冬の兵士 ターニャ・オースティン
分割して統治する: ジェンダーとセクシュアリティー (1)
訳 シェンケンフェルダー喜子 / TUP冬の兵士プロジェクト
凡例: […]は注および訳文の補助語句。
今こそ魂が問われる時である。夏の兵士と日和見愛国者たちは、この危機を 前に身をすくませ、祖国への奉仕から遠のくだろう。しかし、いま立ち向か う者たちこそ、人びとの愛と感謝を受ける資格を得る。
トマス・ペイン、小冊子「アメリカの危機」第1号冒頭
1776年12月
メリーランド州シルバースプリング公聴会
2008年3月13~16日
ターニャ・オースティンです。私はアメリカ陸軍退役軍人ですが、今日は私自身の話を話すつもりでここにいるのではありません。実に信じられないほど強く勇敢な人物についてお話しするためにここにいます。これは、レイプされた上に除隊させられ、レイプされたことに対して罰を受けた沿岸警備隊の女性の物語です。この若い女性に会うことができ、しかもこの女性が自分自身の話だけでなく、軍の中でレイプされている男性や女性たちの話を広めるために、ものすごい行動力を示したことを知ることができ、私は大変幸運です。
ウェブサイトを見せてもらえますか? ここにあるのは、stopmilitaryrape.comいいえ、.orgですね、すみません。そしてこのウェブサイトのなにがすごいのかというと、この人物が自分の話を伝え、前に進もうとしている姿で、それは軍が彼女を助けるために何もしてくれなかったからです。それならと、彼女は決心しました。軍は私を助けてくれない、じゃ、私は自分自身や自分のような人たちを助けよう、と。
ホームページにもあるように、これらはほんとうにぎょっとするような統計です。大学のキャンパスでは25パーセントの女性が性的暴力を受けます。12パーセントの女性が大学に在学中にレイプされます。軍隊にいる女性の28パーセントから66パーセントが性的暴力の報告しています。数字に大幅なばらつきがあるのは軍側の報告と退役軍人省の報告の違いです。退役軍人省の誰かに性的暴力を受けていたと伝えるほうが、自分の上官に言うよりもはるかに簡単で、上官に伝えるというのは正しい選択ではありません。それで27パーセントの女性がレイプされたと報告されています。そしてこの統計で興味深いのが、レイプされたと報告しても、レイプした犯人が起訴されなければ、レイプされなかったことになる点です。その場合はこの統計の内には入りません。そして、残念ながらこれは私たちの軍ではあまりにも頻繁に起こっていることで、それは自分たちの仲間から受ける最悪の経験である性的暴力やレイプの隠蔽なのです。
では、彼らがこれについて現在どんな対策を講じているかお話します。国防総省自体の統計によると、レイプまたは性的暴力で有罪判決を受けた兵士たちのうち74パーセントから85パーセントが、名誉除隊で軍を去っており、つまり、レイプの有罪判決はそれらの人々の記録のどこにも表れてきません。レイプの罪を告発された兵士うち、ほんの2パーセントから3パーセントが軍法会議にかけられています。そして家庭内暴力で訴えられた兵士たちのうち、ほんの5パーセントから6パーセントが軍法会議にかけられています。実際、刑事起訴されることすらなかったいくつかの複数殺人事件が最近軍の基地で起きています。国防省が定義する男性兵士の士気高揚とは次のようなものです。女性兵士は必要なだけ使用して、終わったら捨て去り、そのまま名誉ある兵役を続けるべし。多くの人々が恥辱に沈黙して苦しんでおり、何が起きているか決して忘れることはないのだということを覚えておいてください。では、この方個人の物語についてお話したいと思います。軍隊内でのセクシャルハラスメントの経験をもつ私にとって、この分科会にいる皆さんと同じように、これは辛いことです。でも、私たちの体験を語る必要があります。
[匿名女性の言葉の引用]
Stop Military Rape、軍隊レイプ救援センターをどうやって立ち上げたのか、私たちはよく質問されます。私はアメリカ合衆国沿岸警備隊の退役軍人で、軍の性的トラウマを生き延びた人間です。私は2006年の5月に同じ船員仲間からレイプされました。私は暴行を報告し、レイピストが書いた自白の手紙という証拠も提供するなどを含めて、すべての必要なステップに従いました。2006年8月、私は除隊させられることを告げられました。沿岸警備隊アカデミーの心理学者によると、レイプを生き延びたことで、派遣、つまりこれによって世界的な派遣には不適格になり、結果として私は沿岸警備隊に勤務することはできないのです。その後、沿岸警備隊と私との間で九ヶ月にわたる戦いが続き、その間、自分の仕事を守り、レイプ被害者が沿岸警備隊内での勤務が許されないという沿岸警備隊の非公式な方針を変えようとしました。
私は、沿岸警備隊ではまったくの新人である二十代前半の女性でした。私は認めます。沿岸警備隊の方針のすべてを知っていたわけでも、一等水兵である自分の階級の領域を超えることを知ろうとしたこともありませんでした。私にわかっていることは、私の身の上に起きたことは、まったく正しいことではないということだけです。無力感を味わいました。私はどうやって軍隊と戦ったらいいのか知りませんでした。私は彼らと一緒に、彼らのために戦うことを教えられていました。しかし、彼らと共にいるという自分の権利のためにどう戦えばよかったというのでしょうか。
鬱憤をはらし、レイプされた結果として経験していた恐怖を表現するための手段が必要だったことから、私はマイスペースでブログをはじめました。私はそれに大きな期待をしていたわけではありませんでした。ただ私の中にあるすべての痛みを吐き出し、公にそれを共有したかったのです。ほとんど即座に、各自の話を共有したいと思っている現役の軍人や退役軍人たちからEメールを受け取り始めました。みんなの話はそれぞれ違っていましたけれど、とても似ていました。二時間前に軍の仲間にレイプされたばかりで、怯えて、誰も頼る人がいなかった十八歳の女性からE-メールを受け取りました。十数年前に勤務中にレイプされた沿岸警備隊の退役軍人からも電子メールを受け取りました。彼がその話をしたのは私がはじめてだったのです。私は軍隊のレイプについてインターネットで調べ始めました。テイルフック事件[注]のことを学び、陸軍特技兵スザンヌ・スィフトの勇気ある話を読みました。沿岸警備隊で私に起きたことは非常によくあることで、長年にわたって起こっていたことだったのです。私は人生最大の戦いに身をおいたことを知りました。私は軍の同僚である男性たちや女性たちを見捨てることができませんでした。何かが変わらなければなりませんでした。
Stop Military Rape、軍隊レイプ救援センターが結成されました。私たちは軍での性的なトラウマを抱える被害者をサポートするグループとしては国内最大です。二〇〇七年、私たちは一万二千人以上の軍隊での性的なトラウマを抱える男性や女性とその家族を支援しました。私たちは性的暴力に対する軍の方針の変化を求めるよう議会に働きかけているところです。国のために働くことを志願しているすべての男性や女性は、性的な暴力やいやがらせを受けたり、レイプに脅かされることなく任務につく権利があるはずです。さらに、誰であろうと自分たちに対して行われた犯罪を報告したことで懲戒や罰を受けるべきではありません。
五月三十日は国際ストップ軍隊レイプ啓発デーです。ご自分の地区の代表議員に手紙を書いたり、メディアに接触したり、私たちが今行っていることを実行して、軍のレイプは許せないことであるということを知らせてください。
この若い女性は注目すべき人物で、彼女の物語は力強いです。残念なことに時間がありませんので、私たちは彼女の話すべてを語ることができません。しかし、ここにいるすべての人は話すべきお話をお持ちです。あちこちにいるすべての退役軍人の人々、この聴衆の中に座っている現役軍人のみなさんは、暴力や嫌がらせを受けたり、レイプされた人を知っています。それを変える必要があります。
[注]1991年にラスベガスのホテルで開かれた海軍関係者の年次会議「テイルフック・コンベンション」で起きたレイプ事件。テイルフックは日本語では「着艦フック」。
<デモクラシー・ナウ! での放送時のアナウンサーのコメント>
エイミー・グッドマン:ターニャ・オースティンは軍情報部内のアラビア語言語専門家で、今週末にシルバースプリングの「冬の兵士」で証言しました。
- TUP冬の兵士プロジェクト 証言の一覧
- ターニャ・オースティンの証言ビデオ
http://ivaw.org/wintersoldier/testimony/divide-conquer-gender-and-sexuality-military/tanya-austin/video - 反戦イラク帰還兵の会 公式サイト
Iraq Veterans Against the War
http://ivaw.org/ - 反戦イラク帰還兵の会「冬の兵士」特集ページ
Winter Soldier: Iraq & Afghanistan
Eyewitness Accounts of the Occupations
http://ivaw.org/wintersoldier - KPFAラジオ「冬の兵士」プロジェクト"The War Comes Home"
http://www.warcomeshome.org/ - Democracy Now! デモクラシー・ナウ!「冬の兵士」特番
"Winter Soldier: US Vets, Active-Duty Soldiers from Iraq and
Afghanistan Testify About the Horrors of War"
http://www.democracynow.org/2008/3/17/winter_soldier_us_vets_active_duty - "Winter Soldier CONT’D: US Vets, Active-Duty Soldiers from Iraq and
Afghanistan Testify About the Horrors of War"
http://www.democracynow.org/2008/3/18/winter_soldier_contd_us_vets_active - "Half a Decade of War: Five Years After Iraq Invasion, Soldiers
Testify at Winter Soldier Hearings"
http://www.democracynow.org/2008/3/19/half_a_decade_of_war_five - "Winter Soldier on the Hill: War Vets Testify Before Congress"
http://www.democracynow.org/2008/11/28/winter_soldier_on_the_hill_war - 田保寿一監督 ドキュメンタリー
『イラク帰還兵の証言集会 Winter Soldier 冬の兵士 良心の告発』
http://wintersoldier.web.fc2.com/wintersoldier.html - DVD購入申し込み
http://wintersoldier.web.fc2.com/shop.html