TUP BULLETIN

速報314号 占領地発のポストカード 04年5月23日

投稿日 2004年5月23日

FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年5月23日(日) 午前11時11分

◎占領地発のポストカード――

中国清朝期の義和団の乱で、首を刎ねられた叛乱者の写真、アジア太平洋戦争期、日本帝国軍兵士たちが持ち帰った戦勝の記念写真――イラクのアブグレイブ収容所から漏出し、世界を震撼させている虐待写真は、19世紀から続く帝国主義の植民地侵略の記念品と同列のものであると言い切るトム・ディスパッチの辣腕編集者トム・エンゲルハートが、政権・マスコミ批判を超えて、広大な時空間のなかの全体像として、現代の動乱の描写を試みた一編です。
TUP 井上
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凡例 (原注)[訳注] (数字=出所リンクを巻末に一覧。ただし英文)
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占領地発のポストカード:「われわれは写真を見ました」
――トム・エンゲルハート
トム・ディスパッチ 2004年5月9日
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「翌日(2004年1月14日)には、イラク駐留米軍総司令官ジョン・アビザイド大将がドナルド・H・ラムズフェルド国防長官に電話で伝えていた。ペンタゴン高官は『事件発覚の数時間後には、アビザイド司令官が上層部に伝えていました』と言う。イラク駐留米軍スポークスマン、マーク・キミット准将もペンタゴンに連絡したが、司令官の報告に付加えるべき内容はなかった。『我われはまったくまずい状況にたちいたりましたと准将は申されておりました』と、いつもながら匿名条件で、ある士官が語った。『この証拠は、有害であり、おぞましいものであります』『きわめて不利な状況であります……』

「アビザイドは、毎日のように、ラムズフェルドとイラク情勢について会談し、収容所査察の件もたびたび話題にあがったはずであると士官たちは言う。統合参謀本部副議長ピーター・ペイス大将は、昨日のCBSテレビ『モーニング・ニュース』で、ラムズフェルド、統合参謀本部議長リチャード・B・マイアーズ空軍司令官、その他のペンタゴン中枢の幹部たちは、ブッシュ大統領と同様、常に状況を知らされていたと語った」(バルティモア・サン紙トム・ボウマン記者「陸軍軍、捕虜虐待写真を厳重防護」(1))

――――――
拷問システム

スキャンダルで大騒ぎの今、基礎知識などは見たくもないだろうが、だからこそ、まず復習しておくのが正解だろう。

9・11以降、キューバのグァンタナモからアフガニスタンのバグラム空軍基地まで、アメリカが海外に輸出し、世界規模で構築した不当行為のシステムは、その本質からして拷問のシステムでもある。事の始まりからして、「アメリカ市民」の視界の外、あるいは管理の届かない暗闇のなか、バーミューダ・トライアングル[原因不明の航空機・船舶遭難が多発すると言う海域]に、超法規的な無法地帯が仕組まれていた。米軍基地や軍直轄収容所の構内で、「テロに対する戦争」における諜報活動が暴走したあげく、アメリカ政府の工作員たちは、捕虜の素性を問わず「口を割らせる」ためには、どのような方法、どのような手段を用いても許されると勘違いしたのだろう。

この拡大中のミニ収容所群島[旧ソ連作家ソルジェニーツィンの小説『収容所群島』にちなむ]は、グァンタナモでも、あるいはイラクのアブグレイブでも、絶対統治権の例に漏れず、いかなる形の裁判も行われず、嫌疑を問うことさえないので、いかなる意味でも犯罪矯正施設ではない。それは、情報を絞り出すための(あるいは、おそらく報復のための)恒久的な強制収容作戦の産物だった。この時期、ブッシュ政権の対外政策を動かしていた男たち(あるいは女たち)は、必ずしも具体的な拷問手段を指示することもなかった。とはいえ、なかには指示した者もいたようだが。

ペンタゴンの「最高」幹部たちがこの件に関し「論議」した結果、裸にされた捕虜の尋問など、まともな人ならたいてい拷問に分類するはずの20項目の「心理学的ストレスを加える」尋問技術が承認され、さらに後になって、このようなテクニックが、少なくとも「価値の高い」イラク人捕虜に対しては適用を認められるようになったことが、ワシントン・ポスト日曜版(2)の報道によって判明している。一方、メディアでは、狂信的な敵相手の生きるか死ぬかの戦争で、拷問はどこまで許されるか、やるべきか、やるだろうか…といったポスト9・11時代の低レベルの論争がたっぷりと続いてきた。

拷問システムが具体化した様態、つまり外観を見て、大統領やペンタゴン首脳は「衝撃」を受け、「嫌悪」を感じたと、異口同音に言い張った。そうなのだ、かれらは、アブグレイブ収容所で何があったのか、知らされていたのだが、情報は単なる言葉にすぎなかった。数ヶ月の間、言葉しかなかった。違いは、テレビ映像や新聞写真にあった。「われわれは写真を見ました」と大統領が口にしている。「じっさいに何があったのか、はっきり分かる写真だ」と国防長官が言っている(3)。「言葉では分かりません。虐待があった、酷かった、非人道的だった、本当だった、目に余ったと言葉で知っても、それだけのことです。写真を見れば、はっきり把握できますし、憤るしかなくなります」

この発言じたいが、ある種の告白であると、ちょっと考えるだけで分かる。それこそ憤るしかなくなる。統合参謀本部副議長ピーター・ペイスの辛辣な表現(*)を借用すれば、これに先立つ2004年1月中旬、アメリカ大統領と米国防長官は「口頭」で報告を受け、あきらかに「憤るしかなかった」はずなのに、それからずっと、(タグバ将軍報告(4)にある、たしかに不快な)「言葉」によって知っていただけである、と言うのだ。この経緯から分かることは非常に多い。

かれらは、市民に対してだけではなく、自己に対しても「否認」することができたようだ。人間は、獣になって他者を拷問することさえできるし、自己否認もできる存在なのだ。だが、いかに自己欺瞞で乗り切ろうとしても、単純な事実として、かれらが築き上げた刑罰制度は拷問システムだった。

ブッシュ政権は、かれら流の民主主義を中東に導入すると大きな声で喧伝している一方で、熱狂的なネオコンの前CIA長官ジェームズ・ウルジーが好んで語る、冷戦に等しい「第4次世界大戦(5)」――やたらと腕力を振り回し、最大の難事を抜群の意志で克服する豪傑だけが生き残り、勝利を目指す、数十年も続く苦しい戦いの道――に駆り立てられ、何ヶ月か前のトム・ディスパッチにアダム・ホークシルドが書いた、発展しつつある「人権の時代」を、速やかに終わらせようと躍起になっている。

9・11事件をきっかけに、結局、現代版の防空壕世界が到来したのであり、わたしたちはそれに順応した生き方を受け入れるつもりになっていて、だから、国家指導部が明確に教えてくれるように、新しい(国際司法裁判所)旧い(戦争捕虜処遇に関するジュネーブ条約)を問わず、国際制度や規範などはクソ喰らえなのだ。

このようにして、かれらは、巨大な軍事機構が思いのままに武力を振りまわす単一超大国惑星の上に、拷問世界の基調を定めたのであり、国家安全保障戦略2002年版(6)などの文書の形で、いささかの不明瞭さもなく、これを宣言している。言うなれば、かれらはみずからカメラをセットし、アングルを決めながら、できあがった写真を見る度胸がなかったのである。言葉、それはまったく別物だった。

もともと現政権は、かれらの無法のブラックホールから漏れてくるニュース(7)の言葉だけでは、恥いるようなことはまったくなかった。このようなシステムが発達していたのは、見る気さえあれば、アメリカの新聞報道(8)でさえ、つぶさに読めば、目を光らせている人権ウォッチ(9)などの団体に照会すれば、火を見るより明らかだった。わたしでさえも、この件について、ささやかな数の読者に読んでもらうために、トム・ディスパッチに何ヶ月も前から書いてきた(10)が、専属記者チームはおろか、一人の調査助手も持たず、アメリカや外国の報道を詳しく読み、主要新聞の記者だったらもっと迅速に上手くこなせる、ささやかなGoogle検索の能力を頼りにしているだけである。

軍事基地や海外収容所の奥で、即座に採用された組織的手法について、断片的にでも報告が届いていたのだが、9・11の後、アメリカの報道機関は、概して臆病になり、手足をもがれ、現実に何が起こっているのか、取材班を送ってまで解明したがらなくなり、「暗闇の奥」に光を向けなくなったのである。その一方、社説面の「イラクにいるわが国の兵士たちを支持する」キャンペーンにうつつを抜かし、暗闇のなかの虐待や拷問といった些末事など、論説委員会をすり抜けても、気にもしなかった。

わたしがこのように言うのも、すさまじいアブグレイブの虐待写真が明るみに出たとたん、アメリカの2大帝国新聞が、社説面で大声をあげるようになったからだ。かれらはこの件に驚き呆れ、やっとやる気になったようだ。わたしたちとしては、この展開を喜ぶべきではある。水曜日[4月5日]には、ワシントン・ポスト紙が、わたしたちが直面していたものは「虐待のシステム(11)」であったことを、論説の見出しで認めた――

「昨日、ドナルド・H・ラムズフェルド国防長官は、アブグレイブ収容所のイラク人捕虜の虐待は、『例外』かつ『個別的』な事件であると釈明した。これはせいぜい部分的にのみ正しい。米軍や対外諜報機関が身柄を確保した捕虜に対する同様な扱いは、対テロ戦争が始まった当初から伝えられていた。ジュネーブ条約、その他の司法制度に定める保護規定を軽視する思い上がった傾向は、最上層部、すなわちラムズフェルド氏および米軍高級司令官たちによって方向づけられていた。人権侵害を裏付ける文書報告は、アブグレイブで伝えられた報告よりも深刻なものも含めて、無視または隠蔽された……」

翌日、同じ面の論説がラムズフェルドの辞任(12)を要求している――

「ラムズフェルド氏の決定が、イラク、アフガニスタン両地域で、捕虜たちが屈辱を受け、殴打、拷問、殺害され、しかもつい最近まで、誰も責任を負わない無法な制度の成立を促した」

しかし、その同じ論説がテロリストに対する特別扱いを要求してもいて、これでは新たな拷問を容認しかねない――

「ひとつの大事な点で、ラムズフェルド氏は正しかった。逮捕した容疑者がアルカイダのメンバーであれば、(所定の審理手順を踏んで)合法的にジュネーブ条約にもとづく保証を剥奪する方法もあるし、死活的な情報の収集や、テロリストが海外の共犯者と連絡を取るのを阻止する目的のためであれば、そうした措置が必要な場合がこれまでにも多かった。だが、わが国がそのような特例措置に頼るなら、ラムズフェルド氏は、拷問を禁じている国際条約に違反せず、また本当に特例扱いが必要な容疑者に対してのみに実施を限定することを保証する手続きを定めておくべきだった」

簡単な話に聞こえるが、「特例措置」とは? なんと便利で、曖昧な法律用語なのだろう。平明な言葉を使って書けば、通用しなくなるとでも、お考えなのだろう。違うだろうか? アブグレイブやグァンタナモの環境では、特例が日常化してしまって当然である。さて、近ごろ、ワシントン・ポストに比べて、いつも1日遅れだし、資金不足のニューヨーク・タイムズが、金曜日[5月7日]の記事でラムズフェルドの辞職を要求し、同日のタイムズ版の論説「軍事列島(13)」で、わが国の海外刑罰システムを論じている――

「アブグレイブへの道は、さまざまな意味で2002年にグァンタナモ湾に始まる。ブッシュ政権が、世界規模の軍事勾留システムを、一般社会と司法の眼から隠すために、意識的にアメリカ本国から離れた軍事基地に施設を配置して構築する動きは、グァンタナモで始まったのである。政府はまた、人権ウォッチ、アムネスティ・インターナショナルなど独立した人権監視団体による調査を退けた。政府は、テロ容疑者は通常の法的保護を受ける権利はなく、いかなる場合でもアメリカの当局者はテロリストを無実の傍観者から見分けられて当然であると主張している」

なるほど、この論調は強硬だが、「昨年、アブグレイブで軍人看守がイラク人捕虜に加えた心理的・性的屈辱は、われわれが知るかぎり、他の米軍直轄拘置所では類例を見ない」と急いで付言する。事実を言えば、グァンタナモやアフガニスタンから解放された元捕虜たちの話によると、心理的・性的屈辱こそがシステムの本質的要素だったのだ。

だが、もっと肝心な点は、これら帝国新聞2社のうち、どちらか一方だけでも、かつて知っていたはずの帝国の闇の部分に解明の光を当てようと、全社的に決意を固めていたならば、どうなっていたかにあるのではないだろうか? とどのつまり、「テロに対する戦争」を遂行するためには、アメリカはジュネーブ条約は考慮に値しないと考え、アメリカの世界政策の核心は、単純に暴力の行使であり、それこそが世界の覇権であると、ブッシュ政権は、実質的に世界にむかって広言していたのであり、わたしたちはそのまま信じていたのである。

今、これら新聞2社(それに他にも多くの新聞)の社説面は、ラムズフェルドの首だけでなく、他の公職者たちの説明責任と辞任を要求している。しかし、(もちろん、無い物ねだりだが)報道機関としての説明責任も多少はあるはずだ。おざなりなものであっても、新聞社としての謝罪、そして幹部の一人や二人の辞任があって当然である。近ごろ、社説や第一面の大見出しは大盤振る舞いだが、過去2年の実績に絞って言えば、臆病で、手足をもがれた姿を見せつけられてきたので、報道人の勇気と言っても、たいして期待できないことだけは保証できる。

ひとつだけ例をあげよう。2003年春のあの時期、戦争捕虜になった米兵たちがイラクの宣伝放送のカメラの前で晒し者になった時、アメリカのメディアは(これ見よがしに)怒りを表明したが、その一方、黄麻とおぼしき大きな袋で首から上を覆われたイラク人捕虜の写真を速報で掲載していた。当時の新聞を改めて開いてみれば、そういう写真が注釈もなしに掲載されていたことが分かるし、テレビでも溢れかえっていたのである。アブグレイブの、頭に袋を被せられたイラク人捕虜の写真が、急にホラー映像になってしまうまで、恒例だった「目隠し袋」について、誰も議論しなかった。しかも、その慣例は、あきらかに組織的に注意深く練られて、準備されていたはずなのだ。ああいう袋は、道路沿いのシュロの木立から勝手に生えてくるものではない。部隊と一緒に船で運ばれたはずだ。わたしは戦争犯罪の専門家ではないが、捕虜の頭に袋を被せるのが国際的に合意された戦時慣例であるとは、とても考えられない。

わたしがイラク人に代わって言えるかぎりでは、アブグレイブの事件の詳細が衝撃を与えたのは疑いないとしても、そのどれひとつとして、実質的には、ニュースになっていない。占領の基本原則として、(収容所の内外で)暴力が用いられ、CPA(暫定占領当局)とその最高「行政官」L・ポール・ブレマーが、選挙に裏付けられた司法と権限、すなわち民主主義体制ではなく、企業利権中心の無法のシステムを定めたのだと誰よりも知っているのは、なんと言ってもイラク人である。

バグダットに設定された閉鎖空間、グリーン・ゾーンの中から、ブレマーが公布する「民主主義」は、イラク人など眼中になく、「請負」企業の天国を創るだけである。(わたしにとって、昨夜のABCテレビのニュース(14)で初めて聞いた用語だが)アメリカ「人間開発チーム」スタッフとして「尋問専門家」と「言語学者」を雇い、米軍直轄収容所へ派遣して、財を築き、今もたっぷり儲けている会社もある。今でも、そのうちの少なくともひとつ、CACIインターナショナルは、「アフガニスタン=イラク=コソボ」の現場で、「節度のある指揮監督(15)」に従って、働く意欲のある尋問経験者の求人広告を続けている。(応募資格: 敵対的な現場環境、最低限の医療条件で働けること。優秀なコミュニケーション能力、極限状況にあって長時間勤務に耐える体力。……出張できる方。効果的な意志疎通能力。……憲兵業務と武力防衛任務に必要な知識。語学専門家と現地通訳を使った尋問と面接の経験。作戦出動時の尋問戦術に用いる記録機材の知識」)[CACIは「統合分析センター社」の略語だが、そのままで公式社名=同社サイトFAQによる]

イラクにおける非常に旺盛な「情報」需要が、雇用の本格的な急増に繋がったと英紙ガーディアンのジュリアン・ボーガーが伝える。記者は「CACIインターナショナル(バージニア州)アブグレイブ駐在チーム約30名のひとり」トリン・ネルソンに面接取材し、その一部を記事(16)にした――

「昨年、下請民間人としてアブグレイブに移る前、陸軍情報部将校としてグァンタナモ湾勤務の経験があるトリン・ネルソンは、虐待の原因は、米軍情報部司令官の失策および私企業への過度の依存にあると批判する。顧客の要求に応えようと企業が苦慮する結果、『料理人、トラック運転手』資格で派遣された従業員が『尋問官』の代役を務めているとかれは言いきった」

イラクの米軍勾留施設に収容されたイラク人の延べ人数は、すでに多すぎる。いくつかの推計によれば、延べ4万3000人が収監され、そのうちたぶん8000人は今も獄中にある。(「プログレッシブ・トレイル」サイト(17)で、先ほど、ジョー・ワイルディングが非常に詳しく述べたように)この類の事実は、ほとんど報道されていない。イラク人捕虜たちの家族による抗議行動が、壁の外で何ヶ月もぶっ通しで続けられている。

ニュースにならない情報は他にもある。イラク国内に潜入してくるのは「テロリスト」に限らない。暗殺部隊の要員だった前歴を持つ傭兵、アパルトヘイト時代の南アフリカ、ビノチェット政権のチリ、ミロシェビッチのセルビアで、体制側の暗殺部隊や凶悪な任務で活動していた傭兵たちが、暫定占領当局の資金で雇われ(18)、入国している。

アメリカにいても、簡単なGoogle検索で(わたしでさえも)知りうる情報や、拘置施設の米軍看守がこっそり教えてくれる情報は、もちろんイラクの人たちも誰に教わらなくても知っていた。(「アブグレイブでの日常について、憲兵隊軍曹マイク・シンダーが『囚人を虐待するのは普通のことでした』とロイター記者に語った。『殴っているのを見るのは、日常茶飯事でした』)

アメリカ直轄の「監禁」システムとして、イラク全域に16ないし17ヵ所の収容所が設けられていることが判明している。その内部では、殴打、虐待、拷問、陵辱、そして殺人が組織的におこなわれている。1万人を超える人びとが収監され、その多くは罪名も告げられていない。家族にも所在が掴めないことも多く、時には記録もされず、(諜報員たちが「幽霊捕虜」とはっきり言うように)存在さえも抹消され、データもない混乱状態で放置されている。(当のラムズフェルドでさえ、公聴会の証言で、囚人の数を推定値で言えただけである)

一流新聞は、取材記者、翻訳スタッフ、助手、ドライバー、器機保守エンジニア、その他を動員して、ニュースを伝えるが、バグダッドの若い女性「リバーベンド」は、治安が悪いために自宅に篭もることが多く、さながら軟禁状態で、ブログ[ウェブサイトに書き込んだ日記風記事]を一人で発信しているが、かのじょの情報はメディアのものより上質であり、このシステムの本質について分かりやすく教えてくれる。

リバーベンド(19)は、占領された祖国における勾留の悪夢について、親しく面会した囚人縁者の嘆きについて、これまでも多く書いているが、ここに最近のものを抄録してみる――

「誰でも、アブ・グレイブや他の刑務所でこのようなことが起こっていることを知ってはいた…しかし、写真を目にするということは、とにかくその認識を明白で確実なものと突きつけられること。アメリカとイギリスの政治家は、『アブ・グレイブ刑務所に収容されている人々は実際のところ犯罪者である。しかし…』などと厚かましくもテレビで発言している。しかし、ここイラクでは誰でも、何千もの無罪の人々が勾留されていることを知っている。ある者は単に間違った時の間違った場所にいたことにより、またある者は「疑いがある」という理由で勾留されている。新政イラクでは、『神の奇跡によって無罪であると証明されるまで有罪』なのである。

「人々は非常に腹を立てている。人々の反応を的確に表現する方法が見あたらない―占領を支持するイラク人さえあまりもの戦慄に沈黙している。人々がどのように感じているか―あるいは、私自身がどのように感じているか説明できない。イラク人の死体の写真のほうがアメリカの軍事技術によるこのグロテスクなショーを見るよりまだ我慢できる。アブ・グレイブ刑務所を監視するケダモノによって性的に虐待され貶められるより、むしろ死んだほうがましだろう。

「私は時々解決策を提案してくれるようにと依頼する電子メールを受け取る。いいでしょう。本日のレッスン:強姦せず、拷問せず、殺さず、まだ選択の余地があるような場合-できることなら干渉しない…混乱? 内戦? 流血? 私たちは私たちの運命を引きうける―だから、あなた達の操り人形、あなた達の戦車、あなた達の精密兵器、あなた達の愚かな政治家、あなた達の嘘、あなた達のから約束、あなた達の強姦魔、あなた達のサディスティックな虐待者を連れて出ていって」
[上記引用は、リバーベンド・プロジェクト=山口陽子氏訳稿よりの抄録。TUP速報308号としても配信済み。「リバーベンドの日記」日本語版:
http://www.geocities.jp/riverbendblog/ ]

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「楽しんでます……あなたがいなくて、残念」

学者であれば、「現在の騒動の主因に立ち返って」とでも言うだろうが、話題を写真に戻せば、今、わたしたちが知るように、さらに多く、もっとひどいニューリリース版の写真(20)が明るみに出ている。ワシントン・ポスト最新号の記事「監獄映像、新たに浮上(21)」は次のように書き出している――

「この写真コレクションは、まるでイラクから持ち帰った観光記念である。アメリカ兵たちがモスクを背景にポーズをとっている。兵士が砂漠でラクダの背中に乗っている。次のはイラクの監獄の写真であり、兵士がイラク人捕虜の首に巻かれた紐を引っ張っている。裸のイラク人が顔をゆがめ、床に転がっている。

「ワシントン・ポストが入手した1000点以上のデジタル画像のなかには、捕虜と思われる裸の男たちが積み重なり、それを兵隊たちが取り囲んで立っている写真もある」

アメリカ本国で貧乏をかこつ若者が、ブッシュ政権のおかげで、アメリカ軍の威力を借りて世界を睥睨(へいげい)し、タグバ報告にある言葉を借用すれば、「いっぱしの人物」の気分を味わったのだ。ラクダ、砂漠、イラク人の首紐を引っ張る軍服の若い女――おびただしい数の映像がデジタルカメラで捉えられ、コンパクトディスクに収められ、パソコンで故郷の人びとへ送られる。19世紀植民地の絵葉書、あるいはワクワクする(とは言っても、時には征服された世界のゾッとする光景であったりする)立体スライドにひとひねり加えた現代版デジタル映像である。

「楽しんでます……あなたがいなくて、残念!」 お隣の息子や娘が送ってきた映像のおかげで、アメリカ人は別世界に浸ることができる。(「あんなことをするのは、あの子の本性ではありません。あの子の気質には、悪意なんてこれっぽちもないのです。……狩りに行っても、獲物を殺せなかったほどなのです(22)」) OK、いいだろう。実際には、大勢の息子や娘たちが米軍収容所のお抱えになったのであり、看守役を務め、とてもじゃないが心優しい振る舞いはしなかった。だが、親切にはなれなかったにしても、うんざりするハンバーガーや量販店レジ係の運命から逃れようとしていたのは紛れもない。言うなれば、ジョージ・ブッシュのアメリカ軍は、もともと先が見えていた、あるいは運命付けられていた以上のものに変身する機会を数多く提供してくれたのだ。

若者たちの写真に見る、ラクダとか、紐付き人間の「異国趣味」は、19世紀か20世紀専門の歴史学者なら、すぐ分かることだが、「義和団の乱」[清朝中国の1899年に蜂起。日本を含む列強8ヶ国が鎮圧]で国際遠征軍が北京を制圧したときの、首を刎(は)ねられた中国人のスナップ写真、アジア太平洋戦争中、南京攻略などの「戦勝」記念として、日本兵たちが誇らしげに持ち帰った残酷写真の「アルバム」、あるいはベトナムから故郷へ送られた(そして1960年代末期、「アングラ新聞」と称して出版された)同じようなスナップ写真などと同列の、野蛮な植民地占領の産物である。征服すべき未開人といった意識があれば、流血と異国趣味とは、お似合いの道連れなのだ.さらに言えば、フランス人が「開化任務」と言ったように、遠征は、洒落た心躍る名前を与えられていたのである。文明人よりも下等な人間という意識があったからである。こういう行為は、文明世界の出来事であれば、もちろん蓋をしたくなる代物だった。だが、同じような状況の例外的なケースとして、わたしたちのこの国で、今世紀まで伝わっているリンチのお祝いカードの類がある。

「これらの写真は、植民地主義の行動パターンを表現している」とワシントン・ポストに書くフィリップ・ケニコットの記事(23)は、迫力がある。「これは占領地住民を貶(おとし)め、土地の伝統を侮辱し、征服された民を陵辱するものだ。これは例外なのではない。場所を変えて、インドネシア人をオランダ兵が、アルジェリア人をフランス兵が、コンゴの人びとをベルギーの兵隊が惨殺しているというふうに、どの場面の写真であってもよかった」

現在の混乱は、わたしたちからすれば、ずっと以前から持ち越したものだが、細部に現代特有のひねり(デジタル写真が行き来するコンピューター網)が利いているために、予測不能になっただけで、憎悪の経路そのものは、案外、一直線なのかもしれない。理解するだけなら、吟味はもう十分だ。それでも、アブグレイブのこれまでの捜査実態を調査する「独立調査委員会」を設置するというラムズフェルドの金曜日(5月7日)の発言には、一定の魅力があるとわたしは考えたいのだが、おそらくは、以前に数多くなされた検討の調査結果を究明する委員会へと繋がっていくだけだろう。とどのつまり、土曜日(5月8日)のニューヨーク・タイムズ記事(24)が言う「ブルーリボン(最高の栄誉)」委員会は、今のところ、ペンタゴンの諮問機関である防衛政策協議会のメンバーだけで構成され、この協議会は、つい最近まで、現政権に巣くうネオコンの「闇のプリンス」として名高いリチャード・パールに率いられていたのである。「厳密に言って、どこから独立しているんですか?」と質問したほうがよいだろう。

もちろん、これはすでに調査済みなのに、なぜ調査するのかという疑問が残るし、タグバ将軍の仮借のない報告は、軍規に反して機密扱いになり、「ポストカード」がイラクから漏出するまで、一般国民の目から隠されていたのである。(アメリカ科学者連盟の秘密主義究明調査報告(25)によれば、国家安全保障上の機密指定指針を規定する行政命令は「いかなる場合であっても、違法行為を隠匿する目的で……情報が機密指定されてはならない」と記している)いまさら調べなくても、簡単な論理だけで、グァンタナモからアブグレイブの恐怖の舘までハイウエーで直行できる。アブグレイブは、「暴虐」(ベトナム戦争に関して、ケリー上院議員の謝罪に使われた言葉)を撒き散らした道路上の通過点のひとつに違いないし、グァンタナモにもきっとある無法監獄も同様である。

この政権から発せられる評言には、たいてい、弁解がましいのから脅えたのまで、「イメージ」、「立場」、「評判」や「信頼性」の失墜、「まちがった印象」を与える惧れ、それにもちろん「応急手当」がはっきりと書き込まれている。こういう物の言い方が、少しでも筋が通って聞こえ、あるいはどこか本物の謝罪らしく聞こえると感じるのは、帝国バブル世界の内部にいるアメリカ人だけである。例えば先日、アル・アラビア衛星テレビの会見番組で、大統領は語った(26)――

「わが国では、虐待の主張がなされた場合、もとい、この場合、主張ではなく、われわれは写真を見ましたが、完璧な捜査が行われ、正義が達成されることになります。わが国の制度では、有罪になるまでは推定無罪であり、それでも制度は透明であり、公開され、国民は結果を見ることになります。これは深刻な事態です。わが国に跳ね返る不利な事態です。アメリカの市民は、見たことに愕然としています。中東の人びとが愕然としているのと同様です。わたしたちは同じ深い関心を共有しているのです。だから、われわれは真実を見つけるでしょうし、完璧な捜査をするでしょう。世界は捜査と正義が達成されるのを目撃することになるでしょう」

大統領が言った「推定無罪」は、いかにもアメリカの考え方であるが、この場合、通用するのはアメリカ人にとってだけである。(それにもちろんのこと、アメリカ本土の営倉や監獄において、個人的なグァンタナモ体験をもつアメリカ市民、ホセ・パディラとヤセル・エサム・ハムディにとっては、とても通用しない) じっさい、それこそが、ブッシュ政権のポスト9・11政策の核心なのだ。現在の状況をつくりだした政権の「猿の浅知恵」的な動きとは、地球上にあるアメリカ支配下の領域、例えば主として米軍基地や現代版の帝国「艦船」(27)を、「アメリカでない場所」、すなわち治外法権であり、最高裁判所や国際赤十字など、外部からの監視の眼がまったく届かない場に区分けすることだった。もちろんグァンタナモが、この方針における模範的な成功例であり、わが国の新しい在外刑罰システムの到達点とされている。

この政権は、[アフガニスタン侵攻から]2年たっても、選りぬきの敵を永遠に葬り去ることを狙った不正なものも含めて、一度も裁判を行っていないという事実が、このシステムについて知っておくべきすべてを語っている。(それに、お手盛りの裁判で負けるようなことがあるとしても、「テロに対する戦争」が続くかぎり、捕虜を閉じこめっぱなしにしておく権利があると、かれらはきわめて明確に表明していることをお忘れなく) これもまた、今ではアメリカの流儀なのだ。もう一度、言っておくが、ここで話題にしているのは、「無罪」を決定する仕組みを備えた、司法の条件に適う制度ではなく、もっぱら意志の破壊と情報の収集のみを目指すシステムなのであり、こうした本質的な性格のゆえに、これは拷問システムなのだ。

ところで、グァンタナモ収容所の司令官だったジェフリー・ミラー少将が、最近、イラクへ派遣され、同地の拘置システムを「総点検」することになったことに注目しておこう。(わが国の、地球規模に広がるミニ「収容所群島」は、すでに大きく成長していて、独自の出世コースさえ備えるようになっている)ほんの数日前、イラク国民に「謝罪」する高官たちの列に並んでいたミラー少将は、あの国に50余りある、頭に被せる袋などの苛酷な尋問テクニックのうち、たぶん10ほどは廃止すると広言した。ニューヨーク・タイムズ紙のデクスター・フィルキンス記者が次のように伝える(28)――

「しかし、かれは、捕虜の睡眠を妨げたり、『ストレス環境』に置くといった手法は、必要に応じて敵側勾留者に対して用いる50余りの強制手段に含まれると指摘し、正当な尋問テクニックであると擁護する。(かれは、睡眠妨害は手放したくないと思い直したようだ)……アメリカの戦争努力に貢献するために、[グァンタナモとイラク]両地で、できるだけ多くの情報を引き出すことが、本官の主任務であると了解しているとかれは語った。『われわれがグァンタナモで達成した成果、それに、最大限の情報を獲得する努力の一環として、グァンタナモのような環境を整えることができるわれわれの能力に、われわれは限りない誇りを感じている』とミラー将軍は語った。……かれは民間の尋問専門家の活用も必要であると弁明し、グァンタナモでは30名を契約雇用していたと言う」

これもまた、今になって、わたしたちも知っていることだが、ミラー少将がアブグレイブを初めて訪問したのは、2003年秋のことであり、その時、流刑地に関して、スター並みに著名な権威として、ちょっとした有益な助言を与え、システムを軌道に乗せたようなのである。「イラクにおける軍収容所(29)たるものは、『尋問完遂機能』を担うべきであり、看守の任務としては、『被勾留者の有功活用を図るための条件を整える』べきである」という教えをかれは伝授した。アブグレイブ騒動の引き金をひいたニューヨーカー誌記事の筆者シーモア・ハーシュが、フォックスTV番組「オーライリー・ファクター(30)」に出演し、「(アブグレイブに対する調査の)ひとつは、グァンタナモの関係者であるミラー少将が実施しました。かれの報告は極秘になっていますが、あの収容所で起こった事態に類することは、基本的に、まさしくかれが実施を推奨していたことだったと言うことはできます。彼は指揮系統の切り離しを望みました。陸軍諜報部による収容所の管理を望んだのです」と解説した。将軍は、みずから囚人に手を振り上げたり、「ストレス負荷」を命令したのか否かはさておいても(実際に、命令したようだが)、拷問を監督していた事実はあり、事の本質そのものからして、かれに繋がる上官たちと同様、訴追に値するはずだ。

アメリカ以外の世界で、ブッシュ政権が2年間以上もかけて構築したシステムそのもを訴追対象にすれば、「永遠に有罪」である。被告アメリカは、海外において、グァンタナモ、アブグレイブ、バグラム空軍基地、インド洋ディエゴガルシア(不沈「空母」島)の「正義収容所」、おびただしくある勾留区域と留置施設、ほんものの航空母艦の営倉区画、おまけに「友好同盟国」現地の監獄さえも動員して、捕虜たちを、拷問目的で(程度の差こそあれ)堂々と送り込み、推定無罪の原則だけでなく、無罪を証明する機会さえも奪っている。

さまざまに虐待され、拷問されて、今は外に出た(したがって、面接できる)イラク人の元捕虜たちへの取材で、もっとも驚くべき、しかしまったく論じられない側面は、釈放された理由を質問されて、決まって分からないと回答することである。捕虜たちは、ある日唐突に、まもなく釈放だと知らされたり、だしぬけに街路に放り出されるだけなのだ。わたしに言えるかぎり、釈放の理由が説明されたケースはない。それも不思議ではない。結局、徹頭徹尾が超法規的な世界のできごとであり、「無罪」の概念そのものがないので、釈放の説明などありえないのである (この類の事情は、カフカの名高い小説『審判』そのものだ。小説の情景は、作者の想像の範囲さえも超えて、かつて全体主義世界を規定する基準になっていた)

たぶん、無罪になるわけではなく、もはや利用価値はない、あるいは初めからなかったと、遅かれ早かれ判明し、拘引されたときと同様、何の説明もなく収容所から放り出されるのだ。ナイト・リッデル紙のロバート・モラン(31)が、最近、アブグレイブから捕虜が釈放される様子を取材し、その奇妙な光景を報告している――

「火曜日[5月4日]、問題のアブグレイブ収容所から釈放された大勢の捕虜たちは、熱気がこもるオンボロ・バス3台に詰め込まれ、米軍ハンビー多目的戦闘車に警備されて、5時間近く、イラク中央部を連れまわされたあげく、サダム・フセイン出身地のティクリート近郊で、説明もなく、砂利採取場の真ん中に置き去りにされた。バグダッド北方200キロメートル近くの人里離れた場所で、少なくとも100人の捕虜たちが放り出された理由は定かでない。匿名を条件で取材に応じたひとりの捕虜は、『これが民主主義か』と言いはなった」

まさか! これは「民主主義」とはまったく別物である。これは、もっぱら情報の割り出しを意図した、手段を選ばない治外法権システムの論理的帰結であり、最後のおまけの、ちょっとした拷問だった。フランス植民地時代のアルジェリアにおける叛乱と拷問を描いた映画、ジロ・ポンテコルボの『アルジェの戦い』が、2003年にペンタゴンで上映された理由は、今になってわたしたちにも分かる。観客の誰もが、アルジェリア人のレジスタンスを屈服させるための拷問だけに意識を集中し、映画の結末を無視した(32)のは実に残念だった。

ここに、すべての皮肉が集約されている。「抵抗を弱める」ための陵辱から険悪な代物まで、ありとあらゆる手段が、まずアルカイダの厄介者を責め落とし、次に、拷問と殺人のサダム体制ゆずり、不屈このうえないバース党員たちを屈服させることを意図していた。ところが、これらの収容所と「実施」部隊が情報を吸い上げれば吸い上げるほど、イラク(と世界)は不安定になる。わが国の敵を砕くために、このような恐怖政治を適用すればするほど、この政権は自己破滅に近づくことになる。(ある国防総省顧問が、仕事で同僚の役人たちの表向きの顔は、満足そうな仮面を被っているが、内面では、バグダッドの情勢について、苦虫を噛み潰していると語った(33)。政権のイラク政策にまつわる議論がはじまると、「まるで『デッドマン・ウォーキング』[映画タイトル。デッドマン=死刑囚]である」) 今や、占領地からポストカードの形で本国に実状が伝えられたポスト9・11時代の拷問システムは、ブッシュ政権の傷を広く押し広げているようである。「拷問」の重圧の下で、破産しているのは、虐待者の方だ。ここに教訓がないと言うなら、教訓とはいったい何なのか、教えてもらいたい。

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結局、わたしたちは何者なのだろう?

英国諜報部員の経歴を持つ小説作家ジョン・ルカレが執筆した冷戦サスペンス・シリーズのなかで、もっとも著名なのが『寒い国から帰ってきたスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の2作である。かれのシリーズ作品を総合的に読めば、あの時代の基本的な構造を知ることができる。ロシアのKGB、英国のMI6、わが国のCIAは、すべて「闇の中」に潜りこんで、スパイ対スパイの死闘を繰り広げているわけだが、そのアンダーグラウンド領域では、それぞれの陣営が、他陣営による致命的な破壊活動を阻止していると信じている一方で、どこか奇妙な状況に踏みこむことになる。敵のスパイたちも、わが方のスパイたちも、名目的には防衛している自己の社会よりも、お互いのなかに通じ合うものを感じるようになっていくのである。地下世界で、かれらの生き方が融合しはじめるのだ。ルカレは、諜報の暗黒世界に潜り込んで、そこにある本質の洞察に満ちた世界観を、いま読んでも面白い小説の形で初めて持ち帰ってくれた。

それにしても、奇妙なことがある。ルカレが最新作サスペンス『アブソリュート・フレンヅ(34)』で明らかにしているように、ソ連が崩壊したとき、最後に勝ち残った地球規模の超大国は、テント(基地)を片づけるかわりに、旧敵陣営から多くのものを吸収し、まもなくさらなる暗闇へと潜り込んでいった。その過程で、アメリカ自体のシステムは、海外の帝国領地で(そして本国でも)ますます「絶対化」し、ますます抑圧的になり、換言すれば、ますますソ連化した。

その不快な結果を、アブグレイブ、その他のいたるところに、わたしたちは見ている。主要な敵対軍事勢力はすべて消滅した状況で、ペンタゴンは右肩上がりで膨張し続けている。ブッシュ政権が、アメリカの原体験であるベトナム戦争と冷戦を再現している、混乱しきった悪夢の光景が広がっている。とりわけ、ほとんど注意されることはないが、2大強国併立の時代に夢であった一方通行の政策を、この政権が強行している光景のうちに、わたしたちは不快な結末を見ている。

ロシアの軍事力が存在し、核武装してからの冷戦期において、アメリカの代表的な姿勢は「封じ込め」政策であったと一般に考えられている。だが初期の時代には、これとは異なった政策が熱っぽく論じられていた。この政策を、ドワイト・D・アイゼンハワー政権の国務長官(しかもCIAの当時の長官アレン・ダレスの実兄)ジョン・フォスター・ダレスは、それを「巻き返し」と呼んでいた。わが国は、ソビエト帝国の境界線を破壊工作と軍事力を駆使して巻き返そうと努めていたのである。それは、(朝鮮半島での熱い戦争期の数ヵ月、北朝鮮を中国国境近くに追いつめた以外は)実現されない果てしない夢だった。

ポスト・ソビエト時代の今、アメリカ政府は、冷戦期両陣営が見ていた夢の最悪の部分を引き継いでしまっている。それは、世界支配の願望である。(政府の望みどおりに、わたしたちが世界支配を誓ったのは、いつの日だったか、憶えておられるだろうか?) 政府は、敵対勢力に対する治外法権の刑罰システム、すなわち、あらゆる詮索好きな目から隠された地球規模のシベリアを望んでいる。さらに政府は、今では哀れにも困窮してしまった旧ソ連の残骸、すなわち(核武装しているので、今でも危険な)プーチンのロシアを巻き返したがっている。NATOが、わが国の熱烈な支援を受けて、旧ソ連圏の西側周辺部に深く進出したように、アメリカ軍は、旧ユーゴスラビア、イスラム圏の旧ソビエト社会主義共和制諸国、すなわち中央アジアのスタン諸国、(旧ソ連が惨敗を喫して失墜し、同時にアルカイダ誕生の原因を作った)アフガニスタンへと軍事基地の足跡を進め、さらに先を見越して、カスピ海油田の原油をヨーロッパ以遠に運ぶためのパイプラインの要地、旧ソビエト社会主義共和国のグルジアに進出している。

さて、これがブッシュによる世界である。この世界から、あの写真が届いた。
トム

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出所リンク一覧(2行以上にわたるものは、正しくヒットするために、全体をブラウザにコピーしてください)
1 http://www.baltimoresun.com/news/printedition/bal-te.pentagon06may06,0,5351320.story?coll=bal-pe-asection
2 http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A11017-2004May8?language=printer
3 http://www.nytimes.com/2004/05/08/politics/08ABUS.html?ex=1085067955&ei=1&en=3
81f7798db964090
4 http://www.msnbc.msn.com/id/4894001/
5 http://www.cnn.com/2003/US/04/03/sprj.irq.woolsey.world.war/
6 http://www.whitehouse.gov/nsc/nss.html
7 http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A37943-2002Dec25?language=printer
8 http://seattletimes.nwsource.com/html/nationworld/2001923638_early09.html
9 http://hrw.org/english/docs/2004/03/08/afghan8073.htm
10 http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?pid=1355
11 http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A2372-2004May4?language=printer
12 http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A5840-2004May5?language=printer
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18 http://news.pacificnews.org/news/view_article.html?article_id=68c393b4db74f12d009eab2321704610
19 http://riverbendblog.blogspot.com/2004_05_01_riverbendblog_archive.html#108392335918002921
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21 http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A5623-2004May5.html
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25 http://www.fas.org/sgp/news/2004/05/index.html
26 http://www.whitehouse.gov/news/releases/2004/05/20040505-2.html
27 http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?pid=1344
28 http://www.nytimes.com/2004/05/05/international/middleeast/05WARD.html?ex=1084898154&ei=1&en=acbc772291d5dee9
29 http://www.guardian.co.uk/print/0,3858,4917385-103682,00.html
30 http://www.foxnews.com/story/0,2933,118955,00.html
31 http://www.realcities.com/mld/krwashington/8588263.htm
32 http://observer.guardian.co.uk/focus/story/0,6903,1212585,00.html
33 http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A11227-2004May8?language=printer
34 http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/0316000647/nationbooks08
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[筆者] トム・エンゲルハートは、ネーション協会提供サイト『トム・ディスパッチ』編集者、『アメリカ帝国プロジェクト』共同開設者、出版社メトロポリタン・ブックスの顧問編集者。
著書:小説『出版最後の日々』(未邦訳)The Last Days of Publishing
『戦勝文化の終焉――アメリカ勝利至上主義と冷戦の歴史』(同)The End of Victory Culture, a history of American triumphalism and the Cold War
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[原文] Postcards from the edge: “We saw the pictures”
by Tom Engelhardt, posted March 30, 2004 at TomDispatch.com
http://www.nationinstitute.org/tomdispatch/index.mhtml?emx=x&pid=1430
Copyright C2004 Tom Engelhardt TUP配信許諾済み
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翻訳 井上 利男 /TUP