TUP BULLETIN

速報626号 トム・エンゲルハート、トムディスパッチを語る(パート1) 060819

投稿日 2006年8月19日

FROM: hagitani ryo
DATE: 2006年8月19日(土) 午前10時02分

☆新聞記事を読むなら、最善の策は逆読みすること★
「2003年3月、国連安全保障理事会の最終承認を得ないまま、米英主導
のイラク攻撃がはじまろうとしていました。国連中心を唱えていたはずの日
本政府も、国際紛争の平和的解決を誓った憲法はもちろん、第1条に武力行
使の抑制と国連重視を明記した日米安保条約さえ踏み越えて、開戦支持の構
えです。にもかかわらず日本のマスコミ報道は、9・11事件の余波でブッ
シュ政権に逆らえない米国大手メディアの受け売りが多く、事態を深く幅広
い視野から見つめるための充分な材料を提供できているとは思えませんでし
た」――これは、2004年5月出版のTUPアンソロジー第1集『世界は
変えられる〜TUPが伝えるイラク戦争の「真実」と「非戦」〜』まえがき
の一節ですが、イラク国内やアフガニスタン、パレスチナ自治区ガザやレバ
ノンで凄惨な事態が進行しているいまも、報道をめぐる情況はさほど変わっ
ていないでしょう。
 本稿は、TUPでもお馴染みの不偏不党の弁論サイト、トムディスパッチ
・コムの主宰者であり、著名な書籍編集者でもあるトム・エンゲルハート氏
が、みずからの生い立ち、サイト成立のいきさつ、マスコミ情報の読み方な
どを縦横に語ったものですが、情報鎖国にも似た状況のなかにいる私たちの
メディア・リテラシーを磨くためにも、貴重な文献であると信じます。井上

凡例:(原注)[訳注]《リンク》〈ルビ〉

ネーション研究所提供 トム・エンゲルハート主宰・編集
抗マスメディア毒・常設サイト“トムディスパッチ・コム”

Home


2006年6月20日

トムディスパッチ・インタビュー:
トム・エンゲルハート、帝国報道と“私”とを語る

(読者の皆さんへ――あたりまえなら、トムディスパッチを主宰する人間が
このサイトでスポットライトを浴びることはないが、今回は例外として、こ
の私に対するニック・タースによる二部構成インタビューをお届けすること
にした。ここで勝手ながら、トムディスパッチからのお知らせ。このサイト
向けに私がやってきたインタビューの全編が、ペーパーバックにまとめら
れ、この10月下旬にネーション・ブックスから出版されることになってい
る。タイトルは“Mission Unaccomplished, Tomdispatch Interviews with
American Iconoclasts and Dissenters”《1》の予定であり、頃合いを見
て、皆さんに是非ともお奨めするつもりだ。今回の私に対するインタビュー
は同書の巻末に置かれることになる。とりあえず過去の拙著を読んでみたい
と思われる向きは、〔トムグラム執筆のさい、いつも私のネタ本になってい
る〕勝利主義のアメリカ史“The End of Victory Culture”《2》をご覧い
ただきたい。スタッヅ・ターセルは同書を「みぞおちに効くジョー・ルイス
のジャブのように強烈」と評した。あるいは、この夏の暇なおりに、私が
――書籍編集者として――住んできた別の世界に焦点を絞った小説“The
Last Days of Publishing”《3》]を手に取っていただきたい。ハーバー
ト・ゴールドは、ロサンジェルス・タイムズ紙《4》に、同書について「こ
ぎれいな近頃の巨大資本系列の書籍出版工場で仕事がどのように進むのか、
心憎いまでに有毒で滑稽〈こっけい〉、不条理で深く悲しむべき実相の叙
述」と書いた。トム)
1 仮題『ミッション未達成――トムディスパッチ・インタビュー集、アメ
リカの偶像破壊・異議提唱者たち』。購入予約サイト――
http://bookweb2.origin.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/booksea.cgi?ISBN=1560259388
2 同『勝利主義文化の終焉』

3 同『出版終焉のとき』

4 Los Angeles Times Review — The Last Days of Publishing
The book business as fiction
By Herbert Gold
http://www.tomdispatch.com/review.mhtml

帝国新聞を逆読みする
――トム・エンゲルハートに聞く(パート1)
[取材: ニック・タース]

ニック・タースが、縮れた黒髪、髭の縁取り、暗色のTシャツ、緑色のカー
ゴパンツといった姿で戸口に立つ。肩には、まるで1週間行程の作戦任務に
出ていたかのように詰めこまれた緑色のバックパック(サイドポケットから
水筒がはみだしている)。そのサイズについて私が一言いうと、彼は微笑
み、「純正軍余剰品」と言って、ドサッと床に置く。中を引っかきまわし、
小箱を取り出したが、それには未来的なロボット戦士たちが誇らしげに描か
れ、日本語文字がいっぱい(もっとも、「Made in China」と英語でプリン
ト)。私に手渡しながら、「あなたの趣味がわかっているから」と言う。
ヴェトナムからの帰途、東京のおもちゃ屋で見つけたものだ。

若輩ながら、彼は何年も政府公文書館に入り浸り、ヴェトナムにおけるアメ
リカの戦争犯罪の分野でわが国屈指の専門家になっている。じっさい、3年
前のことだろうか、歴史に残る戦争犯罪と玩具類との組み合わせが、私のア
パートから1ブロック先の食堂へと彼と私をはじめて同行させたのである。
私は、ひとつにはヴェトナムについて、もうひとつには、アメリカの“勝利
文化”が子どもたちの遊びの世界に顔を覗かせていた、かつての世相につい
てのテーマで1冊の本を書いていた。彼はそれを読み、自身の研究にかか
わって、ちょっとした助言を求めていた。まもなく彼はトムディスパッチ私
家版を友人たちに配信しはじめ、メーリング・リストに私を加えた。

私はそのような配信に困惑し、しばらく無視していたが、彼には、玩具とエ
ンターテインメント、軍産複合体が一体化する場を見る目があったので、結
局、自分が注目しているのに気づき、ある日、電話して、このテーマでトム
グラムを書いてくれないかと頼んだ。その後は、いわばトムディスパッチの
歴史に重なる。今の彼は、2冊の本を書き、二つの仕事をこなすなど、忙し
い生活のさなか、余暇時間があれば――私には提供できる金はたいしてない
が、肩書きはどっさりあるので――サイトの客員編集者および調査主任とし
て費やし、またサイトの人気執筆者に加わった。

ダイニング・ルームに移りながら、彼は私たちの過去のいきさつを振り返っ
て、しかめっ面で「あなたはぼくをキャベツ畑で見つけたんだ」と言う。つ
かのま、私たちはダイニング・テーブルで準備に没頭する。テープのセロ
ファン包装がはがし、レコーダーにセットする。着席し、このインタビュー
・シリーズのスタート以来で初めて、私の2台の機械をクルッと廻して、自
分のほうに向ける。

この晩春の日曜日、窓の外、空が暗くなり、降りはじめる。ニック――ヴェ
トナム戦争時代の退役軍人に数多くインタビューしたことから、ここではプ
ロ――は、自分のテープレコーダーに向かって「2006年5月21日、
タースがトム・エンゲルハートにインタビュー……」と話しはじめる。私が
いぶかしげな表情を見せると、「私が吹きこんだテープが何本になるか、わ
からなくて、だれにインタビューしたんだろう、この人はだれなんだろうと
思ってしまうんだ」と彼は説明する。この人物はだれだ、というのがこの午
後のテーマになる。

【ニック・タース】あなたがトムディスパッチを立ち上げたとき、「ユリー
カ!」[*]と叫ぶ瞬間がありましたか?
* eureka=アルキメデスが王冠の金の純度を測る方法に気づいたときに発
した叫び

【トム・エンゲルハート】むしろ果てしない瞬間でした――9・11後の2
か月間というもの、政治的に世慣れているとされる人物からすれば、私の反
応はものすごくナイーブでした。事件の恐ろしさが、なんらかの形で私たち
を世界に向かって開かせるかもしれない、こういう風に感じていました。と
ころが、ブッシュ政権のおかげで、私たちは世界を締め出してしまったとわ
かって、ガッカリしました。私たちがやってきたのは、一番の受難者、一番
の支配者、一番の犠牲者の役柄、地球規模のドラマにおける一番の悪玉は別
にして、あらゆる役割にまで私たちを高める儀式に次ぐ儀式でした。

私はまた生涯の新聞ジャンキーでもあります。これはショッキングな事件で
はあるが、それでも9・11にいたる歴史があると知ったとき、報道の幅の
狭さと画一性はまったく我慢なりませんでした。まるで藪から棒の事件と受
け取れるだけでした。これだけでした。私は書籍編集を職業にしていまし
た。事件に先立つ2年前に、チャルマーズ・ジョンソンの予言的な書”
Blowback”《*》を出版していたのです。聞こえてくる声の狭量さに不満を
強く覚えていました。
* 『アメリカ帝国への報復』鈴木主税訳、集英社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087733289/qid=1152055834/sr=8-3/ref=sr_8_xs_ap_i3_xgl14/503-9478468-9545546

同時に、ブッシュ政権の働きを目にして、私はますます呆れました。(外で
雷鳴) 今、バックグラウンドとして雷が景気づけてくれるのは、たぶんド
ラマチックで破格の振る舞いでしょう。

言っときますが、私は、ほとんど30年間、出版業界大手筋の端くれにい
て、使いものになる仕事をしてきたのですよ。恥ずかしい思いをすることは
なにもありませんでした。また、まともに育った子どもが二人いたのです
が、たぶん2001年11月初めに世界を眺めて――じわじわと湧きあがっ
たとしても、たぶん「ユリーカ!」の瞬間だったのでしょうが――このまま
ではやっていけないと圧倒的な思いを抱きました。私たちは自己中心的な生
き物です。私たちは自分から出発するきらいがあります。子どもたちが次に
来て、それから伴侶、友人たち、住む街、自分の国、世界です。世界をこの
形で私の子どもたちに手渡すのはまったく耐えられなかった。自分にできる
ことについて、幻想はありませんでした。私はトムディスパッチを構想して
はいませんでした。意思表示をしなければと感じただけです。

【NT】当初の構想はどのようなものだったのですか?

【TE】なにもありませんでした。これはごく私的なことです。私は57
歳、老いぼれのテクノロジー恐怖症者でした。コンピュータが怖かったので
す。ごくたまにしかEメールを受け取っていませんでした。

今日、このインタビューについて考えていて、何年も前に私が編集にあたっ
た”To the End of the Earth”[仮題『地球の果てへの旅』]という本の
一節が心に浮かびました。1818年にグリーンランドへ行った英国探検隊
が、極北の民の小集団に初めて出会います……

【NT】……イヌイットですか?

【TE】そう、4人のイヌイットです。英人たちは通訳を同伴していまし
た。イヌイットは、英国の帆船団を見て、「このでっかい生き物はなんだ
?」と問います。木でできた家だ、と通訳は答えます。「違う」と彼らは言
いはります。「こいつらは生きている。こいつらの翼が動いているのを見た
んだ」 後ほど、部族民のひとりがもっと近くに連れてこられました。恐怖
と驚きのあまり、彼は船に向かって叫びます――「お前はだれだ? お前は
なんだ? どこから来た? 太陽からか? それとも月からか?」

さて、私はその部族民であり、インターネットの世界は、あの驚異と恐怖の
船だったのです。新聞がオンラインで読めると、あの11月にわかっていた
とは思いません。でも――わが国のアフガン戦争が始まったばかりであり
――アフガニスタンは、内戦がつづいた長年月のあいだに全土が瓦礫〈がれ
き〉以外のなにものでもなくなったのに、それを爆撃するのはどういうこと
だろう、と不思議に思ったカリフォルニア在住のアフガン人による記事を、
友人がEメールで送ってくれました。あのイメージは、わが国の新聞には似
たものが見当たらず、まさにその理由により、私をビックリさせました。そ
こで私はちょっとしたリストを作り、たぶん12人程度だったのですが、友
人や縁者に、これを読まなければというメモを付けて、その記事を送ったの
ですが、このことから、インターネットは私たちが聞いていない他者の声を
求めているのではないか、と思うようになりました。

「たとえ他の場所が此処〈ここ〉であっても、他所からの声」というのが、
私が手がけた種類の書籍出版について私が言っていたことです。私は帝国ア
メリカにまつわるアルンダティ・ロイの記事《*》に出会いました。英紙
ガーディアンをはじめ、世界中のさまざまな新聞を読みはじめ、記事を積み
あげては、配信し、短評を付けていたのですが、それがどんどん長いものに
なっていきました。名前のない、ただのEメール・リストでした。すると、
エーテル[仮想空間]の住民たちが書いてよこしはじめました――やあ、私
をあなたのリストに加えていただけませんか? その何人かはジャーナリス
トでした。どのようにして私を見つけたのか、私は知ってさえもいませんで
した。そのころには、私はとりつかれたようにやっていました。止まりませ
ん。たぶん1年後には、4〜500人分の電子空間住民リストが手元にあり
ました。この段階で、2002年末に向かうころ、ネーション研究所を運営
する素晴らしい同僚、ハム・フィシュが、これをウェブサイトに仕立てて後
援しようと初めて提案してくれました。そんなことは、私の頭に浮かびさえ
しませんでした。
* ガーディアン紙03年4月“Mesopotamia. Babylon. The Tigris and
Euphrates”
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?ItemID=3368

トムディスパッチ[トム速報]というサイト名からして、冗談から生まれま
した。友人の友人たちが、私のEメールについて「今日、トムグラム[トム
通信]がまた届いた」と言いはじめました。私は、これはケッサクだと感心
しましたし、ご時勢がどれほど不快なものであっても、多少なりとも世界を
面白がっていなければならない、と本心から考えています。

【NT】では、記事配信サービスから拡大メーリング・リストに育ち、次は
ウェブサイトですね。

【TE】次に、私のためにオリジナル記事を書いてくれないかと友人たちに
頼みはじめました。最初のトムグラムは――ブッシュ政権が引き起こした天
然痘ヒステリーにまつわる記事《1》で――あなたの大学院の元顧問、デー
ヴィッド・ロスナーによるものでした。当時、このウェブサイトはようやく
存在しているだけ。ほとんどだれも見ないものですから、ずいぶんいい作品
だっただけに残念なことでした。言っときますが、30年間、私は書籍編集
と出版にかかわってきたのです。チャルマーズ・ジョンソン《2》、マイク
・クレア《3》、ジョン・ダワー[4]、アーリー《5》とアダム[6]の
ホークシールド、マイク・デイヴィス《7》、ジョナサン《8》とオーヴィ
ル《9》のシェル――すべて、トムディスパッチで読むことができます。
1 The Problem with Smallpox, by David Rosner
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=224
2 TUP速報485号「米中の狭間で日本は……」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/526?expand=1
3 The Tripolar Chessboard; Putting Iran in Great Power Context, by
Michael T. Klare
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=92161
4 TUPアンソロジー『世界は変えられる』(TUP監修、七つ森書館、
04年5月刊)収録「満州とイラクの関係〜歴史に見る占領――日本の傀儡
・満州国〜」
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0480.html
5 The Chauffeur’s Dilemma, by Arlie Hochschild
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=3779
6 前出『世界は変えられる』収録「世界は変えられる〜英国奴隷解放
史〜」
7 A Paradise Built on Oil, by Mike Davis
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=5807
8 Welcome to Camp Quagmire, by Jonathan Schell
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=39141
9 Journalism under Siege in Baghdad, by Orville Schell
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=68077

このいういきさつから現在の形に近づいたのですが、完全になりゆき任せ、
歳を喰らいすぎたせいで、よくわからないまま迷いこんだだけであり、この
世界では、私は明らかな弱点を抱えてはいますが、年の功ということもあり
ます。

【NT】年の功についてお話しください。

【TE】私はオンライン世界にオールド・ファッションなあれこれをいくつ
か持ちこんでいます。いかに時間に追いかけられていても、よく練られ、よ
く編まれた論稿をやはり信じています。長さに怖気〈おじけ〉づくようなこ
とはありません。オンラインでは、だれもがブヨ[虫]なみの注目時間をも
つとされていますが、それに対抗する本能をもって、私は1万語に届くよう
な記事に目を通します。時には、世界は短絡的に捉えることができないので
す。だから、長さが私のサイトを規定――そして制限――します。このこと
が、トムディスパッチは脅迫的な営みの産物であることを示し、言い換えれ
ば、読むためには、たぶん耽溺者であらねばならないのです。反面、リアル
タイムめいた世界で、ぺちゃくちゃおしゃべりしている人たちを全面的に評
価するには、私の年齢が邪魔します。トムディスパッチで、おしゃべりはな
し。

友人たち向けに書いたことから出発しましたので、私の論調は、非公式であ
り、個人的なものでした。公開したときも、この調子を続けました。私は自
分について多くは書きませんが、私の願いどおり、皆さんは自分に話しかけ
られている、と感じているのではと思います。

【NT】サイトのキャッチフレーズ“a regular antidote to the
mainstream media”[*]については、どうなのでしょう? ところで、毒
についても話していただけますか?
* 直訳すれば「主流メディアに対する常備解毒剤」、当訳稿では「抗マス
メディア毒・常設サイト」と意訳する。

【TE】あなたのおっしゃる、あの毒のことから始めれば、トムディスパッ
チは24時間営業ですが、私が24時間かかわっているわけではなく、毎
日、私の地元紙、ニューヨーク・タイムズを隅から隅まで読むように努めて
います。時には、ウォールストリート・ジャーナルも読みます。時間があれ
ば、ワシントン・ポスト、ロサンジェルス・タイムズ、その他数紙をオンラ
インで読みます。それから、イラクと中東のための、素晴らしい、配慮の行
き届いた情報収集サイトのホアン・コール《1》をチェックし、なんらかの
興味深い目で選ばれた百万タイトルもの見出しが並ぶAntiwar.com《2》 や
Commondreams《3》 、 Truthout《4》 やZNET《5》、はたまたthe War
in Context《6》といった、私が“叛乱サイト”と呼ぶサイトを訪れはじめ
ます。
1 http://www.juancole.com/
2 http://www.antiwar.com/
3 http://www.commondreams.org/
4 http://www.truthout.org/
5 http://www.zmag.org/weluser.htm
6 http://warincontext.org/

帝国新聞の記事を読むなら、最善の策は――ほんの冗談半分ですが――後ろ
から読むことと、いつも私は主張してきました。基本になる第一面は、TV
ニュースと同じで、どの新聞を見ても、たいがいそれほど違いがありませ
ん。記事がほんとうに面白くなるのは、その終わりに近づくときなのです。
ニュース・ジャンキーはともかく、だれも集中して読んでなどいないと記者
や編集者が感じているからなのでしょうが、ものごとのタガが外れてくるの
です。記者が記事に忍びこませた断片情報は、期待される報道の枠組みから
外れているのがわかります。それこそ、私が探しているものです。時には、
次回アトラクションをちらりと覗きみるみたいです。
[米国の新聞では、第一面に主要記事の見出しと本文の最初の部分のみがレ
イアウトされ、その続きは奥の面に掲載されている]

最近、タイムズのずっと奥の面から拾いあげた断片情報をふたつ紹介しま
しょう

サブリナ・タヴァーニシの興味深い第一面記事「死のイラク蔓延、中流層の
脱出はじまる」《*》がありました。ずっととばして、ずいぶん奥のほう
に、こういう記述があります――「過去6か月のあいだにバグダードで合計
312名の廃品収集労働者が殺された」。これです。基本となる良質な報道
でありながら、だれも気づこうとせず、取りあげようともしない。それにし
ても、今日のバグダードの暮らしについて、知るべきことのおよそすべてを
語っています。治安部隊はどうでもいい。高官たちはどうでもいい。300
プラス12名のゴミ集めが無惨に殺された。ホーリー・トリード[なんたる
こと]!
http://www.nytimes.com/2006/05/19/world/middleeast/19migration.html?ei=5088&en=45ac867233da7543&ex=1305691200&partner=rssnyt&emc=rss&pagewanted=print

だから、隠されてはいるが、目に見える場所にある、この種の報道が、私の
イラク関連記事の出発点になりうるのです。つまり、ここにアメリカの新聞
の要点があります。時間さえあれば、どこかになんでも揃っているのです。
しかし、私のようなニュース馬鹿は別にして、だれが見つける時間をもって
いるでしょうか?

では、ここにジム・ルテンバーグによる別の記事があります。これは私を大
いに楽しませたものですが、タイムズの第12面に潜りこんでいました。だ
が最初に、私は記事の配置について一言いわねばなりません。毎年の春、私
はバークリー校ジャーナリズム大学院の若いジャーナリストの集団を相手に
編集者になります。どこで彼らはニュースを読むのでしょうか? 言っとき
ますが、プロのニュース・ジャンキーなのですよ。彼らが読むのは、オンラ
イン! 彼らのほとんどは、日刊新聞を日ごとに読んでなどいないのです。
「主要記事は前夜に掲載されるのに、どうしてロサンジェルス・タイムズの
印刷版を読まねばならないのですか?」と彼らのひとりが私に言いました。

でも、紙の新聞を読まなければ、その配置の仕方を見ることがなく、小記事
のすべてを見過ごすことになりますし、そのいくつかは非常に重要かもしれ
ないのに、折りたたまれたまま奥深く埋めこまれているのです。ある意味
で、私の教え子たちは新聞の構成を知ってはいません。

ルテンバーグの小記事《*》を見てみますと、ほんの10節の長さしかな
く、見出しは「大統領が客、主催女性が断り状」となっていて、共和党の下
院議席獲得競争が動きだしたようすについてのものです。これは、後日に
なってようやく第一面を飾るようになる類の報道です。私が見逃した別の囲
み記事からの引用ですが、おおいに楽しんだ次のようなくだりがあります。
「共和党のイリノイ州知事候補、ジュディ・バー・トピンカのように、大統
領をはっきり鼻であしらった別の向きにとって情況は違っていた。先月、彼
女の後援者のひとりは、本紙提携論説者、ジョージ・ウィルに、彼女は、
“夜遅く”だけ、“非公開の会場”で資金を調達するために大統領の応援が
ほしかったと語った」
http://www.nytimes.com/2006/05/20/washington/20bush.html?pagewanted=print

これを読めば、たった今のアメリカの政治について多くを知ることになりま
す。鼻が高いですが、私は、ブッシュの支持率は底なしになると、ごく早い
時期に主張した少数者のひとりでした。新聞の奥深くにある記事をじっくり
読めば、予言的に見えても、そうではない記事を書くのに間にあうほど知る
ことができます。もちろん、インターネットのたいがいの政治サイトは主流
メディアの報道に寄生的に拠っていると認識することになります。金がない
のに、なにか別の選択肢がありますか?

【NT】では、なんであれすべて後ろのほうのページに埋められているだけ
ですか?

【TE】だれも見ないとしても、重要なことは報道されているといつでも言
えるのが、アメリカの新聞の天才的なところです。

【NT】では、私たちの目から隠しているのですか? それとも、こういう
最後のくだりに編集者たちは気づかない――あるいは構っていない――ので
すか?

【TE】そのどれでもないと思います。私の基本的な考え方を言えば――私
の義父が会計士だったので、失礼にはあたらないと思いますが――3人の公
認会計士と3人の報道人にご登壇願って、彼らの職業について話していただ
けるようにお願いしますと、公認会計士は自省的な方がただとわかるでしょ
う。ジャーナリストには、自分たちの業界が現実にどのように動いているの
かについて、多くの場合、個人的な意見もないようです。

たぶんこれこそ、それがしかるべく機能していることのひとつの理由です。
宣伝機関を備えた国では、だれもがものごとの動きかたを知っています。昔
のソ連では、国家や党が書くように命じることは書いてもよいとわかってい
ました。自分はお雇い物書きであるとわかっていました。アメリカのメディ
アはそのようには動きません。かかわっているだれもが自分は構成分子に
なっていることを知らない共同謀議のようなものです。それじたいが天才的
です。

【NT】あなたは世界を主流ジャーナリストと違ったふうに見ているとお考
えなのですか? それとも、彼らが言わないことをおっしゃっているだけで
すか?

【TE】私は教え子たちにこう言っています。あの小さな空間の裂け目が君
と社会とのあいだにあるところでは、どこであれ、君が世界に斜めに重なる
場所を探しなさい。だれもがどこかにその裂け目をもっています。そうでな
ければ、報道するために出かけても、どうせ周知の事実を持ち帰るだけで
す。

若きトム・エンゲルハートを振り返ってみますと、これ以上ありえないほど
にアメリカ人の典型例でした。後に私が執筆した本《*》のなかで、“勝利
文化”と呼ぶようになったもの、つまり閲兵式、軍隊、銀幕の栄光に深く
浸っていました。たぶん第二世代か第三世代のアメリカ人だけにありえたふ
うに、私は全身これアメリカ少年でした。アメリカ史に完全に入れあげたユ
ダヤ人の若造、南北戦争や第二次世界大戦に熱狂する高校生といったら、お
わかりでしょう。みずから率先して、将軍たちのワクワクする演説を暗記し
ました。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/1558491333/249-5741941-4983535?v=glance&n=52033011

振り返ってみますと――リベラルな(急進的ではぜんぜんない)ニューヨー
クの家庭の出身であるということもあり――若い年代のころから、いまだに
首をひねるしかない理由により、私は心からの反帝国主義者でした。もちろ
ん、これはアメリカ国民の気質でもあります。いまでもこれは、私の、そし
てトムディスパッチの決定的な特質になっているようです。私は帝国にまつ
わるすべてのことに反対であり、思うに、わが国も帝国のひとつです。

その当時、退屈した白人のちびっ子、ほんの子どもがニューヨークの真ん中
で暮らしていて、10代の反抗期にもなっていないうちに、おそらくその気
質のかけらが入りこんだのでしょうが、私は斜めに構えた気分でした。その
とき、そのように感じるありかたを嫌っていましたが、その後、これには価
値があるとわかりました。新聞を読むとき、だれも気づかないことに目が惹
きつけられます。

【NT】一例をあげてください。

【TE】わかりました。たった今、タイムズに、バグダードの要塞化された
グリーン・ゾーンの内部にインストールされているイラクの新政府に関し
て、優れた記者、ジョン・バーンズによる記事がありますが、これは――課
題のすべてが治安であり、あるいは治安の欠如である国の――挙国一致内閣
ですが、今日の時点[06年6月]で、いまだに首相が治安関係の3主要閣
僚を指名できずにいます。それはともかく、バーンズの記事は「ニュース解
説」と位置づけられ、見出しは「一部にとって、イラクにおける米国の努力
の最後にして最善の希望」《*》となっています。
http://www.nytimes.com/2006/05/21/world/middleeast/21baghdad.html?ei=5088&en=f51c63507bdca6e8&ex=1305864000&partner=rssnyt&emc=rss&pagewanted=print

さて、私の頭脳は連想によって活動しています。泳いでいるときの規則的な
動き、正確なクロール泳法のなかで、一番よい考えがでます。子どものころ
の例のマジック・8〈エイト〉ボール[予言遊びの玩具]みたいに、思考が
頭脳のスクリーンに浮かび、私をビックリさせるのを待つのです。私はイ
メージが大好きです。私たちはとても比喩思考的な動物なのです。私の目
は、深い考えもなく用いるメタファー[暗喩]にいつも引き寄せられます。

いままでに少なくとも4年間、私はイラク関連のニュースを詳細に追ってき
ましたので、アメリカのイメージが次のような筋書きを伝えてきました。侵
略のあと――ラムズフェルド《1》やブッシュ《2》の同類たちが言ったよ
うに――デモクラシーという自転車から“補助輪”を取っ払う方法をイラク
という子どもに教えていたとき、初期の調子のよいイメージがありました。
それほどあっけらかんと保護者面していたのです。続いて事態が悪化する
と、“転換点”がうんぬんされました。(近ごろでは、これを相変わらず言
いたてているのは、大統領たったひとりになってしまいましたが) これに
伴い、進歩の“里程標”が喧伝されたのですが、一里塚を過ぎる度ごとに、
惨憺たる情況が悪化していって、ついにはなんだかこれも消えてしまい、そ
れに替わって、侵略がイラクのパンドラの箱を開けてしまったというイメー
ジが浮上しました。
1 http://www.sundayherald.com/40703
2 http://www.cbsnews.com/stories/2004/01/19/iraq/main594228.shtml

さらに、たぶん6か月前、アメリカの高官たちは比喩表現でいう“崖っぷ
ち”《1》に追いつめられ、それからほどなくして、“後退する”前に内戦
の“奈落”《2》を覗きこんだのです。たいてい、このようななりゆきのな
かを大勢で渡ってきた匿名の高官たちの口を通してですが、こういうイメー
ジが新聞紙上に紹介されていたのを、いつも目にしていました。
1 http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=30163
2 http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=65191

さて、今日のことですが、バーンズ[前出のニューヨーク・タイムズ記者]
がブッシュ政権イメージの最新版を紹介しています。4月末にコンディ・ラ
イス[国務長官]が、圧力をかけ、わが国が望む首相を擁立するために、バ
グダードに行ったとき、私はそのことに初めて気づきました。彼女に随行し
た高官たちは、これが「最後の機会」《*》であると発言したと伝えられて
いますが、これこそ、もちろんナンセンスです。つまり、この情況は4年間
にわたって展開してきたものなのです。
* http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=81770

バーンズの記事は、宗派間抗争が破局的になった1か月を経て、「イラクに
おけるアメリカの事業を混乱と内戦への転落から守るための最後の機会にな
るかもしれない情況を目撃している」と感じるようになった、さらに大勢の
「文官や武官たち」の言葉を匿名で引用しています。記事を追ってみると、
今や事態は楽観の余地がない転換点らしく、「危機的な分岐点」にあるこ
と、また、新内閣をめぐる人選と交渉のさい、アメリカは「筋肉質の働きを
担った」ことがわかります。さて、これはみごとな言い方です。まるで体育
会系みたい。

【NT】腕っぷしですね

【TE】そうですが、なおのことお上品に。続いて、わが国大使、ザルメイ
・ハリルザドが「新政府の誕生のさい、疲れしらずの産婆役を務めた」こと
がわかります。これが、例えば、ロシアとどこかの中央アジア独裁国が関係
する話だったら、現地を締めつけて、傀儡〈かいらい〉政府を樹立するとい
うことですね。ここで分かれ道、例の“里程標”が浮上します。この記事
は、イラクにおけるブッシュ体験のイメージの羅列です――いくつか新しい
宝石もちりばめてはいますが。これは、あわただしい新聞の自動筆記にすぎ
ません。けれど、私にとって、記事を書くための踏みこみ台になります。

新聞を読んでいて、これはなんという帝国惑星なのだろう、と気づくことも
しょっちゅうです。ものごとは一方向に動いています。ただの面白半分です
が、時には、方向案内板を反対に向ける《*》ことを空想します。
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=2284

例えば、CIAに関する最近のニューヨーク・タイムズ第一面記事《*》
は、基本的にこういう感じです――明るいニュース! 世間周知の問題が山
積しているにしても、中央情報局はスパイ部門を拡大、現地任務遂行能力を
大幅に増強、ついにわが国は、そうですね、イランのような封鎖社会に工作
員を潜入させようとしている。私はこう考えています。いやはや、秘密工作
員を大量動員し、どのようなものであれ、わが国が望む騒乱を実現するため
に、どこであれ、白羽の矢をたてた他国に投入すると満天下に公言しても、
国民をビックリさせすらしない。わが国は、大新聞の第一面で、この事実を
広言しています。
http://www.amhersttimes.com/index.php?option=com_content&task=view&id=1558&Itemid=27

では、この報道をひっくり返してみましょう。テヘラン・タイムズの強烈な
ビッグ・ニュース。イラン政府が、同国の諜報機関は、積年の問題を抱えて
いるにもかかわらず、スパイ軍団の増強を達成しおえ、ほどなくワシントン
の封鎖社会に工作員の隠密集団をばらまく能力をもつだろうと誇らしく期待
していると公表した。わが国はカンカンになるでしょう。明日にでも、イラ
ンを爆撃します! 事実として、私たちは地球上の他国民には許されない流
儀で語ったり書いたりすることを許されているのです。これは帝国的な言論
の自由です。

あるいは、2008年1月にどうなるか、想像してみましょう。アメリカに
新政府が成立し、イラクの新聞の“ニュース解説”が、ワシントンを訪問す
るイラクの閣僚の“筋肉体質”や新政府誕生に貢献した“産婆役”ぶりを賞
賛するのです。もちろん、想像もできませんね。そんな世界はありません。

【NT】そういう類のことを書けば、風刺文に分類されますね。

【TE】私は学生に言うのです。記述は、宇宙の森羅万象と同様、基本的に
エネルギー移転であるが、非常に不思議なものなのです。文筆エネルギー
は、読者を引っかける類です。記事を通じて、読者を動かすことができま
す。たとえ凄まじい事象を記述していても、書くことじたいに喜びがなけれ
ばなりません。それに、ユーモア、パロディ、風刺、これらは強力な道具で
す。ばかばかしくて笑わせる所業にビックリすれば、遠慮などしませんが、
ドギマギしたり、憤慨したりした読者諸氏からのメールでしばしば思い知ら
されることに、私たちの世界は今やあまりにも極端に走り、風刺がすぐに現
実に取り違えられてしまいかねません。

(パート2「情況が悪くなるときに、荷物をまとめたり、家に帰ったりしな
いこと」に続く)

[原文]
Tomdispatch Interview: Engelhardt, The Imperial Press and Me
posted June 20, 2006
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=93779
Copyright 2006 Tomdispatch

[翻訳]井上利男 /TUP

—–