TUP BULLETIN

TUPエッセイ(1008号) 北朝鮮・韓国の歴史的和解と東アジアの平和(1)

投稿日 2018年4月29日
◎北朝鮮・韓国首脳の英断を祝すとともに、日中政府の反応を考える

(文責: 坂野正明/TUP)

報道のように、この4月27日、北朝鮮と韓国の歴史的融和が実現しました。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領が、約70年に及ぶ両国の戦争状態を年内に終結させることで合意したものです。二人が手を取り合って国境をまたぐ写真は、歴史的な瞬間の記録で、今後、末長く語り継がれることでしょう。この日を実現させた関係者各位に深い敬意を表します。

この件を受けての中国外務省の定例記者会見での発表がふるっていました。華春瑩(Hua Chunying)報道官が、漢詩の一節を引用して拍手を送りました1
「荒波を渡り尽くせば兄弟あり、互いに会って笑えば恩讐も滅びる」

記者発表の原文は「度盡劫波兄弟在 相逢一笑泯恩仇」、そしてそれは魯迅の「題三義塔」(三義塔に題す)という詩の一節と報道されます2

そう、この漢詩は、日本にも縁の深い魯迅の作です。魯迅が西村真琴に1933年に送った七言律詩です。西村真琴は、当時、日本の中国侵略戦争が激しさを増す中、軍部からの圧力をはねのけて中国戦災孤児68人を大阪に引き取って育て、日中の架け橋になっていた人物です。当時上海にいた魯迅は、おそらくそれも知って、この詩を贈ったようです3

つまり、中国は、両首脳の勇気を讃え、朝鮮半島の紛争終結の機運を祝うとともに、日本にもさりげないメッセージを送っている、と解釈できそうです。それが中国政府の総意かあるいは担当者の機転かはいざ知らず、その外交力と心憎いまでの教養に、私はただただ脱帽し、拍手喝采を送ります。

比較して、日本政府の対応はどうだったでしょうか。報道4によれば、アメリカ側からの情報として武力行使の可能性も匂わせていることを、このタイミングでリークしてきました。そして、「(日本)政府は、対話ムードが先行することを警戒していて」と、朝鮮半島の平和推進に対してむしろ嫌悪感を示しています。

日本国は、第二次大戦以降、世界平和をリードする立場を目指していたはずです。日本国憲法前文に曰く

日本国民は、恒久の平和を念願し[…]。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

残念ながら現政府の言動は、憲法の精神の対極にあると言っていいでしょう。朝鮮半島に希望の光が見えているのと対照的です。日本が世界平和において「名誉ある地位を占め」る高望みはしないまでも、せめて東アジアの平和推進の邪魔をしないよう、誠実に希求します。隣人のためにも日本国民のためにも、そして世界市民のためにも。

4/27の首脳会談は歴史的とはいえ、まだ始まりにすぎません。遠からず、朝鮮半島の間で人々が自由に行き来できて、北朝鮮の国民の人権が守られ、生活が改善していくことを心から願います。そして願わくは、それをむしろリードする形で、日本国内にまだ根強く残る北朝鮮、韓国市民への偏見や差別感情が消滅していきますように。


参考文献

  1. http://www.afpbb.com/articles/-/3172846

  2. https://www.hk01.com/%E5%8D%B3%E6%99%82%E4%B8%AD%E5%9C%8B/182740/%E6%9C%9D%E9%9F%93%E5%B3%B0%E6%9C%83-%E4%B8%AD%E5%9C%8B%E5%A4%96%E4%BA%A4%E9%83%A8%E5%BC%95%E9%AD%AF%E8%BF%85-%E5%BA%A6%E7%9B%A1%E5%8A%AB%E6%B3%A2%E5%85%84%E5%BC%9F%E5%9C%A8-%E7%9B%B8%E9%80%A2%E4%B8%80%E7%AC%91%E6%B3%AF%E6%81%A9%E4%BB%87

  3. https://blog.goo.ne.jp/nittyuyuko/e/88f9144def732c3d3b9b843047ecdf77 (2014年の「西村真琴と魯迅展」(豊中市立中央公民館)に関するブログ投稿 by 日中友好ネット)

  4. https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20180427-00390722-fnn-pol