FROM: Schu Sugawara
DATE: 2004年11月14日(日) 午前11時31分
■TUP論説: アメリカ大統領選での電子投票 ━ 前回 2000年の大統領選挙では、鍵を握るフロリダ州の結果に関して、 大いにもめ、司法の手で灰色の決着がつけられました [文献 1]。 今回、2004年の大統領選挙では、対立候補ケリーは早々と敗北宣言を 出しました。一方、2000年の時以上の大規模の不正が行なわれたの では、との疑惑が燻っています [2, 3, 4, 5, 6]。大手メディアには なかなか現れてこない情報を、独立系メディアから拾ってみました。
(文責: 坂野 正明/TUP、 協力: 宮前 ゆかり/TUP) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アメリカでは、今回、前回よりずっと大規模に電子投票機が導入され ました。全投票のうち、80% を占める票には、たった二つの会社、 ディーボールド社(Diebold Election Systems)とES&S社 (Election Systems & Software; シェア1位)製の機械が使われています [7, 8]。 これら製造会社は、本来は徹頭徹尾、中立であるべきですが、現実 には、さまざまな点で政界と深い結び付きがあることが指摘されて います [7, 9, 10]。なかでも、ディーボールド社の経営最高責任者 (CEO)は、(特に同社の本拠オハイオ州での)ブッシュ陣営の選挙に 協力を惜しまないことを公に表明して物議をかもしました [9]。これ ら政治的背景は大変重要ではありますが、本稿ではその解説は他に 譲り (たとえば日本語文献 [1, 2, 4, 5, 10])、特に技術的に何が 可能で、実際にどう運用されているか、という箇所に重点を置きます。
今回の選挙では、タッチ・スクリーン方式の電子投票機が大量導入 されました。画面に触れることで投票行為が成立、終了するものです。 この時、特に工夫しない限り、投票機内部以外には記録が残りません。 これを避けるには、たとえば、タッチ・スクリーンでの投票と同時に 結果がプリントアウトされ、それを投票者が確認の上で横の投票箱に 入れる、などのシステムが求められます。実際、そういうシステムの 採用を要求する有権者団体の活動が全米で見られ、一部の選挙区では それを可能にする投票機が採用されました。しかし、ディーボールド 社の製品の場合、そういう機能は一切ありません [7]。つまり、何か 問題が起きた時に、後から数え直しなどの確認をすることが不可能な わけです。
結果的に、今回の選挙では、30%の投票において、数え直しが不可能 なタッチ・スクリーン投票機が使われました [7]。タッチ・スクリー ン方式以外の(紙などの記録が残る)投票機が使われた選挙区では、 出口調査と実際の結果は、1%以下の誤差で一致しました。しかし、 タッチ・スクリーン方式の電子投票機が使われた選挙区、特に フロリダ州と(ディーボールド社本拠の)オハイオ州とでは出口調査の 結果が大きくずれました[2, 3, 4]。
数え直しがきかない電子投票機の場合、不正を行なうことが容易で あることは従来から指摘されていました [11, 12, 13, 14]。結局、 コンピューターというブラックボックスなので、少しソフトを 書き換えればしたい放題、になり得るわけです。たとえば、 ディーボールド社は、ジョージア州の2002年の選挙で、電子投票機を 納入しました。そこでは、実に134年ぶりに共和党の勝利となり ました。その時、ディーボールド社は、投票直前に投票機のソフト にパッチを当てた(プログラムを修正した)かどで、裁判に訴えられ ています。しかし、そのプログラムは、選挙直後に消し去られた ため、裁判で負けることはありませんでした [7, 10]。
このディーボールド社の電子投票機のソースコードを入手した ジョンズ・ホプキンス大学の情報学講座のグループ(タダヨシ・コウノ (Tadayoshi Kohno)氏、アビエル・D・ルービン(Aviel D. Rubin)氏ら) は、極めて脆弱で不正使用が可能、という解析結果を2003年以来、 報告しています [15, 16, 17]。たとえば、暗号鍵がソースコード の中に直接書かれている(ハード・コーディングされている)とか、 スマートカードをうまく使った不正使用の可能性がある、など。
加えて、文献 [18] では、さらに狡猾な方法が可能であることが 指摘されています。電子投票機のソースコード自体は公正なものを 使う一方、最後に投票結果をあるデバイス(記録カードなど)に出力 する段階の部分を改鼠すればいい、という指摘です。この場合、 出力時の橋渡しとなるデバイスドライバに意図的なコードを混ぜ込む だけでよく、これはOSの一部を書き換える行為に相当します。これは、 まず第一に疑われる可能性がごく低く、第二に(第三者が)チェック するのが不可能に近く、第三に実行グループはごく少人数(最低一人 で可能)で済むため秘匿が容易になります [18]。
一方、現実の運用において、この投票結果を集計するコンピューター は普通の Windowsマシンで、表計算ソフトが使える人なら誰でも簡単 に改鼠できる、とも報告されています [19]。
選挙で不正が行なわれること自体、あってはならないことですが、 電子投票機の導入以来、それが技術的に比較的容易になっている 状況が窺われます。
電子投票機は、日本でも徐々に導入が進んでいます。2002年7月に 岡山県新見市で実施された全国初の電子投票では、投票者に大変 好評だったと報告されています [20]。喜ぶべき導入でしょうか。 日本にとっても、対岸の火事では決してない話のはずです。
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●参考文献 (原文は、日本語または英語)
[1] 「金で買えるアメリカ民主主義」 (邦訳版) グレッグ・パラスト著 角川書店; ISBN:4047914479
[2] 「ケリーは勝っていた」 (邦訳版) グレッグ・パラスト http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/11/by_2.html (「暗いニュースリンク」上の邦訳版)
[3] 「LIARS! All exit polls matched results except OH and FL」 LondonYank; 川井 孝子訳; TUP速報 404号 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/431 (TUP速報; 原文 Daily Kos)
[4] 「ブッシュ再選の意味」 http://tanakanews.com/e1107bush.htm 田中 宇 (田中宇の国際ニュース解説)
[5] 『「不正投票 (Voter Fraud)」と政府不信』 http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/11/voter_fraud.html (暗いニュースリンク) [筆者注: このサイトには関連記事多い]
[6] 「Will Electronic Voting Machines Steal the 2004 Election?」 BUZZFLASH [筆者注: 電子投票監査の市民活動で高名の Bev Harris氏へのインタビュー] http://www.alternet.org/story.html?StoryID=16874 (AlterNet)
[7] 「A Tale of Two Brothers: Voting Fraud in the USA」 http://memes.org/modules.php?op=modload&name=News&file=article&sid=3667&mode=thread&order=0&thold=0 (Memes are Mind Viruses)
[8]「Voting in the USA: A Tale of Two Brothers」 RBHam http://www.democraticunderground.com/discuss/duboard.php?az=view_all&address=104×2648128 (Blog: Democratic Underground)
[9] 「Secret Group Manipulates Vote Machines」 http://www.americanfreepress.net/11_10_02/Secret_Group_Manipulates/secret_group_manipulates.html Christopher Bollyn (American Free Press)
[10] 「アメリカで大規模な選挙不正が行われている?」 http://tanakanews.com/d0819votemachine.htm 田中 宇 (田中宇の国際ニュース解説)
[11] 「Diebold, Electronic Voting and the Vast Right-Wing Conspiracy」 Bob Fitrakis http://www.commondreams.org/views04/0225-05.htm (Common Dreams NewsCenter)
[12] 「まだあった、電子投票のダメなところ」 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0411/04/news019.html IDG Group (ITmedia)
[13] 『米裁判所、電子投票システムに「不信任票」』 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0407/08/news028.html IDG Group (ITmedia)
[14] 「An Election Day clouded by doubt」 http://avirubin.com/vote/op-ed.html http://www.baltimoresun.com/news/opinion/oped/bal-op.voting27oct27,1,595879.story (に有料版があるらしい) Avi Rubin (Baltimore Sun)
[15] 「ISI Researchers Identify Security Flaws in Electronic Voting System http://www.jhuisi.jhu.edu/ (The Johns Hopkins University Information Security Institute) [筆者注: 以下の[16]に関連する話題、主要メディアの記事のリンクなど]
[16] 「Analysis of an Electronic Voting System」 http://avirubin.com/vote/analysis/ Tadayoshi Kohno 他
[17] 「E-voting Security」 http://avirubin.com/vote/ Avi Rubin
[18] 「Looking in Diebold Source Code is the WRONG Place to look」 Florida_Geek http://www.democraticunderground.com/discuss/duboard.php?az=show_mesg&forum=203&topic_id=40303&mesg_id=40303 (Blog: Democratic Underground)
[19] 「Evidence Mounts That The Vote May Have Been Hacked」 http://www.commondreams.org/headlines04/1106-30.htm Thom Hartmann (Common Dreams NewsCenter)
[20] 「岡山県新見市の電子投票、投票者の約9割が支持」 http://japan.internet.com/public/news/20020711/3.html 田中 秀東 (japan.internet.com (Jupitermedia Corporation))