TUP BULLETIN

速報749号 イラク占領5年目-高まる女性の危機

投稿日 2008年3月20日

FROM: tup_bulletin
DATE: 2008年3月21日(金) 午前2時26分

イラクの占領から新政権樹立へのプロセスに内在していた矛盾が
女性を苦しめている-権利と自由を求める声が聞こえる
*********************************************************************
国際婦人デーは女性達が元気よく祝賀の会を開く機会である。しかし今年の駐
米イラク大使館では黙祷で会が始まった。多くのイラク女性が殺害されている
からだ。占領と新政権と激化する暴力とはどういう関係にあるのか。ベン・ラ
ンドーが分析している。
(向井真澄/TUP)
*********************************************************************

女性の人権侵害を放置したイラク復興

ベン・ランドー(UPI編集局員) ワシントン、3月14日、UPI

イラクの女性達は次のように言っている。社会がサダムの残虐な支配から街路
での暴力と宗教的原理主義に直面する社会へと移行する中で、服装から車の運
転、登校まで、あらゆる面で女性が攻撃の的とされることが増えている。

サミール・スマイダイエ駐米イラク大使は、大使主催の国際婦人デー祝賀会へ
の歓迎の辞を、女性の同胞に対する称賛ではなく、黙祷で始めた。

大使館のレセプション・ホールを埋めたゲストは頭を垂れた。モスレムのヒジ
ャブで頭部を覆った者もいたが、ほとんどはそうではなかった。大使は「イラ
クの女性達が耐え忍んできたこと、現在も耐え忍んでいることを忘れないため
に」と述べてから、簡単にイラクの女性達の功績を紹介した。1923年女性誌の
創刊、1935年イラク初の法学部の女性卒業者と女医が誕生、1938年イラク初の
女性裁判官誕生。

大使はさらに、「それはイラクの近隣の諸国が女の子に学校教育を許さなかっ
た時代のことでした」と述べた。

イラク憲法はそのような事態が起こらないことを保証することになっている。
議会自体も4分の1は女性でなくてはならないとされている。女性はサダム後
の選挙で投票に参加したし、ブッシュ政権はそのことを好んで世間に想起させ
てきた。ところが、暴力によってイラクの女性が伴侶を失い、自らも性犯罪の
犠牲者となりがちな今、進行する抗争についての米国の注意喚起は見当たらな
い。

大使は「イラクの女性は常にそのような絶望的な状態に置かれていたわけでは
ありません」と述べた。彼女達は「驚くほどの勇気と堅忍不抜により、…
尋常ならざる状況下で家族の世話をしてきました。」

Women for Women International が発行した新しい報告書には、調査対象のイ
ラクの女性達は、2004年以降、状況は悪くなったと回答していると記されてい
る。イラク女性の回答者のうち70%近くが、イラクでは女性が攻撃される事例が
増加しており、「以前よりも女性の人権が軽視され、所有物とみなされること
が多くなり、経済が悪化している」ことに原因を求めている。76%を超える回答
者が、「自分の娘も通学できなくなった。米国の占領以来、女児の通学をめぐ
る状況は悪化してきた」と回答している。

このような逆境にあって、先週、女性達はイラク各地でこの傾向に抗議するデ
モや集会をもった。ワシントンでは、大使館でのイベントでの女性達へのスマ
イダイエ氏による称賛に先立って、イアマン・アル・ジブーリ博士と7人の非
イラク人の女性に対して、コンドリーザ・ライス国務長官より国際女性勇気賞
が授与された。

国際移住機関の国別医療担当官であるジブーリ氏は、イラクの子ども達が国外
で医療を受けられるよう支援したことにより受賞者に選ばれた。

ジブーリ氏はUPIとの会見の場で、女性のこの状況は「悪化している」と述べた。
サダム時代、「女性はひとりで外出や車の運転ができ、いろいろな行動が可能
だった」が、今ではそのような活動を行なうことは誘拐や死の危険を冒すこと
になり、慎みが不足しているとみなされる衣服の着用や伝統的なヒジャブで頭
部を隠さないでいることについても同様の危険が伴なう、と述べた。

「これは自分達の目指す方向とは異なる行動をしていることになるので、まさ
に心理的トラウマとなります。国は国民すべてのためのものです。布で身を包
まなければ善良なる市民となれないはずはないのです。被り物をするか否かは、
完全に私の個人的自由です。」

イラクの女性にとって高まる危機に対する米国の反応といえば、何百万ドルも
の資金を投じたエンパワーメント・プログラムにかかわる文書の中で多くの言
葉が費やされている一方、政府指導者の発言としては何も語られていない。

ある政府高官はUPIに対して、「もちろん、イラクの女性の人権と諸事業に対し
て、政府は関心を維持している」と述べた。この高官は、憲法と数多くの米国
主導のプログラムの存在を指摘した。

少なくとも、ずっとさかのぼって2003年8月には、ホワイトハウスはイラクの女
性に関していくらかの関心を示していた。『イラクにおける進歩の100日報告』
の「イラク女性の生活向上のための10のステップ」の節もその一つである。

たとえば、国務省のイラク女性のための民主主義計画(Iraqi Women’s
Democracy Initiative)には2004年以来2億4千5百万ドルがつぎ込まれている。
その目標は、政治、メディア、事業および市民社会への女性の参加とリーダー
シップの発揮を保証することである。

しかしながら記者会見では通常、イラクへの脅威といえば、イランかアルカイ
ダを指し、ワシントンが同盟者と呼んでいる諸政党が擁護する、イラク国内の
宗教的原理主義の台頭は指摘されない。

最近のことでは、先週金曜日に行なわれた国際婦人デーに寄せるブッシュ大統
領の演説には、イラクに関してよく使われる文が二つ含まれていた。「イラク
では、かつてサダム・フセインがレイプ部屋を使って女性に暴虐を働き、その
家族を侮辱した。今日では、我々の行為によって、イラクの女性は自由で民主
的な選挙で投票したし、女性の権利を擁護する憲法の下で暮らしている」とい
うものだ。

国際危機グループ(NGO)の政策担当ドナルド・スタインバーグ副会長は、戦争は
国民全部を苦しめるものだが、特に女性に特異な影響を与えると述べた。

「女性は、紛争が起こるとひとりで所帯主としてやっていくことになる。男性
は武器をとって戦場に赴くからだ。その中で社会福祉や安全は彼女らにとって
は低下する」と言うのだ。歴史を見ても、戦時下の難民の大多数は女性である。
ジブーリ氏はイラク戦争の場合もそうだと言う。彼女は、400万人を超す難
民のうち100万人以上が、伴侶のいない、女性の所帯主だと語った。

時には、いやあまりにもしばしば、「銃を携行する男性」が女性を標的にする。
スタインバーグ氏によれば、「世界中でレイプを戦争の一つの武器として使用
するという凶悪な傾向が強まっており、女性の方が攻撃を受けやすいことは明
白だ。」

Human Rights Watchの2008年報告書では、「起訴されることは稀であり、加害
者は武装抵抗勢力、民兵、正規軍の兵士、警官などである」と記されている。

今週、米国国務省は人権に関する年次報告書を発表した。そこには、米国政府
が勝ち取った輝かしい機会よりは、イラク女性の不安を反映する悲しい傾向が
詳しく記されている。名誉の殺人と女性の性器の切除が「拡大」し、売春、他
のアラブ諸国への女性と子どもの人身売買が「増大」するイラクが描かれてお
り、性的経済的搾取のための少女を含む女性や少年の国内での人身売買も報告
されている。

「イラク全土で、ヴェールの着用を強制する圧力の高まりが報告されており、
政府機関内でも同じである」と同報告書は記している。「女性が家から出ない
よう、イスラムの保守的な解釈に従うように強制するため、何でもない活動-
車の運転やズボンの着用など-を理由に標的にされている。」

ミシガン大学の中東専門家ホワン・コールは「アラブ・イラクでは女性の権利
は実生活と法制度の二つの領域で脅かされてきた」と言う。憲法には法的保護
が盛り込まれているが、「二つのレベルの選挙-国と地方-でイスラム原理主
義者が勝利したことによって、宗教的傾向の強い首長らが女性への制約を課す
ことが可能になった」と述べ、このことは「当時としては進歩的だった」1959
年の法律を脅かしている、と述べている。

かつて「中東のベニス」と呼ばれたイラク南部のコスモポリタン都市バスラで
は、特に女性を選んで標的とする事件が発覚している。少なくとも57人の女性
が、街路に面した塀に、ヒジャブ着用についての不吉な警告が書かれた後で、
死体で発見された。

女性の権利省ナリマン・オスマン大臣は、議会の議長事務所に対する集会を主
宰し、今週、懸念される事項の一覧を発表したが、これは男女がともに参加す
る大規模なバグダッド集会の一環であった。

電気組合の女性委員長第1号である、ハシュミヤ・フセインのメールによるメッ
セージが、バスラでの女性祝賀イベントの冒頭で読み上げられたが、その中で
彼女は「国際婦人デーにあたって世界の女性達にお祝いを申しあげます。平和
が訪れますように。..一緒に、イラク女性への暴力にNO、の大きな声をあげ
ましょう」と呼びかけた。

スマイダイエ大使は「女性の問題を議会や政治指導者につきつけていくのはこ
のような行動です。私は(イラク女性の)あらゆる行動を支持します。女性達
は圧力をかけ続けるべきです。」と述べた。

大使は政府に対して、女性の権利擁護をうたった憲法の条項をもっと積極的に
実施するよう迫った。彼は楽観してはいるが、短期的には「闘いが避けられな
い。それが現実だ」と述べている。

彼は大使館での祝賀会でUPIに対して、「何十年も誤った統治が続いた後で、急
にあらゆる点で時代遅れでない社会へと回復することは期待できない。忍耐が
必要だと理解している。しかしそれは決意をこめた忍耐である。アクションを
伴なわない忍従には何の展望もない」と述べた。

国際危機グループのスタインバーグ氏は、アクションとしては、女性が紛争の
解決と政策立案において顕著な役割を果たすことが必要だと述べた。彼による
と、停戦や平和の達成・維持が失敗に終るケースが多いのは、女性が交渉のテ
ーブルについていないからだ。戦闘の当事者は参加しても、すべての利害関係
者が参加しているわけではないのだ。

「紛争後の期間に合意に達する内容に、女性のニーズへの対応が含まれていな
いことが多いのはこのためだ。」

国務省の賞のイラク人受賞者であるジブーリ氏は、彼女が「単純な理由」だと
考える理由によってさえ、後戻り不可能な地点に達することを危惧している。

「私達はそうならないために闘っています。もし女性が全員被り物をするよう
になったら、元に戻るチャンスは決して手にできないことがわかっています。
彼らの望みどおりに何でも受け入れるなら、もっと自由だった状態に戻ること
は不可能でしょう。」

(翻訳:向井真澄/TUP)

原典:United Press International, 3月14日記事
http://www.upi.com/International_Security/Emerging_Threats/Analysis/2008/03/14/analysis_iraq_progress_missing_women/4002/
(訳者注:ベン・ランドーはUnited Press Internationalの編集を務めるとと
もに、Iraq Oil Reportを発行して世界と中東の石油をめぐる記事を配信してい
る。同時にそのIraq Oil Reportで、米国の戦争抵抗者同盟ビル・ワインバーグ
の記事を紹介するなど、非暴力のイラク市民レジスタンスにも深い関心を寄せ
ている。)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
TUP速報
配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@y…
TUP速報の申し込みは:
 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━