1月12日未明、カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島の西部に位置するハイチの首都、ポルトープランスなどがマグニチュード7.0の地震が襲われた。地震の犠牲者は20万人を超えている。
ハイチは1804年にいち早くフランスからの独立を勝ち取ったが、その後、独立国家の承認と引き換えに承諾したフランスへの賠償金に長い間苦しめられることになった。19世紀後半からは債務返済を理由に米国の管理下におかれるなど、長期間にわたり債務に苛まれてきた国家だ。
いま、自然災害に苦しむハイチに手を差し伸べるべくさまざまな取り組みが行われようとしているが、その取り組みが債務を押し付け、先進国企業の搾取を許すものならないようにと、ナオミ・クラインが警鐘を鳴らす。
(前書き、後書き、翻訳:金 克美(キム・クンミ)/TUP)
※凡例: [訳注]
インタビュー公開 2010年1月14日
エイミー・グッドマン: ナオミ・クラインさんです。いま、ハイチで何が起こっているのか、そして誰がすでに利益を得ているのかについて、彼女の発言をご紹介します。
ナオミ・クライン: 『ショック・ドクトリン』で書いたように、現在では危機を口実に使って、時勢が安定している状況下では通過させることが不可能な政策を押し通すことがよくあります。極端な危機を抱えている国々は、どんな種類の援助であろうと、どんな種類のお金でさえ欲しくてたまらない状態であり、交換に出された諸条件を公正に交渉する立場にありません。
ちょっとここで一息いれて読み上げたいものがあるんですが、かなりすごいですよ。ちょうど私のウェブサイトに掲載したところです。「ハイチ:止めよう、再びショックを与える前に」と見出しをつけました。これがヘリテージ財団のウェブサイトに掲載されたのはちょっと前、3時間前だったと思います。
「苦難のさなか、ハイチの危機がアメリカにチャンスを提供します。緊急人道援助の提供に加え、ハイチの悲惨な地震に対する米国の対応は、長い間機能不全が続いているハイチの政府と経済を再形成する機会となるばかりでなく、この地域での合衆国のイメージを改善するチャンスにもなります」。と、こんな風に続きます。
もう私には、物事が改善されているのかどうなのかわかりません。だって、ハリケーン・カトリーナに対する32項目の自由市場解決策を発行するまでに、ヘリテージ財団は13日かかったんです。私のウェブサイトでそのドキュメントも提供しています。それは、公営住宅計画を取りやめて、沿岸を非課税の自由企業区に変え、請負業者が生活水準に見合った最低賃金を払うことを義務付けていた労働基準法を取り除く内容でした。ええ、まったく。カトリーナの場合では、それを実行するまで13日かかりました。ハイチの場合には、24時間待つことさえしませんでした。
いま、私が物事が改善されているのかわからないと言ったのは、2時間前に彼らがこれを取り下げたからです。誰かが品がないと言ったんですね。そしてそれからはるかに聞こえのいいものを提供しています。幸いにも、「デモクラシーナウ!」のレポーターが元の記事をグーグルのキャッシュで見つけました。でも、いま見ることができるのは、はるかに優しい「ハイチを救済中に覚えておくべきこと」です。そして下のほうに埋もれている文面には「また、ハイチの民主主義とその経済のための長期的改革も、このうえないほど久しく待望されています」とあります。
しかし私が言いたいのは、一つは、ハイチに対する援助が無償援助であり、決して債務ではないことをはっきりさせる必要があるということです。これは絶対に重要です。ハイチはすでに過度の累積債務を負った国です。これは災害で、エイミーが言ったように、一方ではご存知のとおり自然の災害、地震であり、もう一方では、私たちの政府が共謀してきた貧困の悪化によって、さらに被害が拡大している人災です。
危機――自然災害はハイチのような国でははるかにひどいものになります。それは土壌浸食があるからで、なぜなら貧しいから人々はとてもとても不安定な方法で建てるので、家はたちまち滑り落ちてしまい、そして家は建てるべきではないようなところに建っているからです。
こういうすべてがお互いに関連しています。しかし、ここでしっかりと明らかにしておかなければならないのは、この悲劇、部分的には自然の、またある部分では造られた災害は、いかなることがあっても、これ以上ハイチの債務を増やすために使われてはならないということです。二つ目は、米国企業の利益のために、民衆から支持されない企業主義者の政策を通すために使ってはならないということです。これは陰謀説ではありません。これまでに何度も何度も行なわれてきたことです。
エイミー・グッドマン: 昨夜(1月14日)、倫理文化協会でのナオミ・クラインでした。ナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』、『The Rise of Disaster Capitalism[災害資本主義の台頭]』の著者です。
http://www.democracynow.org/2010/1/14/naomi_klein_issues_haiti_disaster_capitalism
―――
訳者あとがき
★ナオミ・クラインのウェブサイトに緊急追加融資についての続報がでています。
http://www.naomiklein.org/articles/2010/01/imf-backtracks-debt-relief-haiti
続報によると、1月20日にはIMFのストロス=カーン専務理事が追加融資も含め、ハイチの債務を帳消しにするよう調整しており、その意味で、債務は贈与となるだろうとコメントしていましたが、二日後のIMF理事会では、数年間の据え置き期間の後、経済状況の再評価によって返済を求めることになったようです。
★現在、私(訳者)は ニューヨーク在住です。ニューヨークはハイチからの移民がとても多い場所でもあります。身近では妹の同居人もハイチからの移民で、彼の家族はまだポルトープランスに住んでいます。
その彼がこう言いました。「水・電気などライフラインがズタズタだと報道されているけれど、首都といえど少し離れたところではもともと上下水も電気も整ってなかったところだったよ。ポルトープランスでは物資をめぐり暴動がおこっているようだけど、もともと物資の乏しかったところなのに、世界中からモノが集まってきていてその奪い合いになっている」と嘆いていました。「ほとんどが貧しいハイチ人はモノがないのはいまにはじまったことじゃないので、彼ら自身がサバイブする方法を一番よく知っている」。
また、「だからといって、もちろん援助をしなくてもいいということではなく、ただ、米国のやりかた、援助物資を暴動から守るために軍隊のガードをつけて人々を追い払ったり、空港を使用する優先順位をゆずらないため、負傷者に必要な薬などを運ぶ飛行機がドミニカに着陸しなければならず、陸路で10時間以上かけて運ばなければならない状況を生んでいる。本当なら助かる負傷者が死ななければならない、そんなことが起こっているのが理解の許容を超えている」とも。
この速報で、ナオミ・クラインが指摘しているように、貧しいがゆえに建物の崩壊がいちじるしく被害の拡大を招いただけでなく、地震後の対応にもその理由があるのではないでしょうか。