◎地球温暖化を最小限にくい止める
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今回のコペンハーゲン会議について私達一般市民が知っておく事実は多くあります。結果として12年前の京都議定からこれまで温室効果ガス削減目標を達成できた国、できなかった国、様々ですが、今後、地球温暖化が私達の生活環境に及ぼす影響がさらに深刻になるであろうという認識を、私達は持たなければなりません。東アジアの研究で知られるガバン・マコーマックはこの記事の中でオーストラリア、日本、そして韓国の例を挙げて、今後、国際社会がどのように温暖化対策を進めていくべきなのかを提示しています。
(前書と翻訳:服部健/TUP)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
凡例: []()原注、**訳注
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コペンハーゲンへの道
ガバン・マコーマック
9月、観測史上、最も暖かかった8月が過ぎてから、オーストラリアの東海岸は厚い赤い土埃に覆われました。干ばつ9年目を迎える内陸部から500万トンもの土が吹き込み、視界は数メートル範囲にまで落ちて、飛行機の便のキャンセルを余儀なくされ、人々は屋内に閉じ込められました。同じ月の初め、韓国
の人達は、将来少数の山頂を残して彼等の国には雪がなくなるであろう、そして彼等の気候が亜熱帯性になるだろうと知らされました。他の場所でも、北極の海氷が崩れ、極地地域への航海と探検の航路が開き、氷河が後退し、世界の熱帯と温帯の森林、湿地帯、そして珊瑚の半分がなくなる脅威にさらされており、暴風雨、洪水、そしてその他の自然災害が世界中で波紋のように広がっています。科学者達は世界規模の大災害が近づいていることを警告しています。
国連環境計画の最新の調査は、国際社会がこれまでに提案された気候政策すべてを実行したとしても地球の気温は今世紀中に著しく上昇するだろうと述べています。私達が今何をしても「すでに行われている2.4℃のGHGs[地球温室効果ガス]による温暖化を削減することはできません」。科学雑誌ネイチャー4月号の報告によると世界の複数の著名な気候学者が、中程度の温暖化(2℃)**でさえ、「文明社会に試練を与える干ばつと暴風雨の発生の誘発の強い可能性があり、機能不全に陥った国家と大量の移民に伴う紛争や苦しみへと導く可能性がある」と予測しています。それが私達の未来であり、その展望は着実に悪化しています。
**訳注: 原文の20Cは2.0Cのタイプエラー。訳では2℃と表記。
コペンハーゲンでは、戦時動員に等しいキャンペーン、つまり、世界が今の状態から気候的混沌の大災害に陥るのをくい止める、あるいは少なくともそれを遅延させる試みを始めるという世界的な合意に達する必要があります。12月の会議が人類史上最も重要な出来事、私達最後のチャンスになります。
グリーンピースやWWFを含む国際NGOは、コペンハーゲンで2020年までに40パーセントの世界の炭素削減と、今世紀半ばまでには80パーセント(工業国では95パーセント)の削減を義務づける必要があると予測しています。言い換えれば、京都目標は二、三箇所しか到達しなかったため、今それを短期的には2から3倍増やし、中期的には10倍までに増やさなければなりません。
今のところ、1997年の京都以降、削減のために多くの国々が立てた公約にもかかわらず、それらは着々と増えています。世界では、温室効果ガス排出が1992年と2007年の間で38パーセント、1990年代の年間1.1パーセントから2000-2007年の3.5パーセントの増加で上昇しました。専門文献では、閾値、 臨界点、不可逆性といった厳しい単語が一層頻繁に使われるようになっています。人類が過去数千年の間、農業、村、都市、文明を発展させてきた気候条件を、私たちは不安定化させています。
人類の活動は、産業革命以来、着実な増加率で炭素を大気に送り込んでおり、産業革命以前の大気中の炭素濃度(280ppm)から387ppmに上昇させ、その水準は年間およそ3.1ppm上昇し続けています。私達の現在の軌道の「現状のまま」の予測では、およそ今世紀末には950ppmの炭素濃度数値と4.60℃の気温上昇に向かっています。
気温上昇を2℃くらいに抑えるには、2007年にバリで会議をした世界の科学者達は、私達はなんとしてでも大気中の炭素濃度を450ppm以下に維持しなければならないと主張しました。EUとオーストラリアはその目標を取り入れました。しかし、多くの科学者は本当の臨界点は400ppm であると考えており、とにかく今や避けることができない差し迫った数値ですが、IPCC代表ラジェンドラ・パチャウリを含む高い影響力を持つ人々が、緊急問題としてそれを私たちは350にまで削減するべきであると考えています。今現在、世界中の国々によって約束されたすべての削減が実現されても、気温上昇は以前の「最悪の事態」のシナリオのおよそ2倍のほぼ3.5℃程度になるでしょう。
改革派であり、気候問題を意識している政府が2008年に政権についたオーストラリアにとって、450ppmへの次の約束は恐ろしい影響を及ぼします。それは当然、継続し悪化する被害、干ばつ、山火事、2008年、南オーストラリアで気温が45℃に昇った夏の猛暑、そして大国であるがゆえの洪水を軽く見る事になります。すでに国の穀倉地帯、マレー=ダーリン川流域の干ばつは、かんがい作物の生産を劇的に減らし、過去の2つの時期の米農業の完全中止を余儀無くさせました。最大の悲劇は、大気中の450ppm炭素濃度では、世界的驚異の一つのグレート・バリア・リーフが残らないということです。
日本でも、改革派の、気候問題を意識している政府が2009年9月に政権につき、すぐに2020年までにその1990年度排出基準の25パーセント削減の約束を発表しました。前回の自民党政権下でさえ、日本は時にきれいで効率的エネルギーのモデルだとみられていましたが、実際には京都削減目標の6パーセントを達成できなかっただけでなく、その排出量は2007年までに11パーセント増加しました。それは確かに米国(20パーセント増)よりはましでしたが、21パーセント排出量を削減したドイツのような国々の達成の前では見劣りします。
日本の鳩山由紀夫首相の「1990年度基準の削減」25パーセントは、大胆な約束で、今のところ取るに足らない米国の態度に比べ、際立って見えます。しかし、鳩山はまだ産業界を説得、あるいはそれをどう達成するかの青写真をつくっていませんし、彼の約束は「すべての主要経済国が参加する」コペンハー
ゲン合意ができることを条件とするものであり、京都以後の10年間の失敗のため、彼の1990年度基準の25パーセントは、実際には現在の基準で36パーセント削減しなければならないことになります。そして、もし彼がそれらすべてを達成できた場合、何が必要とされているかという点では、それが単に最初
の一歩にすぎないことを意味します。
韓国の場合、その温室効果ガス排出はOECD諸国の中で最も高い割合(1995年と2005年の間で90パーセント増加)で増加しており、これまでに発表された短期間(2020年までの)目標は、その2005年度基準の8パーセントを上回らない増加に抑えることです。もし、その姿勢でコペンハーゲンに臨むのであれば、韓国はうまくやっていけないでしょう。世界規模の大災害に直面しながら、炭素排出増加を語る産業国はいずれも、国際的な責任を再検討するように出直して来いと言われるに違いありません。
韓国の炭素排出
いくらかの技術的躍進は問題外として(現在のところ、そのような兆しはない)、政治的、道徳的になすべきことは、私達が再生不可能な炭素集中型から再生可能な炭素中立型経済活動へ移行し、「従来の」炭素分野の生産、消費、そして廃棄物を減らし、今ある資源を節約し、もっと公平で無駄の少ない分配の道をみつけ、不必要で非効率なものをなくすことです。しかし、私が2008年にこの囲み記事(2008年3月「成長の話」)に書いたように、人類の共有された信心にも似た思い込み、キリスト教徒、仏教徒、イスラム教徒、それに無神論者のすべてに等しく共有されてきたことというのは、人間社会は、生産、消費、それに廃棄を最大限にするように組織されなければならないということです。GDPの規模や成長が現在、各国の「成功」を示す主な指標です。
12月のコペンハーゲン会議は、それゆえ各国が、今後はGDPという基準ではなく、温室効果ガス排出を減らす世界市民としての**成功を基準に評価されるようになるという、コペルニクス的転換を求めています。成長崇拝を退けなければ、気候は混乱に陥り、水利権競争、石油戦争、食料争奪戦争、それに伝染病が繰り返し起こり、取り返しがつかなくなります。京都、バリ、それにその他の気候変動についての主要会議は、人類が進むべき方向へのわずかな推進運動以上のものではありませんでした。コペンハーゲンはずっと先に進まないとなりません。
**訳注: as global citizens。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ガバン・マコーマックはキャンベラのオーストラリア国立大学の名誉教授で、ジャパン・フォーカスのコーディネーター、そして『北朝鮮をどう考えるのか』と『属国 – 米国の抱擁とアジアでの孤立』の著者です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これは2009年10月13日、キョンヒャン新聞に掲載された記事の文章です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Recommended citation: Gavan McCormack,
“The Road to Copenhagen,”
The Asia-Pacific Journal, Vol. 42-3-09,
October 19, 2009.
http://www.japanfocus.org/-Gavan-McCormack/3238
推奨引用:ガバン・マコーマック、「コペンハーゲンへの道」、アジア-パシフィック・ジャーナル、 第42-3-09巻、2009年10月19日付。