FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年7月22日(木) 午前0時06分
◆アメリカ軍国主義――地球の環境と平和の破壊(1)
日本在住の研究家、リチャード・ウィルコックス氏による米軍基地問題に関する論文です。アメリカの地球規模の戦略、それが引き起こす人類に対する脅威と環境破壊の可能性について、わかりやすくまとめてあります。ウィルコックス氏が論述している「戦争と環境破壊」というテーマは、行き詰まっている反戦運動を切り拓いてゆく上でも、広く取り上げられるべき課題です。訳文を3回にわたってご紹介します。
転載・翻訳許諾済み TUPメンバー/菅原 秀
*(訳注)本論文の原文はAPAスタイル(アメリカ心理学会書式)で書かれているので(ミラー2003年)などという表記は、原書の出版年ではない。ウェブ・サイトまたは図書の年号を示している。(引用図書、ウェブ一覧は、3回目の最後に添付予定)
アメリカ軍国主義――地球の環境と平和の破壊(1)
リチャード・ウィルコックス
1、序
私がアメリカ人の生き方の長所について書くとすれば、せいぜい30ページ程
度にしかならないだろう。
地理上、アメリカは広大であると同時に恐ろしい。なぜ恐ろしいと言うかとい
えば、今、アメリカほど人間と自然が完璧に分離している国はないからだ。こ
の世界を自由な人々の社会と呼ぶのは罰当たりだ。狂気のような妄想を抱きな
がら地球からやみくもに、しかもあり余るほど収奪しているこの常軌を逸した
なりわいが、進歩であり光であるというのだろうか。われわれはこの世界に対
して何をしなければならないのか?
―― ヘンリー・ミラー 冷房装置の悪夢 (ミラー2003年)
恐がるなら、ずっと嫌わせておけ(oderint dum metuant)
―― ローマ皇帝カリギュラ (パリー 2003年)
われわれの偉大な国家を守るために、地球上のあらゆる場所に死と暴力を輸出
する。
―― 9.11の後の、米国大統領 ジョージ・W・ブッシュの発言 (パフ
2003年)
この論文では軍国主義を広義の意味で用いる。執筆の時点ではアメリカは軍隊
によって直接コントロールされているわけではなく、名目上はシビリアン・コ
ントロールが機能している。しかし、パックス・アメリカーナ(米国による平
和)という名の帝国主義にとって不可欠なのは軍事作戦の拡大である。つまる
ところアメリカ軍事帝国は、地球上の多くの地域の社会と自然に不安定をもた
らしているのである。この論文では環境破壊というテーマに力点を置いている。
自然界の繁栄がなければ、人類は絶滅するからである。
2、アメリカ帝国の同盟システム
アメリカ帝国の同盟システムは、恐怖政治、大量虐殺および略奪の形で
具体化している。この破壊活動が開始されたのは500年前、ヨーロッパが世
界征服を企てて以来である。この同盟システムの中心は軍事力と経済力に支え
られたアメリカ合衆国である。そしてG7がアメリカ帝国の重要な役割を満た
すために第一段階の諸国として機能している。それにつぐ経済力を持つOEC
D(経済協力開発機構)がG7を支え、第二段階の諸国として機能している。
さらに第三世界の独裁者たちがアメリカの支配権を強めるために国内の反政府
派を弾圧し、この構造を支えている。国連安保理事会のメンバーであるロシア
、中国、英国そしてフランスは今や、パックス・アメリカーナを多かれ少なか
れ支持している。そしてヨーロッパの軍事同盟であるNATO(北大西洋条約
機構)と東アジアの日米安保同盟がアメリカの軍備拡大の重要な役割を担って
いる。
さらにこれらの同盟を支える機能としては、国際通貨基金(IMF)、世界
銀行、世界貿易機関(WTO)などのブレトン・ウッズ体制。日米欧委員会。
経済円卓会議。世界経済フォーラム。そして類似した数多くの金持ちクラブが
ある。最近ますます特権階級のロビイストたちが米国議会をコントロールする
ようになり、世界中の大部分の国々の富を集めた以上の資本力を持つ巨大企業
の一団が自分たちの利益のためにアメリカの政策作りに決定的な役割を持つよ
うになってきた。
2-1 社会政治的背景
国家の枠組みからはずれた活動家や軍事独裁者たちによるテロが主要メディ
アに連日のように取り上げられるようになったが、テロの犠牲になる人々の数
は、予防可能な飢餓、疫病、国家による戦争などによる何百万人もの犠牲者に
比べれば、少ないといえる。
9月11日の攻撃は、その形も規模もあらゆる意味でかつてなかった信じが
たく恐ろしいものであったが、予見可能なものだった。必然的にあらゆる意味
で世界全体の暴力の形と文化の質が変化し、ほぼあらゆる場所で暴力が拡大し
た結果によるものだ。多くの人々は、こうした傾向とテロ行為を、アメリカに
よる経済、政治、軍事力などの政策と結び付け、アメリカを攻撃の対象にする
だろうとずっと予測していた。第二次世界大戦以来のアメリカの経済、政治、
軍事政策によって世界中の何億という人々が貧困になり、無視され、困窮に陥
っているのである。 (ブランドとジャコブソン 2001年)
アメリカの社会経済政策は毎年数百万の予防可能な死を引き起こしているが、
これはアメリカ帝国主義同盟システムによる意図的なものである。このシステ
ムは大掛かりなテロリズムだが、企業メディアからはそうは呼ばれていない。
2-2 経済的虐殺
チョスドフスキー(1997年)はIMFと世界銀行の構造改革路線は「
経済的虐殺であり、市場の力を意図的かつ計画的に操作するものである」。そ
の結果引き起こされる社会的インパクトは「奴隷制強制労働」よりも大きいと
書いている。(37ページ)
チョスドフスキーはアメリカの海外経済政策が求めているものを次のよう
に記述している。「社会の中での富の分極化と集中」「先進国と途上国での低
賃金労働の増大と金融不安定化」「富んだ企業の赤字を第三世界の公的赤字に
転化するプロセスの増大」「旧ソ連圏諸国の第三世界化」「負債を利用した構
造調整の実施」「公共財を転用または民営化して企業利益にするための構造調
整」「国々の財政破綻を引き起こして国家経済を破壊する」「世界規模の経済
危機を引き起こす」「価格のドル化の強要により国際価格を押し付け、低所得
国でも物価を引き上げる」「「貧困に関する統計に操作を加え、厳しい状態を
軽減させて見せかける。例えばその国の中間層収入を挿入して信頼できる健全
経済に見せかける」「その国の通貨を破綻させる」などである。(16〜43
ページ)
経済虐殺のもうひとつの形は、いわゆる第三世界開発の形での融資である
。ブルム(1995年)は「お金はこのように循環する」(442〜443ペ
ージ)として、冷戦時代に主導権を握るために資金がどう流れたかを図示して
いる。CIAから始まり、多くの財団、基金、あるいは信託機関からの資金が
流れている。こうした資金は著名なアメリカのシンクタンンク、調査研究所、
助成財団に流れる。さらに、これらの資金は特定の地域の小さな団体に流れ、
最終的にはジャーナリスト、作家、教育者、学生、弁護士、さらには調査や労
働組合、大学などにたどり着く。これらの資金は名目上は生活の向上にために
使われるが、実際のところは企業の利益を増大させるために機能し、古来の文
化が破壊され、非常に多くの人々に貧困を強要する結果をもたらしている。(
ザックス1992年)
2-3 国家の殺害
世界の虐げられた人々に自由と民主化をもたらすこととはほど遠く、ブル
ムの名著「アメリカの国家犯罪全書」(2000年)は、アメリカの際限のな
い戦略を次のように記述している。「テロリストの訓練」「民主的に選ばれた
指導者たちの暗殺」「海外の軍隊と警察に対し、手におえない民間人を制御す
るための拷問と恐怖を与える技術を訓練する」「戦争犯罪者を雇い同様の技術
を広める」「テロリストに避難所を与える」「第三世界の独裁者と大量殺人者
を支援する」「小型核爆弾、劣化ウラン搭載ミサイル、クラスター爆弾、生物
化学兵器などの大量の兵器を使用する」「他国の生物化学兵器の使用を支援す
る」などである。
その他の戦略としては、数え切れないほどの海外での直接侵略がある。「
選挙結果をねじまげる」「トロイの木馬型の助成機関を利用して外国の国内政
治をコントロールする」「国連の弱体化と操作」「手の込んだハイテクによる
世界監視システム」「場合によっては誘拐と略奪」「南アフリカのアパルトヘ
イト政権支援」「国際麻薬売買活動によるCIAの資金作り」「メデイアのコ
ントロールと説明責任の回避」などである。(38〜214ページ)
グロスマン(2001年)は1890年から2001年にかけての134
回にわたる米軍の行動を列挙している。大部分は海外で行われているが、もち
ろん国内のものもある。このリストには次のような軍事行動は含まれていない。
「デモ規制への憲兵隊の投入」「国家警備隊の動員」「海軍の海上演習」「大
使館への軍官増強」「国防省職員でない人事登用(例えば薬物取締局など)」
「軍事訓練」「非戦闘動員(例えば郵便ストライキの代替要員)」「軍隊の永
久駐留」「アメリカが指揮・制御しない隠密活動」「捕虜救出小部隊の派遣」
「代理部隊派遣」「米国飛行士による外国戦闘機の操縦」「海外災害救助」
「実戦に関与しない軍事訓練助言実習」「市民活動」「その他さまざまな軍事
活動」。
チョムスキーとハーマン(1979年)は著書「太陽と惑星――1970
年代に国家による拷問を採用した国々。同盟国との協調のもとに」で、26カ
国に対するアメリカの関与について述べている。こうした国々では反政府活動
家と政治囚を拷問にかけるために、アメリカによる資金提供と軍事訓練がなさ
れていたのである。それに対してアメリカの政治的影響力の及ばない地域では
どうか。ソ連を含む9カ国が国家レベルでの拷問を採用している。
ガーソンとバーチャードは冷戦時代にアメリカは「第三世界諸国に200
以上の軍事介入を行った」(12ページ)と述べている。これらの介入はほと
んどの場合、共産主義と戦うことはめったになく、もっぱらアメリカ企業の利
権を守ることと、政治的または経済的な独立の動きを破壊することが主目的で
あった。(チョムスキー 1991年)
パレンティ(1995年)はアメリカの介入主義の本当の意図は、「政治
経済の独占と資本集中システム」を保護することだと述べている。さらにアメ
リカが攻撃する可能性のある対象として明示されている敵は、革新政党、人民
党、軍事政権、キリスト教社会主義政権、社会民主主義、マルクス・レーニン
主義政権、イスラム革命教団・・・そして場合によっては保守的軍事政権など
である」と述べている。(39ページ)
アメリカがずっと持ちつづけている残忍な敵対者という心配の種が、アメ
リカ帝国の目的に奉仕する計略として利用されている。それが実際に存在する
か、想像の上でのものか、潜在的なものか、あるいはアメリカ自身によって支
えられたり作られたりしたものかにかかわらず、納税者大衆の前に軍事システ
ムを正当化するためには、なくてはならないものなのである。通常兵器、生化
学兵器あるいは核兵器を削減したりなくしたりするための国際条約にアメリカ
が一貫して反対し、批判していることから考えると、最近の「悪の枢軸」に対
する「テロリズムとの戦い」の相手である手ごわい敵とは、共産主義者、麻薬
売人、イスラム原理主義者、あるいはマリファナを吸いながら木を抱きしめて
環境保護を説く連中なのだろうか。むなしいものである。(チョムスキー 2
001年)
2-4 帝国の建設
今日、アメリカとその同盟の軍事パワーは他の追従を許さないものになっ
ている。(ピトラスとベルトマイヤー 2001年)
アメリカは、化石燃料や石油などの天然資源を守るために、地球上のあらゆる
地域に恒久的な軍事基地を拡大している。アメリカによる新しい戦争が行われ
るたびに、最近の南アメリカ、東欧、中央アジアで見られるように、次々と軍
事基地が建設されている。(ブルム、2002年)
2003年9月30日現在、アメリカ政府は703カ所の「海外軍事居留地」
を保有していることを認めている。(ジョンソン、2003年)
ガーソンとバーチャード(1991年)は軍事基地に関する信頼できる調査を
行っている。第二次世界大戦終了の後、アメリカは45年かけて50万人の部
隊を拡大し、世界中に375の主要基地を作った。(3ページ)
この傾向は冷戦の終了とともに変化し、一時的には部隊と基地の削減が行われ
た。フィリピンからの基地の撤退などである。しかし冷戦の終焉によってもた
らされるはずの平和は生まれなかった。冷戦そのものが、共産主義と戦うとい
う口実のもとにアメリカの主導権を保証する策略であったということが明確に
なったからだ。1991年の湾岸戦争の目的のひとつは、アメリカのとりわけ
中東の軍事プレゼンスを肯定するためのものであった。2001年9月11日
のテロ攻撃の後には、海外の軍事基地を縮小しようとしていた傾向が一掃され
ることとなった。
1989年現在、52万5千人の米兵が海外に駐留しており、うちおよそ半分
が西ドイツに派兵されている。日本には4万8千人、韓国には4万4千人の兵力が
派兵されている。(6ページ)
このようにして、第二次世界大戦終了以来、米国の強固なプレゼンスが長期に
わたって維持されているのである。冷戦時代の米軍基地と兵力を比較してみる
と1989年には「ソ連は62万7千人を19カ国に派遣」しており、半数以
上は東ドイツに駐留していた。(9ページ)
世界中の米軍基地の数を正確に数えるのは難しい。その数が絶えず増え続けて
いるからだ。さらにさまざまな機関の機能がどうなっているか、はっきりしな
い場合があるからだ。1993年現在、控えめに見た米軍基地の数は(各主要
基地にあるさまざまな小規模の設備を除いては) 375と推定され、さらにて
っていd 骨の折れる調査によって判明したのは、アメリカの「世界核兵器イン
フラ」は1500以上の設備が・・・核戦争の準備のために備えられている」
(ガーソンとバーチャード8ページ)
加えて、米軍が常時使用している数え切れない港湾と飛行場や飛行空域がある
。ウィルキンソン(2001年)は次のように報告している。
日本の領空の広大な地域が米軍によってコントロールされている。さらに日本
の民間航空はさまざまな基地と空港に取り囲まれたルートの複雑な調整を余儀
なくされる。日本の領空はもうひとつの「見えない米軍基地」と考えることも
できる。日本の大手航空組合によれば、1996年と1997年だけで、軍用
機が民間航空機の衝突回避システムを作動させた回数は105回にのぼるとい
う。1998年にはついに運輸省が乗り出し、日本の米軍司令部にこの件を憂
慮する書簡を送ったものの、何の変化も起きなかった。
2-5 社会的インパクト
ガーソンとバーチャード(1991年)は領土侵犯に関して広い立場から検討
している。
数多くの基地は、海外軍事基地としての本質的な意味を失っている。つまり、
(相手国に)不安定をもたらし、自主的判断、人権、さらに主権を失わさせて
いる。また、相手国の文化、価値、健康、環境をも阻害している。海外基地は
相手国を米国の軍事戦略構造に組み込むように仕組まれている。相手国の国民
と社会に対する米軍基地の負担は、米国内での国民に対する負担と較べて、目
につきやすいが、多くの共通項がある。軍事基地はわれわれが今のところ保有
しているアメリカの民主的価値をだめにし、この地球をわかちあっている人々
にアメリカ人を敵視させる。軍事力は紛争が戦争にエスカレートする可能性を
高めることでわれわれの生活を脅かし、アメリカの経済的、生態学的、精神的
な資源あるいは資質を損なわせている。(9〜10ページ)
海外基地での軍事訓練は基地周辺の住民に深刻な被害を与えている。騒音、大
気、土地の汚染、さらにジェット戦闘機やその他の活動にともなう事故の危険
性などである。ジョンソン(2003年)は次のように記している。
18歳から24歳の数千人のアメリカ人の若者が、見知らぬ文化の国々に駐留
しており、こうした海外の文化をまったく知らないことによって、「事件」が
永遠に起き続けることになる。さらに、沖縄の駐留兵の誰もが知っていること
だが、レイプ、強盗、暴行などを犯した者は、警察につかまる前に基地に逃げ
込むことが可能だということだ。例え日本の警察から逮捕状が出されていても、
起訴される前までは自由の身なのである。
基地のまわりにつきものの社会的退化現象は売春である。「スービック湾の米
軍基地に隣接したオロンガポ市は、米軍兵士のための完全な『休養リクレーシ
ョン』の場となっており、5万軒以上の売春宿がある」(「アメリカの軍事基
地」2002年)
米軍基地兵士の職務時間外の行為が、計り知れない結果を引き起こしている。
例えば沖縄市民に対して米兵が行なった犯罪行為の後遺症などである。3人の
海兵隊がかかわった1995年の事件では、3人が12歳の女性をレイプした
ことが明らかになった。3人の兵士は市民の怒りの結果、やっとのことで逮捕
され日本の官憲に引き渡された。その時、この事件にたずさわった海軍司令官
は報道陣に次のように語っている。「(レイプ)はまったく愚かな行いだと思
います。レンタカーを借りるお金で、彼らは女性を買うことができたのですか
ら」 つまり、一方でレイプは受け入れがたいと考えられているにもかかわら
ず、売春に関しては軍高官も含めた多くの軍人たちが、常識的な行為だと考え
ているのである。
このレイプ事件ひとつとっても、十分に残忍であるが、「基地・軍隊を許さな
い行動する女たちの会」はこの事件だけに反応したのではなかった。1972
年から1995年にかけて、米兵は4,716件の犯罪に関わっている。一日
につき一回に近い割合である・・・。日米地位協定の規定によって沖縄基地で
は、日本側からの軍人容疑者の(引き渡し)を米当局が拒否することを容認さ
れており、犯罪行為を犯した者はめったなことでは苦しまずに済むのである。
(「米軍基地」2002年)
ジョンソン(2003年)は、二人の地位協定の専門家の意見を紹介して
いる。「地位協定の大部分は、米軍兵士がその国の市民への犯罪を犯した場合
に、その国の裁判所の裁判がおよばないようになっている。例外的に米当局が
裁判権を引き渡すことに同意した場合の特例があるだけである」
2-6 癌のような拡張
アメリカは米軍と警察による「国際軍事教育トレーニングプログラム」(I
MET)を実施しているが、今日、その支援対象は西半球だけで26カ国にわ
たっている。
「国際軍事教育トレーニングプログラム」(IMET)では外国の軍および
、限られた数のの民間人に対するトレーニングや教育活動への資金援助を行っ
ている。IMET支援は相手国政府に供与され、各国政府が人材を送り込むコ
ースを選ぶ。ラテンアメリカへのIMETは学生たちを、米国全体に約150
カ所ある軍事トレーニング施設に送り込む形で利用されている。トレーニング
・コースは多様で2000種類もある。対諜報訓練、ヘリコプター修理、軍事
裁判システムなど、さまざまな範囲にわたっている。(国際軍事教育トレーニ
ング、2003)
ランペ(2002年)はここ10年の間にアメリカは「世界のほとんどの
政府と交流をした」ことを突き止めている。海外の軍人のトレーニングに関し
ては「年におよそ10万人程度であり、トレーニングは少なくとも米国内の1
50の軍事トレーニング施設と、世界中の180の国々で行われている」
IMETは人権と民主主義の強化というミッションを持っていることで正
当化されている重要な機関である。「実際のところ、大部分のプログラムは人
権とは関係のないものばかりであり、実に、意味不明なわけのわからない形で
履行されている」
CIAが海外の国々の問題に積極的にちょっかいを出しているというのは良
く知られている。アメリカ国内の問題を扱う連邦捜査局(FBI)の国際事業
局も海外で積極的に活動しているとしたら、恐らく読者は驚くであろう。(連
邦捜査、2003年)
FBIの報告によれば、2003年現在、議会によってペンディングされて
いるものの、FBIの事務所が「サラエボ(ボスニア)、ジャカルタ(インド
ネシア)、タシケント(ウズベキスタン)、カブール(アフガニスタン)、ベ
オグラード(セルビア)に新設され、現在オタワ、ソウル、ロンドン、ベルリ
ン、モスクワにある事務所が拡張される予定である」とのことだ。対テロ戦争
という口実のもとで、近く、250人のFBI捜査官が「世界の46カ所に配
備される予定」なのである。
マンスリー・レビュー(2002年)が最近、米軍事基地問題に関する示唆
深いエッセイを発表した。第二次世界大戦直後の派兵の急激な縮小にもかかわ
らず、在外米軍基地は世界的規模で一定の拡大をしているというものである。
それによれば、
(1)第二次世界大戦の結果、アメリカは世界でもいまだなかったほど大規
模に軍事基地を拡張している。第二次世界大戦の終了時には、世界のおよそ1
00カ国に2千の軍事基地を保有し、3万を越える軍事施設を維持していた。
(2)現在の在外米軍基地の多くは第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦
争、湾岸戦争、およびアフガニスタンの戦争によって取得された。正式には日
本の一部である沖縄米軍基地は、第二次世界大戦中の米軍による日本占領の名
残である。
(3)他の帝国と同様、アメリカは一度取得した軍事基地を放棄することに
は実に消極的である。
(4)ひとつの戦争によって取得した基地は、将来の戦争の前方展開拠点と
してとらえられている。
(5)大部分の米軍基地は共産主義を「封じ込める」として正当化されてき
た。しかし、ソ連が崩壊しても、米国は自国の世界でのパワーの保持と国益の
ために軍事基地システム全体を保持しようと努めている。
(6)クリントン政権は、ブッシュ政権よりアメリカの海外での軍事的関与
を縮小する必要性を強く訴えたものの、世界に広く拡散している米軍基地の「
前方駐留」を縮小しようという努力はなされなかった。部隊の派兵をより頻繁
にかつ短期に行うようになり、むしろ、海外に継続して駐留している部隊の数
を減らし、軍事基地は迅速な派兵のための準備基地として利用されるように大
きく変化していった。
(7)国防省によれば、9・11以前は約100カ国で6万人以上の軍人が
臨時の軍事行動や演習を行っていた。
(8)国防省の「基地概要報告2001」によれば、アメリカは現在38の
国または地域に軍事施設を保有している。
(9)9・11以来、アメリカはアフガニスタン、パキスタン、キルギスタ
ン、ウズベキスタン、タジキスタン、さらにはクウェート、カタール、トルコ
、ブルガリアの各基地に6万の部隊を駐留させている。
(10)その結果、アメリカはおよそ60の国および地域に軍事基地を保有し
ている。
(11)ある意味でこの数は一見少なく見える。相手国基地での司法権と職務
権限については駐留米軍に関する地位協定で細かな規定が締結されている。冷
戦時代は各国間との地位協定は一般的には公開文書になっていたが、最近では
多くの場合秘密文書とされている。たとえばクウェート、アラブ首長国連邦、
オマーン、サウジアラビアさの協定の一部などである。国防省の記録によれば、
アメリカはこうした地位協定を93カ国との間で公式に結んでいる。
つまり実際の基地から他の基地(前線基地)への移動、国際的な空域への侵
入、外国軍および警察部隊との協定に関して、アメリカはほぼ地球全域にその
能力を拡張しているわけである。その他の米軍の地球規模で拡張に関して注目
すべき要素は、ロシアと中国を囲い込んでいる点である。さらに、中央アジア
などでの貴重な化石燃料パイプラインを確保するための基地の利用。日本のよ
うな受入国で共同演習を行って、アメリカ帝国の戦略に繰り込む。外国の基地
を例外的な政治的脅威として利用するためにあえて「アメリカの国益への脅威
とみなされる独立の計画を策定し、その結果、疑いもなくこの最後のスーパー
パワーは、アメリカの政治経済の利益を推進するために、帝国の拡大を現在も
もくろんでいる」のである。
(続く)
翻訳・菅原 秀/TUPメンバー