FROM: hagitani ryo
DATE: 2006年10月31日(火) 午後11時14分
朝鮮民主主義人民共和国の核実験は「世界の終わり」の予兆なのか
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ヘレン・コルディコットさんが核実験に関連した論説を発表。カナダのオタ
ワ・シティズン紙に10月21日に掲載されました。それがコモン・ドリーム
ス・ドットコムなど世界のサイトに次々と転載されています。
なお、表題の「The Way the World Ends」はT.S.エリオットの詩に出てくる
一文「This is the Way the World Ends」(かくて世の終わり来たりぬ
T.S.エリオット「うつろな人間」より”The Hollow Men(1925) T.S.Eliot”
井上勇・訳)に由来すると思います。
というのは、この一文はイギリス出身でオーストラリアに住んだネビル・
シュートの小説「渚にて 原題:On the beach 1957年」に引用されてい
た文章だからです。
ご存じの通り「渚にて」は、第三次世界大戦が勃発し、北半球が4700発
あまりの核攻撃で滅亡し、その後2年を経て大量の放射性物質により徐々に死
を迎えるオーストラリアの人々を中心に描いています。グレゴリー・ペック主
演、スタンリー・クレーマー監督(「手錠のままの脱獄」「ケイン号の反乱」
などを監督「真昼の決闘」を製作)で映画化されたのは1959年です。その
後2000年にテレビドラマとしてリメイクされました。そのときの邦題が
「エンド・オブ・ザ・ワールド」だったそうです。
カルディコットさんはオーストラリア人で、シュートの小説も映画も知って
いたでしょう。その本の掲載されたエリオットの詩も知っていたことと思いま
す。そして核戦争の結果がどういうことになるかも。
なお、この小説に登場する原潜「スコーピオン」と同名の原潜が米海軍に実
在していました。戦略原潜SSN-589スコーピオンは、NATOとの共同
軍事演習から帰還する途中の1968年5月21日に消息を絶ちます。その後、
アゾレス諸島南西沖の水深約4000メートルの深海で発見され、乗員99名
は全員が死亡しました。
「渚にて」が書かれた時代、それは、オーストラリアにとっても核の脅威に
苛まれた時代です。しかしそれは、ソ連の核でも中国の核でもなく、自らの国
内で行われていた英国の核実験でした。オーストラリアに住む人々を被曝させ、
潜在的な死を与えたのは、同盟国英国の核兵器であったことは、今日では疑い
のない事実です。
ネビル・シュートにとっては、自分の生まれた国がやってきて自分の住んで
いる国に核兵器を「実験として」落としているという現実に直面したわけです。
核戦争ものでは定番の、直爆による死ではなく、放射能汚染の拡大による緩
慢な死を描いているところに、核実験への怒りと悲しみが伝わってきます。
なお、広島型原爆は16キロトン、長崎型原爆は21キロトン、北朝鮮核実験は
1キロトン未満であると推定されています。
オーストラリアで行われた英国の大気圏核実験の一覧を掲載しておきます。
実験年月日 場 所 実験名称 威力
52年10月 3日 モンテベロー諸島 ハリケーン 25kt 英国最初の核実験
53年10月14日 エミュー・フィールド トーテム・テスト1 10kt
53年10月26日 エミュー・フィールド トーテム・テスト2 8kt
56年 5月16日 モンテベロー諸島 モザイクG1 15kt
56年 6月19日 モンテベロー諸島 モザイクG2 60kt
56年 9月27日 マラリンガ バッファロー・ワン・ツリー 15kt
56年10月 4日 マラリンガ バッファルー・マルコー 1.5kt
56年10月11日 マラリンガ バッラロー・カイト 3kt
56年10月22日 マラリンガ バッファロー・バークウェイ 10kt
57年 9月14日 マラリンガ アントラー・ラウンド1 1kt
57年 9月25日 マラリンガ アントラー・ラウンド2 6kt
57年10月 9日 マラリンガ アントラー・ラウンド3 25kt
残念ながら、この年代前後に生まれた人々は、この実験による被曝を受け、
潜在的な発ガンなどのリスクが高くなっていることは明らかです。もちろん米
国や旧ソ連などの核実験場周辺も同じことですが、あまり話題にならないオー
ストラリアの例をこの機会に示しておきます。
劣化ウラン研究会/TUP 山崎久隆
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原文:http://www.commondreams.org/views06/1021-24.htm
世の終わり来たりぬ
オタワ・シティズン紙(カナダ)
2006年10月21日(土)
北朝鮮に関してあらゆる誇大広告がなされる一方で、厳然たる事実として、世
界にはまだ何千という米国とロシアのICBMの「砲身」が存在している
ヘレン・コルディコット
北朝鮮の最近の核実験に関連する問題を過小評価することはできません。
北朝鮮の山岳地帯での1キロトンにも満たない小さな核爆発(ちなみに広島
原爆は13キロトン)の後に引き続いて起きたのは、何百万もの人々が栄養失
調になっている、この絶望的に貧しい国に対する、米国の政権による過酷な経
済制裁の実施要請でした。それは病的恐怖心にとりつかれた政権をいっそう追
い詰めるものでもありましょうが、他方で、核軍備競争が連鎖的に変動して制
御不能に陥るのではないかと世界の人々は恐怖の目で見つめています。
今までにもまして多くの国が核クラブの仲間入りをしようと準備をしていて、
核の水平拡散(●)が本当に信じられないほど重大な問題であるにもかかわら
ず、この星の生命体のほとんどを絶滅の危険にさらし続けるひとつの一貫した
顕著な核の脅威が国際社会によって無視されています。
●訳注:核兵器国の数の増大を、核拡散の中でも「水平拡散・横の拡散」と言
い、核兵器国が、その保有する核兵器の数を増やしたり質を高めることを「垂
直拡散・縦の拡散」と言います。
事実、世界を核の人質に取っている真の「ならず者」国家はロシアと米国で
す。世間一般の思いこみに反して、大規模な核攻撃の脅威は事故によるもので
あれ、人間の間違いや不正によるものであれ、増加しています。
世界中の30,000発にのぼる核兵器は今日、米国とロシアがその96
パーセントを保有しています。これらのうちロシアは米国とカナダの目標に、
所有する8,200発の戦略核弾頭の大部分を向けており、他方米国もロシア
の地下ミサイル格納庫および指令センターに対して、所有する7,000発の
戦術・戦略核兵器の大部分を向けています。米環境保護団体の天然資源保護委
員会の報告によると、これらの熱核弾頭は、一発につき広島に投下された爆弾
のおよそ20倍(●)という破壊力を持ちます。
●訳注:この天然資源保護協会のデータによれば最新鋭の熱核兵器(水爆)で
あるB61-11の核爆弾は97年11月から55発を米空軍が実戦配備して
いる地中貫徹型(これもバンカーバスターと呼ばれています)の弾頭を有し、
その威力は可変式で10キロトンから350キロトンです。この「モデル
11」の威力を広島原爆16キロトンで割れば、約20発相当となります。
出典:Table of US Nuclear Weapons Stockpile, 2002
http://www.nrdc.org/nuclear/nudb/datab12.asp
これら7,000発の米国戦略核兵器のうち2,500発が一触即発的な警戒
態勢に常時置かれている大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)に配備されていま
す。また、同様に即座に発射することが可能な14隻のトライデント型潜水艦
に搭載したミサイル(SLBM)にも、2,688発もの水素爆弾を配備して
います。
米防衛政策を分析する国防情報センターによれば、(核)攻撃を受けた疑いが
ある時、戦略空軍司令部の司令官は核攻撃警報が正しいかどうかを判断するの
に、わずか3分しかありません。司令官は、大統領の所在をつかむために10
分、攻撃の選択肢を伝えるのに30秒を使うとされ、次いで大統領は、核攻撃
実行の可否、そしてもし実行するならあらかじめ設定された標的計画のどれを
使うかを考慮、決定するのに3分使うとされています。
いったん発射されると、ミサイルはロシアの標的に到達するまで10分から
30分を要します。
ほとんど同一の状況が、ロシアでも存在します。ただし、米国カナダ連合に
よる北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の早期警戒設備と異なり、ロシア
のシステムは急速に老朽化が進んでいます。米国からの先制第一撃に対し、人
工衛星の早期警戒システムがほとんど機能していないため、旧式と言える超水
平線レーダー(OTHレーダー)に頼ることを余儀なくされています。
ロシアの軍および政治指導部は、この異常な冷戦後の状況にふさわしく、病
的な恐怖心を抱いています。そんな状況を象徴するがごとく、1995年1月
にボリス・エリツィン大統領は、自らの戦略ロケット軍を出撃させる核攻撃ま
で10秒以内という事態に直面しました。ノルウェーの気象衛星の打ち上げが
モスクワで米国の先制核攻撃と誤認されたからです。
北米大陸で人口50,000人以上のほとんどの市や町は、少なくとも1発
の水素爆弾の標的にされています。100の都市に対して落とされたたった1,
000発の爆弾で、地球に核の冬をもたらし、ほとんどの生命の絶滅を引き起
こすかもしれません。そして、北半球にある主要都市は300たらずでしかな
いのです。
これこそが核兵器の過剰性をあらわしています。例えば、2002年1月に
米国の外国軍事研究局報告「アメリカ内の軍事標的の原型、ソビエト軍の評
価」によれば、たとえばニューヨーク市は主要な軍事施設についで、大西洋地
域で唯一の最重要目標であるとされています。1980年代に米国議会科学技
術監査局から、ある報告が出されました。今もって重要なこの報告では、ソビ
エトの核戦略でニューヨークにある3つの空港のそれぞれを2発のメガトン級
水爆が標的としていると推定しています。また主要な橋にそれぞれ1発、
ウォール街にも2発、4箇所の製油所にそれぞれ2発が割り当てられていると
推定しています。主要な鉄道の駅および発電所も港湾施設と同様、標的にされ
ていました。
連邦危機管理庁(FEMA)はニューヨーク市が核爆発と、その結果生じる
火災旋風と放射性降下物(死の灰)で壊滅すると推定しています。
何百万という人々が即死するでしょう。生存者もその後、火傷や放射性物質
からの被曝でやがて死ぬでしょう。
恐ろしいことに、ロシアと米国の双方の早期警報システムでは、山火事、人
工衛星の打ち上げあるいは雲や海からの太陽光の反射によって引き起こされる
誤警報が毎日のように出されています。もっと直接的懸念は米国とロシア双方
のコンピュータ化された早期警報システムおよびコマンドセンターに侵入し混
乱させる、テロリストあるいはハッカーの脅威です。
そのために、世界が核クラブの中にちっぽけな新参者を受け入れようとする
かもしれないとき、米国家安全保障会議、米政権、米国議会、カナダ政府やク
レムリン(ロシア大統領府)が最も重大な危険を認識することに失敗します。
それは、脆弱な一触即発的警戒体制に置かれている何千もの水素爆弾の存在で
す。
何が世界的な精神の麻痺状態とも言える状況を作り出したのでしょうか、そ
してこの問題はなぜ、公にはけっして取り上げられようとしないのでしょうか。
ロシアと米国が友好的な関係を維持している今こそ、1988年にレイキャ
ビックでロナルド・レーガンとミハエル・ゴルバチョフによって確立された非
凡な先例を推し進め、双方が緊急に核兵器を廃止することに同意する時です。
そうしてこそ核保有超大国は国際連合を通じて合法的に、そして活発に多国
間の核軍縮を促進し、核の水平拡散を阻止するために他の国々を監視し規制す
る道徳的な権威を持つことができます。
もし超大国が核武装を解いたならば、フランスと中国は核兵器を廃棄するこ
とに同意しています。核拡散防止条約に署名していないイスラエル、パキスタ
ンおよびインドには、さらに強い圧力が必要でしょう。
ノーベル賞受賞者で国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ
事務局長は、核軍縮を確立するための明確なロードマップの作成を呼びかけて
います。
私たちにはもう時間がありません。
本稿の執筆者のヘレン・コルディコットは小児科医であり、ワシントンに本拠
を置く核政策研究所の代表でもあります。
核政策研究所 http://www.nuclearpolicy.org/
彼女は「原子力は解答ではない」の著者です。
http://www.nuclearpolicy.org/NewsArticle.cfm?NewsID=2257
●訳注:「原子力は解答ではない」はTUP速報492号『原子力発電は「解
決」ではなく「問題」である』として訳出しております。次のURLで読むこと
が出来ます。
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/535