TUP BULLETIN

速報424号 リバーベンドの日記、12 月12日燃料欠乏 04.12.16

投稿日 2004年12月16日

DATE: 2004年12月16日(木) 午前9時54分

リバーベンドの日記、12月12日


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれする毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (TUP/池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2004年12月12日日曜日

燃料欠乏・・・

悲しくつらい日々が続いている。

状況は、日ましに悪くなっていくように思われる。少しだけ例をあげる と――電力事情はまったくのお粗末。多くの地域では、やっと2時間電気 がついたと思ったら4時間停電の繰り返し。そうでなければ、アーダミヤ 地区のように、まったく電気は来ず、真っ暗闇の生活。燃料不足が深刻化 しているため、発電機を動かせなくなってきていて、停電すると以前にま してたいへんだ。いまでは、車に給油するために徹夜で行列しなければな らない。なぜだか、わからない。まったくの謎だ。こんなガソリン危機は、 これまでただの一度も起こったことがなかった。ここイラクは産油国。そ れなのに、ガソリンが十分行き渡らないなんて・・・

あ、誤解しないで――政府関係者には、ガソリンがある。寒さに手をこ すり、アメリカ人を罵りたおしている人々の並ぶ、うっとうしい行列のな い政府関係者用ガソリンスタンドがあるのだ。アメリカ人にもガソリンが ある。民兵もガソリンが手に入る。ガソリンが手に入らないのは、一般市 民だ。闇市場でガソリンを買うこともできるが、1リットル当たり125 0イラク・ディナール、約1ドルもする。以前の値段はというと――約5 セント。こういうわけで、私たちは、ほとんど一日中電気なしで過ごさな くてはならないのだ。

料理用のガスも不足してきた。いつも来ていたガス・ボンベ売りは、使 用済みのボンベを新しいものに取り替えるといういつもの商売がむずかし いらしく、回って来そうもない。行きずりでガス・ボンベを買うと1万イ ラク・ディナールもするうえに、台所で爆発するかもしれないボンベや、 中身は水のボンベをつかまされることも珍しくないという話だ。私たちは、 なんとか灯油ストーブの上で料理をすませてしまおうと苦心している。蛇 口から出る水は、冷たくて冷たくて凍りそう。ボイラーは使えない。これ も電気が不足しているため。去年灯油ボイラーを入れたが、灯油不足でこ れも使えない。灯油があれば、まず暖房用に回さなければならないので。

何週間か前、「ガソリン当番」を引き受けた。E(弟)といとこがガソリ ンの行列に並ぶため出かけようとしていたので、一緒に行って時間つぶし の相手をしようと思ったのだ。朝5時ごろ、家を出てガソリンスタンドに 向かった。暗くて、ものすごく寒かった。絶対一番のり間違いなしと思っ ていた。ところが、そこには車がずらりと並び1キロもの長い行列。私は、 この光景にがっかりして落ちこんでしまった。が、Eといとこは気にするよ うすもなく、Eは「このようすじゃ、今日は、夕方までに給油できるかもし れないよ」と言って笑った。

初めの1時間、私はしゃべったり、ほんとにガソリンを売っているのか 確かめようとしたりして過ごした。Eといとこは黙っていた。彼らにはすで にお決まりの過ごし方ができあがっていたのだ。万一奇跡が起きて行列が 前進し始めはしないかと、ひとりが怠りなく見張っている間、もうひとり は仮眠する、と。2時間目は、シート枕に窮屈なかっこうで頭をもたせか け、眠ろうとして過ごした。3時間目は、「ナンバープレートを憶えまし ょう」ごっこを考案しようとした。4時間目は、ラジオをいじくって、流 れてくる歌はぜんぶ歌ってやるのかまえでいた(この時点で、Eといとこが リバーベンドを車から叩き出すとおどかしたことを言っておかねば)。

結局のところ、Eといとこが給油するのに13時間かかった。そう、Eといと こ。私はといえば、6時間が過ぎたところで、タクシーで家まで送ってと要 求し、Eを従えて帰ってしまったのだ。いとこの待つ車への帰途には、サンド イッチを作ってもたせてやるという条件で。そうやって手に入れたガソリン の半分は、車内に非常用として確保され、残りの半分は、近隣が共同で使っ ている発電機が飲み込んでしまって、おしまい。

石油の上に浮かんでいるといってもいいくらいの国で、ガソリンも行き渡ら せることができないのに、このものすごい混乱の中、アメリカとその一味( ほら、イヤード・アラウィとか)はどうやって民主主義を実現するつもりか、 とみんな疑っている。このガソリン危機は、町を走る車を減らすために仕組 まれたものだと言う人々がいる。また、バグダードのひじょうに多くの地区、 とくに郊外が、当局の手に負えない事態になっていることへの一種の集団懲 罰だという人々もいる。さらには、1月の選挙前に、電気もガソリンも灯油 もガスも見事に不足を解消してみせて、政府を英雄視させるための魂胆だと いう説もある。  こんなことを言っているばかりではなくて、私たちは、選挙の立候補者リ ストをじっくり検討している。私が話をしたほとんどの人は、選挙には行か ないつもりだ。何といっても危険過ぎるし、どっちみち何もどうにもなりは しないという思いが一般的なのだ。リストのメンバーは、ほとんどがアメリ カの戦車で乗り込んできた連中だ。それと、少数の部族長たち。そう、部族 長。私たちの国は宗教政党と部族長に率いられようとしている――アフガニ スタンと同じじゃない? もっと腹立たしいのは、立候補者リストが、ほか でもないイランのイスラム法学者、シスターニの検閲と承認を経たに違いな いということ。要するに、この戦争は、私たちの国が、独裁者に支配された 非宗教国から宗教法学者たちが支配する騒乱の国へと移行するのに役立った というわけだ。さあこれぞ「羊の皮を被った神権政治」。

アハマド・チャラビの名が、立候補者リストの一つのトップにある。だけ ど、チャラビをトップにいただくリストに名を連ねる人なんているわけない でしょ。

国境の状況は、注目に値する。いま起きているようなことは、サダム・フ セインでさえしなかった。50歳以下のイラク人男性は、入国を許可されな いのだ。訪ねてくることになっていた我が家の友人は、イラク国境で追い返 された。友人は、10年間国外にいて、家族に会いに帰国したのだと説明し たが、だめだった。彼は47歳、ということは、「聖戦士」かもしれないで はないか。高価なビジネス・スーツに身を包み、ぴかぴかの革靴をはき、立 派なサムソナイトの旅行鞄をもった彼が。馬鹿にされてるイラク人。50歳 以下のイラク人男性は、自分の国の治安を脅かすこと確実で、いっぽう、銃 を構え戦車に乗ったアメリカ人男性は、イラクの繁栄に必要だというのだ。 レバノン人、クウェート人など傭兵として雇われた外国の男性たちは、イラ クの安全確保に不可欠だ。南部の神殿に参詣にやって来るイラン人男性は、 一人残らず歓迎される。だが、イラク人男性は? アフガニスタンへ行けということなのだろう。

ファルージャはじめいくつかの地域への攻撃は、まだ続いている。ファル ージャでは、恐ろしい兵器が使われていると伝え聞く。ファルージャは、文 字通り完全に焼き払われ爆撃されて何もなくなった。強制退去させられた人 々の多くは、そんな状況をものともせず、町に帰してくれと要求し続けてい る。避難している人々が町へ帰ったとき、どんなにつらい体験をするか、想 像することさえできない。第二のパレスチナになった気がする。占領、爆撃、 避難民、殺人と流血。

音をうんと小さくして、テレビのニュースを見ていることがある。画面は、 カメラの前で泣き叫ぶ男性だったり女性だったり子どもだったりする。血を 流し硬直して地面に横たわる人の死を嘆いているのだ。背景は、崩壊した建 物。一瞬、この惨事の起こった場所がどこか、わからなくなる――ファルー ジャかしら? ガザ? それともバグダード?

午後8時37分 リバー

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)

* 転送・転載お願いします。多くの人に読まれますように。