TUP BULLETIN

[TUP論説] 新・核拡散時代の幕開けを止めよう 050417

投稿日 2005年4月17日

DATE: 2005年4月17日(日) 午後11時51分

ニッポン核武装を現実の脅威とはさせないために


 日本核武装の脅威。一般的には荒唐無稽で、あり得ない脅威だと思われるか もしれない。  けれども最近とくに進行している日本と周辺国との緊張増大や日本の軍事化 は、そんな楽観視を吹き飛ばすに十分な危機をはらんでいる。  朝鮮民主主義人民共和国や中国のミサイルに対する「危機キャンペーン」は、 米ソ冷戦下で直接ソ連の核弾頭が日本に対して照準を合わせていた時代よりも 大きく、あっというまに米国のミサイル防衛構想に日本が参加をするという事 態へと進んでいった。  しかし冷静に考えれば、どこの国であろうと日本に大量破壊兵器を撃ち込ん で利益などあるはずがない。米ソ冷戦時代は対米戦争の一環として対日核攻撃 の可能性は存在したのであるが、今日、どこの国であろうとたとえ対米戦争の 一環であったとしても日本に大量破壊兵器を撃ち込む理由は無い。  ところが、北朝鮮や中国の核に対抗して、日本も核武装すべきと真顔で主張 する政治家がいる。しかもそれが持論の議員が落選しないところがさらに恐ろ しい。  本当に東アジアの平和を実現しようというのならば、北朝鮮はもちろん、中 国や極東ロシアの核戦力の全廃をめざす努力を日本が率先して行うことこそ必 要だ。

(山崎久隆 TUP/劣化ウラン研究会)


新・核拡散時代の幕開けを阻止するために

山崎久隆

エルバラダイIAEA事務局長の懸念

「核兵器を作る能力のある国は今や、30か国から40か国に上る」3月3 日、国際原子力機関(IAEA)理事会でエルバラダイ事務局長が核燃料サイ クル国際管理構想の必要性を説くために述べた言葉である。

核の平和利用と軍事転用(熱核兵器開発)を分離しようとした核拡散防止条 約 (NPT)体制は、いまや風前の灯火と言って良いだろう。  もともと、原子力発電所を軸とした核燃料サイクルと、核兵器の製造のため のそれとは峻別することが極めて困難であることは、これまでの歴史でも明確 であった。

インドとパキスタンの核兵器開発は、その現実を知らせたのだが、どちらも NPT条約外の国であったことから、議論は中途半端なままになっている。  朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核武装宣言は、NPT条約国の核武装 として受け止められたかと言えば、これもまた中途半端な状況にある。そして 誰もがその存在を認識しているにもかかわらず知らない振りをしているイスラ エルの核武装と、核兵器の開発をめぐっては、内部告発者のバヌヌ氏の再拘束 の危険性など、異常な事態が進行し続けている。

ついにIAEAも制御不可能な核拡散に危機感を抱き、エルバラダイ事務局 長は再処理の5年間凍結を打ち出した。  これは1月29日に世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」の際に行 われたエルバラダイ事務局長の記者会見で明らかにされたもので、その骨子は、 核拡散防止体制を強化するため核兵器開発につながるウラン濃縮とプルトニウ ム抽出事業を新規開発している国に対する「5年間の(事業)凍結」を、5月 のNPT再検討会議に提案するというものである。

事務局長は「核燃料サイクル事業を各国がばらばらに実施するのは好ましい 状況ではない。国際的な管理システムを構築すべきだ」とし、凍結期間を「今 回の再検討会議から次回会議まで」と述べた。それが5年間を意味する。  これが奏功するかどうかの鍵を握る国の一つが日本である。

核武装研究と核カードを使った日本

これまでの日本は、米国やフランスから核武装に転用可能な多くの技術を導 入してきた。平和利用との名目で導入された技術は、他のどの国よりも高度で 本格的なものばかりである。  英国の諜報機関は、日本がプルトニウムさえ組み込めば直ちに核兵器として 転用できる全ての技術を有しており、核武装を決断すれば数ヶ月で核武装化が 完了することを政府に報告したことがある。

実態としては、核兵器を実際に生産し配備可能なまでに完成されたものにす ることが出来る具体的機関の存在はいまは無いであろうが、日本は池田、佐藤 内閣以来一貫して「核兵器生産技術の保持」を目標としてきた。米国に対して も、繰り返し日本が核武装をするオプションを有していることを首脳会談など の場で示し、外交政策として何度かの「核カード」の使用さえも行ったことが ある。

特に60年代、米国と佐藤内閣の核の傘議論において、日本は明確に核武装 と米国の核の傘を取引に使用した。いわゆる「核持ち込み疑惑」で、ライシャ ワー元駐日大使が証言をしているが、これは米国側が一方的に進めたと言うこ とではなく、沖縄返還、核の傘密約に基づき、日本側から求めた結果でもあっ た。既に非核三原則のうち「持ち込ませず」は当時から有名無実化していたの である。

佐藤首相は一方で核武装論者でもあり、このことを認識せずに佐藤首相に ノーベル平和賞を贈ったことは、ノーベル賞委員会の大きな汚点であった。 2001年9月5日にノーベル賞委員会は「ノーベル平和賞・平和への百年」 という本を出版したが、その中で「佐藤氏は日本の非核三原則をナンセンスと 言っていた」 と、この受賞を当時の委員会の大きな失敗として記述している。

「日本核武装」の扉を開くのか

日本が核武装能力を維持するために必要なものは何か。このことをめぐり重 要な司法判断が下されようとしている。  95年12月に冷却材のナトリウムが炎上し、その後長期停止状態の高速炉 「もんじゅ」について、名古屋高裁金沢支部が、国の設置許可を無効とした 2003年1月の判決に対する最高裁判所の弁論が3月17日に開かれた。

弁論は一度限りで、直ちに結審しており、判決期日はまだ明らかにされてい ないが、もし高裁判決を覆すような決定となり、改造されたもんじゅが再稼働 されることにでもなれば、最高裁判所により日本の核武装の道が再度開かれる 結果となるだろう。  このような状況にあることを認識している者はどれだけあるだろうか。訴訟 当事者を含めても多くはない。まして一般市民にはほとんど認識されてはいな い。

60年代から70年代にかけての日本核武装論の中心にあった施設は、英国 から輸入した黒鉛炉である東海原発と東海再処理工場であった。70年代、米 国カーター政権が日米原子力協定をたてにして日本の核武装を阻止するために 行ったのも、東海再処理工場からプルトニウムだけを分離抽出できないように することと、核兵器に直接転用可能な黒鉛炉の使用済燃料の再処理を禁じて全 て英国に送らせることだった。  CIAの当時の報告では、東海再処理工場と東海原発を使って日本が核武装 を行うことが技術的にも資金的にも可能であり、70年代中には核実験も可能 だとしていた。

実際には核武装化は行われなかったが、そのために必要な技術の蓄積を行う ことは秘密裏に決められた。しかし、あからさまに核武装準備とは捉えられな いような仕組み作りが必要だった。それが「独自の核燃料サイクルを確立す る」という国の方針になったのである。

経済的には、当時も今も日本が独自に核燃料サイクルを構築するなど出費が 多く得るところはない。実際に青森県六ヶ所村で建設が進められている再処理 施設で行う使用済燃料再処理は、これまで日本が7000トン以上も委託をし てきた英仏での再処理と比べて二倍も三倍もコストがかかる上、高レベル放射 性廃棄物の管理と処分には、全くめどが立っていない。さらにプルトニウム・ サイクルともなると、核武装国以外には経済的に何のメリットもない。現実に 核武装国ないし核武装をめざした国以外、核燃料再処理やプルトニウム増殖計 画を具体化した国はないのである。

もんじゅが再開されれば、リサイクル機器試験施設という名の高速炉燃料専 門の再処理施設の建設が再開されるだろう。現在は、建設途中で止まったまま、 再開見通しは立たないと、これを建設している核燃料サイクル開発機構は明ら かにしている。

リサイクル機器試験施設で取り出されるプルトニウムは、プルトニウム 239を98%以上含む。これは、現在米・ロが保有する戦術核弾頭に使われ るものよりも純度が高く、これに匹敵するプルトニウムを生産可能なのは高速 炉フェニックスを持つフランスだけであろうと思われる。

フランスが1995年と96年に世界中から批判されながらムルロワ環礁で 強行した地下核実験は、その高純度プルトニウムを使った実験であり、データ は米国などにも渡された。それが、国際的な批判のもとでも実験を強行できた 大きな理由だったのである。

核拡散問題を考えるならば、核実験を経ずとも秘密裏に実戦使用可能な核兵 器に転用できるウラン濃縮施設と高速炉再処理施設が、特に重要なのである。  エルバラダイ事務局長はウラン濃縮施設と再処理施設を5年間凍結するとい う提案を行ったが、日本政府はこの提案から日本は除外されるべきであると主 張している。しかし日本が対象とならなければ、東アジアのどこもこの提案に 乗る国は無いだろう。

日本の現実、技術的な、軍事的な、政治的な、そして国内世論を検討するな らば、この国こそ最も危険な潜在的核武装国として認識をする必要がある。  日本の核武装は、北東アジアを米ソ冷戦時代以上に危険な状況に追い込む。 これは事実上日本から核拡散を引き起こすことに等しい。日本からの核拡散、 それが現実のものとなれば21世紀に世界規模の危機を生み出す元凶になるこ とは間違いないだろう。

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初出:「よせあつめ新聞」No274(3月前半号)巻頭言(たんぽぽ舎 今月の原発)