◎平和条約の締結こそが北朝鮮の核廃絶への鍵
核武装に向かう北朝鮮と、制裁の強化で核を放棄させようとする日米などの対北朝鮮強硬派諸国のかけひきは妥協の糸口が全く見えないほどにこじれています。
先にコリア・タイムズ紙上で対北強硬政策の転換を呼びかけた(5月28日のTUP速報821号「混迷する北朝鮮の核問題」参照)、米リンカン(リンカーン)大学のディフィリポ教授が、5月の地下核実験をうけて再び日米の強硬路線を分析して、米朝平和条約の締結こそが北朝鮮の核問題の解決の鍵であると説いています。
国家主義と軍国化の推進に「拉致問題」を最大限に利用しようとする日本の政権と、これに呼応して自らの世界戦略の陣営に日本を引き留めておきたい米国は、オバマ政権に代わってもブッシュ流を引き継いで対北朝鮮敵視政策を続けています。このことが退路を断たれた北朝鮮を更なる強硬策に走らせていると指摘し、宥和策に転換して解決を図るべきだとするこの主張は、北朝鮮非難の大合唱の中でこそ冷静に耳を傾けるべきものでしょう。核のない未来のために。
(邦訳:藤谷英男/TUP)
2009年6月26日コリア・タイムズ(韓国日報社)所載
北朝鮮:瀬戸際の核の解決策
アンソニー・ディフィリポ
オバマ政権は発足以来、ほぼ全期間を通じて、米国と同盟国が挑発行為と呼ぶ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の行動への対処を余儀なくされている。
北朝鮮指導部がオバマ新政権に余りに多くを余りに性急に期待したことも現在の問題をこじらせた原因だ。
状況の好転を待つことなく北朝鮮は4月初旬、通信衛星と自称する光明星2号を打ち上げ、これに対して国際連合安全保障理事会から事実上のお咎めを軽く受けた。日米の政府ははるかに強力な制裁を課そうとしたのだが。北朝鮮は憤激して、米国、北朝鮮、韓国、中国、日本およびロシアで北朝鮮の核問題を解決するために設けられた多国間協議である六者会談に今後は参加しないと宣言し、可能なあらゆる方法で核攻撃能力の強化を始めると表明した。
懸命にオバマ政権の注意を引きつけようとして、北朝鮮は米国の祝日である戦没者追悼記念日に二度目の地下核実験と、それに続く何発かのミサイル発射も実行することを決意した。中国とロシアに多少牽制され、また、米国、日本、韓国の要求よりも穏やかになったとは言え、今回、国連安保理は北朝鮮に追加制裁を科した。それでも米国政府はいち早く拳を振り上げて、北朝鮮の船舶を監視し、場合によっては臨検するために軍艦を派遣し、恐らくは北朝鮮のミサイルを迎撃するために、弾道弾迎撃システムをハワイ近辺に配備した。
1月に北朝鮮は、民主党新政権には自国と直接対話する意欲があり、正常な国交の樹立と恒久的平和条約の締結に至るほどに二国間関係を改善する意志があると思い描いていた。その期待に反して米国に虚を突かれたと北朝鮮は信じている。就任演説でオバマは、拳をゆるめた国々には手を差し伸べることを語った。しかしオバマ政権は北朝鮮にはこれをしなかった。世界での指導的役割を引き受けるでもなく、また、友好の手を差し延べるにふさわしい場にもなったであろう北朝鮮との二国間対話を求めるでもなく、オバマ政権は六者会談を通じての多国間協議に固執した。
これはまさに、日本政府がオバマ政権にして貰いたいとせっついていたことであった。日本では、1970年代と80年代に北朝鮮工作員が日本人17名を誘拐した拉致問題が、国家主義的動機から延々とくすぶり続けている。惨憺たる日朝関係の現状からすれば、六者会談はこの拉致問題の解決のために日本が北朝鮮に圧力を加えることが望める唯一の場なのだ。
統一問題は棚上げにして、韓国の李明博保守政府も六者会談を北との交渉の最適手段として受け入れた。期待を裏切られて、北朝鮮政府は早々と、オバマ政権はブッシュ時代を通して思い知らされた敵意にも劣らない敵対的態度を示していると結論した。
これらのどれ一つも先軍政治に傾倒する北朝鮮の短気と性急さを正当化するものではない。実際、直近では2006年に米国が行った臨界前核実験も含めて、いかなる国のいかなる種類の核実験も根本的に人類の生存に逆らうものである。
これらのこと全体から明らかなのは、オバマ政権の北朝鮮政策は、北朝鮮の核保有は「絶対に容認できない」と声を揃えて言いつのる米、日、韓の、バラバラの思惑のごった煮であるということだ。しかし彼らは再考する必要がある。北朝鮮は既に核兵器を保有している。現在の問題は、現に存在しているものの認知を拒絶する愚に頼る米、日、韓が大衆向けに唱えている謳い文句とは違うのだ。そうではなくて、目下の問題は北朝鮮に核兵器とその製造計画を放棄させることである。
北朝鮮に一方的な核兵器の放棄を要求する現在の戦略、米国が躍起になって主唱し、他の諸国も同調している立場は、はっきり言って無効であろう。北朝鮮は核兵器を所有し実験することは自衛のために必須であると見ている。これは北朝鮮の主体(チュチェ)思想に基づく先軍政策のしめすところである。要求と脅迫の応酬も、制裁と封鎖活動も、更なるミサイルと核実験、そして恐らくは戦争か、最悪の場合核の大惨事に向かわせるだけであろう。北朝鮮にとって最も重要なことは、わずかに隠し持つ核兵器ではなく、北朝鮮
の主権の維持である。目下のところ北朝鮮は主権は核兵器で守るしかないと確信している。
平壌でこの1月、私は一度ならず、もし米国に敵対の意図がないと確信できるなら北朝鮮にとって核兵器は全く無用であると、誤解の余地なく聞かされた。現在北朝鮮は、米国が日本と韓国の支持を受けて北朝鮮に深刻な脅威を与えていると確信している。この事態を悪化させたのはオバマ大統領が4月にプラハで行った演説だ。すべての核を廃絶するという米国の目標を語ったが、その目標は「早期には…恐らく私の存命中には達成されないだろう」というものだった。
この核廃絶演説に北朝鮮は大いに懐疑的であった。しかしたちまちにして、これらの言葉は完全に無意味なものに変わった。それは米国が過去に日本にも与えたと同じように、ごく最近韓国に対しても「核の傘を含む更なる抑止力による継続的な関与」を公式に約束したからである。韓国に公式に与えられた核の傘は米国の「先制核攻撃」計画の一部をなすものだと北朝鮮は信じており、従って北朝鮮の見地からは核抑止力の保有の正当化を後押しするものである。
六者会談は一定の成功を収めたけれども、今は米国と北朝鮮政府間の二国間対話が必要である。実際、恒久的平和条約を提供することは、核非武装化のためにはいとも小さな代価である。その中で、北朝鮮が核兵器計画を再開すれば合意を破棄するとの予防条項を加えることは容易であろう。二国間対話と並んで、休戦協定に代わる恒久的平和条約を締結することは、北朝鮮が核保有を正当化する根拠をを直ちに失わせ、米朝関係正常化の必要条件を定めることになるだろう。
アンソニー・ディフィリポは米国ペンシルベニア州リンカン(リンカーン)
大学の社会学教授。北東アジアの安全保障問題に関する著書が数編ある。
現在 "Irrepressible Interests: Japan-North Korean Security Concerns and U.S. Objectives."(題名仮訳『抑えきれない興味:日本と北朝鮮の安全保障にかかる憂慮と米国の目標』)を執筆中。
原文: Solution to Nuclear Brinkmanship
By Anthony DiFilippo
The Korea Times (2009年6月26日)
http://www.koreatimes.co.kr/www/news/opinon/2009/06/137_47507.html