TUP速報1000号 英国国会における若き議員の反核演説 https://www.tup-bulletin.org/?p=3092
(前書き:キム・クンミ、本文翻訳:法貴潤子)
リチャード・タンター: ニコラ・スタージョンと核兵器保有国イギリスに対するスコットランドの脅威
2019年12月22日掲載
今選挙でのスコットランド国民党の大勝は、スコットランドの独立だけでなく、英国の核保有国としての存続に深刻な脅威となる
英国の選挙で保守党が勝利したことに対する様々な批評-ぞっとするというものから喜びに満ちたものまで-のほとんどは、戦略的かつ軍事的に最も重要な影響を見落としている。いや、ブレグジットのことではない、それが英国の没落に拍車をかけるとしてもだ。スコットランドで、スコットランド国民党がほぼ全席を勝ち取ったのは、スコットランドのアイデンティティとヨーロッパへの愛着心を更に強めただけでなく、英国が世界で初めて核兵器を放棄する主要国となる方向へ動いている、その兆候を劇的に加速しているとも言える。
これは英国では目新しいことではなく、また英国がどのような国でありたいかという問いに核兵器をどう位置付けるかに深く関係している。長い間、英国は核兵器を持つべきだと言う意見の擁護論者は守勢であった。アイデンティティ政治家というものがあるとしたらまさにそうである-と同時に嘘くさい-ボリス・ジョンソンは2015年に、もし英国が核兵器を失ったら「我々は世界的な権威を公的にあからさまに失うことになる。それは英国は取るに足らないと思われてもよいという信号を送ることになる。国連安全保障理事会でのステータスをブリュッセルの官僚たちに喜々としてくれてやるということだ。英国は軍事的に去勢された雄鶏になるようなものだ」と述べた。
BBCニュースの選挙討論会で、選挙に出た主流政党7党のリーダーは「もし英国が核攻撃にさらされたら、あなた、或いはあなたの党のリーダーは国を守るために核兵器を使いますか」という質問に対し、4名が「はい」、3名(緑の党、プライド・カムリ、スコットランド国民党)が「いいえ」と答えた(訳注:プライド・カムリはウェールズの地域政党)。
スコットランド国民党の党首ニコラ・スタージョンはすぐさま、同党が長年支持し取り組んできた立場を反映し、きっぱり明確な返答をした。
スタージョン:「いいえ、絶対に断固として使いません。なぜなら、それは何百万の人々の死を招き、我々の文明を滅亡させることになるからです。私はいかなる状況であっても核兵器は使いません。」
BBC:「もし絶対多数政党がない状況で交渉する場合、トライデント(訳注:核弾頭を搭載した潜水艦発射ミサイル)はスコットランドの独立やブレグジットと同じくらい重要問題ですか。」
スタージョン:「トライデントはお金の問題でもありますが-私はこれに2000億ポンドも無駄遣いするべきだとは思いません-モラルの問題でもあります。大量破壊兵器にではなく、もっと医療や教育に投資すべきです。」
緑の党やプライド・カムリは英国の議会政治においてそれほど重要ではないかもしれないが、スコットランド国民党は確実に重要だ。
既にもう、「独立した核戦力」によって保たれる英国の伝説的な「最終防衛政策」は、英国が実は(米国に依存する)核の顧客国家であることをかろうじて覆い隠す隠れ蓑に過ぎない。スコットランド独立は、その戦略的には笑いぐさともいえる英国の立場をも危うくすることを意味し、それとともに英国が-あるいはより正確にはイングランドが-ズタボロになって地に落ちた帝国としての体裁にすがりつく姿を映し出す。
英国核兵器の要は、4隻の古いヴァンガード級原子力ミサイル潜水艦であり、それぞれが12基のトライデントII-D5原子力ミサイルを装備し、40の100キロトン核兵器を搭載している。英国は合計120基の「稼働可能な」ミサイルを保有しているが、その半数は備蓄だ。4隻の潜水艦のうち1隻は常に海に出ており、残る3隻は母港に停泊しているが、これらの潜水艦はどこにいようとも様々な面で米国に依存している。ミサイルは米国製で米国から借りている。弾頭は「英国化」されたバージョンだが、ロスアラモス国立研究所が設計し、テキサスで製造された。アメリカ戦略軍の「英国部門」が攻撃ターゲットを決定し、NATOと米国の核ターゲット攻撃回避について決める。すなわち核のホロコーストが起きた時の資源ロスの可能性を減らそうというわけだ。
英国の核兵器における決定的な問題は、これらの潜水艦が現在、グラスゴーから40キロ離れたファスレーンを母港としており、スコットランド国民党は長らくこの港の閉鎖を呼びかけて来たことだ。唯一現実的な代替案は、ウェールズのナショナリスト達がスコットランドの前例に倣うリスクを伴うものの、貨物及びガスを扱う港、ウェールズのミルフォード・ヘブン。それと、25万人が住むプリマスに囲まれた既に混みあっているデヴォンポート海軍基地のみだろう。既に海軍スペシャリスト達は、ファスレーンに代わる唯一実行可能な選択肢は、大西洋を渡った向こうにあるジョージア州(米国)にあるキングス・ベイを潜水艦の母港とすることだとみている。
スコットランド独立までの道のりは遠いが、核の抑止論ドグマの信奉者たちはしばらく前からこの問題に気付いていた。驚く人もいるかもしれないが、スタージョンの見解に対する最新の批判は原子力科学者会報の共同編集者からのもので、例の討論会について書いた「核抑止論を台無しにする英国人もいる」というタイトルの会報記事だ。
大西洋主義(訳注:大西洋を挟んだ北米とヨーロッパ諸国の緊密な関係に基づく政治、経済、防衛政策の擁護者)的な核正統説への冒涜ともとれるスタージョンの姿勢に対し、記事の筆者であるジョン・クルジザニアックはこの脅威を一蹴し、スコットランド国民党など取るに足らない政党だという主張を繰り広げている。スタージョンなど関係ない、あるいは金で買収できる、というわけだ。
クルジザニアックは、抑止論は安泰だ、なぜなら肝心なのは英国ではなくNATOなのだから、と言う。
「英国の政治家は、抑止論を台無しにすることなく報復を拒否することができる。なぜなら、英国に対する軍事攻撃があった場合、米国はそれに反撃することができるという米国ドクトリンに何ら変わりはないからだ。米国に汚れ仕事をさせる方がよい。」
あるいは単に、「ニコラ・スタージョンは、自分の支持基盤の人々が聞きたいと思うことを言ったに過ぎない」から、安心して無視すればよい、ということか。
核保有国であるが故の呪縛は、英国でも米国でも強く、自称リベラルなアメリカ人の間でさえ核抑止論は神聖に近い。現実を見ると、何十年も続いてきた英国のコミュニティ・ベースの反核運動は、地域によって温度差こそあれ、あまり自主性のない核の力に対する戦略的実用性及びモラルの点において、非常に懐疑的であった。英国におけるトライデント更新についての長い議論-テリーザ・メイの就任によってついに更新することに決まったが-は、様々な点で興味深く、通常英国でもオーストラリアでも、国防関連の発表につきものの形ばかりの「地元協議」が行われるのとはだいぶ違う。
特筆すべきは、筋金入りの保守派や主流の軍事専門家が、英国の経済的困窮を鑑みて選ぶ時が来たと主張したことだ。どの政府でも、今後30年に渡ってかさむトライデントの巨額の更新コストがもたらす不確かな戦略的利点と、米国が決める中東での戦争に英国軍が加担し続ける負担のどちらかを選ばなければならない、と。
いずれにせよ、英国の核兵器政策において核抑止論を無邪気に信じるのが当然であった時代はもう終わっている。英国が核放棄国の方向に向けて動き出すのは、既におとぎ話ではなくなっているのだ。
原文: “RICHARD TANTER: Nicola Sturgeon and the Scottish Threat to the British Nuclear Weapons State” by Richard Tanter
John Menadue — Pearls and Irritations, Posted on 22 December 2019
URI: https://johnmenadue.com/richard-tanter-nicola-sturgeon-and-the-scottish-threat-to-the-british-nuclear-weapons-state