DATE: 2005年2月14日(月) 午前1時15分
和平交渉。平和は本当におとずれるのか。希望を持てないパレスチナ人。ドナの報告
2004年4月イラクで、米軍包囲下のファルージャに人道救援活動のために入り、そ の帰路、地元のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マル ハーンは、現在パレスチナに滞在しています。ヨルダン川西岸で巡礼の旅を続けてい る彼女は、2月8日の「パレスチナ合意、和平実現へ」とメディアがうたった首脳会 談をどう感じるのか。実際にパレスチナ人はどう感じたのか。パレスチナからドナが 伝えます。 (翻訳:福永克紀/TUP)
ドナ・マルハーン 2005年2月9日 和平の言葉
お友達の皆さんへ
私は、東エルサレムの宿泊所の休憩室で、和平という「言葉」が繰り返されるのを生 放送のテレビで見ました。
中東の指導者たちが共にテーブルを囲んで座っている光景に、私はすっかりひきこま れ、胸は少し高鳴っていました。
私は耳を傾け、パレスチナのマフムード・アッバスとイスラエルのアリエル・シャロ ンの口から出る言葉を一つ残らず聞き逃すまいとしました。
友人たちはたいした興味も示さず、私よりはるかにシニカルでした。図書館に行って しまった者もいれば、買い物に出かけてしまった人もおり、残りの者は、エルサレム に雪が降るようなこんな冷え込む日にはと、居心地よさそうな喫茶室の暖炉のそばに 行ってしまいました――ひょっとして、もっと歴史的なことが何かあったのかな?
「私はここにいて和平を見るわ」と、私が言いました。
笑った人がいました。パレスチナのヨルダン川西岸で、占領の暴力を自分の目で確か めてきた今では、私にも彼の猜疑心が理解できるのです。
「『言葉』を見るってわけだ」と、彼が言いました。
「これが始まりじゃないの?」と、少し甘いかと感じながら言う私の声は、弱々しい ものでした。
私は、アッバス氏とシャロン氏が暴力の道を終焉させること、互いの権利を尊重する こと、隣人同士の間に平和を打ち立てることを語り合っているのを聞いた時には、鳥 肌が立ち、目には希望の涙があふれるのを感じました。
これらの言葉が脚を持ちガザまで歩いていけたなら、そして、ほんの1週間前にイス ラエル兵に射殺された10歳の娘を悼むパレスチナ人一家にわずかなりとも安らぎを与 えますようにと、ヨルダン川西岸の占領地での従軍任務から十代の息子が毎週生きて 帰ってくるかと気をもみながら待つイスラエル人一家にいくらかでも希望を与えます ようにと、どれだけ神に望んだことでしょう。
私は、この宿の支配人である若いパレスチナ人のハジームのほうを向いて、「聞い て、ハジーム。彼らは今、和平を達成しようとしているのよ!」と、呼びかけまし た。
彼は、ダメダメと手を振り、暖炉に薪をくべ続けていました。
「見てよ、ユセフ」と、彼の弟に呼びかけました。「インテファーダは終わったの よ、戦争はもうおしまいなのよ」
「それは、単なる言葉だよ」と、事もなげに彼は言いました。
「こんなことなら、アラファトともやったよ。彼らはアラファトにも同じことを言っ ていた」
このパレスチナ人の若者たちが、目の前のテレビの光景を見てもなんの希望も持てな いことに、私は悲しくなりました。
私はアルジャジーラにチャンネルをかえ、ふたりともこっちに来てアラビア語の放送 を座って見るように言いました。
「どう?」と、私は勢い込んで尋ねました。「なんて言ってる?」
「以前とまったく同じことを言っている……」、ユセフは繰り返します。
「軍事作戦を終了させると言っている……、でも、私はいまだにナブルスの家族のと ころに行けない。検問所で追い返される。移動の自由がないのだよ。彼らはまだ私た ちを支配している。
「尊厳が必要なんだ。私たちが尊厳を持てたとき、初めて何かが変わったんだと思え るんだ」
「でも、まったくなんの希望も感じないの?」と、ハジームに聞いてみました。
彼は座りなおして、お茶をすすり少し考えていました。
「私たちだってみんな、平和への希望を持ちたいとは思う」と、彼は答えました。
「もし、パレスチナ人で平和を望まないと言う者がいれば、それは嘘だ。誰もが平和 を望んでる」
私はユセフに振り向きました。彼は、何も変わりはしないだろうという意見を繰り返 していたのです。
「どうして、あなたはそう思うの?」と、尋ねてみました。
「イスラエルは、信用できないからだ」が、彼の返答でした。
まったく信用していない相手に応えるのは難しいものです。しかし私は、相手陣営で も明らかな不信をもっていることを聞き知っていました。
「彼らは、パレスチナ人は信用できないと言っている」と、1時間前に見たイスラエ ル人のインタビューのことを持ち出して、私は言いました。
ユセフは肩をすくめるばかりで、なんの返答もありませんでした。
明らかなことは、もし今日が和平への第一歩だとしても、前途は長くて泥沼のような 道だということです。信用が得られるためには、言葉が行動という形で表される必要 があるのです。
皆さんの巡礼者
ドナより
追伸:今晩と明日はでかけて、たくさんのパレスチナ人とイスラエル人に今日の「首 脳和平交渉」の感想を聞いて回って、皆さんにお知らせするつもりです。
追追伸:明日、問題の町ヘブロンに向かう予定です。本当に平和が訪れたのかをしっ かり試すことのできる良い機会となるはずです。
追追追伸:パレスチナの大地にいる者との話に興味を持っていそうな番組を知ってい る方がおられましたら、私の電話番号を教えてあげてください――[訳注:番号省 略]
追追追追伸:「この世で最も重要なことは、いまどこにいるのかではなく、どの方向 に向かおうとしているかにある」――オリバー・ウェンデル・ホームズ
(翻訳:福永克紀/TUP)
原文:Peace Words… URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/152