TUP BULLETIN

速報627号 トム・エンゲルハート、トムディスパッチを語る(パート2) 060820

投稿日 2006年8月20日

FROM: hagitani ryo
DATE: 2006年8月20日(日) 午後7時54分

☆ご時勢に抗する弁論の場として★
前回のパート1にひきつづいて、トム・エンゲルハート氏は、自身が主宰・
編集するサイトについて語ります。政治家たちが世間をあざむき、メディア
が、一本の線ではなくバラバラな点、つまり断片的な情報のみを伝えるとき
に、点と点を結ぶ視点を提供すること、これがトムディスパッチの狙いであ
るとエンゲルハートは説明します。井上

ネーション研究所提供、トム・エンゲルハート主宰・編集
抗主流メディア常設解毒サイト『トムディスパッチ・コム』

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2006年6月22日配信

トムディスパッチ・インタビュー:
トム・エンゲルハート、サイバー空間の冒険を語る

(読者の皆さんへ――このインタビューのパート1「帝国新聞を逆読みす
る」では、他にもいろいろあるが、主流メディアはどのように動いているの
かについて、私の考えをお示しした。さて、ニック・タースにお相手願った
私の談話のパート2では、トムディスパッチにまつわる私の生きがいに向き
あうことになる。この二部構成インタビューの公開は、これまでにこのサイ
ト向けに私がやってきたインタビューの全編が、一冊のペーパーバックにま
とめられ、この10月下旬にネーション・ブックスから出版されることに
なっていることを私なりの流儀でお知らせすることでもある。タイトルは
“Mission Unaccomplished, Tomdispatch Interviews with American
Iconoclasts and Dissenters”《1》の予定であり、ころあいを見て、皆さ
んに強くお奨めするつもりだ。とりあえずは、〔トムグラム執筆のさい、い
つも私のネタ本になっている〕拙著、勝利主義で見たアメリカ史“The End
of Victory Culture”《2》を借り出してみようか、とでも思っていただき
たい。スタッヅ・ターセルは同書を「みぞおちに効くジョー・ルイスのジャ
ブのように強烈」と評した。あるいは、この夏の暇なおりにでも、私が――
書籍編集者として――住んできた別の世界に焦点を絞った小説“The Last
Days of Publishing”《3》を手に取っていただきたい。ハーバート・ゴー
ルドは、ロサンジェルス・タイムズ紙に、同書について「近ごろの小ぎれい
な巨大資本系列の書籍出版工場では、仕事がどのように進むのか、心憎いま
でに有毒で滑稽〈こっけい〉、不条理で深く悲しむべき実相の叙述」《4》
と書いた。トム)
1 仮題『ミッション未達成――トムディスパッチ・インタビュー集、アメ
リカの偶像破壊・異議提唱者たち』。予約サイト――
http://bookweb2.origin.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/booksea.cgi?ISBN=1560259388
2 同『勝利主義文化の終焉』

3 同『出版終焉のとき』

4 http://www.tomdispatch.com/review.mhtml

情況が悪くなるときに、荷物をまとめたり、家に帰ったりしないこと
――トム・エンゲルハートに聞く(パート2)
[取材: ニック・タース]

【ニック・タース】このサイトは多彩な発言者の根城になっています。どの
ような資格でトムディスパッチ執筆者になるのですか? あなたが求めてい
る決め手の持ち味でもあるのですか。

【トム・エンゲルハート】イメージで説明するしかありません。幼いころ、
私たち子どもが潮干狩りに出かけると、足のつま先でハマグリを探りまし
た。当然ながら、質問はこうです。ハマグリを触れば、どんな感じか、どう
すればわかるのですか? もちろん、だれにも答えられません。あちこち
探っていると、貝殻や小石、生きたカニに触れていると、そのうちにハマグ
リに当たります。するとわかるのです。

トムディスパッチ執筆者も同じ。人生のやりくりも同じ。トムディスパッチ
執筆者の多くは以前からの知り合いでした。その人たちの本を編集していた
のです。メールに返信するのは私ひとりであり、たいてい別口の仕事もひと
つやふたつ抱えているものですから、トムディスパッチは議論を提起しない
サイトです。とても対応できません。

ところで、私のサイトの本物の冒険は、舞いこんでくるEメールにありま
す。これにはワクワクします。サイトのEメールを開くと、体験を語るイラ
ク駐留の護送部隊指揮官とか、南部のどこかの州からの反帝国的な保守派が
いたり、全米いたるところの小さな町の住民がいたりします。

19世紀には、人びとは小さな町から脱出し、大都会に向かいました。今で
は、疎外感に気づくと、仲間を求めてインターネットに逃れるのです。だか
ら、末尾にカンサス州とかモンタナ州、あるいはテキサス州の小さな町の名
を記し、おまけに(人口250人)とか括弧書きを添えているメールをいつ
もいただいています。時には、「過激な州の魔界から」などと書き添えて
あったりします。百万年かけても会うこともなかった人たちからの素晴らし
い手紙。イラク人亡命者たち、わが国の大統領について私に言いたいことが
あるドイツ人たち、このサイトをギリシャの大学生に奨められたと私に知ら
せてきたアテネ滞在中のアメリカ人元愛国者。想ってもごらんなさい!

私は、すべてのメールに、数語だけでも返信しようと努めています。だが、
しばしばあることですが、まさに送信する段になって、受信メールが届いた
りします。わあ、これはなんとかしなければ! では、トムディスパッチ執
筆者登場のいきさつの一例をあげてみましょう。エリザベス・デラヴェガが
送信してきたとき、彼女は連邦検察官を退任したばかりでした。サイトにお
褒めの言葉をいくつか頂戴しましたが、彼女の願いの主眼は、私がプレイム
事件[*]について書いた記事に何点かの論評を加えることでした。はて、
これまでに連邦検察官からメールをいただいたことがあっただろうか、と訝
りましたが、プレイム事件に関する彼女の意見はワクワクするものでした。
* ブッシュ政権の高官によるCIA工作員身分情報の漏洩疑惑

私個人にあてて書かれたものを是非とも使いたいと思うとき、私は腰が引け
てしまいます。だれに対しても私的な意見の公表を無理強いしたくないので
す。それでも、あなたのご意見をまとめてみませんか、と私はあえてお願い
しました。彼女は、検察弁論は別にして、これまで書いたことがないがやっ
てみると返信してくれました――そして、彼女は適材でした。それからずっ
と、このサイトに書いています。

彼女のような人に遭遇すること、これが私にとって人生の楽しみの一端で
す。

【NT】トムディスパッチ読者の典型像について、なにかお考えは?

【TE】ブッシュ派の人たちから送られてくる周期的な波のように押し寄せ
る――だが、最近はずいぶん沈静化した――嫌がらせメールも含め、受信
メールから判断すれば、私が行動にかかわっていた別の時期、60年代の昔
にトムディスパッチに替わるメディアがあったとしても、読者層の幅は今の
ほうがずっと幅広くなっているはずだと思います。もちろん、あの歳月は、
今、私たちがあのころはそうだったと信じているものとは別物ではあるで
しょうが。例えば、私と当時の反体制GI[米兵]たちとはたがいに接点が
なかったと歴史書が教えるにしても、あのころずっと、私は彼らに夢中だっ
たのです。

だが、インターネットが素晴らしいのは、受け手がだれか知ることができな
い点にあります。実情はそれほどでもなく、つまり、トムディスパッチに
は、受信登録者が約1万7500人いるとわかっていて、無料の新着記事お
知らせメールを受け取っています。すると、記事は摘みあげられ、あらゆる
類のサイトに転載されます。読者数を私に知らせてくれるサイトもあれば、
数字を把握してさえいないものもあります。

さらに、記事を拾いあげ、まさにあちこちタライ回しする小さなブログがあ
りますし、さらにまた、トムディスパッチの名なしの時代のような個人的な
回覧メールやメーリング・リストがあります。あなたのものを、50人とか
100人とかの友人、縁者、仕事仲間に転送しましたと伝えてくるメールが
つねに届いています。私が掲載する記事は少なくとも7万5000人から1
0万の人びとに読まれていると推定していますが、これはおそらく控えめな
数字でしょう。

私たちの二人ともお粗末な校正係なので、訂正すべき点を書いてくる人はあ
りがたいです。強烈な批判を書く人もいますし、時には激しい怒りを表明す
るメールもあります。もっと手短に書け、知ったかぶりはやめなさいなどと
命じたりします。人びとは、私が是が非でもしなければならないことをいつ
も言いつけます。イラクにおける隠された米軍死傷者数について、正確な記
事を掲載しなければならない! ここにいるのは私たちだけだということが
わかっていないのです。時に、あなたや私は冗談をとばしますよね。わかり
ました。実態を究明するために、ただちにトムディスパッチ精鋭チームをド
イツに派遣します!

だが一般的に言って、私は世界を精いっぱい眺めているだけであり、キー
ボードに指を置いて、バンッ! 驚いたことに、生涯の大半、私はたいへん
な遅筆家でした。4000語の仕事をあてがわれようものなら、1か月たっ
ても、私はグズグズしていたかもしれません。

今なら、4000語を24時間以内に打ち出せます。宗教的な人間であれ
ば、自分は憑依〈ひょうい〉されているとでも言うのでしょうが、次にくる
問いは、こうなるでしょう――私は、だれの声を運んでいるのだろう?
じっさいには、ある厳しい時期に、自分のために発せられた私の声であると
わかっています。もしわずかでも時間的余裕があって――私の小説“The
Last Days of Publishing”[未邦訳『出版終焉の日々』]の執筆は、人生
のうちでも静かな喜びになりましたので――フィクション執筆を再開すると
すれば、憑依について書くかもしれませんね。

【NT】トムディスパッチ関連のあなたの活動を、どのように定義なさりま
すか? ニュース編集者、ジャーナリスト、論説者、それともインターネッ
ト活動家?

【TE】ごく限られた状況の2例は除きますが、私にはジャーナリストを装
うつもりはまったくありません。私は――2004年・共和党大会のさい、
会場前のデモを取材し、さらに場内の共和党候補たちを観察しましたが――
しばしば、なにかのイベントに出かけ、基本的に、そこに居合わせている理
由を人びとに質問しています。わが国のメディアでは、言葉の小さな切れ端
の範囲を超えて、人びとが語っているのを聞くことは、ほとんどありませ
ん。[人びとの声を聞く]そのことは、ほんとうに、ジャーナリズムの本質
なのです。

だから、肉声を聞いたり、じっさいの考えを知ったりすることは滅多にない
ですが、人びとは、私たちが思う以上に能弁であり、一筋縄ではいかない
と、ほぼ例外なしにわかることになります。こういうとき、私はある種の市
民ジャーナリストであると実感します。

私たち人間が、たいして悩むこともなく複雑で辻褄の合わない見解を抱えな
がら、こんなにも気楽でいられるものだと私はいつも感嘆しています。例え
ば、ネオコンやブッシュ政権一派が、自分たちは国民を操作していると考
え、また同時に、自分たちがマキアヴェリ流に扱っていたものごとの多くを
信じていたとしても、私は奇妙だとは思いません。それでも、たいがいの人
は、どちらかに決めるのが好きなのです。彼らは国民を操っていたか、まこ
との信念の人であるか、どちらかなのです。

なにが私をジャーナリストでないと決めているか、言ってみましょう。私は
イベントに出かけることができますが、その翌日になって、ふたたび出かけ
ることはできません。私には精神的エネルギーの持ち合わせがありません。
見知らぬ人たちに言葉をかけるのは、あまりにも負担であると思い知りまし
た。

サイトについて、これはなにか、また私は何者か、だれか別の人が私に言う
べきでしょう。

【NT】わかりました。だけど、どっちみち私はあなたをなんらかの定義に
ピン留めしますからね。あなたは、ニューレフトの全盛期、60年代の混乱
期に成人なさいました。あなたは、政治的・イデオロギー的に、当時のご自
分をどのように定義なさっていましたか? また、現在のご自分について
は、いかがですか?

【TE】60年代、私はまだアメリカのほんの子どもでした。私は、まさし
く二つのことを夢見ながら成長しました。政府公務機関、国務省に入り、外
交官になりたいと願っていました。国務省が基本的にユダヤ人を採らないと
は知らなかったのです。次いで、ロバート・シャプレンという名の両親の友
人で、ニューヨーカー誌にヴェトナムについて書いていたジャーナリストが
いました。彼は、筋金入りの記者魂、風雪に耐えた風貌の持ち主であり、子
どもの私は、とびきりホレボレしたものです。彼をすこぶる崇拝し、彼にな
ることを夢見ました。

ジャーナリズムと外交、どちらにしろ、お国に尽くすのだと思っていまし
た。60年代になってヴェトナム戦争が私を心から怒らせるようになってい
たにもかかわらず、この思いをずいぶん後まで引きずりました。イラク戦争
が今日のある種の人びとを動かしているのと同じく、ヴェトナム戦争が――
たぶん65年を起点として、予期せぬ種類の抵抗勢力へとまっしぐらに――
私を動かしたのです。64年時点では、いまだに私は戦争を半ば支持、ある
いは少なくともバリー・ゴールドウォーターに対抗するハト派候補、リンド
ン・ジョンソンを支持していました。選挙のあと、ジョンソンがあれほどの
戦争屋であるとわかって、衝撃を受けました。

67年までには、私はすっかり変身していました。68年に私の徴兵カード
を折り曲げてしまい、徴兵対策カウンセリング活動を開始しました。だが
――また、それこそ人間の複雑なところですが――この事態のまっただなか
で、大学院を退学したいと思い、USIA(米国情報庁)に応募しました。
プロパガンダ機関です。私はサイゴンには行かないと担当官たちに言ってや
りました。現実的には、望みのない考えです。私はフランス語を読むことが
でき、中国語を勉強していました。まるで額に矢を受けた雄牛のようでした
が、もっとましな光のもとでわが国を紹介できる、ブラジルのような別のど
こかを夢見ていたのです。

すると、連中は私を受け入れたのです! けれど、審査手続きにあまりにも
長く手間取り、彼らからのお誘いがあるまで、まだやっているとは思っても
いませんでした。1968年までになっても、私はいまだにどっちつかずの
ありさまでした。その後の60年代、と言うのは、たいてい70年代初期ま
でを意味するのですが、私は自分が左派に属しているとみなしていました。
後に、いろいろ一連のできごとがあって、私は書籍編集員として堅気の生活
に落ち着き、そして……

【NT】(笑う)……体制に組した。

【TE】いずれにしろ、身を固めたのです。

【NT】では、今は?

【TE】私たちはとても不思議な時代にいて、インターネットはとても奇妙
な生き物です。左翼に右翼……例えば、私は何人か反帝国の自由意志論者の
大物を相手にしていますが、その人たちは、わが国の公民権に降りかかって
いる事態を危惧しており、帝国に向かうわが国の針路に逆上し、この点で、
意見が一致しているのです。

じっさい、私が齢を重ね、ブッシュ政権が地球に大惨事をもたらしているの
を観察していますと、人間的で価値あるものを固守するという字義どおりの
意味で、私が生を受けた世界の保存する価値のあるあれこれが浪費され
る……いや、わが“母国”と称するこの不気味なものを動かしているエイリ
アン人種によって、風に吹き飛ばされているのを見ているという意味で、私
のほうが保守的であると思うようになりました。でも、もちろんのこと、
「保守」という言葉は、我慢のならない連中に私物化されてしまっていま
す。

奇妙なふうに、たぶん私はますます自己定義しなくなり、それでも指をキー
ボードにおいて、自分がなにを考えているか知っています。トムディスパッ
チを読めば、あなたもわかるはずです。

【NT】では、トムディスパッチはお国に尽くしているのですか?

【TE】イラクに対する侵略が私たちの眼前に急迫していたさい、3人の外
交官が――果敢な行動――国務省の職を辞しましたが、そのひとり、アン・
ライトにインタビューしたとき、あなたの軍隊や国務省における経歴とご自
身の反戦直接行動とに共通するものはなんですか、と私は質問しました。
「アメリカへの奉仕(service)」と彼女は言いました。わが意を得たりで
した。質問の直前に、私は“service”という言葉を書いていました。そこ
で私は、「やあ、そうおっしゃると思っていましたよ」と言って、そのメモ
を見せました。ニック、君のシリーズ記事“Fallen Legion”《「墜ちた軍
団」》の登場人物の多く、自国に仕えていると考えていたが、自分と国家を
裏切る、我慢のならない上官に仕えていると気づいた人びとに対し、私は格
別な共感を覚えるようになりました。そういう意味で、トムディスパッチは
国家に対する奉仕の私家版になったような感じがします。
Tomgram: Nick Turse on Bush’s Expanding “Fallen Legion”
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=39653

頭にきた人たちが私に書いてくることで、一番イライラする――同時に笑わ
せる――のは、どこそこへ帰れ、というやつです。

20年前だったら、ロシアへ帰れ、だったのでしょうが、いまなら場合によ
りけりで、中国やフランスになります。私は、航空券、それに北京ダックや
クロワッサンを頭の隅に浮かべます。楽しい2週間になりそうだな。だけ
ど、もっと深い内心では思っています。おい、トンマ野郎、ここはぼくのい
まいましい国であり、どこにも行くものか!

【NT】話は変りますが、今回のトムディスパッチ・インタビュー・シリー
ズをお始めになったキッカケはなんですか?

【TE】たぶん私が少しばかりセカセカした人間であるせいでしょうが、こ
のサイトはただもう発展を続けています。私の本職が書籍編集だった時期、
いくつか口述記録の歴史書を編集しました。そのころ、私の上司が素晴らし
いスタッヅ・ターケルの本を編集しましたが、スタッヅの原稿の最終的な読
み合わせをするために、私をまるで第二軍のように呼びつけていました。
もっと最近のことですが、私はスタッヅの本《1》を2冊編集しました。ま
た他にも、例えば、ヴェトナム戦争をあらゆる立場の人びとの口述によって
記録した、とびきり素晴らしい歴史書――その標題も、お国への奉仕を話題
にした、このインタビューにいかにもふさわしい“Patriots”《2.仮題
『愛国者たち』》――を私は編集しました。だから、私はインタビューのす
ばらしさを評価しています。
1.Studs Terkel “Hope Dies Last: Keeping the Faith in Difficult
Times”

2.Christian G. Appy “Patriots: The Vietnam War Remembered From
All Sides”

TUP速報111号
クリス・アピー「ヴェトナム世代からイラク世代への伝言」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/105?expand=1

去年の夏、私は、ハワード・ジン《1》、そしてボストン・グローブ紙のコ
ラムニスト、ジェームズ・キャロル《2》に連絡がつくと気づき、はて、こ
の人たちは私のためには書いてはくれないだろうが、インタビューはまだ経
験していなかったな、とふと考えました。サイト上で、ほとんどなんでも
やってみるつもりだ。挑戦しない手はない、と考えたのです。そこで、探し
たうちで最も安値のテープレコーダー2台を購入し、これがいま私の前に置
かれているわけですが、こういうことから、私の敬服する人びとの新しい弁
論の場――それの今秋出版の本――に繋がったのです。
1 速報549号 ハワード・ジン「帝国の拡大限界」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/595
2 速報556号 ジェームズ・キャロル「蚊とハンマー」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/602

【NT】読者の皆さんにトムディスパッチで学んだことをどうしていただき
たいですか?

【TE】私たちは、情報、あまりにも多くのイメージ、あまりにも多くの雑
音、あまりにも多くの断片の集中砲火を浴びています。言わせてもらいます
が、文化的壁紙[生活環境の背景にあるムードとしての文化]でさえもが喚
いています。おまけに、9・11攻撃に続く数年間のメディアについて目
だったことは、その機能不全でした。一方で、わが国は、最大規模の地政学
的な見地から世界を眺め、地球規模で――時に凄まじいほどに――点と点を
繋いでいく総動員政権をいただいていました。

チェイニー[副大統領]のような高官たちは、世界をエネルギー・フロー
[流れ]の用語で考えます。彼らは、相互に連関した軍事基地や地球規模の
軍事力といった用語で考えるのです。彼らは、大きく考え、戦略的に考え、
異なった国ぐにを一緒くたにしてきました。彼らは古くさい冷戦の戦士の眼
でロシアを眺め、撃退しろ、と考えます。だから、彼らは、エストニア、ウ
クライナ、ウズベキスタンを同じ枠組みのなかで考えているのです。この時
期の新聞を読めば、エストニアについての記事があり、ウクライナについて
の別の記事があり、さらにウズベキスタンについてのもうひとつの記事があ
りますが、一緒にひっくるめたものはありません。ウズベキスタンについ
て、アフガニスタンについて、イランについて、イスラエルについて、イラ
クについて、トルコについての記事を読むことはできます。だが一般的に主
流のアメリカの報道では、これらの国ぐにがたがいに近接していたり、ある
いは関連しあっていたりしていることや、わが国の指導者たちが、これらの
国ぐにを一緒くたにして、「不安定な弧状地帯」というような大雑把な地理
概念で考えていることは知りようもありません。

あの最初の数年間、新聞は、たとえ特定の主題に関して立派に報道していた
ときでさえ、点と点を結びつけない点では、目が点になるほどでした。私の
望みは、皆さんがトムディスパッチを読めば、点と点を結びつけた枠組み
《*》が与えられ、漫然と流れてくる次の点があれば、なにか大きなものに
それを組みこんで、言うならば、あれまあ、ある種の意味をもたせるように
なることです。
A Demobilized Press in a Global Free-Fire Zone
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?pid=2144

ものごとの枠組みをつくる私の方法を受け入れなければならないということ
ではありませんが、たぶんトムディスパッチは、絶好調であれば、皆さんに
報道の断片を適切に組み合わせる方法について考えさせます。

【NT】読者の皆さんがものごとをこの大きな枠組みのなかで見始めて、怒
りを覚え、なんらかの手引きを求めてきたら、どうです……

【TE】時おり、皆さんは求めてきます。

【NT】……そして、なにかやりたい。皆さんにどんなアドバイスをします
か?

【TE】君に残念な思いをさせることになるが、ニック、私が与えるアドバ
イスはひどく限られています。無作法な流儀で世界を統合することにかけ
て、正しいにしろ、間違っているにしろ、私はためらいませんが、世界でな
にをすべきか、人に説くことにかけては、ほんとうに慎み深いのです。

ああいう点と点を結びつけることができるからといって、私は予言者になる
べきだという理由をいささかも見いだしません。たいていの場合、私の返信
は非常に簡単です。人びとは自分がなすべきことをすでに知っている、と私
はいつも察しています。煎じ詰めれば、人それぞれの世界において、なすべ
きことは常にあるのです。だがそれがなにか、人に説く私とは、何者なのか
? だから、口に出しません。

おかしな話ですが、主題に関して人になにか説くとすれば、こうなるでしょ
う。「私は、トムディスパッチに掲載した記事を誇りに思っていますし、執
筆者の多くはもっと大きな場に書くこともできたのですから、なおさらで
す。だが、しばらく掲げてみたが、ガッカリし、家に帰ってしまうという非
常にアメリカ的なことをしなかったことが、私の最大の誇りです」

これが戦前の反戦運動の筋書きでした。イラク侵略に先立ち、私は壮大な反
戦運動が拡大する一方になるだろうと予言しました。やれやれ、私の間違
い。私は生涯でたくさんのことについて間違ってきましたが、この時期の厳
しい奇跡のひとつは、一例をあげれば、イラクで起こった事態のおおむね全
部は、私には最初から明白であると見えたことです。振り返って、侵略の直
前や、その後に《*》私が書いたものを読めば、何が起ころうとしていたの
か、多かれ少なかれ私が感づいていたことは明らかです。反戦運動について
だけ、私の間違いでした。彼らが戦争を阻止しなかったとき、その非常に多
くがガッカリして、荷物をまとめ、家に帰りました。
Withdrawal on the Agenda
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=94587

幸いにも、私は私のために書いてくれた筆者たちに学びました。例えば、レ
ベッカ・ソルニット《1》は、歴史の動きかたについて、単純な因果――試
行錯誤――が重要になるわけではないという事実について、非常のたくさん
のことを教えてくれました。彼女が説くには、壮大な運動を動かせば、それ
がなにを成しとげるのかがわかるとしても、何年ものあいだ見抜くことはで
きないが、それでもどこかのだれかに影響を与え、なにか予想外のことを達
成するのです。彼女が言う《2》には、歴史はチェッカー[チェス盤を使う
ゲームの一種]の勝負みたいではなく、天候に似ているのです。歴史はカニ
のように素早く横歩きします。これが私に希望を与えます。これが私に前進
をつづけさせます。私たちには知りようもないのです。
1.TUP速報617号 「このありえない世界に、ようこそ!」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/666
2.515号 「希望を語る」
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/560

だから、私はここにいて、62歳に届きそうで、これをほぼ5年間もノンス
トップでやっていて、テントをたたもうとせず、野営地を去らず、戦場を後
にしません。そのことをほんとうに誇りにしています。

【NT】あなたにとって、トムディスパッチが励みになる点はなにか、丁
度、たずねようとしているところでした。

【TE】私が挫けまいとしたのは、ひとえに感覚であり、もし質問する人が
いれば、それがまさに私が与えたいアドバイスです。皆さんがなにをすべき
か、私はわかりませんが、とにかくやることであり、まったく効果がなくて
も、望む結果が得られなくても、やめてはなりません。

【NT】では、あなたのトムディスパッチに寄せるヴィジョンはなんですか
? あなたは、記事の切り抜きサービスから出発し、メーリング・リストを
へて、ウェブサイトにいたりました。インタビューの本を出版しようとして
います。5年以内に、トムディスパッチはどこまで育ってほしいですか?

【TE】ニック、5年計画だって? そんなことよりは、私のことがわかっ
ているだろ。たいてい、私は現在までの5分間とこれからの5分間のことが
気がかりです。それ以外は、神にお任せ。明日の朝、おそらく私は目覚め
て、あの私の内なる声は聞こえなくなっているでしょうが、たぶん、それは
それです。これほど長くつづいたのは、私の誇りではありますが、トムディ
スパッチが永遠につづかないとしても、なにも不都合ありません。

私は、将来の計画についてあまりにも慎重に考えることに信を置いていませ
ん。この世界における一匹狼として、そうなのです。なにをしたいか、とば
かり考えることにあまりにも時間を空費していれば、絶望に思えてくるの
で、たぶん、したいこともやらなくなります。だから、なんであれ、たぶ
ん、目をつむって、やってみるのが最善なのです。

[原文]
Tomdispatch Interview: Tom Engelhardt, Adventures in Cyberspace
posted June 22, 2006
http://www.tomdispatch.com/index.mhtml?emx=x&pid=94587
Copyright 2006 Tomdispatch

[翻訳]井上利男 /TUP