TUP BULLETIN

速報442号 女神の怒り - バグダッドの嘆き 050111

投稿日 2005年1月11日
2005年1月11日(火) 午後11時40分

女神の怒り  - バグダッドの嘆き

=======================
60年代から前衛詩人およびパンクロックの女神として知られるパティ・スミス
は、これまでにもエチオピアの飢饉、ジョージア州の人種差別、女性への暴力、
労働組合の腐敗、金銭崇拝主義、政治的欺瞞や環境問題などさまざまな問題提起
を、母親そして女ならではの華麗かつ生々しい言語とリズム感で表現してきた。
また市民権運動や反戦活動など社会問題への目覚めを愛と希望という構図で描く
音楽活動で知られる。去年後半に出た彼女の新しいアルバム「トランピン」の
「ラジオ・バグダッド」では、文明の発祥地として何世紀にもわたって人類の知
識や思想を育んできた聖都バグダッドの尊厳を傲慢かつ無知なアメリカ占領軍に
踏みにじられた嘆きを、アラビア文化の伝説をまじえた美しく強烈なイメージで
訴えている。

(翻訳:TUPメンバー、宮前ゆかり)

=======================

「ラジオ・バグダッド」

著作:パティ・スミスおよびオリバー・レイ

隣人の苦悩を

黙認することなかれ

隣人の無力さを

黙認することなかれ

手をさしのべよ

手をさしのべよ

さもなくば、おまえは都市のはざまに消え行く

かすかな痕跡にすぎない

消滅したただの亡霊

おまえが受け継いだ遺産

おまえが知っていたあらゆる知識

科学、数学、思想が

無残に衰弱してしまうであろう

チグリス・ユーフラテスから

水脈を形作る

疲れ果てた灌漑システムのように

平和の領域では

全世界が

全世界が

完璧な円のまわりをめぐっていた

バグダッドの都

学者たちの都

経験豊富で謙虚な

世界の中心

灰にまみれた都

バクダッドの都

バグダッドの都

荒々しい虚無感が漂う

ああ、メソポタミアに

流れる虚無感は深い

偉大な河の水脈の深み

それはエデンの

ふもとを形づくっているのだ

そしてあの木

知識の大樹が

空に向かって

枝を広げる

あらゆる分野の知識

あらゆる分野の知識

文明を

やさしく支えるゆりかご

やさしく支えるゆりかご

平和の領域では

全世界が

完璧な円のまわりをめぐっていた

ああ、バグダッドよ

世界の中心

灰にまみれた都

神の口からほとばしり出た

多くの偉大なモスクが

モザイク模様の空にむかって広がる

まだらの鳥のように

灰の中から立ち上がる

ああ、雲につつまれて

わたしたちはゼロを創造したのだ

だがおまえたちにとってそれは何の意味もないのだろう

おまえたちにとって

わたしたちはただのおとぎ話でしかないのだ

シンドバッドやシェヘラザードを産み落とした

ただの膨れ腹でしかないのだろう

わたしたちは

ああ、ああ、ゼロを産んだのだ

完全なる数字

わたしたちはゼロを発明したというのに

それはおまえたちにとって何の意味もないのだろう

わたしたちの子供たちが

通りを走り去る

おまえたちは火炎を送り込んだ

おまえたちの流星群

衝撃と畏怖

衝撃と畏怖

どこか21世紀映画の戦争モノめいて

騎士道も

武士道もあらばこそ

ああ、西洋の倫理など

とうに失われてしまった

初めからなかったのだろう

それがどこにあるというのか

おまえたちは

一国の人々を全滅させ

西からやってきた

そしてわたしたちのところへやってきた

わたしたちはおまえたちよりもはるかに年長なのに

ここへ来て、ここへ来て

文明のゆりかごを

略奪するというのか

それなのにおまえたちは、

おまえたちは、創世記を読むという

おまえたちはあの木のことを読んでいるはずだ

おまえたちはあの木のことを読んでいるはずだ

神が産んだというあの木のことを

空にむかって枝を広げるあの木のことを

あらゆる知識の枝を支える

文明のゆりかごのことを

ああ、メソポタミアの

チグリス河と

ユーフラテス河の川岸には

深い虚無感が漂う

振り返るイブの顔

彼女が見たのはどんな空なのだろうか

彼女の足元にはどんな楽園があるのだろうか

おまえが掘り返している場所だ

おまえが掘り返し

大地の血を吸い出している

石油の小さなしずくを腕輪にする

ちいさな宝石

サファイア

おまえは自分たちの世界のまわりに

腕輪を施す

わたしたちは涙を流して嘆いている

ルビー

それをおまえたちに捧げる

わたしたちはおまえたちにとって

単なるアラビアの悪夢でしかない

わたしたちはゼロを発明したのだ

そんなことはおまえたちにとって何の意味ももたないのだろう

単なるアラビアの悪夢でしかないのだろう

綺羅星の都

学問の都

科学

思想の都

光の都

灰にまみれた都

あの偉大なカリフが

歩いたという都

彼は裸足で円を描いた

そしてそこに彼らは都を構築した

バグダッドという完璧な都を

平和の領域では

全世界がまわりをめぐったというのに

そして発明をしたというのに

それらはおまえたちにとって何の意味ももたないのだろう

おまえたちにとってまったく何も意味しないのだ

まったく無意味なのだ

お眠り

わが子よ、眠りなさい

眠りなさい

子守唄を謡ってあげよう

わたしたちの都への子守唄

バグダッドの子守唄

お眠り

わが子よ、眠りなさい

眠りなさい

眠りなさい

眠りなさい

逃げて

逃げて

逃げて

逃げて

おまえたちは閃光を送り込んだ

おまえたちの爆弾

わたしたちの都市に向かって爆弾を送り込んだ

衝撃と畏怖

狂ったテレビ番組のよう

彼らは文明のゆりかごを

略奪しているのだ

彼らは文明のゆりかごを

略奪しているのだ

彼らは文明のゆりかごを

略奪しているのだ

隣人の無力さを

黙認することなかれ

黙認することなく

手をさしのべよ

原文URL: http://www.pattismith.net/trampin/radiobaghdad_lyrics.html

Patti Smith and Oliver Ray (c) 2004 Druse Music, Inc. (ASCAP)and
Hierophany Music (ASCAP)