TUP BULLETIN

速報547号 ビル・マッキベン「水没都市ニューオリンズの警告」 050916

投稿日 2005年9月16日

FROM: minami hisashi
DATE: 2005年9月16日(金) 午後10時55分

☆水没した都市ニューオリンズは温暖化する地球の明日の姿★
大型ハリケーンや異常豪雨、熱波や旱魃は地球温暖化の現われであると、かね
てから言われるようになっていましたが、本稿では、今回のハリケーン・カト
リーナがもたらした大災害、ニューオリンズの水没は、地球が温暖化の新世紀
を迎えたことを示していると気象学者が警告します。井上

凡例: (原注)(訳注)〈ルビ〉《リンク》
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トムグラム: ビル・マッキベン、ニューオリンズ化する地球を語る
トム・ディスパッチ 2005年9月6日

まえがき
――トム・エンゲルハート

先週のことだが、ニューオリンズが水中に没したばかりで、大統領が全国に向
けて演説すべきかどうか迷っていた、あの日、私は南に向かい、ニューヨー
ク・シティまで6時間のドライブをした。私の横、助手席に放り投げておいた
朝刊の見出しが「2か所で堤防決壊、ニューオリンズ水没、湾岸:広域的に麻
痺状態、犠牲が拡大」と告げていた。

一日の手始めに土地のスタンドに寄ると、レギュラー無鉛ガソリンを給油する
のに、ガロンあたり2.67ドルを支払わなければならなかった――その日、
2か所で給油し、購入したてのスバル2003年型オフロード車のタンクに5
0ドルを超える大枚を注ぎこんだ勘定だ。マイカーがプリウス・ハイブリッド
でないのが残念だったが、それでも宝くじで小額ながらでも当たった気分にな
った。二度とありえないバーゲン品をゲットした最後の客の感じ。(同じスタ
ンドの同じガソリンが、その24時間後には――暑い日の水銀柱さながら、2
2セントも値が上がって――2.93ドルになっていたと妻が言ったのだ)

頭を集中させる――とりわけ、そう遠くない将来には、車に一人で乗り、エネ
ルギーを自分のためだけに食い潰すのは、贅沢だと思われることになるだろう
と考えはじめた頭脳を集中させる――ためには、6時間も独りで車に乗ってる
のが、なんと言っても最高。遠く離れたニューオリンズが私たちの悪夢の都市
に変貌しつつあったとき、私はいつもどおりの世界を(いつもの渋滞地点、プ
ロヴィデンスとニューへーヴンの2か所を除き)時速65マイル[100キロ
強]でなめらかに走り抜けていた。そんな時でも、休憩エリア、マクドナルド、
看板広告、空を背景にした都市ビル群、アヒルや白鳥が点てんと浮かべた湖、
給水タンクや沿道シネマコンプレックス[複合型映画館]やらなにからなにま
で、事故死した動物遺骸でさえ、変わることのない馴染みの事物の静けさをた
たえていた。それなのに、ニューオリンズでは、たったひとつの大型ハリケー
ンの襲来と、それに続く人災のために、私たちの文明を活きたものにするすべ
ての事物――電話、テレビ、コンピュータ、水、電気、ガス、仕事、家族写真、
食べ物、衣類――それこそありとあらゆるものもろともに、たった1日か2日
のうちに、慣れ親しんだ世界が失われてしまった。(地球温暖化の懸念がほん
とうだとしたら、あの嵐だって、もちろん部分的には人災と言える) トッ
ド・ギトリンが文明の精髄であると言う(イメージの)「奔流」[*]なるも
のは、米国南東部の広大な一帯で、ほんものの奔流に一掃されてしまった。
[ Todd Gitlin’s “Media Unlimited: How the Torrent of Images and
Sounds Overwhelms Our Lives,” 〔『際限のないメディア――生活を呑みこむ
イメージと音の奔流』〕――アマゾン日本:

0-0944776-5658616 ]

あなたは一時にふたつの瞬間に立ち合っている感じがしたことがあるだろう
か? それはビックリするほど不気味だった。いや、ほんと。車のなかから、
いつもとまったく変わらない、私のよく知る世界が通り過ぎていくのを見つめ
ながら、、遅かれ早かれ水(またはそれに相当するもの)に没してしまうので、
私たちの子どもの子どもが想像もできなくなる風景、ある種の未来のポンペイ
のなかを苦もなく走り抜けているような気がした。

私は61歳だ。友人の88歳になる母上は、カトリーナが接近したとき、街か
ら街まで数珠〈じゅず〉つなぎの渋滞のなか、ニューオリンズからヒュースト
ンまで16時間かかって避難した――これでも、彼女は楽にできたと言える。
いやしくも脱出する車があり、避難生活のためには、支援体制に加えて、金銭
的余裕があった。つい先ほど、彼女の娘さんと私は、彼女は、これから終生、
元の馴染みの世界に戻ることはないかもしれないなどと語り合った。彼女は並
外れた女であり、カクシャクとしていた。わが身なら、どう反応しただろうと
思った。うまくやれるか心配だ。水中に沈んだこの世界、自分の世界、これを
思うのは、現場にいなければ(たぶん、いたとしてさえ)実にゾッとする。

分かりきった諺〈ことわざ〉があれこれ頭をよぎった――「ローマ炎上のとき
にバイオリンを奏でる……大事をよそに安逸をむさぼる」「 apres moi, le
deluge[ルイ15世の言葉]予の後は大洪水となれ……あとは野となれ山とな
れ」――同時に考えていたのは、予測される事態に対処するための準備にただ
ちに着手し、なんらかの被害緩和策を講じなければ、私たち、または子どもた
ち、あるいはその子どもたちは、ニューオリンズの住民たちを見舞ったのと同
じほどだしぬけに、また少なくとも同じほどの混乱状態のうちに、生活を捨て
ることになる、ということ。

ますます凄いことになるニュースや、氷を(そう、あの氷を何トンも)輸送中
だと力説する、われらが偉大な指導者[*]のトンチンカンで意味不明瞭な発
言のあいま、なにげなく車のCDオーディオ(私は辛うじて操作できるだけだ
が、それなのに、コンピュータや携帯電話、ビデオ、それに自動車と同じく、
生活の場にいやでも忍びこみ、欠かせなくなる現代テクノロジー)をオンにし、
なんとなしにコール・ポーターの歌を聴いていた。ポーターのワクワクする歌
詞――リピートボタンを押すたびに繰り返し流れる、あのオイスターベイの牡
蠣〈オイスター〉のくだり――が、これまでの予想外の数日、数週間、あるい
は数年間、うっかり置き去りにしてきた世界のあれこれ、心から愛すべきもの
を思い起させ、私はノスタルジーに浸った。全市民の運命もろともに、(都市
停電を体験した人なら分かるだろうが)どうしようもなく簡単に崩壊する、な
んという恐しくも驚くべき世界。
[通常は、朝鮮人民任主主義共和国の故・金日成を個人崇拝して奉った尊称]

このようなドライブの終点に、偶然にも、私がずっと以前から感服していた環
境作家、地球温暖化に関する世界初の一般向け解説書の著者、 “Wandering
Home, A Long Walk Across America’s Most Hopeful Landscape” 《*日》
[『古里へ――アメリカで最も希望に満ちた景観を訪ねる長期徒歩旅行』]を
つい先ほど発表したビル・マッキベンによる次のような記事の形で、地球の未
来図が待っていた。

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この記事は、ニューオリンズの再現になる惧れのある惑星のうえで私たちがボ
ヤボヤしているうちに、改変途上の私たちの新世界の核心にいきなり迫る。
トム

新世紀を賭けた能天気なギャンブラー
カトリーナ後の米国
――ビル・マッキベン

立ち並ぶ摩天楼が灰燼〈かいじん〉に帰した映像が、ひとつの物語――世界の
混迷から隔てられた大陸にあって、安全な米国――の終わりを画していたとす
るなら、屋根が剥がれ、水浸しになったスーパードームの写真は、これから先、
今世紀の何十年間か、わが国の政治を左右する次の物語の始まりを告げている
のだが、突如として不安定化し、予測困難になった惑星の状況にいかに対処す
るか、その方策をめぐってアメリカは混乱している。

大公会堂、ハイウェイ陸橋、その他、急に評判を落とした“三日月形都市”の
スポットの状景は「アメリカのように見えない」し、第三世界から生中継され
てきたものみたいだと、先週、何度も繰り返し言われていた。この見方はおお
むね正確だった。と言うのも、幼児死亡率や平均寿命、それに就学率が、アフ
リカ系やラテンアメリカ系市民の居住地域の実態を反映しているのを見れば、
(一般世間の目に、以前から、生きようが死のうが、いささかも顧慮するほど
のものではなかった)貧しい黒人たちの街、ニューオリンズは、世界の貧しい
黒人たちの国ぐにとたいして違わなかったからである。

だが、この見方は、別の意味でも、つまり地球の未来図をあますところなく見
せつけているという点でも正確だった。10年前のことだが、環境問題研究者
のノーマン・マイヤーズ《*》が、地球温暖化によって住み処を失う惧れのあ
る人間の数も集計の試算に着手している。彼は、危険が自明な地域――中国沿
岸部、インド、バングラデシュ、太平洋とインド洋の小さな島嶼〈とうしょ〉
諸国、ナイル河デルタ地帯、モザンビークなどなど――を対象に網羅して調査
し、2050年までに、1億5000万人の人びとが海水面上昇のために居住
地を追われ、“環境難民化”すると予測した。これは、私たちが耐えてきたば
かりの流血の世紀が大量に生みだした政治難民の数を上回っている。
http://72.14.207.104/search?q=cache:-
gQ7NH938BMJ:www.osce.org/item/14488.html+norman+myers+environmental+re
fugees&hl=en&client=firefox-a

さて、地球の最富裕国において、特定のフットボール場から別の場所まで1万
5000人の人間をバス輸送するさいに想定される混乱を思い描いてみよう。
次に、その数を4桁も跳ね上げた規模に拡大し、場所を地球上の最貧国に置き
換えてみよう。

さらにまた、それを何回も何回も繰り返すと考えてみよう――しかも、たぶん
バスは使えないはず。

インターネットのあちこち、どこのブログやウェブサイトを覗いてみても、ニ
ューオリンズの堤防の決壊を招いた恥ずべき水利計画の不備を糾弾する記事で
あふれているにしても、もっと大きな問題、すなわち私たちが気候変動対策に
着手することさえも阻んでいる恥ずべき計画の不備や、地球温暖化が進めば、
未来がこれとまったく同類の恐怖だらけになるという悲しい現実に注目してい
る人は、今のところ、ほとんどいない。

ほんの一分間、一番目の問題を考えてみよう。ハリケーンはどれひとつとして
地球温暖化の“結果”ではない。だが、カトリーナ襲来の一月前、マサチュー
セッツ工科大学のハリケーン専門家、ケリー・エマニュエルが、現在の熱帯性
低気圧は数十年前のものに比べて寿命が1倍半になり、風力が50パーセント
増したことを示す画期的な論文《1》を英国科学誌ネイチャーに発表している。
考えられる原因はただひとつ――低気圧が発達する熱帯の海がこれまでよりも
暖かくなったこと――だけである。カトリーナは、フロリダ半島を横断してい
るころにはレベル1のハリケーンだったが、異常高温の海水をたたえたメキシ
コ湾の海上で極限にまで発達したのである。ハリケーンは、勢力を維持したま
ま、ルイジアナとミシシッピに進路を向けた。ミシシッピの州知事はヘイ
リー・バーバーであり、その過去を見れば、共和党の陰の実力者にしてエネル
ギー業界のロビイストとして、大統領が二酸化炭素を汚染物質として扱うとし
た公約を破るように説得するために一役買っていた《2》。
1. http://www.theregister.co.uk/2005/08/04/hurricane_stronger/
2. http://www.huffingtonpost.com/robert-f-kennedy-jr/afor-they-that-
sow-the-_b_6396.html

今まで米国は、気候変動の進展を遅らせるだけのことにすら、まったく何もし
てこなかった。科学者たちが地球温暖化に関する最初の先駆的な警告を発した
1988年に比べて、わが国ははるかに多くの炭素を放出している。たとえ、
その時点で、わが国ができることをすべて実行しはじめていたとしても、たぶ
ん地球平均気温の華氏1度(摂氏約0.6度)の上昇を免れず、それだけでも
現在の破局を招いていたことだろう。非常に近い将来に真に劇的な変化がなけ
れば、今世紀が終るまでに惑星の水銀柱は華氏5度(摂氏2.8度)の上昇を
見ると、現時点で科学者たちは予測している。これは、これまでの上昇分の5
倍を超える。

これが二番目の問題に繋がる。人類文明の1万年間、私たちは惑星の基本的な
物理的安定性を信頼してきた。もちろん、ハリケーンや旱魃、噴火や津波はあ
ったが、地球全体を均してみれば、著しく安定して推移してきたのである。あ
なたの祖父や祖母がある島に住んでいたとして、賭けるとすれば、勝ち目は、
あなたもその島に住んでいられるということ。あなたが自分の畑でトウモロコ
シを栽培できるなら、あなたの孫たちも同じように栽培できると多いに期待し
ていい。今では、これが能天気な賭けかたになってしまった――これが、環境
難民の予言のほんとうの意味である。

同じことを言うのに別の切り口がある。前世紀、私たちは人類の諸社会におけ
る変化がほとんど想像を絶するレベルにまで加速するのを見たが、これは私た
ちの文明のあらゆる部分にストレスを強いるものだった。今世紀になって、私
たちは自然界が同じような加速度でもって変化するのを目撃しようとしている。
これは、大気中に捉えられる熱量が増大すれば起こることなのである。余剰エ
ネルギーは想像しうるかぎりの形をとって現れる。これまでより、もっと風が
吹き、もっと蒸発し、もっと雨が降り、もっと氷が溶け、もっと……さらにも
っと……さらに……という具合だ。

さらに言えば、私たちがなんとかやっていけるという理由はない。ニューオリ
ンズを例に見てみよう。近ごろ、ニューオリンズは再建されるというのが政治
家たち《*》が連発する決まり文句になってるし、再建されるのは疑いない。
ただし、一度だけの話し。カトリーナ級のハリケーンが100年に一度から1
0年か20年に一度になれば、何回、ニューオリンズを建てなおせば、気が済
むのだろう? アメリカであってさえ――とりわけ、例えば、もっと頻繁に、
より強烈に襲ってくる熱波が農業におよぼす影響、デング熱やマラリアなど蚊
媒介性疾患の蔓延による人間の健康不安など、際限のない懸念に対処しなけれ
ばならないとしたら――そんな金はない。私たちのエネルギー需給システムを
化石燃料よりも自滅的なものでない何かに転換する、年を経るごとに経費が増
大する仕事のコストは言うまでもない。
http://news.yahoo.com/s/nm/20050831/pl_nm/weather_katrina_bush_dc

わが国の統治者たちは、物理や化学の法則は私たちに適用されるわけではない
と、言葉と行為の両方を通じて主張してきた。このまやかしは今から立ち消え
になりはじめるだろう。カトリーナは、私たちの新しいカレンダーの紀元初年、
物的世界が確実で保証されたものから不安定で乱調子のものに変わってしまっ
た時代のはじまりを告げている。ニューオリンズは、私たちが居住してきたア
メリカのようには見えない。だが、私たちが、これから一生涯、住むことにな
る世界によく似ている。

[筆者]ビル・マッキベン(Bill McKibben)は、環境とその関連分野に関す
る多数の書籍の著者。彼の最初の著作 “The End of Nature”[『自然の終
焉』]は、地球温暖化に関する初めての一般向け解説書。最新刊は
“Wandering Home, A Long Walk Across America’s Most Hopeful Landscape”
《*日》[『古里へ――アメリカで最も希望に満ちた景観を訪ねる長期徒歩旅
行』]

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[原文] Tomgram: Bill McKibben on Planet New Orleans
Sucker’s Bets for the New Century
The U.S. after Katrina
By Bill McKibben, posted at TomDispatch, September 6, 2005
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=20027
Copyright 2005 Bill McKibben TUP配信許諾済み
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[翻訳]井上利男 /TUP

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