TUP BULLETIN

速報766号 標的はイラン──限定爆撃から広域戦争へ

投稿日 2008年5月29日

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DATE: 2008年5月29日(木) 午後7時35分

かしこい選択はイラン爆撃

TUPエッセイ パンタ笛吹 著

2008年5月16日

旅をしていると、思いがけない出来事に巻き込まれたり、予想もしなかった人 物と出くわしたりすることがある。3ヶ月ほど前、わたしはトルコ国内を旅行 していた。ちょうどそのころは、1万人のトルコ軍が、イラク北部のクルド労 働者党(PKK)掃討のため、越境攻撃を始めた時期と重なった。旅行中、爆弾 テロにでも巻き込まれなければいいがと、少しばかりビビっていた。

旅も終わりのころ、イスタンブール市内を、サバ・サンド(ボスボラス海峡は 鯖がうまい)をほおばりながら観光した。ブルーモスク、アヤソフィアと散策 して、トプカピ宮殿に閉館まぎわに入った。子供のころ「トプカピ」というス パイ映画を見た記憶があるので、ここははずせない。

うずらの卵ほどもあるダイヤモンドや、鶏の卵ほどもあるエメラルドに魅了さ れながら歩いていると、物々しいムードを漂わせている小集団に目を奪われた。 一目でVIPのSPと分かる、黒ずくめの頑強な男が5人。そのSPに囲まれて、ガ イドの説明に威厳たっぷりにうなずいているリッチな外見の紳士。

「ひょッ、ひょっとして、あの、チャラビ!」と心の中で叫ぶと同時に、両の 腕にざざっと鳥肌が走った。イラク国民議会の議長としてCIAから給料をもら い、ブッシュ大統領に「サダムは大量破壊兵器を持っている」と吹き込み、イ ラク戦争を始めさせた張本人、元イラク副首相のアハマド・チャラビがすぐ目 の前にいたのである。

以前、拙著【1】でも写真入りでさんざん糾弾したチャラビが、100万円は しそうなコート(彼の好みはヴェルサーチ)を着て、ゆうゆうと歩いていた。 「悪人でも、こりゃあ、たいした貫禄だ」と感心しながらも、チャラビのガー ドマンがいつかテロで殺されたニュースを思い出した。「こんなところで流れ 弾に当たってたまるか」と怖くもなった。結局、わたしたち一般人が外に出さ れたあと、宮殿博物館の出口は塞がれ、チャラビ様御一行だけの貸し切りとな る。

「歴史は繰り返される」という言葉があるが、イラク戦争の前に起きていたこ とが、今またイランを巡って起きている。今回のイラン編で、チャラビの役目 を果たしているのが、亡命中のイラン人、アリレザ・シャハルザデだ。

2003年5月15日、米軍のイラク侵攻が完了してまもないころ、シャハル ザデは、イラン抵抗国民会議(NCRI)のスポークスマンとして記者会見を開い た。次はイランに攻め込んでくださいとばかりに、イラン政府は化学兵器用の 炭疽菌や天然痘を含む6つの病原体を大量に生産する能力を持ち、爆弾に仕込 むこともミサイルに搭載することもできる、と訴えている【2】。

また、シャハルザデは、07年8月22日に行った記者会見で、イラン革命防 衛隊は航空宇宙産業機構(AIO)を設立し、国連制裁の裏をくぐって最新鋭の ミサイル網を配備している、と報告した【3】。そして、イランが秘密裏に遠 心分離機を設置し、原爆製造用のウラン濃縮を行っている、と指摘することも 忘れなかった。イランの脅威をことさらに煽る発言は、イラク戦争前のチャラ ビと同じだ。まるで映画の続編を見ているようだ。

チャラビがCIAから多額の資金を受け取ったように、シャハルザデもまたCIAと 繋がりがある。シャハルザデは、CIAの援助を受けてイラン国内で機密攻撃作 戦を実行しているMEK(ムジャヘディーン・エル・カルク)の政治団体、イラ ン国民抵抗評議会の元報道官だ。元国連査察官のスコット・リッターは、 「米政府は、3年以上前から、MEKに資金を提供して、イランとの代理戦争を すでに始めている」と指摘する。

3月末にブッシュ大統領は、イラン政府に対する秘密攻撃を行うことを認可す る機密裁定書に署名したといわれる【4】。この裁定書には、テヘラン政権へ の武装闘争を続けるMEKへの援助を始めとして、イラン東部バルチスタン地方 で反政府軍事活動を行っているジャンドゥラー(神の兵士)への資金供与や、 イラン北西部のクルド民族主義者への援助も含まれているという。そしてこの 計画を始動するためにかかる経費300億円は、米国会で共和・民主両党の賛 成を得て、すみやかに承認された。

TUPエッセイで、すでに何度か「イラン攻撃が始まるかも?」と書いた。くり 返しそんなエッセイを書くと、「オオカミが来るぞー」の少年みたいになるの で、自制してきたつもりだ。しかし、戦争へと向かう太鼓の音が聞こえてくる からには、そう黙ってもいられない。

4月29日、ライス国務長官は、首都ワシントンで開かれた米国ユダヤ人委員 会で、「わたしが最も憂慮しているのは、ハマスの指導者たちが、イラン政府 が仕掛ける代理戦争の戦士として、イスラエルを攻撃していることだ。イラン は、中東に混乱をもたらし、核兵器を手に入れようと画策し、イスラエルを破 壊すると表明しているのだから」と語った【5】。それからも、ライス国務長 官は、イランの聖職者を怒らせるような発言を繰り返している。

同日、米CBSテレビは、米軍がイラン国内にあるコッズ部隊の司令局と、爆弾 の製造工場の攻撃リストをすでに制作している、と報道した【6】。また米国 務省は、イラン戦争を始めるための「最後通牒」の試案作成に取りかかったと 同テレビは報じた。

5月5日、イランに対する強硬な発言でよく知られる元米国連大使のジョン・ ボルトンは、テレビインタビューで、「イランを爆撃することは、イラク戦争 を勝利に導く大きな一歩となる」として、次のように語った【7】。

「もちろん、イランを攻撃したらイランが米国の海外利益に害を及ぼす危険性 があることは分かっている。しかし攻撃をしないで、このままイランを放って おく方が被害は遙かに高くつく。

「訓練基地に爆撃を加えることは、イラン政府に、われわれは[イランがイラ ク民兵を使って米兵を殺すことに]もう我慢できないぞ、というメッセージを 送ることになる。これは最も賢明な行動だ。そうすればイラン政府は、イラク 民兵を援助することをあきらめるだろう」

5月9日、「イラン攻撃は、あなたが考えているよりも早く始まるかもしれな い」と題した論評が、アメリカン・コンサーバティブ誌に掲載された【8】。 著者のフィリップ・ギラルディ元CIA分析官は次のように記している。

──国家安全保障理事会が、イランのコッズ部隊基地を攻撃することに基本的 に合意した、という無視できない推測が首都ワシントンで飛び交っている。コ ッズ部隊はイラクの民兵を訓練しているとされている。攻撃目標となっている 基地はテヘラン周辺に点在するという。

──イラン攻撃にゴーサインを出すと決まった理由のひとつは、レバノン情勢 の悪化だ。この攻撃は、イラン市民の犠牲を避けるため、コッズ部隊基地への ピンポイント爆撃になるだろうといわれている。政府高官の中では、ロバート・ ゲイツ国防長官だけが、爆撃を延期するように求めているという。

──だが、この攻撃案を遂行するという結論はまだ最終決定ではない。すべて の準備がととのった後、ブッシュ大統領が攻撃開始の命令を下さなければなら ないからだ。

そのブッシュ大統領は、5月15日、建国60年を迎えたイスラエルの国会 (クネセト)で演説をした。アフマディネジャド大統領をヒットラーやアルカ イダと同列に並べ、辛辣に批判しながら、こう訴えた【9】。

「・・・アフマディネジャド大統領は、中東を中世に逆戻りさせ、イスラエル を地図上から抹消することを夢見ている。・・・テロリストや過激派と交渉す るべきだとする意見もあるが、理を尽くして説得すれば、かれらが過ちに気づ くとでも言うのだろうか。このような愚かな妄想を以前にも聞いたことがある。 1939年、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻したとき、『なんということ だ。もしわたしがヒットラーと話していたら、この戦争は避けられたのに』と 言った米上院議員がいた。・・・こんな宥和政策など誤った気休めにすぎない。 ・・・イランは世界でも主要なテロ支援国だ。イランの核兵器所有を許せば、 将来の世代に対し許されざる裏切りを犯すことになる」

では、イランとの戦争が始まる可能性は本当にあるのだろうか? わたしが心 配しているのは、何か小さな突発的な出来事が、大きな争いにエスカレートす ることだ。ベトナム戦争拡大のきっかけとなったトンキン湾事件のようなこと が起らないとも限らない。

実際のところ、危ういニアミスも起きている。今年1月にペルシャ湾で、イラ ンのパトロール船が米艦船に「挑発するような態度で」近づいたため、米艦船 が警告を与えた、という事件を覚えているだろうか? あのとき、イラン側か らもパトロール船内の様子を撮影したビデオが公表された。数日後、「あれは 通常のチェックで、別に米軍が責め立てるような挑発行為はなかった」という ことで一件落着になった。

ところが、米中央軍の高官がリークした話によると、あの時点で、アメリカは 一触即発の戦争に近づいていたらしい【4】。というのは、米艦船に乗ってい た司令官が、もう少しのところでイランのパトロール船に発砲するところだっ たからだ。それを知った当時の中央軍司令官のファロン将軍が、毅然として砲 撃を止めさせたのである。

このニュースがホワイトハウスに伝わると、戦争の火種を未然に消しとめたフ ァロン将軍に対して皆、怒りをあらわにしたという。しかし、イラン攻撃にそ れほど反対したファロン将軍も、先月、更迭された。中央軍の次期司令官は、 タカ派中のタカ派、ペトレイアス将軍に替わることになった。

平和を願う米市民の期待を裏切り続けているペトレイアス将軍は、いまでは 「わたしたちを裏切る」という意味の、ベトレイアス(Betray Us)将軍とあ だ名されているほどだ。

イランは、アメリカにとって脅威でもなんでもない、というニュースもいくつ か流されるが、小さな扱いなのでインパクトは少ない。昨年11月、米国家情 報会議は、「イランは、核兵器製造の計画を、2003年の秋には中止した」 と発表し、この結論に自信のほどを示した。また、国際原子力機関(IAEA)の エルバラダイ議長は、「イランが原子力発電を核兵器に転用しようとしている 証拠はまったくない」と、たびたび明言してきた。

5月9日のロサンジェルス・タイムズ紙によると、米軍のバーグナー少佐は、 定例記者会見で、イラク人民兵から摘発した2万以上のロケット弾、迫撃砲弾、 道路わき爆弾を調べたと語ったが、イラン製の武器が混じっていたとは一言も 言わなかった【10】。

こう書いてくると、つまるところ、なにも証拠もないのに、ただイランを悪者 に仕立て上げたいために、ブッシュ政権もメディアもグルになって騒いでいる ような気がする。

昨年、イランを訪れたときのことだ。青いモスクが建ち並ぶ古都イスファハン で、美しいペルシャ絨毯を見つけた。バッグに入るほど小さいのだが、手のこ んだ神秘的な幾何学模様と妖しい光を発するシルクの輝きに魅せられた。さっ そく絨毯屋のお兄ちゃんと値段の交渉に入った。甘い紅茶をよばれながら、2 時間ねばって値切りに値切った。

「イランはテロ支援国家」とのニュースが世界中に広まったため、観光客も減 ったそうだ。だからか、ずいぶんと安くしてくれた。ところが、財布からビザ カードを取り出すと、お兄ちゃんの顔色がさっと変わった。「アイムソーリー。 ブッシュ大統領が、近ごろ経済制裁を重くしたので、アメリカのクレジットカ ードで決算できなくなったのです」と彼は嘆いた。

米国が主導する国連の経済制裁が、確実にイランの人びとを苦しめていること を、身をもって知った瞬間だった。

【1】パンタ笛吹『USO・ウソ・アメリカ「帝国」現地レポート』リベルタ出 版(2003年7月)。

【2】Soona Samsami and Alireza Jafarzadeh, "Iranian Regime’s Programs for Biological and Microbial Weapons," Press Briefing, National Council of Resistance of Iran (May 15, 2003). http://www.iranwatch.org/privateviews/NCRI/perspex-ncri-cbw-051503.htm

【3】"Iran Revolutionary Guard dodges sanctions: dissident," AFP (Aug 23, 2007). http://www.breitbart.com/article.php?id=070823045042.nf0kdftg&show_article=1

【4】Andrew Cockburn, "Secret Bush ‘Finding’ Widens War on Iran," CounterPunch (May 6, 2008). http://www.counterpunch.org/andrew05022008.html

【5】"Remarks at Opening Dinner of the 102nd Annual Meeting of the American Jewish Committee," U.S. Department of State (April 29, 2008). http://www.state.gov/secretary/rm/2008/04/104220.htm

Philip Giraldi, "Condi Stomps the Mullahs," Antiwar.com (May 6, 2008). http://www.antiwar.com/orig/giraldi.php?articleid=12787

【6】"’Hostile’ Iran Sparks U.S. Attack Plan: Pentagon Wary Of Tehran’s Expanding Nuclear Program And Support Of Iraqi Insurgents," CBS Evening News (April 29, 2008). http://www.cbsnews.com/stories/2008/04/29/eveningnews/main4056941.shtml

【7】"U.S. drawing up plans for surgical strike against Iran," YouTube (May 5, 2008). http://jp.youtube.com/watch?v=jZq5fZYusFU

Damien McElroy, "John Bolton: US should bomb Iranian camps," The Telegraph (May 6, 2008). http://www.telegraph.co.uk/news/1931520/John-Bolton-US-should-bomb-Iranian-camps.html

【8】Philip Giraldi, "War With Iran Might Be Closer Than You Think," The American Conservative (May 9, 2008). http://www.amconmag.com/blog/2008/05/09/war-with-iran-might-be-closer-than-you-think/

【9】"President Bush Addresses Members of the Knesset," The White House (May 15, 2008). http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/05/20080515-1.html

【10】Tina Susman, "Iraq: The Elusive Iranian Weapons," The Los Angeles Times (May 9, 2008). http://latimesblogs.latimes.com/babylonbeyond/2008/05/iraq-the-elusiv.html