FROM: liangr
DATE: 2005年4月2日(土) 午後10時43分
☆どうして中国が富める成功国として台頭するのが
日本やアメリカの不都合になるのだろう? ★
「奢る平家は久しからず」ではないですが、唯一のスーパーパワーの覇権は
久しからず――アメリカがイラクで足を取られているうちに、新しい潮流、す
なわち多極化への動きがヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジアで新興産業大
国・中国を軸に加速しているようです。
チャルマーズ・ジョンソンはこれまでも――
◎TUP速報246号「地球を覆う米軍基地戦略」(TUPアンソロジーVo
l.1掲載)――地球規模に展開するアメリカ軍事帝国の実態
◎速報 242号「帝国の治外法権:三件のレイプ犯罪」(Vol.2)――
駐留米軍地位協定と沖縄(ひいては日本)の姿
――マクロとミクロの両視点から日米関係を分析、報告してきましたが、イラ
クにおいてだけでなく、対中国・台湾政策でもアメリカに盲従する日本に警告
を発します。
/TUP 井上 利男 凡例――(原注)[訳注]
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もはや“単独”のスーパーパワーではなくなった米国
――中国との折り合いをつける
No Longer the “Lone” Superpower — Coming to Terms with China
トム・ディスパッチ 2005年3月15日
――チャルマーズ・ジョンソン
40年前、筆者が中国と日本をめぐる国際関係論の新任教授だったころ、エ
ドウィン・O・ライシャワーが「日本を恒久的に非武装化したことが、194
5年の米国による勝利の大いなる報酬でした」と発言したのを憶えている。日
本に生まれ、ハーバード大学で日本史研究者になったライシャワーは、ケネデ
ィ、ジョンソン両政権下で駐日米大使を務めていた。ところが1991年の冷
戦終結後、とりわけジョージ・W・ブッシュ政権発足後、おかしなことにアメ
リカは日本の再武装を促すばかりか、それを加速させるべくあらゆる手を尽く
している。
このようななりゆきは、アジアの両超大国、中国と日本の間の敵意を高め、
中国と朝鮮半島の内戦から持ち越した問題を抱える二つの地域、台湾と北朝鮮
において平和裏の問題解決の可能性を退け、将来の米中紛争の原因を作るもの
で、万一そのような事態になれば、アメリカの敗北はほぼ確実になるであろう。
ワシントンのイデオローグや主戦論者たちは、自分たちが招き寄せようとして
いることの帰結を理解しているかどうか怪しい。まかり間違えば、世界一の成
長率を誇る産業経済国である中国と、衰えを見せながらも世界で二番目の経済
大国である日本との直接対決――しかも、アメリカがお膳立てしながら、みず
から呑みこまれてしまいかねない対立に至ることになる。
東アジアにおいて、わたしたちはブッシュとチェイニーが唱道するような類
のちっぽけな体制変革戦争を話題にしているのではないと明言させていただき
たい。20世紀をとおして見受けられた国際関係の顕著な特色を煎じ詰めて言
えば、豊かな既成勢力――大英帝国およびアメリカ――は、ドイツ、日本、ロ
シアといった新興勢力拠点が台頭したさい、平和裏に適応する能力がなかった
ということにつきる。その結果、二度にわたり甚だしく血を流した世界大戦、
45年の長期にわたったロシアと“西側諸国”の冷戦、ヨーロッパ、アメリカ、
日本の帝国主義および植民地主義の傲慢や人種差別に対する(四半世紀つづい
たベトナム戦争など)数えきれない民族解放戦争を見ることになった。
21世紀に向けた肝要な問いは、世界勢力構造の変化に対するこの宿命的な
適応不能を克服できるかどうかにある。これまでの徴候が示す答はNOである。
豊かな既成勢力の現代版たるアメリカと日本は、中国――世界最古でありなが
ら途絶えることなく今に続く文明――の再登場、しかも今度は現代の超大国と
しての復活に適応できるのだろうか? あるいは、アメリカと日本に投影され
た西洋文明の自負心がついに萎えるとき、中国が握る主導権がさらにもうひと
つの世界大戦を招くことになるのだろうか? これこそが鋭く問われている。
不思議の国のアリス政策とすべての財政危機の母
Alice-in-Wonderland Policies and the Mother of All Financial Crises
中国、日本、アメリカは世界で最も生産力のある三大産業諸国であるが、中
国経済が最も旺盛に成長している(これまでの20年にわたり平均年間成長率
9.5パーセント)のに対し、日米双方とも巨額で増大する債務を抱え、しか
も日本の場合、経済成長すら停滞気味である。現在、中国は経済規模が世界第
6位であり(アメリカと日本はそれぞれ1位と2位)、アメリカの貿易相手と
しては、カナダ、メキシコに次ぐ世界第3位である。2003年度CIA統計
報告によれば、購買力指数――つまり、価格や為替比率ではなく、実際の生産
力――で見ると、すでに中国は実質的に世界第2位の経済大国である。CIA
の計算によれば、2003年のアメリカの国内総生産(GDP)――一国内で
生産されたあらゆる財貨とサービスの総額――は10兆4000億ドルであり、
中国のそれは5兆7000億ドルである。中国の人口は13億なので、同国の
一人あたり国民所得は4385ドルになる。1992年から2003年にかけ
て、日本は中国の最大貿易相手国だったが、2004年、欧州連合(EU)、
アメリカに続く第3位に転落した。2004年の中国の貿易規模は、アメリカ、
ドイツに次ぐ第3位の1兆2000億ドルであり、日本のそれの1兆700億
ドルにかなりの差をつけている。中国の対米貿易は2004年中に約34パー
セントの伸び率で拡大し、おかげでロサンジェルス、ロングビーチ、オークラ
ンドはアメリカで最も活況を呈する貿易港になっている。
2004年に見られた特筆すべき貿易動向は、EUが中国の最大の経済パー
トナーとして浮上したことであり、両者は中国=ヨーロッパ協商ブロックを形
成して、さほど元気のない日米ブロックに対抗する可能性をうかがわせている。
英国のファイナンシャル・タイムズ紙が「中国が(2001年に)世界貿易機
構(WTO)加盟して3年たった現在、その世界貿易における影響力は、もは
や単に重要なのではない。死活的である」と論じたとおりだ。例えば、アメリ
カで販売されるデル製コンピューターの大半は中国で製造され、日本の船井電
機のDVDプレーヤーもそうである。船井は年間ざっと1000万台のDVD
プレーヤーとテレビを中国からアメリカに輸出し、これらがアメリカ国内で主
としてウォルマートの店舗に並べられている。2004年の中国の対ヨーロッ
パ貿易は1772億ドルであり、対米で1696億ドル、対日が1678億ド
ルである。
世界に拡大する中国の経済的影響力は広く認められ、賞賛されているが、ア
メリカと日本が、正しいにしろ、間違っているにしろ恐れているのは、中国の
成長率と、それが将来の世界の勢力バランスに与える影響である。CIAの国
家情報委員会は、中国のGNPは2005年に英国のそれに並び、09年にド
イツ、17年に日本、42年にアメリカに追いつくと予測する。だが、世界銀
行中国部の副部長とパキスタンの財務大臣とを歴任したシャヒード・ジャヴェ
ド・ブルキは、中国は25年までに購買力ベースのGDPがおそらく25兆ド
ルに達して、世界一の経済大国になり、それにアメリカが20兆ドル、インド
が13兆ドルで続くことになると予測する――しかもブルキの分析は、これか
ら20年間、中国が6パーセントの成長率を維持するという控えめな予測値に
もとづいている。日本は、人口が2010年あたりで劇的な減少に転じるので、
衰退が避けられないとブルキは予想する。日本の男性人口は、04年時点で0.
01パーセントの減少をすでに示していると日本の総務省が報告した。今世紀
末には日本の人口は3分の2近く減って、現在の1億2770万から1910
年と同水準の4500万人になりうると人口統計学者の一部が予測しているの
が目を引く。
対照的に、中国の人口は約14億で安定しそうであり、しかも男女構成比バ
ランスは男性側に傾くことになる。(ニューヨーク・タイムズ紙のハワード・
フレンチによれば、中国南部のある大都市では、政府主導の一人っ子政策と超
音波診断の普及にともない、女子の出生数100に対し、男子のそれは129
になっている。二番目または三番目の子どもを望む夫婦の場合、女子100に
対し男子147である。2000年の全国規模の国勢調査では、出生時の性別
比率は女子100に対し男子117という結果が報告されている) 中国の国
内経済の成長は、巨大な人口の抑えられてきた需要、比較的に低水準の個人債
務、公式統計に記録されない活力あふれる闇経済を反映して、これから数十年
にわたり継続すると予想される。最も重要なことに、中国の対外債務は比較的
小さく、同国の対外債務引当金によって容易に補填できる。それにひきかえ、
アメリカと日本のどちらも、それぞれ約7兆ドルの赤字を抱え、人口でも経済
力でもアメリカの半分にすぎない日本の場合、なおさら苛酷な状況にある。
皮肉なことに、日本の債務の幾分かは、アメリカの世界帝国的な姿勢を下支
えしてきた尽力の結果である。例えば、冷戦終結からこれまでの期間、日本は
在日米軍基地に対し約700億ドルという驚くべほどの額を助成をしている。
アメリカは、みずからの浪費的な消費様式の対価と軍事費を自国民から徴集し
た税金で支払うのを拒みながら、日本、中国、台湾、韓国、香港、インドから
借りまくって、これらの経費を賄っている。この状況は、アメリカが政府予算
を捻出するために一日あたり少なくとも20億ドルの外資導入を必要としてい
ることによって、ますます不安定になってきた。東アジア諸国の中央銀行が、
自国をドル下落から守るために外貨保有の相当部分をドルからユーロなど他の
通貨に移す決定をするなら、それがどのようなものであっても、あらゆる財政
危機の根源を生みだすだろう。
日本は今でも世界最大の外貨保有国であり、2005年1月末時点の保有高
は約8410億ドルに達している。中国は(04年末時点で)6099億ドル
のドル貨幣を蓄え、これは対米貿易黒字で稼いだものである。ところがアメリ
カ政府と日本のジョージ・W・ブッシュ追随者たちは、思いつくかぎりの難癖
をつけ、とりわけ中国の分離領土、すなわち台湾島をネタに中国を侮辱してい
る。先日、著名な経済評論家ウィリアム・グレイダーは「銀行家を侮辱する浪
費家の債務者は、穏やかに言っても、賢明ではない……アメリカの指導層は…
…文字どおりに――ますます思い違いするようになり、勢力関係の不均衡が自
分側に不利な方に傾きつつあることに目を閉ざしている」と記した。
ブッシュ政権は、日本に再武装を迫ることにより、また台湾に対して、中国
が台湾の独立宣言を阻止するために武力を用いるなら、アメリカが台湾のため
に出撃すると約束することにより、愚かにも中国を脅している。これに勝るよ
うな近視眼的で無責任な政策は想像するのも難しいが、イラクにおけるブッシ
ュ政権による“不思議の国のアリス”戦争、同政権が地球規模で引き起こした
激しい反米主義、それにアメリカの情報部局が政権に従属したことなど、いろ
いろ踏まえて考えると、アメリカと日本が台湾をめぐって突如として対中戦争
に踏み切ることもありうるようだ。
日本がふたたび軍事国家に
Japan Rearms
第二次世界大戦からこのかた、特に1952年の独立達成後、日本は平和外
交政策を誓約してきた。攻撃的な軍隊を保持したり、アメリカの世界軍事シス
テムの一翼を担ったりすることを日本は断固として拒んできた。例えば、日本
は91年の対イラク戦争に参加しなかったし、集団安全保障条約は他の参加国
と同等の軍事貢献を求められることになるとして、これに加わらなかった。日
米安全保障条約が発効した1952年からこのかた、この国は、いわゆる外部
からの脅威に対して、表向きには、本土および沖縄に散りばめられた91ヵ所
もの基地に駐留する米軍によって防衛されている。米第7艦隊は、かつて日本
海軍基地だった横須賀を母港にしさえしている。日本はこれらの基地に助成し
ているだけでなく、米軍はもっぱら日本の防衛のためにだけ駐留しているとい
う公的な作り話に荷担している。現実には、自国領土内に基地を置くアメリカ
の陸海空軍をアメリカがどこでどのように用いるのかに関して、日本はまった
く統制権限を持たず、つい最近まで単に議論しないことによって、日米両政府
はこの実態を巧みに隠してきた。
1991年の冷戦終結後、アメリカは、日本が憲法第9条(自衛目的を除く
武力使用の放棄)を改定し、アメリカの高官たちの言う「普通の国」になるよ
うに繰り返し圧力をかけてきた。例えば2004年8月13日、東京で、コリ
ン・パウエル国務長官は、日本が国連安全保障理事会の常任理事国になりたい
なら、まず平和憲法を取り除かねばならないという、ぶしつけな発言をおこな
った。日本の安保理入り要求は、同国のGDPは世界総生産の14パーセント
を占めるにすぎないのに、国連の総予算の20パーセントを負担しているとい
う事実を論拠としている。パウエルの所感表明は日本の国内問題に対する露骨
な内政干渉であるが、日本を再武装させ、それによりアメリカ製兵器の新しい
市場を拡大するために長年勤しんできたワシントンの反動的な一派の主導者、
リチャード・アーミテージ前国務副長官による度重なるお告げを繰り返したも
のにすぎない。この一派には、トーケル・パターソン、ロビン・サコダ、デー
ヴィッド・アッシャー、国務省のジェームス・ケリー、国家安全保障会議職員
のマイケル・グリーン、それにペンタゴンやハワイ州パールハーバーの太平洋
軍司令部のおびただしい数の制服組軍当局者たちが顔を揃えている。
アメリカの意図は、日本をワシントンのネオコンたちが好んで言う「極東の
英国」に仕立てなおし――これをもって、北朝鮮に王手をかけ、中国を牽制す
るための駒に使うことである。2000年10月11日、当時、アーミテー
ジ・グループの一員だったマイケル・グリーンは「われわれはアメリカと英国
の特別な関係が(米日)同盟の模範になると見ている」と書いた。アメリカか
らの圧力が、日本の有権者たちの間に復活するナショナリズムや、成長著しい
資本主義中国が東アジアの主導的経済大国としての日本の指定席を脅かすので
はという恐れを補強するので、これまでのところ日本はこの圧力に対し抵抗し
ていない。また日本の当局者たちは――ブッシュ政権がピョンヤン体制の転覆
を図るのを止め、(北朝鮮による核兵器開発計画の断念の合意と引き換えに)
アメリカによる通商合意を実行するなら、北朝鮮における手詰まり状態は文字
どおりに一夜にして解消することを承知しているにもかかわらず――日本国民
は北朝鮮の核・ミサイル開発プログラムによって脅威を受けると感じていると
主張している。2005年2月25日、あろうことか米国務省は「アメリカは、
ピョンヤンが核兵器プログラムをめぐり交渉のテーブルに復帰することを見返
りに、『敵視政策の放棄』の保証を求める北朝鮮指導者・金正日の要求を拒否
する」と声明した。さらに3月7日、ブッシュ政権は、北朝鮮が自国を侮辱す
る発言を理由に交渉相手として拒否しているジョン・ボルトンを国連大使に指
名した。
日本の再軍備をめぐり、日本国民の一部は懸念を示し、東アジア全域、とり
わけ第二次世界大戦中に日本が犠牲にした中国、南北朝鮮、さらにはオースト
ラリアさえも含むすべての国ぐにが反対している。そのため、日本政府は再軍
備増強プログラムを隠密裏に開始した。防衛関連の重要な法律が1992年以
降に21件制定され、2004年だけでこれが9件にのぼっている。この動き
の突破口を開いたのは、日本が国連平和維持活動の参加するために派兵するこ
とを初めて認めた1992年の国際平和協力法[「国際連合平和維持活動等に
対する協力に関する法律」]の制定だった。
その後、軍事予算の拡大、海外派兵の正当化と合法化、アメリカのミサイル
防衛(“スターウォーズ”)構想――カナダが2005年に断った代物――に
対する参加表明、武力による国際問題の解決に対する是認範囲の拡大など、さ
まざまな形を取って再軍備路線が進められている。この段階的なプロセスは、
01年にジョージ・W・ブッシュと小泉純一郎首相とが同時に政権につくこと
によって大きく加速した。小泉は同年7月に初訪米をおこない、03年5月に
は、究極の厚遇とも言えるテキサス州クロフォードのブッシュ“牧場”への招
待を受けた。ほどなく、小泉は兵員550名からなる部隊を1年間の期限でイ
ラクに派遣することに合意し、04年に派遣期限をさらに1年間延長、さらに
04年10月14日には、ジョージ・ブッシュの再選を個人的に支持した。
核大国の仲間入りを準備中?
A New Nuclear Giant in the Making?
小泉は内閣のさまざまな閣僚ポストに反中国・親台湾強硬派の政治家たちを
指名している。ロンドン大学東洋アフリカ学校の現代中国研究所長フィル・デ
ィーンズは「日本で親台湾感情の盛り上がりが目立っている。小泉内閣には親
中国派の人物はまったく見当たらない」と見ている。現在の小泉内閣には、防
衛庁長官に大野功統(よしのり)、外務大臣に町村信孝がいて、両者とも熱心
な軍国主義者である。町村外務大臣は森嘉朗元首相の右翼派閥の一員であり、
同派は台湾独立を支持し、台湾の政財界に広範な隠密の人脈を維持している。
台湾は1895年から1945年にかけて日本の植民地であったことを忘れ
てはならない。1910年から45年まで苛酷をきわめた日本の軍政下にあっ
た朝鮮半島とは違って、台湾では日本の文民政府による比較的穏和な統治がお
こなわれた。台湾島は第二次世界大戦中に連合軍によって爆撃され、終戦直後
から(蒋介石の)中国国民党による苛酷な軍事占領を受けたにしても、大戦の
戦場にならなかった。その結果、今日、大勢の台湾人が日本語を話し、好意的
な日本観をもっている。台湾は、東アジアで実質的に唯一、日本人が心から歓
迎され、好意を受ける地域である。
ブッシュと小泉は日米両国間軍事協力のための入念な計画を練り上げている。
この計画の要になるのが、1947年施行の日本国憲法の廃棄である。小泉内
閣の与党、自由民主党は、邪魔さえ入らなければ、2005年11月の党結成
50周年記念の節目に新憲法案を発表するつもりである。自民党は1955年
に定めた基本綱領に党の基本的政治目標として「自主憲法の制定」を――第二
次世界大戦後、ダグラス・マッカーサー将軍の占領司令部が現行憲法を起草し
た事実に言及しつつ――掲げているので、これは適切であるとされてきた。も
ともと自民党政策綱領は「日本国領土からの米軍の段階的撤退」をも謳ってい
たので、これも日本が再武装を急ぐことの隠された目的のひとつなのかもしれ
ない。
アメリカが大目標としているのが、巨額の出費を要する同国のミサイル防衛
計画への日本の積極的な参加を実現することである。ブッシュ政権は、現状で
は欠陥のあるスターウォーズ・システムの技術的問題の解消のために日本人技
術者たちによる助力を望んでいるので、なににもまして日本による軍事技術の
海外移転禁止の終結を求めている。アメリカはまた、陸軍第一軍団をワシント
ン州フォート・ルイスから、東京の南西、横浜を県庁とする人口密度の高い神
奈川県の座間基地に移すために日本側と活発に交渉している。これら在日米軍
部隊は、イラクおよび南アジア全域の米軍に君臨する中央軍司令官ジョン・ア
ビザイドのような方面軍司令官たちと同格の四つ星クラスの将官[大将]の指
揮下に置かれることになる。新たに受け入れる司令部は東アジアの領域を超え
る全軍“戦力投入”作戦に従事するので、日本はアメリカ帝国の日常軍事行動
に否応なく巻きこまれることになる。神奈川県のような日本の中心部にあって
都市化の進んだ地域に、小規模の方面軍を駐留させるだけでも、沖縄で日常茶
飯に発生しているのと同様な、レイプ、乱闘騒ぎ、自動車事故など多様な事件
が多発するだろうし、大規模な大衆抗議行動を引き起こすのは確実で、推定4
万の総兵力からなる第一軍団ともなれば、なおさらのことである。
日本の側では、防衛庁を省に格上げするつもりであり、ことによると独自の
核軍事力を開発する意図がある。日本政府に軍事路線を主張するように迫ると、
日本を中国と北朝鮮を“抑止”するための核開発に走らせることになり、ひい
ては日本をアメリカの“核の傘”への依存から解き放つことになる。軍事評論
家リチャード・タンターは、日本はすでに「核爆弾、正確な目標誘導システム、
少なくとも一基の発射装置という、使いものになる核兵器のための三大要件の
すべてを疑う余地なく満たす能力を疑う余地なく備えている」と記す。日本は
じっさいに機能する核分裂炉と増殖炉にプラスして使用済核燃料再処理施設を
保有しているので、先端的な熱核兵器を製造する能力を持っていることになる。
日本のH2とH2Aロケット、戦闘爆撃機の空中給油システム、兵器級の監視
衛星が、兵器を地域的な目標に正確に撃ちこむ能力を保証する。現状で欠けて
いるのは、敵対核保有国に予防先制攻撃の発動を思いとどまらせる確実報復力
を持つための(潜水艦のような)核搭載システムである。
台湾をめぐる緊張
The Taiwanese Knot
日本は北朝鮮の脅威について多弁であるかもしれないが、日本の再武装の本
当のターゲットは中国である。先ほど日本が東アジア国際関係において随一の
微妙で危険な係争――台湾問題――に介入したことから、このことが明確にな
った。日本は1931年に中国を侵略し、それ以来、台湾の植民地宗主国であ
るのに加え、中国に対する戦時加害国になった。だがアメリカが長年認めてき
たとおり、当時でも台湾が中国の一部と見なされていた。未解決のまま残って
いる問題は、台湾が中国本土に再統合される条件と時期である。1949年の
中国内戦終結時に台湾に逃げこんだ(そしてそれ以来、米第7艦隊によって守
られてきた)蒋介石の国民党が、ついに87年に島の戒厳令支配を解除したこ
とから、この再統合プロセスはきわめて複雑なものになった。その後、台湾は
活気に満ちたデモクラシーを育て、今では、台湾人がみずからの将来に関して
多岐に別れる独自の意見を示しはじめている。
2000年に台湾住民は長年にわたった国民党による権力の独占を終わらせ、
陳水扁総統が率いる民主進歩党を選挙に勝利させた。(蒋介石の敗残軍の貨物
列車に乗って台湾に落ち延びた多数の外省人と明確に区別される)本省人であ
る陳水扁とその党は独立国家たる台湾を唱えている。反対に、国民党、それに
同党から分離した有力な外省人政党、ジェームズ・スーン(宋楚瑜)率いる新
民党は、台湾が平和裏に中国と統一することを望んでいる。2005年3月7
日、ブッシュ政権がジョン・ボルトンをアメリカの国連大使に指名したことで、
こうした微妙な関係がさらに複雑になってしまった。ボルトンは自他ともに認
める台湾独立の唱導者であり、かつて台湾行政府の有給顧問を務めていた。
2004年5月、勢力が伯仲し激戦になった選挙の結果、陳水扁が再選され、
5月20日、台北で挙行された総統就任式に、日本の名うての右翼政治家、石
原慎太郎が出席した。(石原は1937年の南京大虐殺は「中国人によるでっ
ちあげ」と信じている) 陳水扁は50.1パーセントの得票という僅差で勝
ったが、それでも、独立反対派が分裂選挙になった2000年総統選における
彼の得票率33.9パーセントに比べると大躍進だった。ただちに台湾行政院
外交部は非公式駐日大使[台北駐日経済文化代表處代表]に許世楷を指名した。
許世楷は日本で33年間暮らし、政界と学界の上層部に広範な人脈を築いてい
る。中国は、いかなる形であれ台湾独立に向けた動きは――たとえ2008年
北京オリンピック開催を断念し、良好な対米関係を損なうことになっても――
「完全に撃破する」と応酬した。
だが台湾人は、アメリカのネオコンや日本の右派の策謀とは対照的に、再統
合の時期と条件を巡って中国と交渉する度量を見せた。2004年8月23日、
立法院(台湾の議会)は、陳水扁の選挙戦公約に掲げられていた、台湾独立の
道筋を付ける憲法改定を阻止するために、採決投票ルールの変更を可決した。
この処置は中国との紛争の恐れを著しく緩和した。おそらく、立法院を動かし
たのは、シンガポールの新しい首相、リー・シェンロンが8月22日におこな
った次のような警告だったのだろう――「台湾が独立に向けて動くなら、シン
ガポールは承認しない。事実として、アジア諸国で独立を承認する国はないだ
ろう。中国は武力で対抗するだろう。勝っても負けても、台湾は荒廃する」
次の重要な節目は、2004年12月11日の立法院選挙だった。陳水扁総
統は選挙戦を独立方針に対する住民投票に位置づけ、改革を推進する権限を与
えるように訴えた。ところが与党は決定的な敗北をこうむる。立法院225議
席のうち、野党側の国民党と新民党とは合わせて114議席を獲得し、陳水扁
の民進党とその連立党派が得たのは101議席にとどまった。(10議席は無
所属候補が占める) 民進党の89議席に対し79議席を確保した国民党の総
裁、連戦は「今日、われわれはこの地域の安定を望む住民の総意をきわめて明
確に見た」と語った。
陳水扁による議会支配権掌握の失敗は、アメリカから196億ドル規模の兵
器を購入する提案の実現可能性が消えることをも意味する。この取引には誘導
ミサイル駆逐艦、P3対潜哨戒機、ディーゼル推進潜水艦、改良型パトリオッ
トPAC対ミサイル防衛システムが含まれていた。国民党員たちや宋楚瑜の支
持者たちは、購入価格があまりにも高額であり、そのほとんどが、2001年
以来、売り込みを図ってきたブッシュ政権に対する経済的譲歩であると見なし
ている。また彼らは、兵器が台湾の安全保障を改善するのではないと信じてい
る。
2004年12月27日、大陸中国は国防政策目標を掲げる5回目の国防白
書を発表した。長年にわたり中国を観測してきたロバート・ベデスキは、次の
ように記す――「この国防白書を一見しただけでは、領土主権を掲げる強硬路
線の表明であり、分離、独立、あるいは分割に結びつくいかなる動きも容認し
ないという中国の決意を強調している。だが次の段落が……台湾海峡の緊張を
緩和する意志をうかがわせている。台湾当局が一つの中国の原則を受け入れ、
“台湾独立”をめざす分離主義的な行動を慎むなら、両者間の敵対状態を公的
に終結させるための両岸対話をいつでもおこなうことができる」
台湾人たちも白書のメッセージをベデスキの見解と同じように読みとってい
るようだ。2005年2月24日、陳水扁総統は、2000年10月以来初め
て新民党主席・宋楚瑜に会った。二人の党首は、対大陸関係をめぐる意見が1
80度対立するにもかかわらず、10項目の合意に達し、共同声明にまとめて
署名した。両首脳は、台湾海峡両岸の全面的な交通と通商の連携、貿易の拡大、
台湾の広範な民間事業部門による大陸投資に対する禁制の緩和を約束した。大
陸はただちに好意的な反応を示した。驚いたことに、陳水扁は「台湾の230
0万同胞が受け入れるなら、台湾が最終的に中国と再統合するのをわたしは妨
げない」と発言した。
アメリカと日本が中国や台湾の自由意志に任せておけば、中国と台湾が暫定
的な合意に達することもありうるようだ。台湾はすでに約1500億ドル規模
の投資を大陸に対しておこない、両者の経済は日毎に統合を深めている。人口
が13億、国土面積が約9600万平方キロメートル、経済規模が1兆400
0億ドルに達し、しかも急成長をつづけ、東アジアの盟主になろうとしている
国に隣接しながら、独立した中国語圏国家として暮らすのは非常に難しいとい
う認識が台湾で高まり、広がりつつあるようだ。台湾は独立を宣言するのでは
なく、旧フランス領カナダにどこか似かよった地位――もっとゆるやかな形で
中央政府の名目的な統治権の傘下にありながら、別個の制度、法制、慣習を維
持する中国のケベック行政区といった位置づけ――を求めようとするのかもし
れない。
大陸にしても、何よりも2008年北京オリンピック開催の前に再統合が達
成されるなら、おそらくこの構想を受け入れ、おおいに安堵することだろう。
中国は来るべき北京オリンピックに巨額の投資をしたので、大会開催の一ヵ月
か二ヵ月前なら、よもや武力に訴えることはないだろうと台湾の急進派たちが
考え、そのころに独立を宣言する狙いがあるのではないかと中国は恐れている。
だが、このような事態に武力行使に踏み切らないとすれば、中国共産党は国家
の統合を阻害したという声が高まり、国内の革命を招くので、中国としては戦
争以外に取るべき道はないだろうと、たいていの観測筋は信じている。
中米関係ならびに中日関係は急速に悪化する
Sino-American and Sino-Japanese Relations Spiral Downward
友好的であっても敵対的であっても、アメリカの競争相手になる勢力圏の出
現の動きがあれば、全力をあげてこれを阻止しなければならないというのが、
長年のネオコン信条の眼目(がんもく)にある。このことは、ソ連崩壊の後、
ネオコンが次の仮想敵のひとつとして中国に目を向けたことを意味する。20
01年にネオコンが権力の座につくと、多数の核兵器の照準がロシアから中国
に振り向けられた。彼らはまた、台湾防衛をめぐり、台湾の高官レベル当局者
たちと定期的な会談を開始し、アジア=太平洋地域への軍部隊と軍備の移動を
命令し、日本に対し再軍備の推進を精力的に働きかけた。
2001年4月1日、米海軍のEP3Eアリエシ2電子偵察機が中国南部の
沖合で中国のジェット戦闘機と空中衝突した。米海軍機は、中国のレーダー防
空網を挑発し、中国が採用している迎撃機発進用の通信方式を記録する任務に
ついていた。中国のジェット機は墜落、パイロットが落命したが、米海軍機の
方は海南島に無事着陸、乗員たちは中国当局に手厚くもてなされた。
中国にとって最も重要な投資者の多くがアメリカに本拠を構えているので、
中国としては、直接対決が得策でないことはすぐに分かった。だが、挑発行為
を前に卑屈な態度で出れば、国内で強力な批判を招くことが不可避なので、ス
パイ機の乗員たちを即座に還すわけにもいかなかった。だから中国は、アメリ
カが中国領空の間際で中国軍パイロットの死を招き、米海軍機が中国軍の飛行
場に無許可で着陸したとして形だけの謝罪をするまで11日間待った。一方の
アメリカでは、マスメディアが乗員を“人質”と決めつけ、縁者たちが近隣の
木々に黄色いリボンを結ぶようにけしかけ、大統領は乗員を解放するために
“第一級の仕事”をしたと称え、中国を“国家統制報道”のゆえに果てしなく
批判していた。もっとも、アメリカが国土周辺に領海範囲をはるかに超える2
00マイル防空圏を設定していることには言及を慎重に避けてはいたが。
ブッシュ大統領は、2001年4月21日、全国テレビ番組のインタビュー
で、台湾防衛のために中国に対して「米軍の全力」を投入するかと質問された。
大統領は「台湾の自己防衛を助けるために、必要なことは何でもします」と応
じた。中国が“対テロ戦争”に熱心に参画し、大統領とネオコンが“悪の枢
軸”に夢中になり、イラクに戦争を仕掛けるきっかけになった9・11が勃発
するまで、これがアメリカの方針だった。同時に、アメリカと中国は緊密な経
済関係を享受してもいて、共和党の大企業翼賛派はこれを危険にさらしたくな
かった。
だから、中東はネオコンの対アジア政策よりも優先度が高かった。アメリカ
が気を散らしているうちに、中国は4年近くビジネスに精を出し、アジア最強
チームにして潜在的なアジア経済統合の要として浮上してきた。急速に工業化
する中国はまた、石油、その他の原材料に対する貪欲な需要を生みだし、世界
の二大輸入国たるアメリカや日本と直接競争するようになった。
2004年夏には、ブッシュの戦略家たちはイラクに気を取られながらも、
中国の成長力と、東アジアにおけるアメリカの覇権に挑戦する潜在力とにふた
たび警戒感を募らせるようになった。ニューヨークにおける8月の共和党大会
で発表された政治綱領に「アメリカは台湾の自己防衛を支援する」と謳われた。
その夏、米海軍も「夏日脈動作戦2004」と称する演習を実施し、これにア
メリカの12空母攻撃群のうち7群を同時に投入した。アメリカの一個空母攻
撃群は、空母(通常、9または10飛行編隊からなる計85機の航空機を搭
載)1、誘導ミサイル巡洋艦1、誘導ミサイル駆逐艦2、攻撃潜水艦1、弾
薬・燃料複合補給船1で編成されている。このような大艦隊を一度に7つも動
かすのは前代未聞――そして非常に高くつくもの――だった。太平洋に派遣さ
れたのは3空母攻撃群のみであり、一時に台湾周辺を巡航していたのは1艦隊
だけだったにしても、中国にすれば、これは19世紀の砲艦外交の復活を意図
したもの、しかも自国を標的としているとして非常に警戒することになった。
台湾住民たちはアメリカのこのような示威行動に煽られ、さらに台湾の12
月選挙を前にした陳水扁の論客たちに過剰に刺激されたようだ。10月26日、
北京で、コリン・パウエル国務長官は記者団を前に次のように声明し、事態の
沈静化を図った――「台湾は独立国ではない。台湾は国家としての主権を享受
せず、それが今でもわが国の方針であり、わが国の確固とした政策である……
わが国は、すべての関係者が望む最終結果、すなわち再統一を損なうような一
方的な行動を双方が慎むように望んでいる」
パウエルの声明は明解であるように見受けられたが、はたしてご本人がブッ
シュ政権内部でいかほどの影響力を持つのか、またチェイニー副大統領やドナ
ルド・ラムズフェルド国防長官を代弁して語ることができるのかどうかについ
て、ぬぐいきれない疑問が残った。2005年初めの連邦議会において、CI
Aの新任長官ポーター・ゴス、ラムズフェルド国防長官、国防省諜報庁長官の
ローウェル・ジャコビー海軍大将がこぞって、中国の軍事近代化は以前の予測
よりも迅速に進んでいると発言した。「4ヵ年国防計画見なおし」は4年ごと
に発表される公式なアメリカ軍事政策評価報告であるが、2005年版は、中
国の脅威について2001年に示された概要に比べて、もっと厳しい見通しを
語るものになるだろうと彼らは警告した。
このような状況において、ブッシュ政権は、おそらく11月2日選挙の結果
や国務省トップのコリン・パウエルからコンドリーザ・ライスへの首のすげ替
えに勢いづいたのだろうが、危険きわまりないカードを切った。同政権は20
05年2月19日ワシントンにおいて日本との間に新たな軍事合意を結んだ。
日本が、史上始めて台湾海峡の安全保障を“共通戦略目標”としてブッシュ政
権と認識を共有することになったのである。中国指導部にとって、日本が台湾
海峡に介入する権利を主張し、60年にわたった公的な平和主義を惜しげなく
捨て去るとあからさまに示すこと以上に危険な徴候はない。
近い将来、台湾そのものは、もっと直接的な中日間対決に押され、重要度に
おいて影が薄くなることもありうる。このような事態は不吉な状況になるだろ
うし、アメリカは、それを煽りたてた責任がありながら、まったく制御できな
くなるだろう。中日間の暴発を招く種火は久しい前から用意されている。なん
と言っても、第二次世界大戦中、日本は東アジア全域で――ナチスの手にかか
ったロシア人の信じられないような死者数よりも多い――約2300万人の中
国人を殺害しながら、いまだに償いを拒み、自国の歴史的な戦争犯罪すら認め
ていないのだ。
小泉純一郎は、2001年に日本国総理大臣に就任すると――中国人にとっ
て痛ましい――象徴的行為として、初めて東京の靖国神社に参拝し、以後毎年、
繰り返している。小泉は外国人たちに向かって日本の戦死者を敬っているだけ
であると言うのが好きである。しかし、靖国は軍用墓地あるいは戦争記念物ど
ころではない。この神社は、日本の王政復古のための戦闘で失われた命を追悼
するための神道の神社として、1891年に明治天皇によって建立された(も
っとも、鳥居は伝統的な赤塗りの木のものではなく鋼鉄製だが)。第二次世界
大戦中、日本の軍国主義者たちが神社を掌握し、愛国・国粋主義心情を鼓舞す
る目的に用いた。現在、靖国神社は、1853年からこのかた国内外でおこな
われた国家による戦争で亡くなった約240万人の日本人を祭っていると言わ
れている。
1978年、連合軍により戦争犯罪者として絞首刑に処せられた東条英機将
軍、その他6名の戦時指導者たちが、明かされないままの理由により靖国神社
に合祀された。同神社の現在の宮司は「勝者が敗者を裁いた」と唱え、彼らが
戦犯であることを否定している。神社境内の博物館に三菱ゼロ型52戦闘機が
展示され、中華民国の戦時首都だった重慶で1940年に初陣を飾ったという
説明板が付されている。2004年アジア杯サッカーのファイナル戦がおこな
われたとき、重慶で中国人観衆たちが日本国歌の斉唱にブーイングを浴びせた
のも、偶発的なできごとではなかったのは疑う余地がない。靖国の指導者たち
はいつも皇室との緊密な繋がりを主張してきたが、前の天皇の裕仁が最後に靖
国を訪れたのは1975年のことであり、明仁天皇はまだ行っていない。
中国人たちは、日本国総理大臣の靖国詣でを、たぶん仮装パーティで見られ
た英国ハリー王子のナチス親衛隊姿にもどこか似たような侮辱行為として見て
いる。それでも、昨今、北京は東京の顔を立ててきた。中国の胡錦濤主席は、
河野洋平・衆議院議長が2004年9月に中国を訪問したさい、彼のために赤
絨毯を広げた。胡錦濤は、中国外交部内の穏健派重鎮、王毅を駐日大使に指名
した。彼はまた、双方が排他的経済権益を主張する海域における可採石油資源
の共同開発を提案した。このようなすべての意思表示は、あくまでも靖国参拝
を続けると主張する小泉に無視された。
事態は、2004年11月に開かれた重要な二つの首脳会議、すなわちアジ
ア太平洋経済協力会議(APEC)のサンチャゴ(チリ)会合、およびそれに
続く東南アジア諸国連合(ASEAN)に中国、日本、韓国の首脳たちを加え
たビエンチャン(ラオス)会議の場で土壇場に達した。サンチャゴで胡錦濤は
じかに小泉に会って、中日友好のために靖国参拝を止めるように要請した。こ
れに対する返答であるかのように、小泉はビエンチャンで中国の温家宝首相を
わざわざ侮辱するようなことをした。温家宝に対し、小泉は「(中国は日本の
対外援助の対象国の立場から)そろそろ卒業すべき時だ」と語り、25年にわ
たる経済援助計画を一方的に打ち切る日本の意向を示した。“卒業”という言
葉は、日本が生徒である中国を指導する教師を自認しているという侮辱的な意
味合いをも伝えている。
続けて小泉が、中国との関係を正常化するために日本が払った努力の経緯に
ついて子どもじみた演説をぶつと、温家宝首相は「中日戦争で何人の中国人が
死亡したのかご存知ですか?」と応じた。温家宝はさらに、日本の外国援助な
ど、中国としては必要なかったと言い、戦争中に日本が中国にもたらした被害
に対する賠償の代わりに受け取る支払いであると中国は常に見なしてきたと示
唆した。中国は日本に賠償を一度も要求しなかったし、日本の支払額は25年
間で300億ドルになるが、ドイツがナチスによる暴虐行為の犠牲者に支払っ
た800億ドルに比べ、また日本が人口でも経済規模でもずっと強大であるに
もかかわらず、ほんの断片にすぎないと彼は指摘した。
2004年11月10日、日本海軍が沖縄近辺の日本領海内で中国の原子力
潜水艦を発見した。中国が謝罪し、潜水艦の侵入を“過ち”と認めたにもかか
わらず、大野防衛庁長官は侵犯事件を大々的に宣伝し、日本国民の反中国感情
を煽った。この時以来、北京と東京の関係は着実に悪化しはじめ、日米が台湾
は両国共通の軍事的関心事であると表明するにおよび行きつくところまで行っ
て、これに対して中国は“醜態”と糾弾した。
時間がたてば、この関係悪化は日米両国、とりわけ日本の国益を損なうと分
かることになるだろう。中国が直接的に報復するのは想像しがたいことだが、
起こったことを忘れるというのはそれ以上に考えられない――それに、中国は
日本に対して強大な影響力を振るえるのである。なんと言っても、日本の繁栄
は中国との結びつきにますます依存しつつある。この場合、反対もまた真なり
と言うわけにはいかない。おおかたの想像とは裏腹に、日本の対中輸出は20
01年から04年にかけて70パーセント跳ねあがり、失速気味の日本経済の
回復のための主要な推進力になっている。約1万8000社の日系企業が中国
で操業している。日本は、海外の大学に留学する中国人学生の行き先国として、
03年にアメリカを追いぬき、世界第一位になった。現在、アメリカの大学で
約6万5000人の中国人学生が学んでいるのに比べて、日本では約7万人が
在学している。アメリカと日本がこの地域の軍事化を追求すれば、このように
緊密であり利益になる関係が危険にさらされることになる。
多極化する世界
A Multipolar World
タイム誌のトニー・キャロンは次のように述べる――「世界各地で新しい通
商の絆(きずな)と戦略的協調関係がアメリカの周辺に形成されつつある。中
国はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の主導的役割の担い手としてアメ
リカに取って代わるにとどまらず、ラテンアメリカの大国のいくつかの主要貿
易相手国として急速に台頭しつつある……フランスの外交政策の策定者たちは、
冷戦後世界における『多極体制』の目標、言い換えれば、アメリカを唯一の超
大国とする『単極体制』に代わる、多くの異なる、たがいに競争する勢力圏の
存在を長年にわたり求めてきた。多極体制はもはや単なる戦略目標ではない。
これは姿を見せつつある現実なのだ」
多極体制と、それを推進する中国の突出した役割とを示す徴候は容易に見つ
かる。イラン、欧州連合、ラテンアメリカ、東南アジア諸国連合に対する中国
の関係が拡大していることに注目するだけでじゅうぶんである。イランはサウ
ジアラビアに次ぐ第2位のOPEC加盟石油産出国であり、主要貿易相手国で
ある日本との長年にわたる友好関係を維持してきた。(イランからの日本の輸
入の98パーセントは石油) 2004年2月18日、日本の企業連合がイラ
ン政府と協定書を交わし、世界最大規模の原油埋蔵量を持つ同国のアザデガン
油田を28億ドル相当の事業計画で共同開発することになった。アメリカは日
本によるイラン支援に反対し、ブラッド・シャーマン下院議員(民主、カリフ
ォルニア)をして、小泉が日本の550人規模の部隊をイラクに派兵し、同地
におけるアメリカの戦争に対する国際支援を粉飾してくれたので、見返りにブ
ッシュは日本・イラン間取引を認めていると非難させた。
だが、長期にわたったイランと日本の提携関係は2004年末になって変わ
りはじめた。10月28日、中国の石油メジャー、シノペック(Sinopec)グ
ループがイランとの間に巨大なヤダバラン天然ガス田を開発する700億ドル
ないし1000億ドル規模の契約を結んだ。中国は25年間にわたり2億50
00万トンの液化天然ガス(LNG)をイランから購入することに合意した。
イランにとって、これは1996年以来最大の外国との取引契約であり、余禄
として、LNGを中国の港に運ぶ船舶を数多く建造するための中国からの援助
など、いくつかの特典が付いてくることになる。イランはまた、中国に今後2
5年間にわたり日量15万バレルの原油を市場価格で輸出すると表明した。
イランの石油相ビジャン・ザンガネが北京を訪問したさい、イランは中国に
とって最大の外国産石油の供給国であると指摘し、同国は中国の長期的な事業
パートナーであることを望んでいると発言した。彼は、イランは日本に替えて
中国を石油とガスの最大の顧客にする意向であると中国ビジネス週報誌に語っ
た。理由は明白で、イランに対し原子力開発計画を断念させようとするアメリ
カの圧力、それにイランを国連安全保障理事会に引き出して制裁発動の動議に
かけるとブッシュ政権が広言する方針(どっちみち中国が拒否権を発動するだ
ろうが)である。2004年11月6日、中国の李肇星(リー・チャオシン)
外相がテヘランを珍しく訪問した。李肇星は、イランのモハマド・ハタミ大統
領との会談にさいし、アメリカが安全保障理事会でイランに制裁をかけるため
にどのように動いても、間違いなく中国は拒否権発動を考慮することになると
発言した。アメリカはまた、中国が核・ミサイル技術をイランに売却したとし
て非難したこともある。
すでに2003年に中国とイランは40億ドルの双方向取引を記録している。
このなかには、中国によるテヘランの地下鉄第一期工事の施工と第二期延伸工
事の8億3600万ドル相当の請負契約といった事業がある。延長30キロ
メートルの空港アクセス鉄道路線など、他の4路線の受注競争でも、中国は先
頭を走ることになるだろう。2003年2月、中国第8位の自動車メーカー、
チェリー・オートモビル社が同社初の海外製造工場をイランに開設した。現在、
同社はイラン北東部で年間3万台のチェリー車を生産している。北京はまた、
イランとカスピ海北部を結ぶ380キロメートルのパイプラインを建設する契
約を交渉していて、これは中国が2004年10月に建設を始めたカザフスタ
ン=新疆(シンチアン)間長距離パイプラインと連結されることになる。カザ
フ・パイプラインは年間1000万トンの石油を中国に送る輸送能力を備えて
いる。アメリカが恫喝と喧嘩腰でかかっても、イランは孤立するどころの話で
はない。
中国にとって、EUは最大の貿易相手経済圏であり、EUにとって、中国は
(アメリカに次ぐ)世界第二の貿易相手国である。かつて1989年、EUは
北京の天安門広場における民主化運動のデモ行動参加者たちに対する弾圧に抗
議して、中国への武器売却を禁止した。このような扱いを受けた他の国ぐには、
ビルマ、スーダン、ジンバブエといった、真の意味で国際社会の除け者国家だ
けである。北朝鮮でさえヨーロッパの公式な武器禁輸の対象になっていない。
1989年以来、中国の指導部が何回か交替したことを考慮し、また友好の意
思表示として、EUは武器禁輸の解除の意志を表明した。フランス大統領ジャ
ック・シラクは、アメリカの覇権に替えて“多極世界”を実現する構想の最右
翼の提唱者である。シラクは、2004年10月に北京を訪問したさい、中国
とフランスは“共通の世界見通し”を共有し、武器禁輸の解除は「画期的な節
目、アメリカ、中国それぞれの戦略上の権益のどちらかをヨーロッパが選ばな
ければならない瞬間になり――そして中国を選ぶ時になるだろう」と発言した。
ブッシュは、2005年2月の西ヨーロッパ巡歴にさいし、「わが国には、
武器移転は中国への技術移転であり、これが中国と台湾の関係のバランスを変
えることになるのではという深い懸念がある」と繰り返し語った。2月初めに
は、アメリカの下院が想定されるEUの動きに対する非難決議案を411対3
の票決で採択していた。ヨーロッパと中国の人たちは、ブッシュ政権は事柄を
ことさらに誇張して言いたてているのであり、勢力バランスを動かしうるよう
な兵器は関係していないし、EUは中国から大規模な新規防衛関連契約を得よ
うとしているのではなく、全般的な相互経済関係の強化を目指しているのだと
主張している。ブッシュのヨーロッパ歴訪の直後、EUの通商担当委員ピー
ター・マンデルソンが初の公式訪問として北京に到着した。訪中の目的は中国
とヨーロッパの戦略的協調関係の創出の必要性を強調することだ、とマンデル
ソンは述べた。
ワシントンは、中国が手強い軍事的脅威であると決めつける諜報部局報告を
次から次へと公開して、その強硬姿勢を支えてきた。この諜報たるや、政治的
に利用されていてもいなくても、中国の軍事力近代化は、戦争となればおそら
く台湾海峡に投入されることになる米海軍の一個空母攻撃群にまさしく対抗す
る狙いがあると言いたてる。中国は、原子力潜水艦の大艦隊を編成しつつある
のは確かだし、米軍に制御されない衛星測地航法システムを構築することをめ
ざすEUのガリレオ計画の意欲的な参加国である。米国防総省は、北京がガリ
レオ関連技術を対衛星攻撃に使用するのではと懸念している。アメリカの軍事
アナリストたちはまた、中国が2003年10月15日に宇宙飛行士1名を乗
せた宇宙船を打ち上げ、翌日、無事に地上に帰還させたことに注目している。
それまでは、人間を宇宙空間に送り出したのは、旧ソ連とアメリカだけだった。
中国はすでに500ないし550発の短距離弾道ミサイルを台湾の対岸地域
に配備し、中国本土に対するアメリカのミサイル攻撃を抑止するために、射程
距離1万3000キロメートルの大陸間弾道ミサイルCSS4を24基保有し
ている。アメリカに本拠を置く安全保障研究所の研究員リチャード・フィシ
ャーは「たった今、中国が配備している軍部隊はアメリカの一個空母戦闘群に
対処してあまりある」と言う。ペンシルベニア大学の国際関係論の教授アー
サー・ローダーも同じ見方をしている。ローダーは、中国軍は「アメリカ合州
国と戦うことを特に想定して構築されたものとしては、世界で唯一の存在であ
る」と語る。
アメリカは、あきらかに中国軍の能力を頭から振り払うことはできないだろ
うが、中国がブッシュ政権がもたらす脅威に対抗する以上のことを狙う目論見
を示す証拠は握っていない。中国は、台湾とアメリカが中国から台湾を分離さ
せようとする意図を封じることにより、台湾およびアメリカとの戦争を回避す
る方策を探っている。こうした理由により、2005年3月、中国の形式上の
立法機関、全国人民代表者会議は、中国からの分離を非合法とし、地方が国家
から離脱する動きがある場合の武力行使を正当化する法律を採択した。
日本政府は、中国は地域全体にとって軍事的脅威になっているとするアメリ
カの立場をもちろん支持している。だが、イラクのこととなればアメリカの忠
実な仲間であるジョン・ハワードが率いるオーストラリア政府に目を向けると、
おもしろいことに、ヨーロッパの対中国武器禁輸の解除の件に関してブッシュ
に背く覚悟でいる。オーストラリアは中国との良好な関係を重要視し、両国間
の自由貿易協定の交渉を望んでいる。したがってキャンベラは、15年間続い
た禁輸を解除する件に関してEUを支持している。シラクとドイツのゲアハル
ト・シュレーダー首相は口を揃えて「解除は実現する」と言う。
アメリカは、ラテンアメリカは自分たちの“勢力圏”であると久しく明言し
てきたし、このため、たいていの海外諸国はこの地域で事業に関わるのに石橋
を叩いて渡る思いをしてきた。しかし中国はワシントンの意向におかまいなく、
経済の急成長を賄う燃料・鉱物資源を求めて、多くのラテンアメリカ諸国をお
おっぴらに口説いている。2004年11月15日、胡錦濤主席は、ブラジル
の対中国輸出および中国の対ブラジル投資の拡大を目的とする12件の協定に
署名して、5日間にわたったブラジル訪問を終えた。その協定のひとつのもと
で、ブラジルは年間8億ドル相当もの牛肉および家禽類を中国に輸出すること
になる。見返りに、中国は、リオデジャネイロ=バイア間パイプライン計画の
技術調査が終わりしだい、同計画に13億ドルの融資をおこなうことをブラジ
ル国営石油企業と合意した。中国とブラジルはまた、両国間貿易額を2004
年の100億ドルから07年には200億ドルに引き上げるという目標を掲げ
て、“戦略的提携関係”を結んだ。胡錦濤主席は、この提携関係は「発展途上
諸国に有利に働く新しい国際政治秩序」を象徴すると語った。
中国は、その後の数週間内に、アルゼンチン、ベネズエラ、ボリビア、チリ、
キューバと重要な投資・貿易協定を締結した。特に注目すべきことに、200
4年12月、ベネズエラのユゴー・チャベス大統領が中国を訪問し、ベネズエ
ラの石油埋蔵地の広範な開発権益を中国に認めることに合意した。ベネズエラ
は世界第5位の石油輸出国であり、通常では石油生産量の約60パーセントを
アメリカに販売しているが、新たな協定のもと、中国はベネズエラ東部15ヵ
所の潤沢な油田を利用することを許されることになる。中国は石油採掘に3億
5000万ドル、さらに天然ガス田のために6000万ドルを投資することに
なる。
中国はまた、東アジアの中小諸国をある種の経済・政治共同体に統合しよう
と努めている。そのような提携が達成されるなら、地域におけるアメリカと日
本の影響力を間違いなく侵食するだろう。2004年11月、ASEAN、つ
まり東南アジア諸国連合を構成する10の国ぐに(ブルネイ、ビルマ、カンボ
ジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、
ベトナム)が、中国、日本、韓国の首脳たちの参加を得て、ラオスの首都ビエ
ンチャンに集まった。アメリカは招かれず、日本の高官たちは居心地悪そうだ
った。会議の目的は、“東アジア共同体”の創出に着手するために、東アジア
首脳会合を2005年11月に開催する計画を練ることだった。2004年1
2月には、ASEAN諸国と中国は2010年までにこれらの国ぐにの自由貿
易圏を創出することに合意していた。
ワシントン・ポストのエドワード・コディによれば、「中国・ASEAN1
0ヵ国間の貿易は、1990年以来、年に20パーセントの率で増大し、この
伸び率はここ数年のあいだ勢いを増している」。この取引額は2003年に7
82億ドルに達し、2004年末には約1000億ドルになると伝えらた。日
本の古参格の政治解説者、船橋洋一も言うように、「(東アジアでは)世界全
体に対する貿易額に占める地域内取引額の比率は2002年時点で52パーセ
ント近くになっていた。この数値はEUの62パーセントよりも低いが、NA
FTA(北米自由貿易協定)の46パーセントを上回っている。したがって、
貿易に関して言えば、東アジアはアメリカへの依存度を減らしている」
中国は、こうした動きを促進する主導的な原動力である。船橋洋一によれば、
中国首脳部は、国家の爆発的な経済成長力と、地域内取引相手国との強力にな
る一方の結びつきとをを用いて、東アジアでアメリカを周辺に追いやり、日本
を孤立させようと計画している。1997年の東アジア金融危機は主としてア
メリカが原因を作ったものなのに、これに対して、アメリカが了見の狭いイデ
オロギー的な行動をとったおかげで、地域内で不信を買ったが、アメリカはそ
の深刻さを過小評価していると彼は論じる。2004年11月30日、米国務
省の政策立案部局の高官マイケル・ライスが東京で次のように語った――「ア
メリカは、西太平洋の一勢力として東アジアに関心を持っている。この地域の
話し合いと協力の枠組みからアメリカを除外するどのような計画もアメリカは
快く思わないだろう」。だが、とりわけアメリカの経済・金融力の地盤低下の
ために、ブッシュ政権が中国主導の東アジア経済圏の登場を遅らせる以上のこ
とをするには、おそらくすでに手遅れである。
日本にとっては、さらに厄介な選択になる。東アジアにおける中国=日本間反
目関係は長い歴史を有し、いつも悲惨な結果を招いてきた。第二次世界大戦前、
中国事情に関して日本で最も影響力のある著述者に数えられた尾崎秀美[おざ
きほつみ。近衛内閣ブレーン、ゾルゲ事件に関与]は、日本が中国革命を認め
るのを拒み、戦争をもって対応するなら、中国の民衆を先鋭化させるだけであ
り、中国共産党による権力の掌握に貢献することになると、予言するがごとき
警告を発した。彼は、「どうして中国革命の成功が日本の不都合になるの
か?」という問に命を捧げた。1944年に日本政府は尾崎を売国奴として絞
首刑に処したが、彼の問は今でも1930年代末期と変わらず適切である。
どうして中国が富める成功国として台頭するのが日本やアメリカの不都合にな
るのだろう? このような成り行きに対する最も無思慮なやり方は、武力で押
し留めようとすることであると歴史が教えている。香港の警句に言われている
ように、中国は2世紀のあいだ嫌な思いをしてきたばかりだが、今、表舞台に
躍りでる。世界は中国の正当な要求に平和裏に適応しなければならない――そ
の一環として、他国は台湾問題を軍事化しないこと――一方、中国が地域に理
不尽な意志を押しつけようとすれば、抑えるのは当然。東アジアの動向を見れ
ば、残念なことに、この前の中国=日本間紛争の再来を目撃することになるよ
うだ。もっとも、今回はアメリカは勝つ側にいそうにもない。
—————————————————————
参照文献の出所および参考文献は、「日本政策研究所」サイト掲載原文に表示。
http://www.jpri.org/publications/workingpapers/wp105.html
—————————————————————
【筆者】チャルマーズ・ジョンソン
日本政策研究所(the Japan Policy Research Institute, カリフォルニア
州)代表として旺盛な執筆活動。一九六二〜九二年、カリフォルニア大学でア
ジア政治の研究・教育。「帝国シリーズ三部作」のうち既刊2著作――『アメ
リカ帝国への報復』(鈴木主税訳・集英社刊)、『アメリカ帝国の悲劇』 (村
上和久訳・文藝春秋刊)。 目下、シリーズ3冊目を執筆中。
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【原文】Tomgram:
No Longer the “Lone” Superpower — Coming to Terms with China
By Chalmers Johnson
TomDispatch site, posted March 15, 2005
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=2259
Copyright 2005 Chalmers Johnson
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【翻訳】井上 利男 /TUP