DATE: 2005年3月16日(水) 午前3時11分
ズグレーナの事件よりバグダードの病院ストのほうが大事件!!
戦火の中のバグダード、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の 女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、 女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、 検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列 と水汲みにあけくれる毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読ま れています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が 感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。(この記事は、T UPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。 (転載転送大歓迎です)
(TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://www.geocities.jp/riverbendblog/
2005年3月8日火曜日
うさぎがほしいって?
イタリア人ジャーナリストが解放されてみんなほっとしている。私もとて もうれしかった。今、イラク人はダース単位で誘拐されていっているのだが、 それでも外国人が誘拐されたときは、イラクという国の美点が表われる。イ ラク人は、時にほとんどうっとうしいと感じられるほどのもてなし好きだ。 誰かが家にやってくると、何か飲んで行けと執拗に勧め、次にもうすぐ(た とえ4時間後であっても)食事だから食べて行けとこれまた執拗に勧める。 だからジャーナリストや支援活動をしている人々が誘拐されると、自分たち のもてなしが悪いと感じて、申しわけなさで身の縮む思いがするのだ。
どうしてジャーナリストや罪もない人々が誘拐されるのか、いつも不思議 がられている。それは、現在、見たところではどういう職業の人かまったく 分からないからだと思う。誰が誰か見分けるのはとてもむずかしい。たとえ ば、誰がジャーナリストで、誰が外国の諜報員か? 誰が傭兵で、誰が支援 活動家か? この頃では、人々は何となく外国人に話しかけたがらなくなっ た。
事態の皮肉さは、おそらくズグレーナにとって誘拐犯のほうが、米軍より 危険でなかったという点にある。ズグレーナの乗った車が銃撃されたと聞い ても意外ではなかった。意図的であったか? 判断はむずかしい。なぜ米軍 が彼女と随行員を亡き者にしたかったか、その理由がわからない。しかしそ の一方では、イタリア人諜報員とジャーナリストを乗せた車に向けてあんな にも多くの弾薬を浴びせるなんてことが一体どうして起こりえたのか、わか らない(通常米軍は、車に乗っているイラク人の家族に対してはこれほどの 弾薬は使わないのだ)。
事件をうまく正当化することなんてできない。私は脳みそをしぼって、ペ ンタゴンが言いそうなことを考えてみた。意図的であった、あるいは銃撃し た兵士は酔っていたか何かでハイになっていたと認める可能性は論外として。
いつもの言い訳をするような気がする。いわく「ジャーナリストを殺しか けた兵士たちは恐ろしく怯えていた。精神的重圧にさらされてきたのだ」。 だけど、イラク人だって怯えているし、重圧にさらされているのよね。それ でもしょっちゅう誤って人を殺したりはしない。イラク人は、地獄の沙汰を ものともせず冷静で平静なはずだと思われているのだ。
賭けてもいいが、このささいな事件は、ペンタゴンの例によってのばかげ たお詫び(あんまりお詫びには聞こえない)で片づけられてしまうだろう。 ほら、こんなふうに――「不幸な事件でした。が、ズグレーナはそもそもイ ラクにいるべきではなかったのです。ジャーナリストは危険がないように自 分の国にとどまっているべきであり、民主主義が根付き、イラク人は喜んで いるという我が軍の日報を待ち受けているべきなのです」。
私には、アメリカ人がこの事件にどうしてそんなにもショックを受けたの か、わからない。どこがショック? ズグレーナの車が銃撃されたこと? アメリカ人がイタリアの諜報員を殺したこと? アブグレイブ、殴打、拷問、 何ヵ月もの拘束、窃盗、レイプ・・・イラクで起きたことすべてを考えてみ てもなお、この最新の事件はそんなにショックかしら? それとも犠牲者が イラク人でないからショックなのか?
ズグレーナが無事に帰れてとてもうれしい。しかし同時に、全体として見 たとき、少々つらいものがある。なぜかというと、米軍の検問所であるいは 戦車や攻撃用ヘリコプターと出会い頭に、何千人ものイラク人が死んでいる というのに、人気のないどこかのニュース局でたまたま小さく話題にされる 以外は、誰も知ることはないし誰も気にしないから。でもつらいといっても ほんの少しだけれど。
先週水曜日に起きた事件はその週注目の事件だというのに、西側の報道機 関はどこも報道しなかったから驚いた。それほどの大事件ではないけれど、 バグダードの人々を怒らせた。それだけでなく我らが「英雄的」国家警備隊 に関して、どういう事態が起こっているのか、この事件でよくわかる。バグ ダードで水曜日に爆発があった。負傷者は全員、バグダードでは比較的大き い病院であるヤルムク病院に運ばれた。負傷者は約30人で、ほとんどは国 家警備隊員だった。この爆発で負傷した患者、ほかの爆発で患者となった人 々、そのほか銃撃で負傷した患者などさまざまな患者で病院は大混乱だった。 医師たちは、一時に4カ所に現れようと努力してそこら中を走り回っていた。
病床が足りないのは明らかだった。負傷者の多くは廊下や病室の外にいた。 事件の一部始終はさまざまに語られている。ある医師に聞いたところでは、 何人かの国家警備隊員が医師に向かって、一般民はほっておけ、警備隊員の 傷に専念しろと言って激しく抗議し始めたという。看護師の話では、負傷し ていない警備隊員が一般の人々をベッドから引きずり下ろして、代わりに負 傷した警備隊員を寝かせ始めたという。が、話の要点はたいてい同じだ。要 するに、医師が一般民の治療をやめ国家警備隊を優先せよという言い分を拒 否した。すると突然取っ組み合いが始まった。医師たちは、もし国家警備隊 員が一般民をベッドから引きずり下ろし始めたら、ストライキをすると言っ て脅した。
医師と看護師の一部を集め、患者の目の前で殴打してやろう。これが、せ っぱ詰まった国家警備隊員たちの打開策だったのだろう。それで数人の医師 が駆り集められ、そこへ数人の国家警備隊員が襲いかかった(電気警棒やカ ラシニコフ銃の銃床がふんだんに使われたという)。
医師たちはストライキをうつことを決めた。
白衣の医師たちの頭を殴りつけている国家警備隊を思い浮かべると、彼ら を英雄視するのはむずかしい。米軍のための治安維持を本分とする軍需用消 耗品のイラク人としてしか考えられない。
ダーワ党のジャファリが首相になり、クルド愛国同盟のタラバニがお飾り の大統領になるらしい。選挙のときから予測されていた。名ばかりのスンニ 派、ガジ・ヤワルに国会広報担当のような目立つポストが与えられるという 噂がある。これはスンニ派大衆をなだめようというポーズだが、そんなこと してもなだめられない。シーア派とスンニ派がどうこうという問題ではない からだ。問題は、占領と傀儡政権なのだ。誰であろうが、皆同じに見える。
アメリカの政治家たちはわかっていないと思えること、政治家だけでなく 多くのアメリカ人もわかってないんじゃなかろうかと思えること、それは、 何百万ものイラク人の心は完全に現在権力の座にある者たちから離れてしま っているということだ。これらの政党のどれかと深い関係にある(つまり保 護を受けているとか給料をもらっているとか)のでもなければ、ジャファリ やアラウィやタラバニといった面々に好感をもてるはずがない。キルクーク や憲法とシャリーアの扱いについて争った会議から、口を閉ざしずるそうな 目つきで出てきた彼らをテレビで見ていると、体外離脱体験ってこんな感じ だろうかと思ってしまう。
選挙で選ばれたとはいうけれど、操り人形だという思いは変わらない。そ れも今はハイテク人形。ふつうの糸で操るタイプから電池で動くおしゃべり 生き人形へグレードアップした。2003年にブレマーがやった輪番大統領 制なるものをもう一度総ざらいしているようだ。同じ顔ぶれはうんざりさせ られる。古いイラクの諺にこれにぴったりなのがある。「Tireed erneb- uk huth erneb. Tireed ghazal- ukhuth erneb」。翻訳すると「うさぎが欲しい って? うさぎをどうぞ。鹿が欲しいって? うさぎをどうぞ」。
うさぎは貰わなかったけれど、ヘビやイタチやハイエナを取りそろえて貰 ったところよ。
イマード・ハッドゥーリのブログ http://abutamam.blogspot.com/ を見 て。イタリアのジャーナリストについて重要な情報にリンクを張っている。
午後2時34分 リバー
(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里) http://riverbendblog.blogspot.com/