DATE: 2004年12月24日(金) 午前0時29分
戦争の生むストリートチルドレンと取り組んできたドナが、成長した少年に再会。
4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰路、地元 のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハーンが、11 月24日に再びバグダッド入りし、そこから送っている現地報告をお送りしています。 今回は、ドナの基礎的な活動の一つ、イラクのストリートチルドレンの保護施設を作 り子供たちの再生を図るプロジェクト、「我が家―イラク」の話です。現地の人たち にあとをゆだね、バグダッドを去ったドナが、再びその子たちを訪れます。 (翻訳:福永克紀/TUP)
ドナ・マルハーン 少年たちとウサギ 2004年12月15日
お友達の皆さんへ、
その少年たちに会いに私が訪ねていったとき、私に最大の喜びを与えてくれたのは、 そこで目にしたことばかりではなかった。そこで目にしなかったことも、このうえな い喜びを与えてくれた。
私が目にしなかったのは、その少年たちの多くの姿だった!
6人が学校に行っており、2人が仕事につき、その他の者は自分の家族と生活してい て、今ここにいないという。
訪ねた家に残っていた少年たちも、ほとんど見分けがつかないほどだった――その子 たちは落ち着いていて、口数は少なくて、内気だった。
そして、裏庭には3羽のかわいいペットのウサギがいた、しかも生きていて、傷跡も なく、両耳もなくなっていない。
私は、気絶するほどびっくりした。
12ヶ月前のこの少年たちは、戦争で荒廃したバグダッドの道路に寝泊りする、汚れ て、暴力的で、盗みを働く、薬物中毒のストリートチルドレンだった。
それが今、なんと言えばいいのか、ペットのウサギを飼っている普通の子供たちと全 く違わなくなっていた。
数ヶ月前に私がバグダッドを離れたとき、私が目にした変貌は、今や完了していたの だ。それは奇跡だった。
私たちがこの「少年たち」を見つけたときは、20名ぐらいで集団を組み、焼け落ちた ビルの地下でごみの中で眠り、生きるために泥棒や物乞いをするという野良犬生活を していた。
9歳から19歳までの若さで、家を出た事情はさまざまだった。戦争で両親を殺された 者もいたし、家を壊され、混乱状態のなかで、家族と離れ離れになった子もいた。片 親の家庭で、子供を養えなくなった母親に、窮余の策として物乞いに出された者もい たし、貧困から逃げ出してきた子もいた。侵略以前にもう機能しなくなった孤児院か ら出てきた者もいた。彼らは、食べ物などを探し求めて街路をさまよっていたのだ。
この少年たちに取り組むことが、「我が家―イラク」の最初のプロジェクトだった。 ウズマとヘレンとケビン・ゴードンと私がこの子達のシェルターを開設した。そし て、何人かのすばらしいイラク人たちや、時折立ち寄ってくれる様々なボランティア の人たちの協力も受けながら、彼らの無秩序な毎日の生活に対応してきた。
毎日が、肉体的、感情的、精神的な戦いだった。この活動過多の少年たちは、お互い を攻撃し、薬物でハイになり、路上で喧嘩をし、「重病」になり、新しい靴を要求 し、その新しい靴を売り、さらに新しい靴を要求し――シェルター内では毎日、外部 の路上の混沌を反映するような一大ドラマが展開されていた。
私たちにたくさんの要求をぶつけてきたけれど、この子たちがいつでも最も望んでい たものは抱きしめられることだった。
彼らは、一対一で体のことに気配りされたり、思いやりを受けたりすることに飢えて いた。たくさんの遊戯をした、拍手ゲームや、本の読み聞かせや、蛇とはしごや、お 絵かきなど、そしてただ一緒に座っている時間。ここから癒しが始まる(訳注:蛇と はしご すごろく遊びの一種で、蛇の頭に来ると尾まで戻り、はしごの下に来ると上 まで前進できる)。
私たちは、疲労困憊の極致にいたったとき、何かを突破できたことに気づき始めた ――園芸の仕事につく子供たちがあらわれ、靴磨きの用具箱を求める子供たちがでて き、幾人かが穏やかになり互いに刃物で渡り合うようなまねをしなくなった。生き抜 くために戦わなくてもいいと理解したとき、彼らは始めてリラックスし再び子供らし く振舞うようになった。
彼らの行動が改善するにつれ、私たちは、この子たちを荒くれたバグダッド市内の環 境から、ぜひよそに連れ出したいと思うようになった。おりよく、家を持っていてス トリートチルドレンを援助できるが、その対象の子供たちがまだいないイラク人のグ ループが現れた。
私たちはこの組織と提携し、郊外の大きな家と責任を持って面倒をみてくれるイラク 人スタッフに順次この子たちをあずけていった。
子供たちの行動は、急速に改善の度を増していった――スポーツを始め、美術やコン ピューターなどにも取り組みだした。5分とじっとしていられないと私が思っていた 子供たちが、今や学校に通っていて、しかも学校が好きだという。
そして、最高のニュース――家族の再結合ができている。これこそが、このプロジェ クトを始めたときの最終目標だったのだ!
私は子供たちの何人かに会えなくて残念だったが、理由を知って、それでよかったの だと満足した。
15歳のアーメドは家族のもとに戻った一人だが、この日私が来ると聞いて、私に会い にこの家に来てくれていた。これには心を打たれたし、ほんとうに嬉しかった。以前 にバグダッドを発ったとき、この子はとくに私になついていたからだ。彼は信じられ ないほど成長していた。数インチも背が高くなり、わずかに口ひげも生え、少し恥ず かしげにはにかんでいた。
アーメドが最も攻撃的な子供の一人だっだことを思えばすごいことだ――人間であろ うとなかろうと、見るもの何でも引き裂き、切りつけ、燃やし、破壊して大混乱を起 こしていた。
実際のところ、アーメドという名の子供はたくさんいたので、このこのむちゃくちゃ な暴力への評判から、「悪魔のアーメド」と名づけていた。
ところがこの日、彼がみんなと一緒に私を裏庭に案内してくれて、庭をあちこち歩き 回っている、毛がふさふさしているペットのウサギ3羽を見せてくれたのだ。信じら れなかった――ウサギは、一年前にはぶら下げられたり、毛をむしられたり、耳無し にされたりしていたのに。
アーメドが、1羽をゆっくりと持ち上げ抱きよせて、やさしく頭をたたいてやってい るのを見て、彼の変化は本物だと理解した。彼は目にも、私が今まで見たこともない 優しさを見せていた。
私はほんとうに誇らしく思い、彼にそう言った。身の周りに、こんなに暴力がたえな いのに、その中であなたは、自分の中に優しさを見いだし、それを他者に分け与える ようになった。その決意を私は誇りに思うと――そう、ウサギと私に。
彼の変貌は、愛の奇跡なのだ。
皆さんの巡礼者
ドナより
追伸:本編は美しい私の盟友ウズマ・バシールにささげます。彼女が私たちとこの子 供たちを引き合わせてくれ、彼らに愛情を注いでくれた方です。いえ、もちろん、彼 らは皆さんのことも気遣っています。それに、まだ私たちの写真を持っていてくれて ます。あの子たちは実にうまくやっています。皆さんも誇りに思いましょう!
追追伸:下の画像は、美術室での優しい新アーメドと他の子供たちの写真です。
追追追伸:「愛こそ革命だ」
(翻訳 福永克紀/TUP)
原文:The boys and the rabbits URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/139