TUP BULLETIN

速報732号 イラクではなく、パキスタンこそ「最前線」

投稿日 2008年1月3日

FROM: Kana Koto
DATE: 2008年1月4日(金) 午前1時16分

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パキスタンとアメリカの「隠された物語」
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パキスタンの元首相ベナジル・ブットが暗殺されて以来、主流メディア報道では
この暗殺の動機や暗殺者の正体をめぐって多くの憶測が飛び交っている。

ブット女史が暗殺された当日、彼女はアメリカの上院議員アーレン・スペクター
(共和)と下院議員パトリック・ケネディ(民主)との会合を予定していたと言
われている。ブットの補佐官によると、この会合では、パキスタン軍事政権の諜
報機関により、ムシャラフ大統領に有利な選挙結果を操作する計画が進められて
いることを訴える報告書を手渡す予定であった。さらにこの報告書は、アメリカ
の「対テロ戦争」援助資金がこの不正選挙工作に流用されていたことも示していた。

【注:アメリカ援助金の名目は、パキスタン軍が行う西部戦線(パキスタンとア
フガニスタンの国境地帯)での「対テロ戦争」の支援である】

http://www.mcclatchydc.com/homepage/story/24001.html

アメリカの主流メディアでは、パキスタンの混乱と核兵器管理の脅威をめぐっ
て、中東への軍事的介入をさらに正当化する要素を強調する報道が目立ってい
る。一方パキスタンの混乱の評価において「軍の統率と結束は維持されており、
実際に核兵器保管場所を警備する中核組織はきわめてよく統率されている」と断
言する専門家の見解を紹介し、アメリカ軍事力によるパキスタン政治介入がいか
に深く確固としているかを示唆するような記事も見られる。

http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2330740/2483197

2008年は米国の大統領選挙がある。各党の候補者たちはアメリカ国民を説得
する「偉大なアメリカの物語」の筋書きを競っているが、パキスタンの混乱に
よって、都合の悪いアメリカの過去の暗い歴史を暴露する「隠された物語」が頭
をもたげようとしている。

1980年代のイラン・コントラ事件も、この「隠された物語」の一部である。
この事件では、軍部が軍事資金を議会の承認を得ずに流用し、麻薬や武器の密輸
を支援した。さらにスキャンダルの背景には、他国の民主的選挙に介入し、軍事
政権の擁立を助けるアメリカの政策があった。

今後、パキスタンの紛争やイラク戦争が、複雑なプロパガンダ報道によって、さ
らに権力者に都合のよい「輝かしい物語」に刷りかえられる可能性がある。私た
ち市民は様々なニュースを多角的に検証していく必要があるだろう。

このTUP速報では、危険を冒してイラン・コントラ事件を追い、多くの真実に光
を当てたジャーナリスト、ロバート・ペリー氏のブログ記事を抄訳して、彼が今
回のパキスタンの紛争をどのように把握しているかを紹介する。

抄訳・解説:TUP/宮前 ゆかり

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イラクではなく、パキスタンこそ「最前線」
www.consortiumnews.com

ロバート・ペリー (Robert Parry)
2007年12月28日

元首相ベナジル・ブットの暗殺が起きて、核兵器を持つパキスタン国内に混乱が
広がっている。ブッシュ政権はテロ・グループ、アルカイダが西側世界に対する
全面戦争でイラクを「最前線」に位置づけているという古いデマを流してきた。
今回の事件もアルカイダの戦略目標について二枚舌を使ってきたブッシュ政権が
払う犠牲の一部なのである。

敵の言うことに耳を傾けろというジョージ・W・ブッシュの単純なアドバイスの
おかげで、大多数のアメリカ人はオサマ・ビン・ラディンやアルカイダ指導者た
ちがイラクを主要な戦場であると考えていると信じている。

しかし、アルカイダの通信を傍受して収集された諜報情報によれば、ビン・ラ
ディン最高司令部は、イラクの役割を米軍の力を都合よく牽制するものと位置付
けており、「最前線」としては見ていない。

例えば、2005年にイラク戦争が激化している最中に、アルカイダの第二司令
官アユマン・アル・ザワヒリが書いたとされる手紙の内容だ。アフガニスタン国
境近くに身を隠しているトップ指導者たちの資金難を救うために、イラクで戦闘
中のアルカイダ工作員たちに対し10万ドルを融通するように要望している。

資金の流れは、パキスタンからイラクへではなく、逆方向なのだ。米国諜報機関
の分析官たちは、通常「最前線」はこのような扱いを受けないということを認識
している。

2006年6月に死んだヨルダンのテロリスト、ムサブ・アル・ザカウィに送ら
れた、もう一通の略取された手紙によると、「アティヤ」として知られるビン・
ラディンのトップ補佐官は、イラク内でのザカウィの無謀で軽率な行動について
厳しく非難している。

アティヤ・アブドゥル・ラフマンという名のリビア人であると考えられているア
ティヤからのメッセージには、政治的な力を構築し、米国の占領を長引かせるた
めにはザカウィはもっと慎重に行動する必要があるという点が強調されていた。
「戦争を長引かせることは我々に有利だ」とクギを指している。

彼らにとって、イラクから素早く米軍を追い出すことや、世界的聖戦を繰り広げ
る基点としてイラクを利用することは重要ではない。米国をイラクの泥沼にはま
り込ませることが、戦略的ゴールにとって有利であることをアルカイダは理解し
ているのだ。

米国の分析官たちにとって、これは分りきったことだ。イラク戦争を「長引かせ
る」ことで、アルカイダはパキスタン内に基盤を再構築する時間が稼げるからで
ある。ここには1980年代のアフガニスタンでCIAが仕組んだ戦争時代に遡る
昔から、パキスタン諜報機関内にイスラム原理主義の過激派に対する支持者たち
がいる。

チャーリー・ウィルソンのブローバック

新作映画「チャーリー・ウィルソンの戦争」で担ぎ上げられているそのCIAに仕
組まれた戦争では、ロシアの異教徒を追い出すためにアフガニスタンに集まって
きたアフガン軍閥指揮者やアラブ聖戦戦士たちに対し、何十億ドルにもおよぶ米
国の秘密の資金や武器がパキスタンの諜報部を通して供給された。このような若
いアラブ聖戦戦士の一人に、裕福なサウジ国の若者オサマ・ビン・ラディンがいた。

ソ連の侵攻に抗したアフガン抵抗軍を支援するためにパキスタン諜報に依存して
いたレーガン政権は、同時にパキスタンによる核兵器機密開発から目をそらせ
た。これはアフガニスタンでソビエト軍に打撃を与える助けをパキスタンから得
たことに対する取引のひとつだったようだ。

1989年にソビエト軍が撤退した後も戦争は続いた。勝利を収めた米国はソビ
エトが残していった非宗教的なアフガン政府との交渉に応じようとしなかった。
ジョージ・H・W・ブッシュの政権はこれら「ソビエト傀儡」を排除または殺害し
て、その代わりにCIAが支持するイスラム教原理主義者たちに置き換えた。

しかし、1990年に同盟関係に変化が起こり始めた。クウェートからイラク軍
を追い出すために確立されたサウジアラビア内の米国軍基地がビン・ラディンの
反感を買い、それによって彼はサウジ王族内のパトロンから疎外されることに
なった。

1991年にクウェートが解放された後も米軍が居座り続けたため、ビン・ラ
ディンはこの古くからのアメリカ人の支援者たちもまたムスリムの土地を侵略す
る異教者にすぎないのだという見方を強くした。アフガニスタンにいるビン・ラ
ディンの同士たちは新しい敵に視点を移し、アルカイダ(「基地」の意)として
知られる新しい組織を展開し始めた。

ブッシュ政権はこの複雑な歴史をアメリカ国民の意識から消し去ろうとしてき
た。ロナルド・レーガンとジョージ・H・W・ブッシュによる輝かしい冷戦勝利と
いう筋書きにひびが入ることになるからだ。

暗い背景

しかし、この冷戦末期の翳りのある闘争こそが911攻撃の背景となっている。
これがブッシュによるアフガニスタン侵略と、ビン・ラディンおよび彼の原理主
義タリバン同盟者たちの追放へとつながっていくが、ビン・ラディン、ザワヒ
リ、その他主要な指導者たちを捕まえることには失敗している。

アフガニスタンの事態収拾に取り組むどころか、ブッシュは突然イラクへと回り
道をした。古い恨みの仕返しや、説明のつかない言い訳に基づく決断だった。
ブッシュはアメリカ国民に対し、この戦争が必要だと売り込み、それはイラクの
非宗教的独裁者サダム・フセインが宗教的原理主義者ビン・ラディンと結託して
おり、大量殺戮兵器を彼に手渡すかもしれないからだと説得した。

この嘘がばれると同時に、執拗なイラクの反乱勢力が現れ米国占領に抵抗し始め
た。ブッシュは当初これら抵抗勢力はビン・ラディンのコントロールの元に活動
するアルカイダ派生勢力であると説明した。

ここでもまた米国諜報部門は、別の問題を把握していた。スンニとシーア両派の
イラク人がアメリカに取って代わろうとして、お互いに優位な位置を占めるため
に競争している中で、ザカウィなどの暴力的な外国聖戦戦士の集団がスンニ勢力
に取り入ろうとして大混乱を招いている。

ブッシュは結局、これらイラク抵抗勢力が実は地元の勢力であることを認めた
が、彼は今でもアルカイダがイラクを基点に、スペインからインドネシアに至る
まで、世界的「カリフ統治」を計画していると主張している。このような人騒が
せなデマでアメリカ人の一部を怯えさせ、ブッシュの戦争政策が支持されている。

「このカリフ統治は、ヨーロッパから北アフリカ、中近東、そして東南アジアに
広がる現在および過去のムスリム国土を網羅する全体主義イスラム帝国であ
る。」ブッシュは2006年9月5日の演説でも「アルカイダの言葉を借りた」
決まり文句を使った。

しかし、分析官の多くはブッシュが描く悪夢のシナリオは非常識であると判断し
ている。イスラムの世界の内部にある深い分裂や最近大きく報道されたアンバー
ル州の穏健派イラク人スンニ派による拒否を含め、多くのムスリムがアルカイダ
に敵意を抱いていることを考慮すれば、当然だろう。

2006年4月当時の国家諜報要員たちのコンセンサスを示す国家諜報予測報告
(NIE)のひとつによると、「世界聖戦運動は分散化しており、首尾一貫した世
界的戦略を欠き、散漫になってきている」

さらに、NIEでは、イラク戦争はイスラムのテロリズムを弱めるどころか、「世
界聖戦運動に対する支持者育成に貢献する大きな要因」となっているとする結論
を出している。

イラク戦争はすでに5年目を迎えようとしている。このため米国は、パキスタン
内で再編成されたアルカイダの基盤やアフガニスタンで再び力を盛り返してきた
タリバン軍に対抗するために必要な軍事的および諜報上の資源配置能力を妨げら
れている。

つぶされた希望

そのような状況の中で、ブッシュ政権は2007年10月にブット元首相がパキ
スタンに戻ることを支持した。彼女がパキスタンの政治でより穏健な要素を活性
化し、イスラム過激派を周辺的立場に追いやってくれるかもしれないという甘い
考えがあった。

しかし、戦線を拡大しすぎている米国軍や諜報機関は、ブットの保護にほとんど
何も手を下すことができない状態だった。パキスタン大統領ペルヴェズ・ムシャ
ラフに対し彼の政治的ライバルにもっとセキュリティを与えるように怒鳴りつけ
たところで、自分自身も何度も暗殺未遂を生き延びてきたムシャラフに、どれほ
どのことができただろうか。

ブットの死とパキスタン全土に吹き荒れている暴動に直面するブッシュのイラク
戦争支持者たちは、これらの出来事は大統領が正しかったことを証明するもので
あると論じるだろう。そしてテロリズムと戦うにはもっと強硬な手段が必要であ
り、次の大統領はブッシュの唱えるイスラム過激派との「長期にわたる戦争」と
いう概念を推し進める人間でなければならないと主張するであろう。

しかし、現実はまたもや異なるのである。アメリカの報道ではほとんど取り上げ
られていないが、ビン・ラディンやその他の過激派たちはブッシュの傲慢さと好
戦的な態度を巧みに利用して、ムスリム世界内での彼らの戦略的立場を強化した
ことが明白になっている。

ブッシュをイラクに集中させておくことにより、アルカイダとその同盟者たちは
パキスタン内でもっと致命的な脅威へと変身するための時間を稼ぐことができ
る。それには、新しい混乱状態によりアルカイダが核爆弾を思いのままにすると
いう最終的な戦利品を獲得するかもしれない危険性を伴っている。

原文URL:http://www.consortiumnews.com/2007/122707.html

【著者について】
ブログサイトwww.consortiumnews.comの著者ロバート・ペリーは1980年代に
アソシエート・プレスおよびニュースウィーク誌に多くのイラン・コントラ関連
記事を発表した。現在独立ジャーナリストとして活動している。
参考関連情報は次のとおり。
彼の新著「Neck Deep: The Disastrous Presidency of George W. Bush(仮題:
首までどっぷり - ジョージ・W・ブッシュ大統領という大災害)」は彼の二人
の息子たちとの共著である。(参照:neckdeepbook.com )
ペリー氏の前著書2冊「Secrecy & Privilege: The Rise of the Bush Dynasty
from Watergate to Iraq」と「Lost History: Contras, Cocaine, the Press &
‘Project Truth’」にもコントラ事件から現在に至るまでの歴史的背景が説明さ
れている。
サイト内の “Al-Qaeda’s Fragile Foothold “も考察上の参考になる。

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配信担当 古藤加奈
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