DATE: 2004年5月20日(木) 午後11時47分
「すべてが演出であってほしい」、ニック・バーグの処刑ビデオ リバーベンドの日記 5月15日
戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/
ニック・バーグの処刑ビデオ、すべてが演出であってほしいと望みつつ、アブ・グレイブ刑務所の拷問写真を見たときから、これを予測していたと語るリバー。いっぽう子供たちは、学年末の試験に入る。電力事情が悪いので、冷房なしの暑さの中での試験ですが、子供たちの日常が無事続いていくようにと祈らずにはいられません。 (TUP/リバーベンドプロジェクト:池田真里)
2004年5月15日
土曜日 ここ数日…
ニック・バーグのビデオはおぞましさを通り越している。私は正視に耐えられず最後まで見ることができなかった。それは吐き気をもよおさせ、起こったことが信じられない。彼の家族は驚愕したに違いなく、私には彼らが感じたことを想像することさえできない。一切が進行中だし―まずアブ・グレイブそしてこれ-私は何も書く気になれない。
アンサー・アル・イスラムは原理主義のイラク北部に本拠地を置く-ほとんどクルド人による-戦闘的なグループ。彼らは自分達に最近名前を付け、前政権よりも地域に対する管理権を行使していたCIAの十分認識の下、クルド人自治区を「家」ホームグラウンドに選んだ。戦争の開始以来ずっと、様々な爆発や攻撃の首謀者であった-少なくとも彼らがそう言っている。首を切ることはイスラム教と全く関係がない。私は-無理を承知で-いまだ全てがグロテスクな演出だったと望んでいる。
あるニュース番組で初めてこのビデオを見たとき、茫然自失で棒立ちになり、気持ちが悪くなった。どうかすべてを放送しないようにと懇願しながら-得体の知れない力によって画面から目を離せないことが分かっていたから。戦慄した。私は衝撃を受けたのか? 私は驚いたのか? いいえ。私たちは、イラクの囚人の拷問の最初の写真以来これが起こると予測していた。多くの人が激怒し怖いくらいだった。ブッシュの不完全な謝罪やラムズフェルドの突然の訪問では和らげることのできないないある渇望と報復への欲求があった。
できるだけ最悪の方法で、アメリカ人や西洋人に衝撃を与えるため首を切るという「処刑」方法をグループは選択したのだろう。アブ・グレイブや他の刑務所の拷問者が他の手段ではその恐ろしくサディスティクな行為以上の効果をイラク人やイスラム教徒を傷つけ驚かすことはできないと分かっていて性的貶めを選択したように。イラク人にとって、死はレイプや性的虐待よりはるかにましなことなのだ。死を凌ぐ最悪があり、あの写真はそれらを描写していた。
イラクにいる外国人は、とてもとても慎重になっている。それは当然だ。多くの会社は彼らのスタッフを撤退させていて、残っている社員や契約相手に注意深く行動し、できるだけ目立たないようにと要請している。
アル・ザルカウィ自身が首切を行ったという仮定は、少し極端に思える。現在、世界のテロリズムの首領は、ウサマ・ビン・ラディン、アイマン・アル・ザワヒリ、アブ・ムサーブ・アル・ザルカウィであるようだ。考えるための材料をあげよう――ウサマはサウジアラビア出身、アル・ザワヒリはエジプト人、またアル・ザルカウィはヨルダン人だ。地域においてどの国がアメリカの最良の同盟国だろう? どれどれ…あなたはサウジアラビア、ヨルダンそしてエジプトと推測した!? すばらしい! 旅行が当たりました…ファルージャへの!! ( いえいえ、あなたがサウジアラビアの手の甲首にシッペを食らわせ、エジプトのわき腹をつつけば、あなたはまだ仲間。このことは数に入れないでおいてあげるわ)。
サディスティクな悪魔のラムズフェルドが町にいる間、今日300人あまりの囚人が釈放された。明らかに、現在拘留されている何千ものうち300人の囚人を自由にすることは、イラク人をなだめるための-ブッシュらしい中途半端なやり口なのだが-アブドラ・ヨルダン国王への不完全な謝罪だ。私たちにとってアブドラ国王とは何なのか。ブッシュがひざまずき彼に赦を求めることがなんだというのか? いったい全体、彼がイラク人の何を代表しているというのか?
南部のカルバラとナジャフは戦闘地帯だ。通りにはシーア派の戦士がいて、アメリカ軍の戦車とヘリは一定の地域を爆撃している。今日、アメリカ軍はナジャフの最も古い墓地を(イラクで最も神聖な地の一つ)を爆撃した。これは騒乱を引き起こし、現在アル・サドルは南部での戦闘に加わるよう人々に要求している。バグダッドへ難民がさらに流入している…今回は南部地域から。アメリカ軍は「反乱軍」に対し、ファルージャと同じ戦術を用いている。1991年にはインティファーダ(民衆抵抗運動)あるいは一般的な暴動と呼ばれていたのに、なぜ急に今は「反乱軍」といわれるの? ナジャフとカルバラの通りで戦っているのは訓練された戦闘員や前政権のメンバーではない…彼らは単にから約束やうわべだけの保証に飽き飽きしている人々。
バドル旅団が、アメリカ軍側についてサドルのグループと戦っているという噂があり、これはSCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)にとって良くない前兆だ。統治評議会の操り人形達やグループのスポークスパーソンは事実認定を棄権したが、ハキムやダーワ党のリーダーがムクタダらの壊滅を見ること熱望していると人々は嗅ぎつけている。
年末の試験がほとんどの学校でスタートした。学校運営者は、人的に可能な限り早急に終わらせようとしている。既に耐え難く暑くほこりっぽいが、暑さは夏が進むにつれさらに厳しくなる。昨年、試験は6月と7月に実施され、子供達は電気の来ない学校の夏の暑さのため卒倒した。私たちは、今年はそれを避けたいと望んでいる。
子供達がテストを受けている日中、地域発電所に学校がどうにか接続していられるよう、私たちは地域の学校に寄付をしている。車の中に捕らえられている、暑さで紅潮しぐったりした彼らをあなたは通りで見かけるだろう。私たちみんな、子供達が激烈な出来事に見舞われることなく(つまり比較的、激烈な出来事って事よ。) 年を終えることができるように祈っている。
バグダッドの空気は、最近よどんでむっとしている。この数週間、失望と消耗そして怒りと恐れに対する一種の諦めが、辺り一帯に立ちこめている。 (翻訳:リバーベンドプロジェクト 山口陽子)