、再び起こっているように見えます。しかし以前と同様にほとんどの人にはそうは見えません。なぜかといえば、

  1. 過去や未来を見ずに、現在だけをみている
  2.  自分のすぐ身の回りのことしか見ていなくて、世の中で起こっていることが大局的にどういう影響を及ぼすかという観察はしない
  3. ほとんどの人は、対立する複数の意見を読んだり、それについて考えたり、反論を挑んだり、あるいは耳にすることもありません。

トランプはアメリカでこれをやっています。私どものように歴史に造詣があるものから見れば、それが起こっているのが見えます。ニューヨーク・マガジン誌に掲載されたこの素晴らしい長編論説 を読めば、プラトンがこれらすべてを[『国家(対話論)』にて]述べていて、それがまさにプラトンの予測通りに今起こっていることがわかります。トランプはアメリカを再び偉大な国にすると言っていますが、どの統計をみてもアメリカは現在でも偉大な国です。カリスマがあって自己陶酔的な人間で、群衆から養分を吸い取ってますます強大になり、自身の周りにカルトを作り出す例は、トランプ以前にもありました。トランプは情熱、怒り、そしてそういったすべての前例と同じような巧言を弄して使っています。アメリカがトランプの登場の準備が整うまでになってしまったことについて、社会や政治家、メディアを非難することもできるでしょう。しかし、大局的な歴史的観点からいえば、トランプのような人物が権力の座に登るたびに、歴史は常に同じ道を繰り返すのです。

一歩下がってもっと広い角度からみると、ロシアは恐怖と情熱を利用してカリスマ的な指導者が周囲にカルトを確立した独裁になっています。トルコも今や同じです。ハンガリー、ポーランド、スロバキアも同じ道に進んでいます。そしてヨーロッパ全体で、多くのトランプやプーチンが、実はプーチンの資金提供を受けて、人気の潮流が流れてくるのを爪を研いで待っています。

私たちにとってのフェルディナンド大公事件は何であるかを自問しなければなりません。一見は小さな出来事がいかにして次の大規模な破壊期を引き起こすのか。私たちは英国EU離脱、トランプ、プーチンをそれぞれに別のこととしてみています。世の中はそのように機能するわけではありません。すべてのことは互いに結びついて、互いに影響し合っています。EU離脱に賛成している友人のなかには「ああ、そのこともEU離脱のせいにするつもりかい?」という人もいます。しかし、彼らは実際に「その通りだ」ということに気づいていません。後世の歴史家は、その時までに起こった出来事の数々について、一見無関係に見えても、英国EU離脱に代表される過去の政治的および社会的に重要な転換にその根があると看破する説を提唱するでしょう。

英国EU離脱を見て、あるいは怒れる一群の人びとが戦いに勝利したのを見て、別の怒れる一群の人びとが自分たちも勝てるのではと感じて、戦いを始めることも容易に予想できます。それだけで連鎖反応を起こすことができます。核爆発は、1個の原子分裂によって引き起こされるのではなく、最初の原子の分裂の衝撃が近くにある複数の別の原子を分裂させ、それらがさらに複数の原子が分裂します。指数関数的に原子が分裂し、それらを合わせたエネルギーが爆弾です。それが第一次世界大戦がはじまった経緯であり、皮肉にも第二次世界大戦が終結した経緯でもありました。

英国EU離脱が核戦争を引き起こすかもしれないという流れの例を一つ、以下にあげてみます。

英国のEU離脱でイタリアあるいはフランスで同じような国民投票を行うことになる。ルペンがフランスの選挙で勝利する。今やヨーロッパのEUはばらばらになる。EUは、ひどい問題がたくさんあるとはいえ、かつてないほど長期間ヨーロッパ内での戦争を防ぐことができました。EUはまた、プーチンの軍事的野心を抑える主要な勢力です。欧州の対ロシア経済制裁は実際に経済に打撃を与え、ロシアのウクライナに対する攻撃を和らげました(悪人が常に欧州連合の弱体を望むのには理由がある次第です)。米国でトランプが勝利する。トランプは孤立主義者になり、NATOを弱体化する。トランプはすでに、ロシアがバルト諸国に攻撃をしかけても、NATOと共同してそれに対応するとは限らないと表明しています。

EUがばらばらになり、NATOが弱体化するとともに、国内で進行している経済的、社会的危機に直面しているロシアのプーチンには、国民を団結させるためにまたも外に目をそらせる必要があります。プーチンはラトビアの反EU極右運動家に資金を援助し、その運動の余波を受けてラトビア東部(EUとロシアの国境)のロシア系ラトビア人が蜂起することになります。ロシアは、グルジアとウクライナに対してやったように、ラトビアに「平和維持軍」と「援助トラック車列」を送ります。プーチンは東部ウクライナと同様、東部ラトビアをロシアに併合します。(ちなみに、クリミアとラトビアは人口が同じです。)

フランス、ハンガリー、ポーランド、スロバキアなどの諸国には、いまやプーチン大統領の資金提供を受けて親ロシアで反EUとなった政治家がいてヨーロッパは分裂してしまっており、制裁あるいは軍事的対応の要請を却下します。NATOは反応が遅く、トランプはアメリカが関与することを望まず、ヨーロッパの大部分は無関心か、またはどのような行動も妨害します。ロシアは、どう行動しても大して抵抗がないことをみて、ラトビア国内さらに深くへ、そして次に東エストニアとリトアニアへと侵攻します。バルト海諸国は、ロシアへ宣戦布告し報復を開始します。今や侵略されている以上、他にどうしようもないからです。ヨーロッパの半数はバルト諸国側につき、いくつかの国は中立、そしていくつかはロシア側につきます。トルコはどこにつくでしょう?ISISはヨーロッパの新しい戦争にどのように反応するでしょう?最初に核兵器を使うのは誰でしょう?

これはフェルディナンド大公事件的なシナリオの一つにすぎません。多くの見通しのつかない動きでとてつもなく複雑さがあるため、可能性のあるシナリオの数は無制限にあります。そしてもちろん、そういったシナリオの多くには何も起こらないという結論もあります。しかし、歴史を考えれば、私たちは新たな破壊期を迎える時期にあります。歴史を考えれば、すべての指標は、私たちが今まさに破壊期に入ろうとしていることを示唆しています。

それは誰にも予測できない形で起きることでしょう。そして、ものごとが大変な勢いで動いていって、誰にも止めることはできないでしょう。歴史家はあとで振り返り、そのつながりをすべて解き明かし、どうして人びとがそんなにウブであり得たかと疑問に思うことでしょう。私は、逃げ出したい思いに駆られることもなく、のうのうとロンドンの素敵なカフェに座ってこの文章を書いていたのか。人々はこれを読んでもなお、残留派に泣き言をやめるよう、またなにごともすべてEU離脱のせいにするべきではないだろう、と皮肉を言って軽蔑したりしていたというのはいったいどういうことだろう?これを読んで、アメリカはとてもうまくいっていると私を嘲笑する人もいるでしょう。トランプは未来のヒットラーになる可能性があります。(はい、ゴドウィンの法則[※訳注]ですね。しかし私がたとえているのは、物事が制御できなくなるまで憎悪の炎を煽る、ナルシシズムにそまったカリスマ的なリーダーのことです。)歴史と学習の重みを使って、悲観的な予測を否定する結論を急ぐことは簡単です。トランプは議論において、共和党候補の対抗馬の主張に対し、相手の悪口を言い、退けることによって対抗して勝利しました。それは簡単な道筋ですが間違っています。

[訳注 ゴドウィンの法則:インターネット上で議論が長引くほど、ヒトラーやナチを引き合いにだすことが多くなる、という法則。発案者の名前からゴドウィンの法則と呼ばれる]

人びとが英国EU離脱とトランプの選挙戦略のなかでやっているように、専門家を無視して嘲笑することは、禁煙を勧める医者を無視し後になって不治のガンを発症したと気づくことと変わりありません。ちょっとしたことが止められない破壊につながるものです。少しでも耳を傾けて考えていたら防げたかもしれないのに。しかし人はタバコを吸い、それが原因で死亡します。それが人間の性です。

だから私はすべてが不可避だと感じています。どうなるのかわかりませんが、私たちは良くない段階に入っています。その中で生きていく人にとっては不快なものになって、ひょっとすると想像を超える地獄に突き進むことになるかもしれません。人びとはその段階を抜けて、回復し、前に進むでしょう。人類は大丈夫で、変わり、ひょっとしたら良くなるでしょう。しかし最も難しい場面にいる人々 ―― 今しがた解雇されたばかりの何千人のトルコの教師や、刑務所にいるトルコのジャーナリストや弁護士、また強制収容所のロシアの反体制派、フランスのテロ攻撃の後、病院で傷を治療している人びと、そういった倒されそうな人々にとっては、これがソンムになるでしょう。

私たちに何ができるでしょう? 繰り返しになりますが、歴史を顧みるに私たちできることはおそらくあまりありません。進歩的文化人は常に少数派です。クレイ・シャーキーのツイッター・ストームを読んでみてください。  開放的な社会、他の人にやさしく、人種差別をせず、戦争を戦わないのは上等な生き方です。そういう主義の人びとは通常、今問題にしている類の闘争に結局は負けることになります。汚い戦いはしませんから。大衆に訴えかけるのが恐ろしく下手ですから。あまり暴力的ではないので、結局は刑務所、収容所、または墓地におさまることになります。私たちは分裂しないように気をつけなければなりません(労働党を他山の石に。※訳注)。事実と論理の議論の中で自らを見失わないようにしなければなりません。ポピュリストによる感情的で怒りを煽るメッセージに対して、私たち自身の言葉で同じような効果をねらって対抗していく必要があります。私たちはソーシャルメディアを理解し、利用しなければなりません。異なる恐怖を利用する必要があります。世界大戦がまた起こるかもしれない、という恐怖は第二次世界大戦をもう少しで止めるところだったけれど、そうはなりませんでした。自分たちのこだまを聞くだけの部屋にとじこもるのを避ける必要があります。トランプとプーチンの支持者はガーディアン紙を読まないので、そこに書いても自分の友人を安心させるだけです。私たちは自分たちの閉鎖的なグループから別の閉鎖的なグループに橋をかける方法を見つけ出し、ますます広がる社会的分裂を渡っていく必要があります。

(もっとも、私は、こういう事態が迫りくるのを感知した一人として史書の片隅に記されるように、とこの文章を書いているだけかもしれません。)

訳注 労働党を他山の石に:英国で、住民投票の結果が出てEU離脱が決まった直後、党の方針としてEU残留を推していた野党第一党の労働党内で内紛が発生した。党首がリコールされて臨時党首選の実施が決まり、また、その手続を巡るスキャンダルが英国全土で連日話題になった。結局、労働党は支持率を落とすことになった。
EU残留の最大勢力が、内部の分裂によって弱体化した、と言ってよい。実は時を同じくして、与党保守党でも党首が辞任して党首選が開催される、というゴタゴタが発生していた。だから、本来ならば労働党は支持率を上げてしかるべき時だったにも関わらず、自らの失策でみすみす機会を逃したことになる。

出典:Medium