FROM: minami hisashi
DATE: 2005年10月19日(水) 午後11時56分
☆カトリーナ災害とイラク戦争はブッシュ政権の壊れた一対のブックエンド★
これまで2回のトム速報インタビューでは、名だたる歴史家と進歩派コラムニ
スト、どちらかと言えば傍観者的な立場の大家たちに戦争とブッシュ政権の帰
趨について聞いていましたが、今回は時の人、イラク反戦運動の中心人物、シ
ンディ・シーハンの登場です。
彼女はブッシュ政権の崩壊を予測しているようですが、最近の各社世論調査
でも、同政権に対する不支持率が、フォックス・ニュース51パーセント、N
BCニュース54パーセントなど、軒並みに過半数を超えています。昔懐かし
いウォーターゲート事件でニクソンが辞任に追い込まれたさい、胸がすくよう
な思いをしたものですが、ふたたびこの喜びを味わいたいものです。(先の衆
議院選挙の後では、なんだか「江戸の敵〈かたき〉を、長崎ならぬメリケンの
都で」の感じですが……) 井上
凡例: (原注)[訳注]〈ルビ〉《リンク》
お願い――リンクURLが2行にわたる場合、全体をコピーしてください。
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トム速報インタビュー:
シンディ・シーハン、米国大統領の自滅を語る
トム・ディスパッチ 2005年9月29日
【読者の皆さんへ――本稿は当サイトで続行中のインタビュー・シリーズの第
3弾。1回目、2回目は、それぞれハワード・ジン《1》とジェームス・キャ
ロル《2》に登場していただいた。トム】
1 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/595
2 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/602
カトリーナはブッシュのモニカ[1]になる
――トム速報インタビュー[2]: シンディ・シーハン
[1.ビル・クリントン前大統領の浮気相手になったホワイトハウス実習生、
モニカ・ルビンスキー]
[2.聞き手: トム・エンゲルハート]
ホワイトハウス前を通る大規模な反戦デモ行進《*》がおこなわれる前の金曜
日[9月23日]、ほとんど想像もできないようなシンディ・シーハンの生活
に、ほんの短い時間だけだが、私はどっぷり浸りきることになる。ワシントン
DCの外れの某所で彼女とともに静かな時間を過ごすことになっており――こ
の都会をよく知らないので――タクシーでそこに向かう。ピース・サインと
(たぶんシーハンに贈られたものだろうが)薔薇〈バラ〉を活けた花瓶でいっ
ぱいのポーチに気づき、ベルを鳴らすと、2頭の犬が吠えかかるばかりで、だ
れもいない。携帯をチェックしてみると、シーハンの手伝いをしている人から
ニューヨーク[トム・エンゲルハートの本拠地]にメッセージが入っている。
たった今、グッド・モーニング・アメリカ[ABCテレビのニュース番組]ス
タッフから連絡があったとのことで、計画は変更だ。5時までにコンスティチ
ューション通り15番街に行けるだろうか? 最も近い大通りに急ぎ、タク
シーを呼ぼうとするが、無駄なだけ。一台だけ、空車が通りすぎたとき、そば
に立っていた若い黒人がすまなそうにこう言う――「悪いけど、運ちゃんたち
は、おそらくあなたがぼくのためにタクシーを停めようとしていると勘違いし
て、ぼくを乗せたくないんだ」 彼に勧められるまま、バスに乗り、(ノロノ
ロ運転で20街区を過ぎてから)タクシー乗り場のあるホテルを見つけて、跳
び降りる。
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=24319
5時まであと数分のころ、雲が散らばる空のもと、ワシントン記念碑の下、燃
えるように赤い「兵士たちの帰還を訴えるツアー」横断幕を張った白テント、
“キャンプ・ケイシー”の前に私はついに立っている。テントの背後には、主
のいない傷だらけの軍靴の展示。そしてさらにその奥の芝地に、2000本近
くもの十字架が、ほとんど目が届くかぎり、心が感じられるかぎりに広がって
並び立ち、その一部には、小振りのアメリカ国旗がそばの地面に立てて添えら
れている。おびただしく林立する十字架の前、くたびれた感じの金属製の米国
地図が錆びた台座に浮かび上がっている。それに刻まれた文字に「イラクにお
けるアメリカ、戦死者________名、戦傷者________名」とある。(不壊〈ふ
え〉のものに思える告知板の機能を備えた、この風変わりな彫刻作品の上で、
戦死者1910名と戦傷者1万4700名の数字部分だけが、何回も何回も消
されては書きなおされて、チョーク粉まみれの下地に白く浮かび、そのはかな
さに胸が痛む)
これが、イラクに到着してわずか数日後の2004年4月4日にバグダードの
サドル・シティで殺されたケイシーの母親、シンディ・シーハンの非凡な運動
の現時点におけるグラウンド・ゼロである。彼女の運動は、暗がりのなか、イ
ンターネットで始まったが、テキサス州クロフォードの道端の側溝から跳びだ
し、今ではアメリカの政治地図をじっさいに塗り替えることができると思える
ほどになっている。私が到着すると、シーハンの姿は遠くにあり、白い十字架
に囲まれ、グッド・モーニング・アメリカ取材陣と一緒に歩いていた。私は、
女性たちの反戦グループ、コード・ピンクの中心人物、派手なピンクの羽飾り
帽子のジョディに指図され、ジョーン・バエズ、兵士たちの親御さんたち、帰
還兵、ファン、旅行者、報道陣、その他の素性不祥の人たち一同とともにその
場で待つことになる。
シーハンがこっちに来ると、人びとがワッと群がる。挨拶にきた人たちの何人
か相手に抱擁〈ハグ〉し、人と写真に収まるためにポーズを取り、はるばるカ
リフォルニアから会いに来た、コロラドから来たと言う人たちに、ちょっとば
かり耳を傾け、たぶん帰還兵だろうが、額にバンダナを巻いた若い男が「ぼく
の着ているTシャツ」をあげたいと言うので、脱いだばかりの文字プリントT
シャツを受け取る。彼女は、飾り気なく、申し分なく寛容である。相手がだれ
であっても、一人ひとり言葉をかける。一度など、ある男が、自分と家族が
この瞬間に居合わせた証拠写真を残そうと、私の手にカメラを押し付けたりす
る――まるでシンディ・シーハンがある種の国定天然記念物にすでになってい
るみたいであり、ある意味でそのとおりなのだ。
だが、ロバート・ジェイ・リフトン[*]なら、「残された者の任務」と言う
はずの役割を子息のために担っているとしても、もちろん、彼女もまたひとり
の人間である。その表情には、疲労の色がくっきりと浮かんでいる。(後ほど、
彼女は「一日、私に付き合おうとすれば、たいがいの人は午前11時になれば
気絶してしまいます」と私に語る) 彼女は、胸に「平和をめざす復員軍人の
会」、背中に「平和実践中」とプリントしてある紫の絞り染めTシャツを着用
している。彼女の体格に私はビックリする。威風堂々といった趣きで、私が思
っていたよりはるかに背が高く、小柄な私の身長5フィート6インチ[161
センチ]よりもたしかに高い。私がたまげたのは、たぶん、彼女が悲嘆に暮れ
る母親であり――彼女について読んだ、強い調子の評言にもかかわらず――憔
悴〈しょうすい〉しきった人間という印象を私が抱いてしまっていたからにす
ぎないのだろう。
[Robert Jay Lifton=ハーヴァード医科大学の精神医学客員教授。著書
“Evil, the Self, and Survival”(November 1999)仮題『悪、自我および生
き残ること』]
5時を数分すぎたころ、突然、ジョディが私を車の後部座席にあわただしく押
しこみ、私の隣りにシンディ・シーハン、そのまた隣りにジョーン・バエズが
座っている。前の席に乗りこんだシンディの姉妹[*]デデは、「戦争ででき
ることは、平和ならもっとよくできる」とプリントしたTシャツを着ていて、
後ほど「私は縁の下の力持ちで、黙っているの」と私に言う。車がカーブを曲
がるやいなや、シンディは私に向き合い、「始めたほうがいいわ」と告げる。
[原文編集者によれば、姉か妹か不詳とのこと]
私は、このようにゴタゴタしながらインタビューすることに狼狽し、「今です
か?」と聞き返す。彼女は――その日の間違いなく900番目の面会者として
私に対面しているはずであり――疲れた様子でうなずき、「こうするほか、方
法はないの」と言う。そこで私は(印字した質問が数ページにわたって散らば
る)ノートを膝に置き、必死になって掴んだ2台の安物テープレコーダーを彼
女に突きつけ、こうしてインタビューが始まる――
【トム・ディスパッチ】あなたは、ジョージ・ブッシュの大統領職の壊れたブ
ックエンドの一対《*》が、イラクと[ハリケーン]カトリーナであると評さ
れています。そしてたった今、私たちの目の前で、ニューオリンズ各地がふた
たび[ハリケーン・リタによる]洪水に見舞われています。今日の私たちはま
さしくどこにいると、ご覧になりますか?
http://www.truthout.org/docs_2005/091905Z.shtml
【シンディ・シーハン】そうね、イラクを侵略したのは重大な過ちだったし、
侵略と占領は大失敗してきました。米軍兵たちは必要なものを与えられていま
せん。金は戦争で戦争成金たちの懐に入り、兵士たちには届いていません。こ
れは政略的な戦争なのです。米軍があの土地に居座るべきでないにとどまらず、
戦争が私たちの国の安全を損なっています。私たちの子どもの子どもたちの世
代の敵を作っています。米国に敵意を持たず、私たちに危害を加えるつもりが
ない無辜〈むこ〉のアラブ人イスラム教徒たちを殺せば、私たちに降りかかる
問題をますます多く新たに生むだけです。
カトリーナはだれにもどうすることもできない自然災害でしたが、事後の人災
は実にひどかった。と言うのも、第一に、わが国のすべての[物的・人的]資
源はイラクにあります。第二に、国内に残されたなけなしの資材の投入が実に
遅すぎました。人びとが自分の家にしがみつき、助けを求めて祈っていたとき、
ジョージ・ブッシュは、ジョン・マケイン[共和党上院議員]と一緒にゴルフ
をしたり、バースデー・ケーキを食べたりしてました。彼は、この国から――
そして、現実から――それほど断絶しているのです。昨日、私はある言葉を聞
きましたが、これぞ完璧と思いました。ある人が、カトリーナはブッシュのモ
ニカになると思うと言ったのです。ただ、もっと質〈たち〉が悪いですけど。
【TD】戦死者たちの家族が反戦運動を先導すべきだと考えるのが筋だと思え
ますが、歴史的には、このような動きはほとんだありませんでした。それが、
今、ここで動き出したのはなぜか、あなたなら、なんらかの見解を示していた
だけるのではと思いました。
【シーハン】人びとは私に「これまで、だれもなんらかの抗議をおこなうため
にブッシュの牧場に行こう、とこれまでだれも思いつかなかったのはなぜ?」
と聞きますが、あなたの質問もそれと似ています。
【TD】私もそれと同じことを聞くつもりでした……
【シーハン】【笑】私に分かりません。ただ思いついて、抗議するために行っ
ただけです。瓢箪〈ひょうたん〉から駒そのものでした。8月の1週間、ダウ
ニング・ストリート(メモ流出事件)関連の行動のために、私はジョン・コニ
アーズ(下院議員)とロンドンに行くことになっていました。ところが、中止
になりました。アーカンソー州の4日間の集会に行くことになっていました。
それも中止です。だから、まる1か月、私の体が空くことになりました。「平
和を求める退役軍人の会(Veterans for Peace)」の大会に出席するためにダ
ラスに行くことにしました。私の堪忍袋の緒が切れたのは、8月3日水曜日―
―18人の海兵隊員たちが殺されたのを受けて、ジョージ・ブッシュが、わが
国の兵士たちはみな崇高な大義のために亡くなったのであり、われわれは、任
務を継続することによって、倒れた者たちの犠牲を栄誉あるものにしなけばな
らないと発言したとき――でした。まったく承服できませんでした。もうたく
さんであり、クロフォードに行くという、このアイデアが浮かびました。
現地滞在の初日――ことの無計画ぶりを証明していますが――星空の下、私た
ち6人ばかりが、一本の懐中電灯だけをまんなかに置いて、芝生用の椅子に座
り、入浴するのに10ガロン[約38リットル]容器を使おうとしていました。
【デデ】5ガロンよ……
【シーハン】スイマセン、5ガロンでした。だから、これがどれほど周到に計
画されていたものか、程度が知れるでしょ。出たとこ勝負で計画を練り、けっ
きょく成り行きまかせで、それが信じられないほど効果的で大成功だったので
す。どれほど自然発生的なものだったか、ある種の人びとには信じられがたい
ほどです。
【TD】ジョージ・ブッシュはあなたとの面会を拒みましたが、それが燎原を
焼き尽くす火花になった――そして、その不作為が彼の臆病さを反映している
――とあなたは書いています。あなたはまたおっしゃいましたが、あの宿命的
な……決定的な日に、彼が会っていたとしたら……
【ジョーン・バエズ】宿命的な日……
【TD】宿命的な――彼にとって宿命的な――成り行きは、まったく違った風
に展開していたかもしれない。
【シーハン】私には分かっています。会っていれば、私に嘘を言っていたでし
ょう。嘘おっしゃいと彼をなじったりして、楽しい出会いにはならなかったで
しょう。クロフォードを去り、その経緯について書き、たぶんいくつかインタ
ビューを受けたでしょう。それにしても、これほどワクワクする、有機的に結
びついた、大掛かりな平和運動に火をつけることにはならなかったはずです。
だから、私との面会を避けることによって、彼は平和運動に貢献したのです。
【TD】彼の致命的なミスは、あなたがまるでポーランドの首相であるかのよ
うなぐあいに、(国家安全保障担当補佐官、スティーヴン)ハドレーと(統合
参謀本部副議長、ジョー)ハギンを寄越したことだと私は思いました。【シー
ハン、笑う】 そのために、突然、あなたはメディアの見地から……
【シーハン】……本当かも。
【TD】それで、ハドレーとハギンはあなたにどんなことを言ったのですか?
【シーハン】彼らは「あなたは大統領になにをおっしゃりたい?」と言いまし
た。私は「私の息子が死で贖〈あがな〉った崇高な大義とはなにか、大統領に
うかがいたい」と言いました。すると彼らは、自由と民主主義のため、アメリ
カをテロの攻撃から護るなどと言いつづけました。グチャラクッチャラなんと
かかんとか……言い訳なんてどんなものであれ、大統領以外からは受けるつも
りはありませんでした。それから、私たちは、大量破壊兵器とそれがなかった
こと、彼らがその存在をほんとうに信じた経緯について話しました。私は、と
言えば、さて、ほんとうに、ミスター・スティーヴン(イエローケーキ・ウラ
ニウム)ハドレー……「これは時間の無駄です。私は嘆きの母かもしれません
が、愚かではありません。非常によく情報に通じておりまして、大統領にお会
いしたいのです」と告げました。すると彼らは「分かりました。大統領にあな
たのご用件をお伝えします」と言いました。
話しの途中でしたが、彼らは「私たちは、政策に関してあなたの気持ちを変え
ようと思って、ここに出てきたのではありません」と言いました。そこで私は
「きっと、そのつもりだったのよ」と言いました。政権幹部たちを寄越して、
私を怖じ気させるつもり、気持ちを動かすつもりだったのですし、私としては、
彼らがすっかり説明し終ったら、【シンディ、軽くあざける口調になる】私は
「あーあー、私はほんとうにそんな風には見てなかったわ。あんたたち、分か
ったわ、やりましょうよ」と言ってやるつもりでした。お分かりでしょうが、
こんなやり口が、まさしく彼らが考えていた私への対応だったのです。裏目に
なる手でした。なぜなら、あなたがおっしゃるとおり、その結果、私に信憑性
を与えてしまったのであり、まったく突然、ホワイトハウス担当報道陣の大群
が、これはたいしたニュース種になるかも、と考えはじめたのです。
【TD】それはどんな感じでしたか? 私は1年以上にわたるあなたのイン
ターネット記事を読んできましたが、それでも……
【シーハン】進歩派の世界では、私は非常によく知られていたと思います。だ
が、ほんとうに突然、私は世界に知れ渡ってしまいました。私の母が発作で倒
れたさい、私の娘たちはヨーロッパに滞在していました。夫と私は娘たちに知
らせないことにしました。せっかくの休暇を台無しにしたくなかったのですが、
彼女たちは、それについてテレビで見てしまいました。ほんとうにそれほどま
でに燎原の火のようにして広がってしまったのです。そして、望んでいた注目
を集めはしましたが、それだけではすまず、右翼系メディアからの望ましくな
い注目も惹きました。だけど、そんなことが私を動揺させたり、害になったり
するわけではありませんでした。
私はこのようなことを長いあいだやってきたのです。ウォルフ・ブリッツァー
[CNNの看板キャスター]やクリス・マシューズ[MSNBCニュースのホ
スト]の番組といったニュース・ショーにぜんぶ出演したのです。記者会見も
こなしてきました。強烈になったのは、出演回数だけです。だけど、私のメッ
セージはいつも同じ。8月6日にカボチャ運搬トラックから落っこちて、これ
を始めたのではありません。メディアは、私のような人間が、歯切れよく、知
的であり、自前のメッセージを持っていることができるなんて信じられません
でした。第一に、私は女であり、第二に、私は嘆きの母であり、だから記者た
ちは、私を軽んじ、黒幕のだれかが糸を引いているように見せかけたいという
欲求に駆られたのです。私たちの大統領は、歯切れよかったり、知的だったり
するわけではありません。だれかが大統領の後ろで糸を引いているに違いない
し、シンディ・シーハンの後ろでも、だれかが糸を引いているはずだというこ
とです。おやおや、だれかが私の言うべきことを教えてるって言うのね!
【笑う】 調査すればいいわ!
【TD】彼らが、あなたの無遠慮な物言いをいくぶん和らげて、あなたを紹介
しようとした感じがありましたか?
【シーハン】無遠慮に発言する、あるいは真実を告げる者を、だれであれ神は
お赦しになります。テレサ・ハインツ・ケリー[*]をご覧なさい。いつも本
心を語るものだから、彼女も軽んじられました。
[民主党のジョン・ケリーの妻。先の大統領選挙戦で、ブッシュ政権の教育・
医療政策を批判]
【TD】あなたの無遠慮さについて話していただけますか? あなたがお使い
になる「戦争犯罪」のような言葉は、アメリカ人の耳にあまり馴染まないもの
で……。
【シーハン】必要なのは、ニュルンベルク裁判やジュネーブ条約を参考にする
ことだけです。明らかに彼らは戦争犯罪を犯しています。黒か白かなのです。
私は、あのような抽象概念が頭に浮かぶ人間ではありません。そうですね、こ
う言ってみましょう。君は、あの人物の頭に弾丸を撃ちこんだか否か、どちら
なんだ? 「はい、撃ちました」 さて、これが犯罪です。灰色疑惑ではあり
ません。彼らはすべての条約を破ったのです。彼らはわが国の憲法を破りまし
た。彼らはニュルンベルク判例を破りました。彼らはジュネーブ条約を破りま
した。全部です。それで、だれもなにも言わなかったら、それが起こらなかっ
たことになりますか? だれかが言わなければなりませんし、私は言います。
私はジョージ・ブッシュをテロリストと名指しました。彼は、テロリストは無
辜〈むこ〉の人びとを殺す人間であると言いました。だから、殺害された10
万人近くの無辜のイラク人がいることにより、ジョージ・ブッシュ自身の定義
に照らして、彼はテロリストなのです。それに殺害されたアフガニスタン人も
います。
ちなみに、たくさんの表舞台の反対派が私の発言を歓迎していると思います。
自分で言わなくてすみますから。彼らは強かったり勇敢だったりするわけでは
なく、政治的に守るべきなにかがあると考えていたりするのです。私たちは連
邦議会議員たちに弾劾と戦争犯罪について話してもらったことがあります。私
はその話しを聞きました。でも、彼らは例によって灰色なのです。彼らも世の
動きに遅れているのです。彼らはいつも戦争に反対してきたので、私たちは彼
らに対し聞く耳を持てなくなっています。
ところで、私は、飲酒運転に反対する母の会を始めた女性や、息子を殺害され
た[*]後、アダム・ウォルシュ財団を創設したジョン・ウォルシュのような
人たちを賞賛してきました。私の苦悩や悲劇を昇華するようなああいうことは、
私にはとても無理だろうと考えていましたが、そういうことがわが身に起こっ
たとき、私には強さがあると悟ったのです。
[1981年7月、8歳のアダム・ウォルシュがデパートから誘拐され、翌月、
切断された頭部が発見される]
(私たちがハイアット・ホテルに乗りつけたとき、5時半ぐらいになっていて、
シンディ、デデと私は館内レストランの人気のない奥の席に進み、シンディは
その日の最初のささやかな食事を摂る。この後のインタビューは、スープをす
する合間に続けられた)
【TD】私はあなたに関する記事をたくさん読んでおりまして、そこには、ご
子息のケイシーが[カトリック教会ミサの]侍者であったり、イーグル勲功
ボーイスカウトであったりしたと紹介されていましたが、もう少しばかり彼に
ついてお話しいただけますか?
【シーハン】彼はとても落ち着いていました。怒るようなことはありませんで
した。無茶なこともしませんでいた。どんな時でも、それほど動揺しませんで
した。私には、息子が別にもうひとり、娘がふたりいます。彼は最年長であり、
弟や妹たちは彼をひたすら敬慕していました。彼はだれにも迷惑をかけるよう
なことはありませんでしたが、ものごとを先延ばしする質、学校で大きな企画
を抱えていれば、それを実行すべき日が来るまで待っているといった類の人物
でした。だが、仕事に就いたとき――陸軍に入隊するまで、彼はフルタイムで
働き、遅刻したことも、2年間のうち一日たりとも欠勤したこともありません
でした。これはすごく感心できることだと思います。彼が侍者であったことを
話した理由は、軍隊に入って、私たちから離れていた時ですら、教会が彼の一
番の関心事だったからです。彼はチャペル[礼拝堂]で手伝っていました。彼
はミサに欠席したことがありません。彼は先導役でした。彼は聖体拝領助祭で
した。家にいた時、私の青年伝道奉仕団に身を入れてかかわっていました。
8年間、私は教区の青年司祭をやっていましたが、彼は、高校時代の3年間、
私の青年グループに所属し、大学に行ってからの3年間、私の手伝いをしてい
ました。
【TD】陸軍に入隊する彼の決断について、お話しください。
【シーハン】新兵徴募官が、たぶん彼の生活の弱点を突いて、彼を篭絡〈ろう
らく〉し、多くのことを約束しましたが、そのどれひとつとして果たしてくれ
ませんでした。2000年5月のことでした。ジョージ・ブッシュは登場すら
していませんでした。ジョージ・ブッシュが彼のボス司令官になったとき、私
の息子の運命は閉ざされてしまいました。ジョージ・ブッシュは、まだ大統領
に選ばれていなかったときでさえ、イラクを侵略したがっていました。彼がテ
キサスの知事だったころ、彼はこう言い触らしていました――「私がボス司令
官であれば、必ず実行する」
あの時、私の息子は2万ドルの契約時ボーナスを約束されていました。彼が上
級訓練を終えたとき、4000ドルを得ただけです。ノート・パソコンの支給
を約束されましたので、世界のどこに配属されても、そこで授業を受けられる
はずでした。そんなもの、もらえませんでした。陸軍に入隊したとき、彼の大
学年限が1年残っていただけでしたので、大学を卒業できるように計らってや
ると彼らは約束しました。1時限だけでも授業を受けさせませんでした。彼は、
たっての望み、チャプレン[従軍司祭]の助手になれると、彼らは約束しまし
たが、基礎訓練キャンプに到着したとき、その職の空きがなく、ハンヴィー軍
用車両の整備兵か調理当番兵だったらなれると告げました。そういうことで、
彼はハンヴィー整備兵を選んだのです。徴募官が彼にした約束の最もひどいも
のは、彼の職種適性試験の得点がとても高かったので、戦争になるとしても、
戦闘を見ることすらないだろうということでした。支援任務で戦争に参加する
だけだというわけです。彼は、戦闘で死ぬまで、イラクに5日間いただけです。
【TD】あなたはイラク[戦争]について彼と少しは話し合いましたか?
【シーハン】ええ、話し合いました。彼はイラク戦争に賛成していませんでし
た。わが家のだれも賛成してはいませんでした。彼はこう言いました――「マ
マ、ぼくだって、行かなくてすめばいいと思うけど、行かなければ。ぼくの義
務だし、仲間たちも行くんだ」 アメリカ人としての私たちは、わが国が危険
に晒されている場合、私たちの国を防衛するためのすべての権利があり、また
みずから進んで防衛すべきであると私は信じています。だけど、イラクはアメ
リカの安全保障とまったく関係ありません。だから、それが私たちの賛成しな
かった理由なのです。イラク侵略の後、彼は再入隊登録をしました。どっちみ
ち――除隊停止をくらって――イラクに行くことになるし、再登録すれば、帰
還したときに新たな軍内職種区分を選ぶことができると告げられたからです。
【TD】あなたご自身の政治的背景について、なにかお話しいただけますか?
【シーハン】私は常にとてもリベラルな民主主義者であってきましたが、この
問題が党派にかかわるとは考えていません。これは生死にかかわることなので
す。彼らが、不当で倫理に反する戦争で死ぬためにケイシーを送りこむ前に、
彼の所属政党はどれか、聞いた人はいません。
【TD】昨日、あなたはヒラリー・クリントンにお会いになりましたね? さ
て、どんなことでもいいんですが……民主党員について、一般論で言って、な
にをお考えですか?
【シーハン】民主党員たちはとても弱気だったのです。ケリーが負けたのは、
反戦姿勢を強く打ち出さなかったからだと私は思います。彼はジョージ・ブッ
シュよりもいっそうひどい不安を感じさせました。言ってみれば、われわれは
駐留軍を増強する。私はテロリストを狩りだす。私は彼らを殺す! そんなの
は、正しい発言ではありません。正しい発言は、この戦争は間違っていた、と
いうものです。ジョージ・ブッシュはわれわれに嘘をついた。そのせいで、民
衆が死んでいる。その人たちは死ぬべきでなかった。もし私が選ばれるとすれ
ば、早急にわが軍を帰還させるために、あらゆる手段を講じる。あの時、ケ
リーは、失敗を直視する代わりに、彼なりの中道姿勢、気の抜けた、臆病な政
策を掲げていましたし、他の民主党員たちも同じことを言いつづけてばかりで
した。
ハワード・ディーン[民主党の大統領予備選でケリーの対抗馬]が出てきて、
大統領がイラクで成功することを望むと言いました。その発言はなにを意味し
ているんでしょう。私たちが、あの国に目標やハッキリした任務、あるいは達
成すべき方針もないというのに、どうしてだれかが成功できるなんて言えるん
でしょう? 彼らは非常に臆病で意気地がありませんでした。キャンプ・ケイ
シーで私たちがやったのは、彼らに気骨を示すことでした。ドアは、民主党員
であれ、共和党員であれ、彼らのために平等に開かれています。トム・アンド
リュー(元連邦議員、「戦争によらない勝利」グループ世話人)が言ったよう
に、もし彼らが光を見ないなら、その熱を感じるでしょう。そして、彼らは熱
を感じていると私は思います。
私はそのことが起こっているのを見ることができます。チャック・ヘイゲルや
ウォルター・ジョーンズなど、一部の共和党員たちが党の政策に対して横紙破
りをしているのが私には分かります。昨日、私はある共和党員に会いました―
―彼が怖じけて、引っ込むと困るので、名前は言いたくありませんが――私た
ちと協力して動けるようです。もちろん、議会の選挙日程が近くなれば、彼の
選挙区の人たちに、彼は一緒にやっていける候補だと私たちは伝えるでしょう。
【TD】すると、あなたは一勢力として選挙戦に乗りだすつもりですか?
【シーハン】完全に戦争についてしだい、戦争に対する候補の姿勢しだいです。
この問題に人びとが危機感を抱いているなら、それに向き合うべきはずです。
私たちは「ママたちに会おう」キャンペーンを始めようとしています。私たち
はすべての上院・下院議員ひとりひとりを狙い撃ちして、戦争に関して、まさ
しくどの位置に立脚しているかを、彼らの選挙区の有権者たちに示すつもりで
す。例えば、ニューヨーク州の人びとは、自分の選挙区の上院議員たちを観察
して、われわれの軍隊を早急に帰還させるために出馬するのでなければ、君を
再選しないぞ、と告げるべきです。
【TD】ヒラリーはいささかなりともあなたを得心させましたか?
【シーハン】彼女の立場は、もっと増援部隊を派遣し、戦死者の犠牲を尊重す
べきというもので、ブッシュの姿勢と同じように聞こえますが、会話はオープ
ンでした。
【TD】もはや軍隊なんか残っていないことは、私たちに周知の事実なのに、
例えば、ジョー・バイデン(上院議員)などといった政治家たちは増援部隊の
派遣を語っていますが、これは奇妙であると思いませんか?
【シーハン】ほんとうに……部隊はどこにいる? 部隊はどこにいる? 狂っ
ています。つまり、わが国はあの国にもっと軍隊を派遣して、わが国をますま
す弱体化したまま放置すると言うのかしら? どこかの外国を攻撃するために
私たちを無防備なままにしたり、天災や人災に襲われるがままにしてもいいと
でも言うのかしら?
【TD】あなたは即時撤兵をお望みです。ブッシュにはその気がありませんが、
あなたに権限があるとしたら、どのような段取りで撤兵するのか、考えたこと
がありますか?
【シーハン】私たちが「即時」と言うとき、兵士たちが明日にでも帰郷できる
という意味ではありません。そのことを皆さんに知ってもらいたいものです。
まず、都市部からのわが軍の撤退からはじめなければならず、部隊を国境地帯
へ撤収させ、出国させるのです。わが国の軍隊に代えて、アラブの格好をした
なにか、イラクの姿を示す存在に彼らの国の再建の役割を引き継いでいただか
なければなりません。なんと言っても、彼らには技術があり、彼らには能力が
ありますが、現状では仕事もろくにありません。イラクの国家警備隊に採用さ
れるために行列を作る人たちは、どれほどまでの必死の思いで仕事を求めてい
るのでしょうか? と言うのも、行列に並んでいるだけで、殺されるんです!
混乱状態にある彼らの国を建てなおすために必要な援助や支援はすべて実施す
るのです。わが国の軍隊の駐留を止めれば、多くの暴力行為や反乱が収まるで
しょう。イラクの異なった社会集団に関わって、なんらかの地域的な紛争が起
こるでしょうが、たった今も、こういう事態は発生しているのです。大英帝国
は、決して一括〈ひとくく〉りにすべきでなかった地域をひとつの国にまとめ
てしまいました。これは、別べつの3つの国に分裂すべきなのかもしてません
――それをだれが知るでしょう? でも、それはあの人たちしだいであり、私
たちが介入することではありません。
【TD】では、じっさいにあなたが期待しているのは、どのようなことでしょ
う? 私たちは、引き続いて3年6か月間、この政権をいただくことになりま
す……
【シーハン】いいえ、そんなこと承知しません! 【クスクス笑う】 カト
リーナは彼のモニカになると思います。もはや“仮定”の問題ではなく、“時
間”の問題なのです。なぜなら、明らかに……明白に彼らは犯罪者なのです。
つまり、ニューオリンズを片づけ、再建する事業の最初の契約を無入札で獲得
した連中をご覧なさい、ということ。またもやハリバートンです。キャンプ・
ケイシーのひとつのマイナス効果は、カール・ローブに有利な方向で、(ヴァ
レリー)プレーム事件[*]の熱気を大きく削いだことです。だけど、まもな
く起訴手続きが始まると聞いています。だから、これが状況が変わるひとつの
道筋なのでしょう。ジョージ・ブッシュが自滅する条件がそろいつつあります。
つまりね、最近、彼を見かけましたか? 彼はたがの外れた人間なのです。
[イラク侵略の準備段階で、政権の工作にとって不利な証言をした外交官の妻
がCIA工作員であることをブッシュ大統領の側近・ローブがリークした疑
惑]
(注: シンディ・シーハン自身の言葉や彼女について、もっとお読みになり
たいなら、ルーロックウェル・サイト 《1》 掲載の彼女のアーカイブ、彼女
の最近の発言を伝え、彼女に関する大量の記事を掲載しているツルースアウ
ト・サイト《2》、彼女の活動に関する徹底的で最新の記事、その他も満載の
アフター・ダウニング・ストリート・サイト《3》のリンクをクリック)
1 http://www.lewrockwell.com/sheehan/sheehan-arch.html
2 http://www.truthout.org/
3 http://www.afterdowningstreet.com/
[原文]Tomdispatch Interview: Cindy Sheehan, Our Imploding President
posted September 29, 2005 at 3:25 pm
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=25288
Copyright 2005 Tomdispatch TUP配信許諾済み
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[翻訳]井上利男 /TUP
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