FROM: minami hisashi
DATE: 2005年9月5日(月) 午前8時14分
☆キャンプで出会った人びととシンディ・シーハンの祈り★
いわゆるシンディ・シーハン現象が、全米(そしてTUP速報)を賑わしてい
る今、サンフランシスコのレベッカ・ソルニットはどこにいて、どうしている
のかな、と思っていると、案の定、便りが届きました。シンディ・シーハンが
クロフォードのブッシュ牧場近くの路傍で座りこみをはじめた2004年8月
6日――この日は、作家ソルニットの言うミレニアムの起点、新しい時代が開
いた瞬間のひとつなのでしょう。時あたかも巨大ハリケーンがアメリカを激し
く揺さぶった今、歴史が大きく動く予感がします。
シンディ・シーハンのブログも抄録されているので、全米を揺るがす彼女の
人となりに触れる一助になるでしょう。 井上
凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉
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キャンプ・ケイシー報告
送信者: レベッカ・ソルニット
日時: 2005年8月31日水曜日
宛先: inoue21c 他[同時送信メール]
件名: Re: シンディ・シーハンを駆りたてるもの
エイミーあてEメールの追伸として、これを書きはじめましたが、他の皆さん
にも第一報として喜んでいただけると思ったものですから……
P.S.あなたはシンディを大好きになるでしょう。ノッポで痩せぎすなので、
若いころ、たぶんヤナギさんと呼ばれていたんじゃないかというタイプの女性
であり、今は柳のように枝垂〈しだ〉れてます――弛〈たる〉んでるというこ
とではなく、ソフトでアンバランス、子どもをおぶってるみたいに前かがみ、
長い茶褐色の肢体と垂れ下がったブロンドの毛髪、小さな者に視線を向け、与
え、話しかけるためなのか、いつもうつむきかげんの皺が寄った顔、世界の重
荷が少しは彼女を造形したのでしょう。けれど、すごくおかしくて、悪舌家で
もあり――一日中、多くの人たちにハグ[抱擁]したり、代理人を立てた大統
領だけは別にして、だれをも拒まず、何十回もインタビューをこなし――とて
も、とても優しい。彼女は、第一子を失った大きな悲しみを昇華させる、この
英雄的な目的意識に促され、別世界からのエネルギーの経路そのものになった
――エゴや野心に邪魔されず、エネルギーが彼女をひたすら貫いて流れる――
のだと私は思います。彼女は自分がそこにいる理由を決して見失わないし、他
の人たちのためにもじゅうぶんな理由を備えてくれているようです。それでい
て、映画スターの振る舞いを身につけ、あるいは世のママたちが知るごとく、
いかにして2分間の休憩を目いっぱい活用するか、いかにして常に気分転換を
図るか知っているようなところもあります。何千人もの人びとが彼女を愛し―
―彼女がやったように――世界を変えるために頼りにするようになるという気
づきが、もうひとつの家族を実現し、彼女へのもうひとつの愛を培ったのだと
私は思います。
私と共同してコード・ピンクを立ち上げた友人、ジョディは、主だった世話人
のひとりであり、私は、彼女とシンディ、それに若いコード・ピンク仲間と一
緒にキャンプ・ケイシーを出たり入ったり車を乗り回し、彼女たちやアン・ラ
イト退役大佐――2003年3月19日[対イラク攻撃開始日]に辞任したキ
ャリア外交官――が切り盛りしているのを見守りました。ライトはタフで優し
く、シエラレオネ共和国からの退避のさい、指揮にあたった人ですが、そこに
いた他の多くの人たちと同じく、これはいつもやりたいと思っていた意味のあ
る仕事なんだという喜びを発散させ、暑さや混乱、不快といったささいなこと
なんて、どれひとつ気にしていませんでした。シンディは「これは、私に起こ
った最高に驚くべきことであり、たぶんこれからもありえないでしょう。これ
以上にすばらしいできごとを望むことさえないと思います」と言いました。
そこにいたもうひとりの若い女性、ケリー・ドウアティは、元はコロラド州軍
兵たちを母体とした「戦争に反対するイラク帰還兵たち(IVAW)」の共同
創設者でした。彼女は、社会と国家のための任務を心から信じていたが、この
戦争は自分が誓約した職務に反するものだという良識を、IVAWの若い人た
ちの多くと分かち合っていたのです。彼ら身だしなみのよい生真面目な若者た
ちは、戦争に従事して戦うさいに必要であるに違いないはずの同じ集中力、熱
意、職務倫理を、戦争に対する戦いに持ちこんでいました。そんな彼らがそこ
には10人余り、あるいはもっと多くいました。彼らに対抗するのはとても難
しいでしょう。
ブッシュと彼の戦争のせいで、生活を台無しにされた人たちに会いました。あ
る女性は、小学校の子どもたちに反戦論めいた何かを言ったために、インディ
アナ州の教職を失い、しかも劣化ウランが使われた場所に駐留している海軍の
息子さんのことをひどく心配していました。ミズーリ州カンサス・シティから、
とてもキュートな妻とハネムーンに来ていた25歳の青年は、身体が不随だっ
たので、どこに行くにも、おつれあいに車椅子を押してもらっていました――
彼は即製爆弾にやられた経緯〈いきさつ〉を語り、締めくくりに「あそこにい
たあいだ、ぼくは人に向けて撃ったことさえなかったんだ」と言いました。午
後のあいだ、若い帰還兵たちは揃って泳ぎに出かけましたが、このカップルも
一緒に行きました……
また、ミズーリ州スレイターから駆けつけたご年配の男性は、1957年から
63年にかけて海兵隊員だったとおっしゃり、走行距離48万キロメートルの
フォード・ピックアップにいつも寝起きしていましたし、[ミシガン州]カラ
マズーから来た二人連れやオハイオの人たちもいましたし、アメリカ・インデ
ィアン運動の4人の長老たちが来ていて、儀式を執り行ない、だれもが言うよ
うに、「私は耳にしたので、来なければならなかった」と言ってました。それ
に、どこにでも報道関係者たちがハエのようにいて、わんさかシンディを追い
かけていました。ボイス・オブ・アメリカ[米国海外放送]の場違い男がでっ
かいマイクを突き付け、「どなたがこういう物資を運んで来たのですか? ど
こから来たのですか?」と声をかけると、「私たちだ」「オハイオ! カリフ
ォルニア! ミズーリ!」などと答えがコーラスになって返されていました。
これが昨日のできごとであり、終日、私は巨大な――たぶん30×60メート
ル――白いテントの中か周辺かで過ごしていたのですが、これがキャンプ・ケ
イシーIIであり、皆さんがさらにブッシュの牧場近くで座りこめるようにと、
ある牧場主によって無償で提供された土地に設営されています。周囲の景観は
――緑の大草原がうねり、小さなカシの木立ちが散在して――美しく、そして
ハリケーン・カトリーナの西端が頭上に来ていました。IVAWの若い人たち
は、ルイジアナ州軍とその装備はハリケーン襲来時の救援任務に投入されるは
ずだったが、どれほど多くの兵員・装備がイラク配備に割かれてしまったこと
かなどと話していました……
希望において、私が明らかにしようと務めてきたことの多く――彼女がやった
ことですが、世界を変えるために、人跡未踏の境地から出現したあれこれ――
が、そして、理想主義と連帯の熱情が、洪水のように人びとをもろともに押し
流す瞬間、ありえないと思えたものが、あなたに洗礼を施す素材になる瞬間が、
ここにあります(ポーランド「連帯」の25周年にまつわるNPR[全米公共
ラジオ放送]の番組は、これに対するうれしい反響になっていました)。
朝、キャンプ・ケイシーIに道路を挟んで向かい合ったブッシュ支持派のキャ
ンプは、ちょっと見には対等に張り合っているように見えますが、近寄って見
ると、看板・プラカードや散乱物、テントなどに囲まれて泊まりこんでいるの
は、まさしくひとりだけであると分かります(午後には、もっと多くの人たち
がいます。ツルースアウト・サイトで読んだのですが、夜になって、この人た
ちは平和運動側のキャンプに合流して、兵士たちのためのキャンドルライトの
ヴィジル[夜間の祈り集会]に加わったとのことです*)。
われらが大統領が、女たちと帰還兵たちと学校教師たちとインディアンたちと
その他もろもろ、一群の人びとに人質に取られたのは、あっぱれな見ものです。
まだまだ時間はかかるでしょうが、とにかくこれはひとつの奇蹟です。
R[レベッカ・ソルニットの署名]
(*)シンディ・シーハンのブログ――
昨夜、キャンプ・ケイシーIでおこなわれたキャンドルライトのヴィジルに私
は参加できなかったが、抗議運動に対抗する側の人たちがやって来て、こちら
側と一緒に私たちの殺された英雄たちのために祈りを捧げたと聞いた。美しく、
生を肯定する雰囲気だったと聞いている。これこそキャンプ・ケイシーが私た
ちのためにしてくれること――苦い怒りを、実りある正当な怒りに転化してく
れる。憎しみを愛に変えてくれる。人びとをもろともに新しい愛に誘い、成熟
した絆を固めてくれる。本来なら出会うことはなかった他人同士を仲立ちし、
生涯のソウルフレンド[魂の友]にしてくれる。傷ついた心を癒し、傷ついた
魂を治してくれる。キャンプ・ケイシーが私の傷ついた心と魂を癒してくれた
ことを私は知っている。イラクで惨事に遭った帰還兵が、これまで抱えていた
悪感情が今は癒されたと言っていた。
キャンプ・ケイシーのありふれたある日。
8月6日、溝のなかに座りこんだときのこと、「ねえ、いったい何やってる
の? 8月のテキサスではないの? ハリアリ[刺すような痛みを与える蟻]
やガラガラヘビ、ツツガムシだらけの溝じゃないの? バケツにウンチする
の? 落雷をかわし、熱射病を凌げって言うの?」と思ったことを私は白状し
なければならない。だが、終わりまでこれに耐えなければならないと知ってい
た。イラクの人びとやアメリカの兵士たちは、私たちよりもずっとひどい状況
にいると知っていた。ピースハウスにたっぷり水があり、たまにシャワーが使
えさえすれば、生きていられると考えた。
だけど、まったく思いがけなかったのは、これがだんだん好きになったこと、
私に寄せられる愛と支援の大きさに圧倒され、キャンプ・ケイシーを離れると
なると落ちこんでしまうだろうということだった。私は去りたくないが、キャ
ンプ・ケイシー運動がひきつづき育つためには、私たちはクロフォードを離れ、
人びとのもとへキャンプ・ケイシーを届けなければならないと知っている。
今夜、私は、よかった時のことやそれほどでもなかった時のこと、ここクロフ
ォードで起こった奇蹟を振り返って書こう。だが、私の人生で最良の“休暇”
と最高にすばらしい経験にまつわって、ある人物、ジョージ・ブッシュに感謝
したい。ジョージ、8月6日に私に会ってくれなくて、ありがとう。キャン
プ・ケイシーにきっかけを与えてくれて、ありがとう。この休暇が開けてから、
あなたのお宅[ホワイトハウス]までキャンプ・ケイシーに押しかけて来てほ
しくないことは分かってるから、私たちの兵士たちをすぐに故郷に呼び戻すよ
うに提案します。
だが、だれよりも私の息子にありがとう。平和と正しさを求めて活動するよう
に、人びとを奮い立たせるような人生を生きてくれて、ありがとう。私をあな
たのママに選んでくれて、ありがとう。愛の化身であってくれて、ありがとう。
キャンプ・ケイシー運動のインスピレーションであってくれて、ありがとう。
あなたの仲間たち全員が故郷に連れ戻されるまで、お終いにしないと私は約束
する。まだ生れていない、あなたの姪っ子や甥っ子、世界の子どもたち皆のた
めに、私は戦い、その子たちが、あなたや仲間たちがされたように、堕落した
国家指導者に間違った使役を課されたり、虐待されたりしないようにすると約
束する。
ケイシー、あなたを愛してる。
[発信者]レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit)はサンフランシスコ在住
の作家。著書に、アメリカ西部作家奨励賞受賞作 River of Shadows:
Eadweard Muybridge and the Technological Wild West[仮題『影なす河――
エドワード・マイブリッジと西部技術フロンティア』](*)など。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/booksea.cgi?ISBN=014200410
3
邦訳書に『暗闇のなかの希望――非暴力からはじまる新しい時代』
――井上利男訳、七つ森書館、2005年3月刊
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0596.html
増田れい子氏による朝日新聞書評――
http://book.asahi.com/review/TKY200504260233.html
[原文]—– Original Message —–
From: rebecca solnit
To: inoue21c and others
Sent: Wednesday, August 31, 2005 6:04 AM
Subject: Re: Driving Cindy Sheehan
Copyright 2005 Rebecca Solnit and Cindy Sheehan
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[翻訳]井上利男 /TUP
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