TUP BULLETIN

速報572号 リバーベンドの日記12月15日 ポスター、ポスター、ポスター戦争 051216

投稿日 2005年12月17日

DATE: 2005年12月17日(土) 午後8時57分

死を前にすれば、熱さえも涼しい・・・アラウィもましに思えるこの選挙


 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思 い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外 を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎 日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバ ーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読ん でください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携に よるものです。転送転載大歓迎です。)  http://www.geocities.jp/riverbendblog/ (TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


(先に同内容のものを配信しましたが、号数が違っていたので、再送信します  ご迷惑をおかけし、すみません 配信者)


2005年12月15日 木曜日 選挙…

すくなくともこの10日間というもの、聞こえてくるのは選挙の話ばかり。

バグダードのいたるところにポスターが貼られている。選挙に候補者を擁立した 党はごまんとあるが、その中で目につくのは4つか5つの「リスト」だ。

・イラク国民リスト(731):アヤド・アラウィのリスト。その他にも有名な 操り人形が名を連ねている。たとえばアドナン・パチャチ、ガジ・ヤワル、サフィ ア・スハイルなど。アヤド・アラウィは世俗的シーア派で、CIAと深い関わりが あり、元バース党員だ。

・統一イラク連合リスト(555):ハキム、ジャファリ、その他さまざまな親 イラン原理主義者とサドル派たち

・クルド同盟(730):バラザニ、タルバニ、その他いくつかの党

・イラク国民対話評議会(667):おもに世俗的スンニ派のリスト―イラクキ リスト教民主党も加わっている。サレフ・ムトラクが率いている。

・イラク合意戦線(618):おもにスンニ派イスラム教の党から成る。

ここ一週間、選挙の宣伝が溢れんばかりに押し寄せてくる。イラクのテレビ局の どのチャンネルをつけても、あっちでなければこっちというように候補者が出て いる。とはいっても、アラウィとハキム、あとはごく一握りの候補者たちでおし まいだ。それ以外の候補者のことはだれも気に止めていない。正直、その他の候 補者のことなんてほとんど耳にすることすらないのだ。アラウィの顔とハキムの ターバン頭をあらゆるところで目にする。一見なんでもない塀をよく見ると、ハ キムの同じ顔がずらりと並んでにっとほほえみかけてくるのは、気持ち悪いもの だ。

数日前、ハキムの最新の記者会見があった。ハキムは支持者たちに選挙違反しな いよう警告していた。ここ一年、ハキム一派があらゆる種類の不正行為で非難さ れつづけていることを思うと、これはちょっとした皮肉だ。私は聴衆に興味を引 かれた。女性たちは聴衆席の片側に座り、男性たちは別の側に座っていた。狭い 通路を中心に男女が分かれていたのだ。女性たちは全員黒いアバヤを着てヘッド スカーフをかぶっていた。まるでテヘランからの中継を見ているかのようだった。

アラウィの選挙ポスターのなかにはサフィア・スハイルと一緒に写っているもの もある。サフィアが選挙ポスターに使われたのは、イラク女性向けのジェスチャー としか思えない。この一年、イラクの女性たちは今まで以上に抑圧されていると 感じてきたからだ。けれども問題は、イラクの女性が共感できない女性が一人い るとしたら、それがサフィアだということだ。サフィアは、70年代か80年代 に海外で殺害されたある部族長の娘らしい。彼女はレバノンで育った。テレビに 出てくるサフィアはレバノン訛りの残るアクセントでしゃべり、尊大で高慢でぶ かっこうだ。

これはポスター戦争だ。ある日、サフィア・スハイルを起用したアラウィのポスター を見たとしよう。翌日になると、アラウィの大きな顔がハキムとシスターニの写真 で覆われてしまう。アラウィの支援者たちは、ハキムの支援者たちが選挙ポスター を毀損していると訴え続けている。.

SMSのメッセージですら最近はどれも選挙がらみのものばかり(リスト555につ いてのかなり下品なジョークとか。ブログに書くことはできないけれど、イラク人 なら私が何のことをいってるかわかるでしょ)。 〔2004年11月29日の訳注より:SMS(Short Message Service:ショートメッ セージサービス)とは、携帯電話間で短いテキスト(通常100から200文字) をやり取りするサービスのことで、Eメールとは異なる。送られたメッセージは一 度サービスセンターに保存され、相手の携帯電話が受信可能状態になると送られる〕

世俗的民族主義者はリスト667のサレフ・ムトラクに傾いている。ムトラクは他 の候補者よりは操り人形っぽくないように見える。なんといっても、もっと人気の ある選挙リスト、つまり、2003年にイラクが侵略されたときに米軍とブレマー から祝福されなかった人のリストに名を連ねているのはムトラクだけなのだ。彼は 武力による抵抗を支持している(でもテロリズムには反対)。そして有名な反占領 民族主義者グループの後ろ盾を得ている。ムトラクのリストは選挙後アラウィの支 持にまわって世俗的な運動を強化するのではないかといわれている。

一昨日のできごとといえば、イランからの偽造投票用紙をいっぱい積みこんだタン クローリーだかトラックだかがワッシートで捕まったというニュース。スンニ派の 州には投票所がまともに整備されていないところがあるというニュースも。それか らイラク国軍とサラディンの選挙を統括する選挙委員会との間に小競り合いがあっ た。

今回は前回よりたくさんの人が選挙に行こうとしている――アメリカに押し付けら れた占領下民主主義をイラク人が突然信じるようになったからではない。この一年 の状況が耐え難いものだったからだ。ハキムとジャファリとその手下たちはなにも かもめちゃくちゃにしてしまった。実際、多くの人の目には、アラウィがまあまあ 容認できるものに映ってきている。私はいまだに彼にはがまんならないのだが。

アラウィは今もアメリカの操り人形。彼の選挙ポスターもこの一年私たちが味わっ た恐怖もその事実を変えはしない。ファルージャ全市崩壊における彼の重過失を人 々は忘れていない。それでも、拘留、誘拐、暗殺、秘密拷問刑務所の一年を経験し た後では、ハキムやジャファリよりはアラウィのほうがましと思うイラク人もいる のだ。

最近イラクでみんながしょっちゅう使うことわざがある。私も以前このブログで使っ たことがある。「Ili ishuf il mout, yirdha bil iskhuna.」 死を前にすれば、熱 さえも好もしい。このごろでは、アラウィやその他もろもろの人が熱に思えてしまう…

午前4時41分 リバー

(リバーベンド・プロジェクト:いとうみよし) ————————————————————————

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