TUP BULLETIN

速報302号 リバーベンドの日記(4月30日)から 04年5月4日

投稿日 2004年5月4日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年5月4日(火) 午後10時06分

アブ・グレイブ刑務所の虐待(リバーベンドの日記4月30日)


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/


世界を震撼させたアブ・グレイブ刑務所での米兵による拷問・虐待行為。 言葉での表現など不可能と思える、心身を引きちぎられるような怒りと苦 しみの中で、リバーは書いています。今回の訳は、イスラム教徒のヤスミ ン・植月さんです。ヤスミンさんにとって、訳すことは、リバーの、イラ クの人々の苦しみと怒りをそのまま生きること、訳す作業は「アドレナリ ンが沸騰し、心は鋭利な刃物で突き刺されているよう」だったと述べてい ます。わたしたちもイラクの人々の気持ちが少しでも自分のものとできます ようにと、今回の日記をお届けします。

(TUP/池田真里)

********************************** バグダードバーニング by リバーベンド

友よ、私の心が失われあなたさえ見分けることができなくなったら、ど うか私を偉大な文明をはぐくんだ、チグリス・ユーフラテスの胸元に連れ て行って欲しい。そこで私は心を癒し、魂を再生させるでしょう。

2004年4月30日(金)

写真…

それはおそろしいものだった。それらを見たとき、いろんな感情がよぎ った。その最も突出したものはもちろん憤怒だった。何かものを破壊した いという抑えがたい欲求に衝き動かされた。事態を何とかマシにするため、 あるいは怒りや屈辱を静めるために。これまでバグダッドのアブ・グレイ ブ刑務所についてはひどい話を聞いていたけれど、どの言葉も表すことが できない様子をそれらの写真は呈していた。

裸にされ、無抵抗の、頭に袋を被せられた人々を見たとき、冷たい氷の 手で顔をひっぱたかれたような気がした。見てはいけないものを私が見た というように…彼らを見たことが私を恥じ入らせた。そして脳裏に浮 かんでくるのはただ「この顔の見えない人たちの誰かを知っているかもし れない…」ということだった。町で通りすがったり、一緒に働いてい た人かもしれない。この人たちの一人から食料品を買ったかも、あるいは 大学で座って講義を受けた…彼らの誰かは先生であったり、ガソリン スタンドのサービス員あるいは技術者…誰かはお父さんであったりお 祖父さんであるかもしれず…彼らのひとりひとり、どの人もが誰かの 息子やたぶん兄弟なのだ。そして、人々は数週間前にファルージャでおこ った、あのアメリカ人たちが殺されて通りを引き回されたことがなぜ起こ ったのかを考えるのだ…

今日は誰も彼もそれらの写真のことしか話さない…恐ろしい写真。 それほどの激怒とフラストレーションをみんなは感じている。これが「た またまあった出来事」であり、また、「こんなことをした人たちを恥じて います」といったことを主張する何十通もの電子メールが私のところに来 ることはわかっている。でも、それが何だというの?アブ・グレイブのこ の人たちはどうなるの?アブ・グレイブでの仕打ちで永久に傷つけられた 生活や命や彼らの家族はどうなるの?何人かは次のようなメッセージを送 ってくることもわかっている。「でも、これはサダム政権下でも起こってい たのでは…」。だから今起こってもかまわないと…過去にも苦し みがあったのだから、大量虐殺や拘留や拷問も、単なる小さな不運で片付 けてしまおうと。私はずっとMのことを考えていた(訳注:3月29日の 記述を見てください)。なるほど彼女は実に「幸運」だったといえる。 そしてわかっているかしら?あなたがたは暴虐非道や何が起こったかの半 分もしらないってことを。なぜなら、イラク人は誇り高く、気高いので、 性的虐待については、誰でも進んで話題にするような主題ではないから。 アブ・グレイブや他の場所での残虐行為は隠され、そして占領軍がもたら している全ての他の恥ずべき事の下に埋もれてしまうだろう…

女性の囚人たちに起こっているにちがいないことを考えると私の血は逆 流する。それは、憂鬱とか屈辱をはるかに超えたものだ。イラクの囚人た ちのそばで笑っている兵士を見るとぞっとする。何とかして彼らが苦しめ られることを私は望む。でもどういうわけか彼らは罰せられないというこ とを知ってはいるけれど…  彼らは、せいぜい軍隊から除隊されて家に帰り、家族や仲間たちと一緒 にその写真に乾杯するのだろう。「アメリカの精鋭」が「ばかなイラクの テロリスト」をどうあしらっているのか…に。ジャニス・カーピンス キー(訳者注:1月まで同刑務所の責任者だった予備役准将)がするであろ うおそまつな弁解、どんなに彼女が彼女の父に子供の時虐待され、彼女の 母は酒に溺れて早死にしたかということ。それが彼女がアブ・グレイブで やったことの理由だったなどと、いずれ本を書いたりするのだろう。本当 に胸が悪くなる。

統治評議会はどこにいるの? 彼らはいったいどこに隠れているの?

私はこの件についてちゃんとおおやけに立件されることを要求する。こ のことに責任のある身の毛もよだつような兵士たちをおおやけに罰し、辱 めることを要求する。彼らに有罪判決を下し、いかに恐ろしい人たちであ るかを認定することを要求する。彼らがどんなことをしたかということを、 彼らの子供たちやその子供たちにもずっと伝えつづけて欲しい。この囚人 たちが受けた屈辱と痛みがイラク人のこころと魂に忌まわしい記憶として 刻み付けられている限り…

(11:30 PM) リバーによって掲示

(翻訳 ヤスミン植月/リバーベンド・プロジェクト)