◎停戦の真実とは? 自家発電で命がけで世界に発信される現地の声
ガザのアブデルワーヘド教授からのメール(1/19)の邦訳です。
4日間、連絡がなかったので同教授の安否が心配でしたが、19日の晩、メールが届きました。
このメール中に、親族 50名を殺されたアル=サンモーニー家のことが書かれています。それについて、1月19日付け英国のガーディアン紙に、「粉塵と死の只中で; 戦争の恐怖を証言する一家族の物語」と題して、この一族を襲った悲劇が、より詳細かつ具体的に報告されています。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/20/gaza-israel-samouni-family (英語)
http://list.jca.apc.org/public/aml/2009-January/023156.html (邦訳)
また、メール中、占拠された家が落書きまみれになったとあります(上のガーディアン紙の記事で、さらに具体的な例が報告されています)が、2002年春、イスラエル軍が侵攻して占領したラーマッラーでも、占拠された文化省のビルに壁じゅう卑猥な落書きがなされ、糞尿まみれにされました。これについては、アミラ・ハス『パレスチナから報告します』(筑摩書房)でも言及されています。
停戦がとりあえず発効し、遺体の回収が進められています。この間ずっと放置されたまま腐乱が進み、身元が分からない遺体も複数あり、それらは、ひとつのお墓に集団埋葬されたともメールにあります。
この 3週間、同教授のメッセージを翻訳しながら、これまで縁のなかった英単語をたくさん覚えました。最初、それは、軍事兵器の名称でした。今日、decay (腐乱する)という単語を知りました。悲しい語彙ばかりが増えていきます。
断片的な記述の向こうにある、悲しみや痛みの具体的な形に思いを馳せてください。
〔邦訳: 岡真理/TUP; 凡例: (原注) [訳注]〕
【メールその38】
日時: 2009年1月19日 (月) 13:51
件名: 破壊されたガザから、ハロー!
2009年1月18日 (日) 侵攻23日目
ガザ停戦! これが停戦か? 疑わしいものだ!
今朝(2009年1月18日 日曜)、イスラエルは一方的停戦を発表した。だが、実際には、イスラエルは衝突の前線で銃撃を続けている。塀の反対側では何時間かたって、パレスチナの諸組織が停戦を宣言した。その間も無人飛行機はガザ上空を立ち去ることなく、また F16はイスラエルによる停戦発表の 12時間後になってさえいくつかの建物を攻撃目標にした。
ほかのところでは救助作業が続いている。今日になって、瓦礫の下、農地やゼイトゥーン地区の裏道、ガザ地区の北部、そしてイスラエル軍が攻撃し破壊した場所場所から、新たに 100体を超える遺体が見つかった! 瓦礫や破壊された家の下から子どもをふくむ一家全員[の遺体]が発見された例もたくさんあった。医療関係筋によると、今日、発見された死者の 2割が身元不明だという! 発見された遺体のうち、17体は[身元の判別が不可能なほど]完全に腐乱が進んでいたため、ひとつの墓に埋葬された!
ゼイトゥーン地区の東部に住んでいたアル=サンモーニー家の一族も遺族になった。攻撃の初期の頃、イスラエル人たちはこの一族の 13人を殺した! 民間人の彼らは、白旗を掲げてその場を通過したかっただけなのに、撃たれ、殺されたのだ。イスラエル兵たちはさらに、自宅にいた同じ一族の 15人を殺害した! 今日、停戦が発効し、救助隊はまたも同じ一族の 21体の遺体を発見した! この一族の 50〜60人が侵攻のあいだにイスラエル兵に撃ち殺されたそうだ。
死者のなかには子どもも女性も老人もいる。死者の数は 1300を超えた。こんなことをどうやって信じれば、理解すればいいと言うのか。ただただ呆然とするばかりだ! 何の罪もない市民が最大の代償を支払わされた、つまりその命で償わされたのだ!これはジェノサイドだ!
ガザの社会全体が打ちひしがれている。喪われた命の数々、圧倒的な破壊、荒廃、残骸、死傷者、壊滅のさまに! 農作地、農家やそのまわりのすべても甚大な被害に見舞われた! 欝になったり精神的外傷を負った人、あるいは激しく動揺したり悲しみに沈む市民はそこらじゅうにいる! まわりの[人々の]心理的状況に私の心はうち震える! イスラエル兵が建物内部にまで侵入した住宅は、どこもかしこもめちゃくちゃにされた! 兵士はヘブライ語で「死ね」とか罵倒の言葉やダヴィデの星[*]を壁に落書きし、さらには聖なるコーランにまで落書きしていった。[訳注*: ユダヤ教のシンボルでイスラエルの国旗にも用いられている六芒星形]
イスラエル人たちは今なおパレスチナ人の家庭に電話をかけ、お前たちに新たな罰を与えてやるぞと脅している! 午後にはイスラエルの航空機が反ハマースのビラをガザの西部に撒いた。ばかげた行為だ。ガザの誰もが、イスラエルの有無を言わせぬテロリズム、つまり個人の政治的な帰属などおかまいなしにパレスチナ人を無差別に攻撃してくるテロリズムを体験してきたのだから。これは、パレスチナ人という存在に対する全面的戦争にほかならない! ビラを撒くなんて愚かな行為だ! ガザ地区のありとあらゆるところで市民を情け容赦なく攻撃し、膨大な数の負傷者を残し、途方もない数の命を奪ったそのあとで、こんなばかげたビラを撒いたところで心動かされる者は誰ひとりいなかった。F16戦闘爆撃機で爆撃された市民に対して、こんな 1枚の紙切れで何ができるというのだ。冗談もいい加減にしろ!
今晩のガザは、みなが息をひそめ、沈黙と予感のなかで時が過ぎている! 状況全体が、いつなんどき燃え上がり爆発しても不思議ではない! イスラエルの戦車部隊が何か作戦を展開するのではないかという恐れもある。今まさに頭上で偵察機の飛ぶ音がする。奴らは何もかも監視している! イスラエルはこれ以上何を攻撃目標にするというのだ? 純粋な疑問なのだが! ガザのいたるところに、いまだ語られていない恐怖の物語、破壊の物語、死の物語がある。ガザ市の 80% が依然、電気なしの状態で生活している。
侵攻24日目:
停戦が発効した翌日。イスラエルの F16 が頭上を舞っている!戦車部隊は今もガザ地区内部に。今朝、イスラエルの軍艦がガザ市のどこかを砲撃した。その音がはっきりと聞こえた! ガザのインフラは無惨に破壊されている。幸運なるかな、電気や水が手に入る者は。ガザ市のへりに住む人々は電話が不通になっている。瓦礫の山、不毛で荒れた土地に変わり果てた地域がいくつもある。今日、アル=サンモーニー一族から遺体がさらに見つかった。また、パレスチナ人医師の妻でウクライナ人のエリナ・エル=ジャルーの遺体も見つかった。その傍らにはエリナさんの子どもの一人も遺体で見つかった。一方、エリナさんの幼い娘さんはシファー病院の集中治療室にいるのが分かった。報道によれば、この侵攻で 5人の外国人が殺されたという。
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原文: Prof. Abdelwahed (ガザ・アル=アズハル大学
教養・人文学部英語学科) 発信の一連の電子メール
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