TUP BULLETIN

速報527 イラクに散った若い命 050812

投稿日 2005年8月12日

FROM: minami hisashi
DATE: 2005年8月12日(金) 午前11時12分

☆テキサスの小さな町からの便り★
ベトナム戦争の当時、圧倒的な物量を誇る米軍が、装備の乏しいベトナム解放
戦線・北ベトナム軍に敗退したのは、戦争そのものが米本国世論の支持を失い、
軍の士気が低下したのが最大の原因だったというのが定説になっていますが、
30年後の今、トム・ディスパッチに寄せられた社会的に無名のベトナム帰還
兵からのEメールが、戦時下にある米国社会の底流の変化を暗示します。井上

凡例: (原注)[訳注]《リンク》
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トムグラム: イラクに散った若い命
トム・ディスパッチ 2005年8月2日

まえがき
――トム・エンゲルハート

投稿記事が大量にやりとりされる一般的なウェブサイトに関わるのは、私には
年齢的に無理だ。だからトム・ディスパッチのEメール通信は――しばしば残
念に思うが――基本的に私の個人的な企画である。着信する手紙は、多くが激
励メッセージであり、いくつかはビックリするほど思いが深く(また印象的な
言い回しのものが多く)、時にはギョッとするほど口汚ないのもあって、私は
いつもたまげてばかり。Eメール記事や書簡は――これぞ確かにあっぱれイン
ターネット――全世界から、また全米から届くし、私が自分の足で出向く機会
などないような小さな町やとんでもない僻地からのものも多く、面と向かって
会ったとしても聞き出せないような観点を教えてくれることもよくある。人間
は囲いこまれるものだと、ともすれば考えてしまうものだが、生身の人間はい
かにしばしば境界や範疇の壁を越えるものであるか、これらのEメールによっ
て常づね私は思い知らされる。私はいつも軽い畏怖を憶え、度たび心動かされ
る。これはひとつの実体験であり、ほとんどの来信には、私としてはベストを
尽くして、たとえ短くても、あるいは的外れになっても返事を書くようにして
いる。(返信しなかった皆さんには、メッセージはたいへんありがたく読ませ
ていただいたし、気持ちは上記のとおりなので、ご容赦のほどを)

だが時には、どうしてもトム・ディスパッチの読者と分かち合いたいと思う手
紙が届く。今回、そういうのがあった。ニック・タースが陸軍新兵オンライン
募集テクニック(基本的にペンタゴンによるサイバー空間ティーンエイジャー
狩り)について論じた作品《1》を掲載すると、テキサスの小さな町に住む、
ベトナム戦争従軍体験がある航空会社パイロット、クリス・クリステンセンが、
「陸軍の新兵募集実態とその問題点について非常に詳しく暴いた記事」に対し
てニックに感謝の意を表明するとともに、友人のご子息のイラクにおける死に
向かいあう思いを綴った投書を寄こしてくれた。この手紙を掲載しても差し支
えないかと確かめると、ぜひそうしてほしいとのことだった。このような手紙
が物を言う――すでに掲載済みの別の1編は、やはりテキサスから届いたテ
リ・アリソンの手紙(The Costs of War[戦争の代償]《2》)だったが、彼
のご子息は、クリステンセンが懇意にしていた少年と違って無事に帰還してい
た。
1. http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=5322
2. http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=1920

クリステンセンは、ビデオゲームが友人の息子に影響を与えた様相をその手紙
に語っているが、私は、軍隊によって最近15か月の投獄に処せられたケヴィ
ン・ベンダーマン軍曹が、2度目のイラク派遣を拒否した理由を釈明するため
に書いた書簡《*》にあった、次の一節を思い起こす――
http://www.oldamericancentury.org/voices_004.htm

「私は10代後半から20代前半の兵たちの部隊を指揮していましたが、彼ら
は戦争を兵舎で遊ぶビデオゲームみたいに考えていましたので、頭を下げろと
常に言い聞かせなければなりませんでした。戦争はまったく別物であり、不運
にも戦闘に巻き込まれるまでは、それ全体がいかに狂っているか分かりようも
ありません。現実にはリセット・ボタンはないのであり、だからこそ、この現
代という時に、わが国がこのような政策を追求しているのはなぜか、私はさっ
ぱり了解できないのです。戦争は、人間の生け贄と同じく、歴史の陳列棚に追
いやられるべきです」

だが私は、危険にさらされているはずの深遠な人間的要素を抜きにして、得点
がピーンピューンと飛び交うビデオゲームの消毒された感触を時に帯びる、ジ
ャーナリズム――特にテレビのトークショー――のひどさをも思い出した。
クリステンセンのものなど、こういう手紙はそれとは大違いであり、正気に戻
してくれる。こういう手紙が私のまっとうさを守ってくれると思う。別にニ
ューヨーク/テキサスの縁組みに縛られる必要はないが――この国を保守州/
リベラル州にきれいに二分する論法は、アメリカの複雑さ、つまり保守派/リ
ベラル派家族、保守派/リベラル派個人が入り乱れる複雑さを捉えられないこ
とを思い出させてくれるのだ。

イラク戦争は、イラク国民にとってもアメリカ国民にとっても、日常的にもっ
と恐ろしい《1》。そして、そのことがアメリカでもついに感じられるように
なった。この国で何かがゆっくりと変わりつつある。もうひとりの読者が、地
元の週刊誌「マウントデザート・アイランダー」に掲載されていた、メイン州
バー・ハーバーの7月4日パレード[独立記念日祝賀行進]についての短い記
事《2》を送ってくれた。なぜかよく分かりもせずに、私はその記事をむさぶ
るように読んだ。今は、その理由が分かる。ここに一部を抜粋してみよう――
1. http://www.commondreams.org/headlines05/0724-02.htm
2. http://www.mdislander.com/archive/2005/07-07-05/mdi_edit1_07-07-
05.html

「自然発生的な連帯のうねる波は、群衆を貫き2マイルを超えて長く伸びた。
列は全体で1時間以上も続いた。7月4日パレードに明確な政治的傾向を帯び
る参加者たちがいても、バー・ハーバーでは別に目新しい光景ではないが、イ
ラクにおける人命の損失に抗議するグループに対する月曜日の反応は趣きが違
っていた。これまで平和運動の活動家たちは冷ややかな沈黙で迎えられるのが
常だった。ところが月曜日、数十人の抗議団が、多数の小さな米国旗と戦闘で
死亡した1400人余りの米国人の名前をあしらった横断幕を掲げて行進する
と、街路の両側で見物していた群衆から湧きあがった拍手喝采の波に迎えられ
た。パレードが進む経路のおおかた、拍手喝采がこのグループにつきまとった
……ワシントンの政治家たちはイラクにおける戦争に対する国民の支持がどれ
ほど大きく目減りしているのかを知るために、金のかかる世論調査に頼ること
はない。月曜日に彼らに必要だったのは、メイン州の小さな町の街路で展開し
た7月4日の光景を観察することだけだった」

メイン州であってもテキサス州であっても、この一節は今の瞬間のまともな精
神をなにがしか捉えているし、クリス・クリステンセンもこの手紙のなかでそ
れを掴んでいる。トム

若者の死
私たちはどんな事態に立ち至ったのか?

トム、

私たちの小さな町、テキサス州コロンバス(人口3900)にて、町出身の若
者をひとり、当人の19歳の誕生日に埋葬しました。その子はイラクで戦死し
ました。本人は私の長男と次男の友だちでしたし、しかも父親は私の友人なの
です。

若い男が町にいても、たいしてすることもなく、ほとんどが大学へ進む、職を
探す……などの理由で出てしまいます。去年の夏、軍隊に志願する前に、クリ
ストファーは父親の求めに応じて私に会いにきました。私は東南アジアから帰
還した空軍退役者なのです。なんとかクリストファーを空軍か海軍の徴募官の
もとへ連れていきたいと願い、必死になって説得を試みました。陸軍は君の手
に銃を握らせ、狙撃の的に仕立てて送りだすんだ、と断言すらしたのです。無
駄でした。

彼の頭には、スカウト[偵察兵]になって四駆ATV[全地形万能車]を乗り
まわす――イカシテルぜ!――という戯言〈たわごと〉を徴集官にいっぱい吹
きこまれていたのです。(彼はイーグル勲章ボーイスカウトでした) 彼には
(イラクではありませんが)そういう体験のある知りあいがいて、その彼も強
引に勧誘しているという感触が私にありました。陸軍には紹介報奨金制度があ
るのかと勘ぐっています。ご存知ですか?

クリストファーも、「ラキ[イラク人の蔑称]どもを何人か撃ちに行きたい」
といった、こういう理解しがたい願望を宿していました。おそらくビデオゲー
ムのやりすぎで、なんらかの潜在的な欲求が巣食ったのでしょう。死に先立つ
何週間か、彼は短時間の銃撃戦にまきこまれ、恐怖で凍りついたと私は聞きま
した。疑いなく、現実が7.62[*]弾の発射速度で彼に追いついたのです。
ひどいことに、誰かが自分を本気で傷つけたり殺したりしたがっていると分か
ったときに味わう恐怖について、徴集官や友だちは教えてくれませんでした。
[筆者によれば「イラクの反抗勢力がごく一般的に用いる銃弾の径。ソ連が開
発し……広く普及し、安価」。つまり、カラシニコフ軽機関銃の銃弾のこと]

クリストファーの死を知ったとき、私はマンハッタンのホテルのラウンジでパ
ソコンに向かって座っていました。(私は航空会社のパイロットであり、ニ
ューヨークで乗務待ちをしていました) 私はガックリして、泣きました。周
囲に人が大勢いて、どうしたんだと思ったはずですが……誰も理由を聞きませ
ん。私が泣いたのは、それほど若者の無意味な落命を思ったためではなく、あ
るいはわが家の友人たちがこうむる悲嘆を考えたためですらもないと気づきま
した。よく考えると、私たちの国を思って泣いたのです。私たちはどんな事態
に立ち至ったのか?

すでに申しあげたとおり、私の在所のような小さな町には、若い男が高校を出
ても、たいしてすることがありません。彼が志願する前に最後に会ったとき、
クリストファーは、陸軍偵察兵になり、4駆ATVを乗りまわして楽しむんだ
と話していました。何人か「ラキども」を撃ちにいくんだとも言っていました。

これが私の悲しみの元です。この国で、私たちの子どもたちは憎しみと暴力を
糧に乳離れしているのです。まずテレビに始まり、暴力的なビデオゲーム(特
に米陸軍が制作・販売するやつ)によって補強され、磨かれ、最後には、ハイ
スクールの暴力的な団体スポーツを通して感化が広がるのです。南部のフット
ボールは次世代の大砲の餌食[兵士]を育成するための軍事教練です。坊やた
ちは、出ていって「やっちまえ、ばらしちまえ、しとめるんだ」とけしかけら
れます。刷り込まれているんです。

(念のため言っておきますが、私をリベラルな左翼と混同しないでください。
私は銃を所有し、右派を支持しています。祖国と財産の防衛は他国への暴力の
輸出とは大違いです)

外国に旅行しますと、これに比べられるものを見かけません。もちろん団体ス
ポーツはありますが、私に言えるかぎりでは、暴力や内心に潜む憎悪の底流は
そこにありません。

クリストファーは自覚していませんでしたが、小さな町の南部人に生れた彼は、
ごく幼いうちから死を迎える訓練を仕込まれていました。

私たちの小さな町の住民は、地方選挙ではたいがい民主党に投票しますが、大
統領選挙では典型的に共和党寄りです。公の場での政策論議や論争は滅多に聞
かれませんし、なんだか封印されています。ひどい話しです。このあたりのた
いがいの人は、選挙に先立つ1週間や2週間、国内政治や対外政策にかりそめ
の関心を寄せますが、たちまち、フットボールの話題や、何でもいいのですが、
その日のスポーツ欄記事に回れ右するのです。

死の観念や、敵の手で八つ裂きになることは、あまりにも異質であり、たいが
いのアメリカの若者にはピンとこないのです。わが国のメディアは、そのよう
なものごとのイメージや細部を公衆の眼から隠すために、かくも見事な仕事を
しているのです。多くの外国の報道では、そうではありません。わが国の学校
は、これほどまでに陰惨だったり不快だったりすることを子どもたちに教える
なんて、まったく考えられないでしょう。

クリストファーのような坊やが、知りもしないどこかの人たちを殺したいと軽
い気持ちで願うと考えると、私はひどく落ち込みます。一方では、クリストフ
ァーは、とても優しい、のんぶりした子どもでした。もし誰かが「やあ、(ラ
イバル校の)シーリーのやつらを撃ちにいこうぜ」と彼に言ったなら、「おま
え、いかれてる――お呼びでない!」と間違いなく答えたでしょう。でもイラ
ク人が相手になると、何と言おうが解禁なのです。

彼は違いを見ただけです。どういうわけか、善悪の分別や人間愛の教えのすべ
てを踏みにじるほどの憎しみを育んだのです。彼は南部バプテスト教会に通っ
ていて、人間愛が彼に教えられたことを私は知っています。その一方、南部バ
プテスト協議会の理事長はこれは「正しい戦争」であると宣言しました。そこ
にはちょっとした偽善があり、たぶんクリストファーを混乱させたのでしょう。
ちなみに、私たちはその教会を離れました。

私はクリストファーの知り合いの男女を何人か存じており、その人たちは占領
に賛成していましたが、考えを変えはじめています。彼の死は、農村部のわが
郡で、ここ数か月間に2例目です。それが当地における考え方をいくらか変え
はじめています――だが、遺憾なことに遅すぎたと思います。

わが国の理想を受け入れる意志もなく、みずからそれを守るつもりもない他国
の社会に押しつけることはできないと、私たちがベトナムで学んだときよりも
早く気づいてほしいものです。

クリストファーのような若者たちをどれほど多く送りこんでも、どうにもなり
ません。

クリス・クリステンセン

[原文]Tomgram: A Young Man’s Death in Iraq
By Chris Christensen, posted August 2, 2005
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=9439
TUP配信許諾済み
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[翻訳]井上利男 /TUP