TUP BULLETIN

速報646号 リバーベンドの日記 11月5日 サッダーム、あなたの出番よ 061107

投稿日 2006年11月7日

DATE: 2006年11月7日(火) 午後9時48分

サッダーム死刑判決はブッシュ最後の切り札か―米中間選挙を前に


戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる若い女性の日記 『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思い ・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外へ出 ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけあけくれる毎日。 すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの 日記、ぜひ読んでください。(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェ クトの連携によるものです)。 http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2006年11月5日(日)

なにもかもだめになったら…

・・・独裁者を処刑せよ。すごく単純な話。アメリカ兵が何十人と束になって 殺されているならば、占領した国がもっと小さな国々に分裂するおそれがあるな らば、私兵集団と暗殺部隊が通りをうろつき、宗教指導者たちの集団が権力を握 っているならば―独裁者を処刑せよ。

裁判の初日から、だれもがこの判決を予想していた。最初の裁判官でいけば、 イラク国民が弁明を聞いて真相を知ることができるような、まともな審理が行わ れるかもしれないと、みんなちょっと思ったのだけど。そんな考えは、検察側が 最初に出してきた偽の証人で消え失せた。そのあとに起きたことは、あまりにも ばかばかしい。今でも信じられないくらい。

弁護人や被告人が立ち上がって話し始めようとすると、決まって音声が突然聞 こえなくなってしまった。私たちに証人の声は聞こえたけれど、その姿を見るこ とはできなかった―証人はカーテンの陰に隠れ、声も変えられていた。ドゥジャ イル事件で亡くなったはずの人たちが元気に生き返って証人として現れた。

裁判官が次から次へと換えられた。どの裁判官も公平すぎるとみなされたから だ。彼らは被告人にただちに刑を宣告しなかった(メディア対策のためだけだと してもね)。いちばんの見ものは最後に連れてこられた裁判官。こいつは、チャ ラビとしか張り合えないほどの名声の持ち主だった。有名な詐欺師かつ殺人者で、 政治的糾弾を逃れるためではなく、父親が経営するレストランで盗みを働いたあ と、父親の激怒を逃れようとして、イランへ逃亡していたのだ。

だから私たちはみんな結果を前もって知っていたってわけ(マリキなんて、判 決の24時間前にテレビに出て、国民に対して「喜び過ぎないように」って言っ ていた)。現時点で私が驚いているのは、今のイラク政府があまりにも愚かだっ てこと。タイミングがばかばかしい。米中間選挙の直前よ?ブッシュにとってな んて都合のいいことでしょう。現在のイラクは、侵攻と占領開始以来最悪の状態。 今となっては2003年4月がハネムーン月のように思える。今こそサダム処刑 にふさわしい時ってわけね?

すごく心配だ。これがブッシュの最後の切り札なのだ。選挙がやってきて過ぎ 去り、過激主義者と盗人たちが権力を握った(いや、いや、ワシントンのことじ ゃなくて、バグダードのことを言ってるのよ)。イラク人の血の流れる川で溺れ てしまったかのような憲法は、選挙のあとは忘れられてしまった。操り人形のだ れかが国をばらばらにしたいと思ったときだけ、憲法は掘り起こされる。復興は、 来世で望むことになってしまった。私たちは、もはやビルも橋も望んでいない。 分割されないイラクと安全があれば、十分すぎるほど。もしブッシュが「独裁者 を処刑せよ」カードを使う必要があるのなら、事態は想像以上に悪化しているに 違いない。

この数十年、イラクの状況が今ほど悪いことはなかった。占領は失敗だ。親米、 親イランのイラク政府はどれもこれも失敗した。新しいイラク軍は救いがたい冗 談となっている。今こそサッダームを殉教者にすべき時ってわけね? なにもかも あまりにひどいので、占領を支持するイラク人でさえ、初期のころの「ウィー ラブ アメリカ」という熱狂を翻しはじめている。ライス・クッバ(別名ナマズ氏。 大きな口をしているのと、いつも馬鹿みたいに見えるから)は、最近BBCに登場し、 これは正義の始まりにすぎない、現在人びとの殺害に関与している者たちもまた、 法の裁きを受けねばならないと言った。彼は、自分が戦争と占領の支持者だった ことや、残忍な親米政府の一員だったことを忘れているらしい。けれども歴史は クッバ氏を忘れはしない。

イラクでは判決に反対したり賛成したりするデモが起きている。サッダーム支 持のデモはイラク軍に攻撃されている。今のイラクのメディアがどんなに自由か、 次のようなことが示している。サッダーム支持のデモを取り上げたテレビ放送は 閉鎖させられた。イラク治安部隊が突然襲撃したのだ。新生イラクにようこそ。 これは、サラヒッディン放送とザウラ放送からの映像。(以下サイトではそれぞ れの局のテレビの放映画面が挿入されています―訳者)

ザウラ放送。字幕には「バグダード ザウラ衛星放送は政府の命令により放映 を停止しました」とある。

サラヒッディンの緑色のスクリーンが突然現れた。「サラヒッディン衛星放送」

シャルキーヤ放送が次のようなニュース速報を伝えた。サラヒッディン放送と ザウラ放送が閉鎖されました。治安部隊が放送局を襲撃しました。

これはあの男ひとりの問題じゃない―大統領たちは職については去っていく。 政府も成立しては消えていく。これは、国全体が、そして、イラク国内や国外に いるすべてのイラク人が、アメリカの政治に翻弄されていると感じることへのい らだちだ。思いのままに前に後ろに動かされるチェスの駒にされてしまったと感 じることへの憤激だ。こんなにも国民が必要としていることが見えず、気にもか けない政府を持っていることへの腹立ちだ。政府の連中は、気にかけているふり をすることすら必要と感じていないかのようだ。そして死。何千人もの死者と死 に瀕する人たち。ブッシュがのうのうと座ってにやにや笑い、グリーンゾーンの 外側にいるイラク人が一人残らず負けつつあるこの国における進歩だの、勝利だ のと嘘を並べているときに。

もう一度言おう・・・なにもかも、タイミングは完璧だ。米中間選挙の2日前。 もしこれでもわからないのなら、悪いけど、あなたは馬鹿だ。さあ、次の演説で ブッシュは何回この判決を「成功」と言い立てるでしょうね?

最後に一言。亡くなった米兵の家族たちが「息子たち、娘たちが何のために命 を捧げたのか」を知るためにイラク北部を訪れるというのをどこかで読んだとこ ろ。それが訪問の目的なら、じゃあ、「紳士淑女のみなさま―右手に見えますの は、イラク石油省でございます。左手にはドーリー精油所がございます…みなさ ま、このギフトバッグをお受け取りください。中には、アッ=サイード・ムクタ ダ・アッ=サドル(彼に末永き生命と繁栄がありますように)の3×3インチの カラーポスター、シスターニー師のTシャツ、南イラクイスラム共和国を添えて書 き直したイランの正確な地図が入っております。また…ちょっと、あんた、ほら ―後ろにいる女―そこに見えているのは髪の毛か? きちんと覆いなさい、さもな ければ家に帰れ」

そう、彼らはこのために命を捧げたのよ。

午後8時25分 リバー (翻訳:リバーベンド・プロジェクト:いとう みよし)