DATE: 2008年10月15日(水) 午前0時22分
7千億ドルを金融救済に浪費しないで、「大きな政府」をその最善の目的、つま り公正で平和な社会の形成のために用いようではないか
ジン教授は表題で「帝国」と「民主主義」を何の説明もなく使用しており、同時 に、この小論文の中で「大きな政府」と「自由市場」を目立つような形で繰り返 し用いている。「大きな政府」と「自由市場」は、それぞれ米国における民主党と 共和党の主張を表す言葉であるから、一見教授が民主党に与しているかに思われ るかもしれない。 しかし、元もと「帝国=empire」は「君主による絶対支配」を指すラテン語に由 来し、「民主主義=democracy」は「民衆による支配」を指す古典ギリシャ語に由 来する点に留意し、さらに名著『民衆のアメリカ史』を念頭に置くならば、ジン 教授が強調する「大きな政府」とは、「民衆の、民衆による、民衆のための政府」 であることを想起するよう期待しているのであろう。 なお、この論文は米国議会で合意が成立する前に掲載されたものである。
訳・岸本和世/TUP
帝国から民主主義へ
ハワード・ジン
英国ガーディアン紙 2008年10月2日(木)14時
現在のこの経済危機は、アメリカ帝国の崩壊に向けての主な中間停車駅といえる。 最初の重要な標識は9/11で、世界最大の軍事力を誇る国家が一握りのハイジャッ カーに対して脆弱であることを示したものだった。
そして今、もう一つのしるしが出てきた。両二大政党が7千億ドルの納税者の税 金を、無能とどん欲という二つの特質で知られる巨大金融機関である排水溝に流 し込むことへの合意に達しようとしていることだ。
目下の経済危機に対するはるかに優れた解決法があるが、そのためにはあまりに も長い間慣れ親しんできた「知恵」を放棄することが必要である。すなわち「自 由市場」が経済を成長と公正へと導くのだから、政府の経済への介入(「大きな政 府」)は疫病神のように回避すべきという通念をである。
歴史的な真実に向き合ってみよう。いまだかつて「自由市場」なるものはなく、 経済は常に政府の介入を受けてきたし、まさにそのような介入を財政と産業の舵 取りたちは歓迎してきた。かれらはその必要に見合うかぎりは「大きな政府」に ついて苦情を言ったことはなかった。
それははるか昔、1787年建国の父祖たちが憲法を起草するためにフィラデルフィ アに集まった時に始まる。最初の大きな金融救済は、この新政府が投機家たちの 所有していたほとんど価値を失っている証券を全面的に買い戻す決定をしたこと であった。そして商業階級の利益を支えるという大きな政府のこの役割は、国の 歴史を通じて一貫していたのである。
7千億ドルを納税者から奪って巨大金融会社に助成する理論的根拠は、その富の 幾分かは助けを必要とする貧しい人たちへのおこぼれとなろうというものである。 この理論は働いたためしがない。
これへの対案は単純で強力である。その巨額のお金をそのまま、それを必要とす る人びとに直接渡すのである。政府が抵当物件差し押さえの一時的停止を宣言し、 家の持ち主たちがそのローンを返済するために財政支援をするのである。連邦政 府が雇用を創出をして、仕事を求め必要とする人びとや「自由市場」が恩恵をも たらさなかった人たちに仕事を保証するのである。
われわれには歴史的な成功例がある。ルーズベルトによるニュー・ディール政策 は、幾百万の人びとへの仕事を提供し、国の社会基盤を再構築し、さらに「社会 主義」という風評をよそに、社会保障を確立した。それはさらに、すべての人へ の無料の保健制度つまり「健康保障」にまで到達できるものなのである。
これ全体は7千億ドルを超えるだろう。しかし金はある。今の軍事予算6千億ド ル。わたしたちが決断すれば好戦国ではなくなり、それを財源に充てられる。そ して金満家の腹いっぱいの銀行口座。かれらの収入とその資産にしっかりと税を 課することで。
共和党にしろ民主党にしろ、「大きな政府」だからという理由から、そうしては ならないという声が挙がるなら、民衆はただ嘲笑するべきだ。その際には、独立 宣言が約束していることに立脚して世論をかき立て、運動を組織するのだ。宣言 は、すべての人に「生命、自由、そして幸福の追求」という平等の権利を保障す ることが政府の責務であると述べている。
そうした大胆なやり方だけが、帝国としてではなく、民主主義としてこの国を救 うことができるのだ。
原文:" From empire to democracy" Howard Zinn guardian.co.uk, Thursday October 02 2008 14:00
URL: http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/oct/02/usa.creditcrunch