FROM: liangr
DATE: 2005年1月26日(水) 午前2時14分
民主主義より安全より、せめて水を・・リバーベンドの日記1月22日
戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で 読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため 息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、 TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/
2005年1月22日 土曜日
暗いイード・・・
きょうは、イードの3日目。イードはイスラム教の祭日で、ふつうなら 大家族が集まって食べたり飲んだり、お祝いするとき。今年のイードは違 う。今年のイードは、耐えがたい。始まりの日に何とか集まったが、誰も が祝祭気分ではなかった。何回か爆発があった。遠くのものも近くのもの もあったが、これすら、日ごと高まっていく緊張に比べれば何ということ もない。
6日間、蛇口から一滴の水も出ない。6日間。占領が始まったのは、い つも水不足になる夏だったが、そのときでさえ、庭の水道栓の一つからは ちょろちょろと出て、まったく止まってしまうことはなかった。いまは、 その蛇口からも出ない。ずっと料理用と飲料水に水を買っている(値段は 高騰した)。掃除はあきらめること。イードの間、家をきれいにしておく のが習慣だから、掃除ができないのは、ほんとうにいらいらする。イード が近づくと、モップ、ほうき、雑巾、消毒剤が総動員の大活躍だ。掃除を すると、自分も新しいスタートができるという気になる。家も、その家の 住人たちも生まれ変わっていくようだ。今年は違う。皿を洗う水がやっと。 入浴は、灯油ストーブで温めた鍋の湯数リットルで間に合わせなくてはな らない。
水は平和に似ている――奪われるまで、いかに大切なものか真に知るこ とはない。流しに近寄り、蛇口をひねって、うなり声だけで何も出てこな いと、頭にくる。トイレも使えない。皿は、二人がかりで洗うまで、山積 みになっている。一人に水を注いでもらいながら、もう一人が皿をこすり 洗うのだ。
どうして、こんなことになったのか。電力事情が悪いせい? もしそう なら、以前そうだったように、1日数時間は、水が出るはずだ。それとも、 選挙へ向けての集団処罰みたいなものか? そんなことある? はじめ、 この地区だけのことかと思っていた。でも、聞いてみるとほとんど全地区 が(全部ではないにしても)この干ばつにあっているらしい。
この国の外にいる人々は、きっと「集団処罰」という言葉を聞くと、信 じられないというように首をふるだろう。「リバーベンド、それは違うよ。 そんなことありえない」。 しかし、きょうびは何でもありなのだ。多く の地域では人々は、もし選挙に行かなかったら、スンニであれシーアであ れ、毎月の配給食料の量を減らすとおどかされている。イラク国民は、90 年代の初めからずっとこうして配給を受け続けてきていて、多くの家庭に とっては、主要な生存の糧なのだ。いったい、選びたい人もいないのに強 制的に投票させる民主主義って、何?
アラウィとその一派は、数日前、パンフレットを配った。低い位置の蛇 口なら出るかと思って、庭に出てみたら、代わりに見つけたのは、庭の門 の下に押し込まれた紙切れだった。点検してみるや、占領下イラクに安全 と繁栄を最優先で約束しますという、「アラウィに1票を」のたぐいのパ ンフレットだとわかった。まったくの役立たずだわと思ったが、そうでも なかった。Eが最近飼い始めたインコのかごの下敷きにちょうどぴったり。
ヨルダンとひょっとするとシリアとの国境も閉鎖されているという。き のう、バグダードには入れなくなっていると聞いた。バグダードに入る主 要道路には米軍の検問所があって、どこから来た車も帰されているという。 状況は最悪で、いまはこれからの見通しも暗澹としている。
状況がどんどん悪くなっていくと、望みもどんどん小さくなっていくの は、驚くばかりだ。イラクには、それを表したことわざがある。「Ili yi shoof il mawt, yirdha bil iskhooneh」。「死ぬんだったら、熱なんて なんでもない」。民主主義、安全、電気でさえあきらめた。水だけ出るよ うにして。
午後4時19分 リバー (翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)
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