DATE: 2005年9月6日(火) 午前1時26分
息子の命を奪った崇高な使命とは何なのか? 全米を揺るがすシーハン No8
オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年春イラクでの「人間の 盾」に参加し、04年春には米軍包囲下のファルージャに入り、その帰路地元レ ジスタンスによる拘束を経験、04年冬から05年春にかけてイラク・パレスチナ を旅して、05年8月今度はテキサス州クロフォードのブッシュの牧場近くの キャンプケーシーから、全米で10万人規模のヴィジルを呼び起こすほど大きく なったシンディ・シーハンの行動を現地から報告してくれました。ドナは、す でにオーストラリアに帰国しました。イラクの悲嘆と、アメリカの悲嘆を考え るドナからの報告第8弾です。 (翻訳:福永克紀/TUP)
そんなに長い道などない――イラク被害の最新報告 ドナ・マルハーン 2005年8月26日
キャンプケーシーで道端に並ぶ十字架の列を初めて見た時は、その悲劇的なイ メージに完全に打ちのめされて、言葉を失い立ちつくしていました。
イラクで死亡した米国男女を追悼し、各人の名前が記された小さな白い十字架 がそこに立てられています。しかし、前日と同じように衝撃を受けながらも毎 日それらを見ているうちに、私はどうしても同じことを思い浮かべてしまいま した。
こんな道じゃ短すぎる、と。
もし、この戦争で死んだイラク人を追悼し個々人の記念碑を立てようとするな ら、そんなに長い道はまちがいなくどこにもないでしょう。
一人の嘆き悲しむ母親によって始められたこのキャンプケーシーは、愛するも のが現在イラクで従軍する、あるいはイラクで死亡した「軍人家族」の大きな 運動へと成長しました。そのためこの運動の焦点は、米国軍人の死、米国政府 の説明責任および返答の要求、部隊の撤退、戦争の終結となっています。
しかし、シンディ・シーハンに会い、そのまなざしの奥に宿る痛みを知り、ま たキャンプケーシーで嘆き悲しむ両親の誰もが抱く喪失感を知るにつれ、この 大きな現実の全体を知り抜くためには、私がイラクで実際に目にした壮大な嘆 きと苦痛に、キャンプケーシーの嘆きと苦痛を付け加えなければならないと感 じたのです。それは抱くにも理解するにもなかなか難しいことでした。
つまり、キャンプケーシーの十字架は、この戦争による嘆きは普遍的なものだ と思い起こさせるものです。破壊されつくしたのです。地球の隅々にまで苦痛 が広がっているのです。それが現実なのです。
そこで、しばしの間この苦痛の中心点に焦点を当て、バグダッドのサドルシ ティに住むイラク人の現状とその思いが書かれている、最近イラクから送られ てきた報告をお伝えしたいと思います。
私の友人、クリスチャン・ピースメーカー・チーム(Christian Peacemaker Team)のペギー・ギッシュの報告です。
「劣悪から最悪へ」というのが、イラク人がイラクの現状を語る時の常套文句 のひとつです。隔離されているグリーンゾーンや基地の外で働いていると、米 国政府が注意深くふるいにかけて広報している楽観的描写とはまったく違う光 景が見えます。米軍の存在が、実際に生活の質を押し下げ平和的民主的社会建 設の前進を阻んでいる、というのがイラク人の大半から聞く言葉です。
いくつかの例を挙げます。
* バグダッドの貧困地区サドルシティの人口3百万人中、72%の住民が水の 汚染のためにA型またはE型肝炎を患っています。サドルシティでは下水道修理 のため幹線道路にそって排水溝が掘られています。サドルシティ指導者たちに よれば、この計画には、各家庭に直結する脇道沿いの上水道管の破損したり不 適当な部分の交換は含まれていません、つまり生の汚水が通りに漏れ出し近く の破損水道管に浸透するのです。
* イラク各都市の市場には商品が多く出回るようになったものの、推定40% の失業率で貧困状態は厳しく、また栄養失調も増加しています。安価な外国製 品がイラク市場に蔓延し、米国企業が多くのイラク人の商売を取り上げ、石油 生産も支配し、経済の侵食が進んでいます。
* ファルージャの人々はゆっくりと再建作業を始めていますが、米国および イラク政府からの援助はわずかばかりです。2004年11月の攻撃以来、米軍は今 なお他の多くの町や村に活発に戦闘行為を仕掛けています。現在米軍とイラク 軍はモスルの西方、テラファの町を包囲していて、ハクラニヤーの町では攻撃 に大型爆弾を使いました。
* イラク住民は凶暴な抵抗勢力による爆発や誘拐に加えて、米軍とイラク部 隊による凶暴な家宅捜索、無差別一斉逮捕、虐待を伴う尋問や投獄に日々脅え ながら暮らしています。
* イラク住民は新イラク政府の腐敗や、米国が訓練を施し内務省が指揮をと る新イラク警察特殊部隊の残忍な暴力にも不安を抱いています。これは「国家 テロ」だと言う人たちもいます。自宅から拉致されたり、拷問を受けたり、時 として道端で死体となって発見されたりした家族の一員のことを話してくれる 人たちもいます。囚人の家族たちは、監獄で拷問されないようにとか、自分が 犯してもいない罪をテレビで告白することを強要されないようにとかで、何千 ドルも支払った話をしてくれます。多くの人が、イラクはサダム時代と同様 の、いやもっと悪質な警察国家になりつつあると恐れています。
一方、大部分のイラク人は、家族の面倒をみながらできるかぎり普段と変わぬ 生活を送ろうとしています。無数のイラク人が、結束を強め人権を守り地域の 民主的活動を育成するために非暴力非営利団体にかかわり、希望を持ち続けよ うとしています。しかし、彼らが耐え抜いてきたすべての犠牲や困難にもかか わらず、より安全で自由な生活が実現するはずもないのではと、心を悩ませて います。 [訳者注:ペギー・ギッシュの報告、ここまで]
キャンプケーシーは、この戦争に引き裂かれた多くのアメリカ人家族の嘆きと 失意の強力なシンボルとなっていますが、一方で私たちはすべての家族が引き 裂かれた国にこそ、心を寄せなければなりません。イラクの混乱状態では、嘆 きに襲われずにすんだ家族などいないのです。
この戦争で破壊されたイラク人の命を追悼するには、そんなに長い道はありえ ないと思うのです。
皆さんの巡礼者
ドナより
追伸:米国ですばらしい時間をすごして、今オーストラリアに帰ってきまし た。もっと皆さんにお送りしたいキャンプケーシーの話や写真がいっぱいあり ます。日々、現地から報告を受けていますが、ますます大きく、すばらしいこ とになっていると……
追追伸:つむじ風のような4日間のニュージーランド講演旅行を、全くの成功 裏に終えました。こんなに参加者も多く勇気づけられる講演会を開いてくれた ハルミート、パット神父、ケイティ、ジェーン、およびイラク人社会・ニュー ジーランドに感謝します。近いうちにもう少し長く滞在できる再訪ができます ように!
追追追伸:シドニーの皆さんへ、今週末のシドニー・ソーシャル・フォーラム に参加されてみてはいかがでしょうか。すばらしい講演者とセミナーの催し で、サイトは、http://www.sydneysocialforum.org です。日曜日には私が二 つのセミナーをやります。ひとつはパレスチナ問題で、もうひとつはキャンプ ケーシー関連ですので、そこでお会いしましょう。
追追追追伸:私がシドニーにいるのは数日で、その後アウトバック[訳者注: 豪語で、奥地、僻地、内陸部をさす]に行きます! 次の木曜日にはターキー ・クリークに出発します――ターキー・クリークってどこ? 西オーストラリ ア州のキンバリー地区にある人里離れたコミュニティで、ロードハウス[訳者 注:街道沿いの宿泊できる酒場]があって、アボリジニ[訳者注:オーストラ リア先住民族]コミュニティがあり、ミリリンギ・スピリッチュアル・セン ターがあります。そこで二ヶ月間ボランティアとして滞在する予定です。ター キー・クリークで、皆さんにもお伝えできる素敵な経験と冒険がいっぱいある ことを期待しています。
追伸x5:「絶望した時、私は、歴史を通じて真実と愛の道が常に勝利してきた ことを思い出すのです。暴君や人殺しが現れ、時として不滅のように思われて も、いつも最後には倒れるのです――いつもです、そのことを考えるのです」 ――ガンジー
原文:No road long enough – a recent report of Iraq’s suffering URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/169
TUP速報 配信担当 萩谷 良 電子メール:TUP-Bulletin-owner@y… TUP速報のお申し込みは:http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/ *お問い合わせは多数にのぼり、ご返事を差し上げられない場合もありますこと をご了承ください。 ■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館) JCJ市民メディア賞受 賞!! ■第II集も好評発売中!!