FROM: minami hisashi
DATE: 2005年9月11日(日) 午前4時05分
☆ハリケーンが残した未曾有の人災――貧困層を襲ったジェノサイド★
日本の主流メディアも、ニューオリンズの惨状に併せて、今回の大惨事の人災
要因のデタラメさについて、主として外信記事の紹介の形でチラホラと伝えて
はいますが、二番煎じのもどかしさの感を免れていないようです。(真実を隠
すだけの)「中立」を装う必要のない私たちとしては、ニューオリンズの災害
現場からの生の声に耳を傾けてみましょう。私事ですが、原文を読みながら、
20年も前、アパルトヘイト時代の南アフリカからの抵抗の歌をAMラジオで
聴いたときの衝撃が蘇りました。井上
凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉
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ニューオリンズからの緊急報告「これは犯罪だ」
――マリク・ラヒム
Zネット 2005年9月3日
(解説: マリク・ラヒムは、かつてブラック・パンサー党ニューオリンズの
闘士、数十年にわたり同地とサンフランシスコにおいて公共住宅入居者運動の
世話人、現在は緑の党・ニューオリンズ市議会議員候補として活動を続け、同
市のなかで洪水を免れた唯一の地区、アルジャーズに居住。同地では、電力は
途絶えたが、水は今も良質、電話回線も健在。地区内に少なくとも4万人の避
難民を収容し、食べ物を賄うことができたとラヒムは言う。だが、住民たちは、
だれひとりとして助けることを許されていない。ここに彼が記す状況は、黒人、
貧困層を狙った意図的なジェノサイドに他ならない)
2005年9月1日、ニューオリンズ発――これは犯罪だ。君たちに伝えられ
ているのは、ニューオリンズに閉じこめられた連中は、略奪者に他ならないと
いうこと。私たちはもっと“善意の近隣住民”らしくふるまえと聞かされた。
だが、逃げるだけの余裕のある人たちが逃げおおせる――いなくなってしまう
――まで、「善意の近隣住民らしく」なんて口にする者はいなかった。
アメリカで金のない人間は、勝手にしろということ。民衆はスーパードームに
行けと言われたが、そこには食べ物も水もなかった。行き着いても、入口でひ
とりひとり身体検査を受けなければならず、降りしきる雨の中、4、5時間も
行列に並んで立たされた。
津波の場合、警告がなかったので、事後の混乱は理解できるが、ここでは警告
はたっぷりと聞かされていた。ハリケーン襲来まで3日あり、事前に分かって
いたので、全市避難も可能だったはずだ。
当地にアムトラック[全米鉄道旅客運送公社]が操業しているので、全住民を
街から運び出せた。じゅうぶんな数のスクールバスがあり、2万人は容易に避
難できたはず。だが、当局はバスを水没させただけだ。私の息子はバス40両
が水に呑まれるのを見ていた――連中が、盗まれるのを警戒するあまり、動か
そうとしなかっただけのこと。
逃げる余裕のある連中は、自分たちの財産が盗まれるのを恐れ、なにもかも水
に呑まれるままにまかせた。車のない家族に余分の車を使ってもらうこともで
きたはずだが、そうするどころか、置きっぱなしにして台無しにした。
この界隈では、白人自警団が、全員武装のうえ、ピックアップで巡回し、地区
住民でないと目される若い黒人を見つける度に、だれかれかまわず撃っている。
「止めろ! 暴動になるぞ」と、私は彼らに言っている。
行くあてもなく、独りぼっちだと感じ、怒っている人を見かけるなら、これが
いわゆる「希望VI」[*]の帰結であると私は言う。ニューオリンズ市は掴め
るかぎりの住宅都市開発省資金を獲得しては公共住宅を取り壊し、何世代にも
わたって支えあってきた家族・隣人たちを追い立て、散りぢりにしてしまった。
[1992年制定の法律。住宅管理機関に、公共住宅を補修・維持管理するの
と、取り壊したうえ、民間住宅家賃の補助制度を整備するのと、どちらが経費
削減になるか、査定することを義務づけ、住民の自助努力を謳う住宅政策の法
制化]
今、こんな目に遭っている民衆の大半は、昔から馴染んでいた、この世でただ
ひとつの地域社会の繋がりをすでに失っていたのだ。地域はバラバラになり、
人びとは散りぢりになっていた。彼らは、ほんものの居住地、皆が顔馴染だっ
た、かけがえのない場所をすでに失っていたうえに、今度は居ついていた住み
処を破壊されてしまった。
それなのに、だれも気にかけない。連中は手におえない略奪集団……物騒だ、
と言うのみ。
ハリケーンが襲来したのは月末、貧乏人が弱り目の最低のときだった。食品ス
タンプは一月分の食料確保に不十分もいいとこ、月のうち3週間分しかなく、
月末にはだれもが食うに事欠く始末。たった今、スタンプも金も手に入るあて
もなく、生きるためには、手を出すしかない。
大勢の人間が病気になり、衰弱している。徒歩で移動するにしても、毒の水に
漬かるしかなく、ささいな擦り傷やできものが深刻な疾患になる。
家や家族が無事だった人びとが、ただちにボートで市内に入り、生存者を救出
しようとしたが、警察当局に必要ないと言われてしまった。何千人もの人びと
を救う意志があり、能力があるのに、その彼らは許されなかった。
連日、数えきれないボランティアが救援を試みているが、追い返されている。
いずれにしろ、じっさいにうまくいった救援の大部分はボランティアによるも
のだ。
私の息子とその家族――妻、8歳を頭に1歳と5歳の子ども――は、堤防が決
壊したとき、洪水のために家を追われた。彼らは、水面上に2部屋を出して、
放棄された建物を見つけるまで、泳いで逃げなければならなかった。
1日半のあいだ、その2部屋に21人の人たちがいた。ボートに乗った人が
「なにがなんでも助けるんだ」と言って、彼らを救出し、ハイウェイ1-10
号線に連れていって、そこで降ろした。
彼らは、救出され、スーパードームに連れて行ってもらえるだろうとだれかに
言われたので、高速道路で3時間ほど座りこんでいた。けっきょく彼らは歩き
だすことにしたが、10キロあまりの道程〈みちのり〉を歩きとおす羽目にな
った。
スーパードームに着くには着いたにしても――私には理由が分からないが――
私の息子は入るのを許されず、妻子たちも入ろうとしなかった。息子一家が歩
きつづけていると、偶然にも知りあいの男がレッカー車で通りかかり、その個
人所有トラックを譲ってくれた。
ここに到着したとき、ガソリンが無くなり、私としては、いくばくかのガソリ
ンを分けるために、自分の車のタンクに穴を開けなければならず、私の足がな
くなった。私は自転車で動きまわっている。
プラケマイン教区の人たちがフェリーボートに救出され、ここの近くのドック
で降ろされた。その人たちは、食べ物も水もないまま、終日、カンカン照りの
ドックに座っていた。その多くは呆然としていた。なにもかも失っていたので
無理もない。
彼らは武装警備隊に囲われてじっと座っていた。私たちは、水と食べ物を彼ら
に持ってきてもいいか、と警備員たちに訊ねた。私の母をはじめ、教会婦人部
をあげて炊き出しをしたし、私たちには良質の水がふんだんにあった。
だが、「駄目だ。全員に行き渡るだけの水や食べ物がなければ、何もやるな」
と警備員たちに言われた。最後に、その人たちは他の教区から廻されたスクー
ルバスに乗せられ、連れ去られた。
君たちはロバート・キング・ウィルカーソン(アンゴラ監獄の3政治囚のうち、
ただ一人釈放された人物)をご存知だろう。彼はニューオリンズに帰還し、身
を粉にして、組織化活動をおこない、民衆のために働いていた。今、彼がどこ
にいるのか、だれも知らない。彼の家は破壊された。私は彼のことをよく知っ
ているので、救命のために走り回っているのでは、と思ってはいるが、心配で
ならない。
救援の力がある人たちが、他の地方に送られている。居残る意志があり、救命
と再建の技量を持っている人たちが、ヒューストン行きを強制されている。
ニューオリンズは不意打ちを食らったのではない。これは防げたのだ。
まさしくこのニューオリンズに軍隊が駐留していると言うのに、3日間、彼ら
は動員すらされなかった。君たちなら、これは第三世界国家だと思うだろう。
私は、ニューオリンズのなかでも洪水に見舞われなかった唯一の地区、アルジ
ャーズ界隈にいる。水は良質だ。私たちの公園や学校は4万人は優に収容でき
るはずだが、彼ら[当局]はそのどれひとつとして使おうとしない。
これは犯罪だ。民衆は、組織の不備に他ならない理由により、死んでいってる
のだ。
なにもかも必要だが、いまだに私たちはあまりにも組織力に欠けている。私は
人びとに次のように頼んでいる――率先して寄付や救援物資を集めて来てほし
い――だが、有効な使い方が分かるまでの2、3日間、それを大事にしておい
てほしい。
私は、わが政党である緑の党に、当方の態勢がもう少し組織化されしだい、た
だちに当地に来て、私たちを助けてほしいと食ってかかる剣幕で要請している。
共和党員たちや民主党員たちは、これを予防したり、そのための計画を準備し
たりすることはなにもしなかったし、全員が死のうとも、気にもかけていない
ようなのだ。
[編者注]マリクの電話は使える。旧友はもちろん、だれからのものでも問い
合わせや救命に役立つ提案なら歓迎。連絡先――
ベイ・ヴュー(the Bay View): 米国(415)671-0789
[原文]This is Criminal — Report from New Orleans
by Malik Rahim, posted at Znet on September 03, 2005
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=72&ItemID=8650
TUP配信了解済み。本稿は商業出版物を除き配信・転載自由ですが、TUP
にご一報くださるようにお願いします。
[訳者付記]マリク・ラヒムのサイト “Rebuild New Orleans Green”[ニュー
オリンズ再建グリーン]が新規開設されました―― www.rebuildgreen.org
英文の読める読者の皆さん、注目をお願いします。
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[翻訳]井上利男 /TUP
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