TUP BULLETIN

速報543号 ニューオーリンズの天災、バグダッドでは人災 050909

投稿日 2005年9月9日

FROM: minami hisashi
DATE: 2005年9月9日(金) 午後9時57分

ハリケーンに襲われたニューオーリンズとイラク ドナ・マルハーンの報告
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オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年春イラクでの「人間の
盾」に参加し、04年春には米軍包囲下のファルージャに入り、その帰路地元レ
ジスタンスによる拘束を経験、04年冬から05年春にかけてイラク・パレスチナ
を旅して、05年8月アメリカからシンディ・シーハンのキャンプケーシーにつ
いて報告してくれました。オーストラリアに帰国したドナが今回は、ハリケー
ンに襲われたニューオーリンズの悲嘆と、イラクの悲嘆を考えます。
(翻訳:福永克紀/TUP)
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ニューオーリンズで自然災害、イラクでは人災で同じことが
ドナ・マルハーン
2005年9月3日

お友達の皆さんへ

今夜、米国ガルフコースト地区を襲ったハリケーン・カトリーナの惨状を見て
いて、その大混乱、絶望、惨めさ、無法状態のイメージに、デジャヴを見てい
るような心乱される気持ちになりました。

イラクの大惨事では、カトリーナの致命的な猛襲と同規模の、あるいはもっと
ひどい光景が作り出されてきました――日常的に、過去2年半、2000万人の
人々に。

これらの異なる出来事によって人々が被った膨大な被害について考えをめぐら
せようとすれば、認めなければならない、かつ論議しなければならない問題が
あります――ハリケーンは自然災害ですが、戦争は違います。戦争は計画さ
れ、実行され、税金で賄われます。

米軍の猛襲という形のハリケーンで町を完全に破壊されたファルージャの人々
全ては、ニューオーリンズの人々と同様に難民化し生き抜く戦いを強いられて
きました。

ファルージャ難民危機を担当する赤新月社マネージャーの言葉が思い出させて
くれます。「ファルージャは自然災害ではなく……」

ニューオーリンズの人々――自然災害の犠牲者――のもとへ救援が来るまでに
時間がかかった事実には、当惑せざるを得ないでしょう。ファルージャの
人々――人災の犠牲者――のもとへ救援はいつまで待っても来ないという事実
には、怒りを覚えずにはいられません。

下記のものは、2003年バグダッドで会った友人マイク・ファーナーによるすば
らしい記事です。彼は、明らかに私と同様な思いを持ってこの記事を書いてい
ます。皆さんも読み、再配布されることを強くお勧めします。すべてのことを
語っていますので……

皆さんの巡礼者

ドナより

追伸:キャンプケーシーは、手持ちの水と必需品全部に加えてボランティア
チームをニューオーリンズに送り出し、できるかぎりの援助をしています。

追追伸:私は今、ターキー・クリークにいます! 携帯電話は圏外です、しか
し連絡はEメールか電話番号*****[訳者注:電話番号省略]で取れま
す。ちなみに、ターキー・クリーク(ワルムン・アボリジニ・コミュニティ)
は西オーストラリア州のキンバリー地区にある人里離れたコミュニティです。
もうしばらくは、ここにいるつもりで……

追追追伸:人里はなれた所にいるということは、実際に再び「郵便」が何がし
かの手立てになるということです(古風でしょう)。もし私に手紙やもてなし
や何らかの必需品を送ってくださるなら(忘れてきた物の一覧表を持ってます
!)、住所は*****[訳者注:住所省略]です。

追追追追伸:「およそ核攻撃ないしハリケーン・カトリーナ規模で受ける被害
を――「向こう」のだれも援助を寄せてくれることなく――耐えるとは、どの
ようなものだろうか? それが、今のイラクの場合だ」――マイク・ファー
ナー

[訳者注:ここより、マイク・ファーナーの記事]

外部の世界を待って

地球規模の「相互報復」核戦争を多くの人が焦点にしていた米国平和運動の
「古き時代」に、「社会的責任を果たすための医師団」(PSR)という組織が、
もし実際に原子爆弾でアメリカの主要都市が爆破されたらどのようになるかに
ついて仮説を立てた。

医師団の記述は、死亡者数や重傷者数だけに限らず広範囲に及ぶ、全くの恐怖
のシナリオだった。率直に言えば、わずかな生存者だけが経験すると思われる
ことの記述だった。想像を絶するほど多くの人命損失を受けるだけでなく、交
通機関や医療インフラも破壊されるというものだった。緊急灯とサイレンと共
に被害者を急いで連れて行くはずの救急車は来ない。医者も、看護婦も、血漿
も、鎮痛薬も、抗生物質も、包帯も――すべてが、病院や幹線道路と共に破壊
されてしまうだろう、というものだった。

そんな現実性を描くことが困難だったのと同様、最も想像し難いものは、核戦
争においては「外部」からの救援があり得ないだろうということだった。すべ
ての主要都市が同じ運命に見舞われれば、「向こう」の誰も救援には来られな
い。「向こう」もすべて無くなっている。瞬時に、町たる町が次々と汚染さ
れ、産業革命以前の生存競争が始まる。

人類にとっては幸運だったが、PSRのシナリオはこれまでのところ象徴的な教
育課題であり続けた。

ルイジアナとミシシッピーのガルフコーストの町のニュースを見聞きすれば、
この国ではまれにしか見ない規模の壊滅状態だと分かる。ニューオーリンズが
海面以下の低位に位置することと堤防の決壊による大洪水が、このハリケーン
・カトリーナの来襲に拍車をかけ、ハリケーン・アンドリューがマイアミを破
壊した時よりも事態を悪化させている。

今や私たち全員が、非常用電源が水浸しになる前に病院の患者たちは救出され
るのかどうか、固唾を呑んで見守っている。町の通りは何マイルに渡って水没
している。上水道の供給は汚染されたものになりつつある。夏の太陽の照りつ
ける暑い屋根の上で、絶望的な人びとが救援のヘリコプターを待っている。私
の甥は、交通機関を運良く見つけうまく利用できたので、時間内に逃れられ
た。しかし、彼はどれほどの間、ラファイエットの友人の所にいることができ
るだろう? それに、月々のウエーターの給料で生活している若い男が、もし
ハード・ロック・カフェが再び店を開かなければ、どんな仕事につけるだろう

しかし、ニューオーリンズと周辺地域の状況は恐ろしいものではあるが、まだ
「外部」というものがある。人々が援助を結集させている。最初は不適切で、
一部には結局は遅すぎたかもしれないが、他48州の人々や団体がルイジアナと
ミシシッピーの同胞市民の援助に最大限の努力をしている。

およそ核攻撃ないしハリケーン・カトリーナ規模で受ける被害を――「向こ
う」のだれも援助を寄せてくれることなく――耐えるとは、どのようなものだ
ろうか? それが、今のイラクの場合だ。

このような比較が心に浮かんできたのは先月で、フェニックスの人々が一見し
て厳しい熱波のもとで大気の逆転層に捕らわれた時だった。何週間も気温は38
度を超え、2005年の夏は文字通り殺人的なものとなった。その時、電気がなけ
ればフェニックスはどんなふうになっていただろうかと考えた。そして、バグ
ダッドのことを思った。

バグダッドでは、夏中46度から49度が典型である。しかし、エリートに属し自
家発電機を持っているというのでないかぎり、需要の低下する真夜中が確率の
高い不定期送電を、一日のうちに何時間か得られればラッキーだ。これが大部
分のバグダッド市民400万人と残りのイラク全市民2000万人の現実だ――この
夏も、去年の夏も、一昨年の夏も。

上水道および下水道施設は、1991年にパパブッシュの手で徹底的に爆撃され、
十数年に及ぶ経済制裁下で修復されたのはヨチヨチ歩き程度だ。その結果、
2003年の米国侵略以前には水から感染する病気が重大な健康問題となってお
り、それ以来劇的に悪化している。病人看護として通用しているものには、最
貧困のアメリカ人でさえぞっとするだろう――それも、医療施設が全力を尽く
している時に、しかも米軍の攻撃や自爆攻撃の膨大な負傷者に圧倒されてし
まったわけでもなくである。米軍に包囲されたファルージャその他の町では、
救急車が緊急灯とサイレンと共にやって来て負傷者を急いで連れて行くわけで
はない。そうすれば米軍から撃たれる。鎮痛剤や包帯や抗生物質を医療施設に
運ぶ車は、強制的に追い返される。すでに標準以下の水道供給設備は砲弾と空
襲で破壊される。

今日ナショナル・パブリック・ラジオが、ハリケーン後の生活がどんなものか
説明する人々とのインタビューを放送した。ミシシッピー州ガルフポートの女
性は、堪えきれない涙を流しながらこう言った。「……驚くほど立ち直りの早
い人もいるけど、ショックを受けている人もいるわ……もうきれいな水も無く
なった人もいるし……夫は毎日日記を書いていたの……子供の頃から一日も欠
かさず……そんな日記も何もかも、もう無くなっちゃったわ」

少しばかり質問を続けたあとで、そのラジオのレポーターが話をしてくれて感
謝しますと丁寧にお礼を言った。しわがれた声で彼女が答えた。「助けが必要
だって、外の世界に分かってもらえる機会を与えてくれてありがとうございま
した」

このガルフポートの女性が、来年の議会選挙のことなどに頭を悩ませてはいな
いと同様に、イラクの何百万という彼女のような女性も自国の憲法のことなど
を心配してはいない。彼女もイラクの女性たちも、夏の暑さに安全に飲める水
のことを心配し、いつ電気が回復するのかを訝り、洪水に流され永遠に戻らな
くなった日記や深夜の家宅捜索で失われたアルバムのことを嘆き、なんとか職
を見つけることができて自宅が再建されるのを見ることができるかどうかで心
を痛めている。

まさしく、ハリケーン・カトリーナの破壊の膨大なニュース報道が、不公正な
打撃を与えられた人々に対するアメリカ人の持ち前の同情心を呼び起こし始め
ている。もしニュースメディアが同様の仕事を遂行して地獄となったイラクの
人々の生活を描写していたら、アメリカ人の怒りと同情の気持ちが同様に沸き
起こっていたであろう。そうすればイラク人は、外の世界からの爆弾ではなく
援助を期待できたかもしれないのだ。
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ファーナーは、米国侵略前後のイラク国内旅行に関する本を書いている。ベト
ナム戦争時は海軍衛生兵として従軍し、現在は平和退役軍人会の一員でもあ
る。

原文:Natural disaster in New Orleans, same, but man-made, in Iraq
URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/170

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