TUP BULLETIN

速報439号 論説 米国にだけ目を向ける津波報道 050106

投稿日 2005年1月5日

FROM: liangr
DATE: 2005年1月6日(木) 午前8時34分

米国が津波を警告していたという情報は自己正当化にすぎない ============================================================

ハワイ津波情報センターの「警報」という米国の情報操作

(TUP/萩谷 良)

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米国の週刊誌タイムが、インドネシアでは26日にハワイの津波警報センターから 津波の警報を受け取りながら、翌日まで見ていなかったという情報を流しています。

日本の朝日、毎日、日経は、これを敷き写した共同・時事の記事を検証もせずに 載せていますが、これは一体どういうことでしょうか。

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/ 20050103k0000e030020000c.html

http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt88/20050103STXKB002503012005.html

http://www.asahi.com/international/update/0103/003.html

参考のため、記事全文を引用します。

—————- インド洋津波: 警告の電子メール、確認は地震翌日

3日発売の米誌タイムはスマトラ沖地震の特集記事で、ホノルルの太平洋津波警報 センター(PTWC)が昨年12月26日の地震発生後、津波の可能性を警告する電 子メールをインドネシアやタイなど太平洋沿岸国に送付したが、インドネシアの津波 警報機関の職員がメールを見たのは翌日だったと報じた。  同誌によると、警報センターは地震の15分後「過去のデータによると(太平洋諸 国には)破壊的津波の恐れはない」との情報を発信。地震の規模を拡大して推定した 50分後の情報には「震源付近で津波の可能性がある」と付け加えた。  タイではバンコクでも揺れが感じられたため、タイの地震監視統計センターは問い 合わせへの対応に専念。当時、たまたま南東部海岸の保養地で朝食を食べていた同セ ンターのスマレー・プラチュアブ所長は「わが国は過去に津波を経験していないため 、津波警報を出すことなど考えもしなかった」と語り、観光産業への打撃を恐れて警 報発令をためらったとの一部報道を強く否定した。(ニューヨーク共同) —————–

共同通信の米国駐在記者以下誰一人として、元になった「警報」を見ていないこと は明らかです。

速報437号で詳しくお伝えしたように、ハワイ津波警報センターの「告示」には、 「これは警報ではない」と、前後2回にわたって書いてあるのです。 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/467

そんな断りを入れたものが、読まれるでしょうか?

タイムの元の記事にもある通り、1000年来、津波の経験のない国で、です。 (But the duty officer concedes that there was no sense of urgency. "The earthquake was far away," he says. "In the past 1,000 years we’ve never had a tsunami, so why should I issue a warning for one?" "Sea of Sorrow", TIME Jan 10 2005)

ハワイの津波警報センターの出した「警報ではない告示」のなかにnear the epi- center とあります。  上記の記事で「震源付近で津波の可能性」と訳している箇所です。  これは正確には「震央付近」と訳すべきものですが、震源といい、震央といい、ど こかの1点にすぎません。  地震や津波は広がりをもつものですから、このような点的な概念で語ること自体が 、不適切ではないでしょうか?

広がりのある概念としては、震源域という用語があります。  震源域なら、たとえば1960年のチリ地震(M9.5)のように800km×200kmというこ ともありえます。

これに比べて、ハワイ津波警報センターの出した「告示」にあるnear the epicenterでは、バンダ・アチェあたりだけが津波の危険があり、タイやスリランカ は心配ないという意味に取られても仕方ありません。

インド洋の諸国では、津波など経験がなく、過去にマグニチュード8程度の地震は 何度もあったが、津波は起こっていない、だから今度も警告を真剣に受け取らなかっ たのだ、という見方があります。  タイで津波に襲われている真っ最中の人たちの様子を撮った写真 http://CoreyKoberg.com/Tsunami/ を見ると、すぐ背後に2階建ほどの高さの濁流がやってきているのに、人々の顔は、 まだ笑いを残していて、ほんとうに、津波というものを知らないことがうかがえます 。

ただ、だからといって、あれは仕方がなかったんだ、米国側もインド洋諸国側も責 められるべきではない、と言って済ましてしまっていいでしょうか?

「速報 433号 IAC緊急声明:米国は現地政府に津波警告を出さなかった!」 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/464 でお伝えした通り、米国は、インド洋の赤道より南にあるディエゴガルシア島の海軍 基地には、津波の警告を送っていながら、インド洋各国の政府には警告していません 。

海軍に警告したのですから、事態の重大さをある程度は予想していたのです。  にもかかわらず、インド洋各国には警告を出さないという決定を、政府のレベルで 、下したわけです。

上記引用の共同の記事では、インドネシアの当局が「観光産業への打撃を恐れて警 報発令をためらったとの一部報道を強く否定した」などと書いていますが、ためらっ たのは、米国政府ではないでしょうか?

プーケット島などにいた欧米人観光客よりも、観光産業の利害のほうを優先した のではないでしょうか。

少なくとも結果的には、海軍のほうが、民間人より大事にされました。

でも、それを認めたくないものだから、東南アジアの国の後進性のせいにして、頬 っかむりをしようとしている。内心でうしろめたいハワイの警報センターもそれに便 乗し、タイムがそれに手を貸している。事態はそういうふうに見たほうが当たってい るようです。

米国がマスメディアを通じて自分たちの対応を正当化しようとしているのを、その まま流し、かんじんの当事者であるインドネシアやタイの政府当局に連絡して裏を取 らない日本のマスコミの姿勢に、米国一辺倒の危険性とアジア蔑視を感じるのは、私 だけでしょうか?

タイでは、気象局長が、津波警報を出さなかった責任をとり、更迭されていますが 、こんなことは、ほんの表面的事象にすぎないでしょう。