TUP BULLETIN

速報756号 イランを捕まえるか殺すかだって?

投稿日 2008年4月21日

FROM: tup_bulletin
DATE: 2008年4月21日(月) 午後3時24分

イランを捕まえるか殺すかだって?

TUPエッセイ 著=パンタ笛吹

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2008年4月18日

先日(4月9日)、イランの核技術国民記念日に、アフメディネジャド大統領は、 「イランは、ウラン濃縮を加速するためにナタンズの核施設に6000本の高度 な遠心分離機の設置を始めた」と宣言し、世界中のメディアが大きく報道した。

筆者は昨年、イランを旅行したとき、イスファハンの原子力発電所やナタンズの 核施設の横を通ったことがある。ナタンズでは核施設の内側を見学したかったの だが、やはり立ち入りの許可はおりなかった。

緑のほとんどないキャルキャス山脈のふもとに広がるナタンズ核施設には、旧式 と思われる高射砲がぽつぽつと設置されている意外は、古くて寂びれた工場群と いう印象を受けた。外から伺い知る限りには、なんとなくのんびりとしていて、 とても世界中が目くじらを立てて責め立てている「大量破壊兵器」の研究拠点の イメージは感じ取れなかった。

数十人のイラン人にも「米軍が空爆を始めるかもしれないが?」と聞いてみたが、 ほとんどの人々からは「それはありえない。イランが反撃したら米軍は大きな打 撃を受けるくらい、いくらブッシュでも分かっているから」という答えが返って きた。

ところが土曜日(4月12日)、ショッキングなニュースを読んだ。ワシントン ポスト紙が、「ブッシュ政権が、イラン政府の意向や行動を察知し、どのように イランと戦えば成果をあげられるか、省庁を超えて相互に検討しあうように命じ た」と伝えたのだ。

またABCテレビでは、ブッシュ大統領がインタビューに応じ、「もしイランが工 作員や代理戦闘員を継続的にイラクに潜入させ、わが軍やイラク市民に被害を与 え続けるなら、われわれはイランを裁きにかけるつもりだ。これはイラン国民に 対する通告だ」と語った。そして、「裁きにかける」とは実際にどういう意味な のかとの質問に大統領は、「それは、捕まえるか殺すかという意味だ」と答えた ことには驚いた。

筆者はちょっと前までは、「米軍がイランを爆撃するなんて、思い過ごしにすぎ なかった」とほっとしていたが、イラン戦争に反対し続けてきた米中央軍のウィ リアム・ファロン司令官が更迭させられたころから、雲行きがあやしくなったよ うだ。

先週、米上下院議会で開かれたイラク戦争に関する公聴会でも、イランがサダム・ フセインやアルカイダにとってかわる新しい悪役として糾弾の的となった。たと えば、上院軍事委員会でペトレイアス司令官は、以下のような証言をした。

「イランが、イラク国内の『特別グループ』に殺戮を目的とした援助を与えるこ とで大きな危害を加えている。イランは、イラクでの最近の暴力の炎に油を注い でいるのだ。

「イラン革命防衛隊の精鋭『コッズ部隊』は、レバノンのヒズボラの助けを借り ながら、イラクの『特別グループ』に軍資金を与え、武器を供給し、軍事訓練を ほどこし、作戦の指図をしている。

「バグダッドのグリーンゾーンにイラン製のロケット弾や迫撃砲で攻撃し、罪の ない人々の命を奪い、首都を恐怖におとしいれているのは、これら『特別グルー プ』だ。

「アフメディネジャド大統領とイランの指導者たちは、これら『特別グループ』 への援助をやめると約束したにもかかわらず、コッズ部隊による極悪この上ない 支援活動はいまだに続いている」

また同司令官は、翌日の下院軍事委員会では、「イラクが民主国家への道を邁進 しているとき、長期的な最大の脅威となっているのが、規制を受けていないこれ ら『特別グループ』だ」とも証言している。

わたしがいちばん興味をひかれたやりとりは、ジョー・リバーマン上院議員が、 「すると、イランが支援するイラクの『特別グループ』が、何百人ものアメリカ 兵や何千人ものイラク兵や市民を殺していると理解してもいいのだろうか?」と 質問をしたとき、司令官は、「確かに・.・その通りです」と答えたことだ。

これらの公聴会では、イラクの『特別グループ』がイランの代理として米軍と戦 っているという意味の「代理戦争」という単語がとびかった。以前、ネオコンの 論者、キンバリー・ケイガンが、「イラク国内で、イランが米軍に対して本気で 代理戦争を仕掛けていることを米国は認識するべきだ」と述べたが、その見識が 公の場で論議されるようになったのだ。

この公聴会で討議された「イラン脅威論」の危険性について、元大統領候補で伝 統的な保守主義者のパット・ブキャナンはこんな予測をしている。

もし、双方ともテロリスト組織と認定されているコッズ部隊とヒズボラが、イラ クの『特別グループ』に武器を供給し、軍事訓練をほどこし、グリーンゾーンを 砲撃して米国人外交官を殺したりアメリカ兵殺戮の指図をしているのなら、『特 別グループ』は今ではイラク民主化の最大の脅威ではないか。なのになぜブッシ ュ政権は、恐怖と侵略の大元であるイランのコッズ部隊の基地を無力化できない でいるのか?という疑問が起きても不思議ではない。

そういうわけだから、あまり遠くない未来に、もしブッシュ大統領がテレビカメ ラの前に現れて、次のような宣言を唱えても驚くにはあたらない。

──大統領の発表──

「イラク戦争を任しているペトレイアス司令官が、わたしに次のような事実を進 言した。司令官が言うには、イランはアフメディネジャド大統領の認知のもと、 イラン革命防衛隊のコッズ部隊とヒズボラという二つのテロリスト組織が特権的 に活動できる聖域となっている。またイランは殺人行為を中断すると何度も約束 をしたにもかかわらず、コッズ部隊とヒズボラが、米軍や連合軍に攻撃をしかけ ているテロリストを訓練し、武器を与え、命令を下している、ということだ。

「よってわたしは米国空軍と海軍に、これら恐怖の巣窟であるコッズ部隊基地に 空爆を開始するように要請した。わが軍の攻撃は、イランからの攻撃が停止する まで継続されるであろう」

http://www.antiwar.com/pat/?articleid=12673

昨年、下院議長ナンシー・ペロシは、「議会の承認なしでは、ブッシュ大統領は イランを攻撃する権利を持たない」とする決議案を撤回した。これでは、ブッシ ュ政権にいつでもイランを攻撃できると許可を与えたようなものだ。これに怒っ た「反戦の母」シンディー・シーハンは、ナンシー・ペロシの地元サンフランシ スコで下院議員選に出馬してペロシと選挙で戦うとまで言っている。

また昨年9月には、上下院とも、「イランの革命防衛隊をテロリスト組織と認定 する決議案」(カイル・リバーマン法案)を通過させたが、ヒラリー・クリント ン上院議員もこの案に賛成の一票を入れている。ということは、もしブッシュ政 権が革命防衛隊の基地を爆撃しても、文句が言えない立場だといえる。

先週の公聴会では、共和党の大統領予備選で名をあげたロン・ポール上院議員が、 「バスラでの戦いの仲裁に入り、停戦を取りもったのも、グリーンゾーンへのロ ケット弾攻撃を中止するように呼びかけたのもイラン政府なのではないか。なの にどうしてイランを暴力の元凶などと言って責め立てるのか」と発言し、ペトレ イアス司令官とクロッカー・イラク大使に向かって、「ブッシュ政権はさらなる 議会の承認なしにイランを爆撃できるのか?」と問いつめた。すると二人とも口 ごもりながら、「それについては答える立場ではない」と答えるのが精一杯だっ た。

このようなやりとりを見聞きした前述のパット・ブキャナンは、こう警告を発し ている。

「いったい、ブッシュ大統領とチェイニー副大統領は、イランの核施設を破壊し、 ジョン・マケインの大統領選挙にも有利に影響を与えるこの最後のチャンスを、 黙って見過ごすだろうか?

「イランにあるテロリストの基地に対するどんな攻撃でも、もし始まれば、米国 民は共和党を中心に結集するだろう。・・・アメリカと戦争したがっているのは イランではない。イランとの激烈な短期決戦を始めたい理由をいくつも持ってい るのは、アメリカ合衆国なのだ」

イランを旅したとき、いたる所で、ずいぶんと暖かいもてなしを受けた。モスク にふらりと迷い込むと、見知らぬ老人が甘い紅茶を差し出してくれたり、民家に 立ち寄ると、家族の皆がせいいっぱいのごちそうをしてくれた。あるときは、信 号で車が停まっていると、隣に停まった車の若者たちから「どこから来たのか?」 と声をかけられ、「日本から」と答えると、食べていたまだ暖かいナン(中東の パン)をちぎって渡してくれた。

イランで出会った人なつこい人々の笑顔を思い出すたびに、ブッシュ政権が「い たちの最後っぺ」のようなイラン爆撃をしませんようにと祈るばかりである。