TUP BULLETIN

速報843号 ドナより 太陽は泣いている

投稿日 2010年2月3日

この涙を取り除くために、いったい何がなされるべきなのでしょう


 オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年の春にはイラクで「人間の盾」に参加した。04年春にはイラクで米軍包囲下のファッルージャに入り、その帰路地元レジスタンスによる拘束を経験し、つぶさにその報告をしてくれた。04年冬から05年春にかけてはイラク・パレスチナ「巡礼の旅」を伝えてきた。05年8月には、シンディ・シーハンのキャンプ・ケーシーに駆けつけ、アメリカからの報告は、ほとんど実況中継だった。05年12月にはオーストラリアがイラク戦争に最も貢献してきたパイン・ギャップ秘密基地に侵入し、3人の仲間とともに「市民査察」を強行した。冷戦の遺物である「防衛(特別事業)法1952年」に基づき裁判にかけられたが、08年2月に第2審で無罪判決を勝ち取った。
 今回ドナは、違法なガザ封鎖を打ち破り、人道援助を届けようとする「ガザ自由行進(Gaza Freedom March)」に参加するためにエジプトに入国しました。世界中からカイロに集まったおよそ1400人の参加者がガザ入りすることをエジプト当局が拒否して多くがカイロに足止めされているなか、ドナたちは別動隊としてガザ入りを果たした後にエジプトに戻りました。その後、1月14日無事に帰国したドナが送った最後のガザ報告です。
                       (翻訳:福永克紀/TUP)



太陽は泣いている
ドナ・マルハーン
2010年1月28日

お友達の皆さんへ

子供たちが懸命に集中して描いていたのは、体から噴き出す血であり、地上の人々に銃弾を浴びせるヘリコプターであり、爆撃する飛行機でした。疲弊しきったシュロの木、どんよりとした雲、それにふたつに引き裂かれた家も描いていました。

しかし、私の心を完全に引き裂いてしまったのは、太陽を描いたひとりの子供の描写でした。一目で戦争の光景と分かるように典型的な子供らしさで描かれていたその絵で、左上端から見下ろしているのは、太陽でした。地上を照らす日光が描かれたその太陽は、山吹色に塗られていました。大きな青色の目で、長いまつ毛があり、小さな赤い唇でした。世界中の子供たちの多くが太陽を描くのと似ているように見えました。

この太陽が、ガザの太陽が、頬に涙を流していることを除けば。

太陽は泣いていました。ガザのこの幼い少年の心のなかで彼に見えている私たちの世界は、彼を取り巻く大混乱であり、泣いている太陽なのです。

ガザの最貧地区のひとつにあるコンクリートのビルで、私たちは奥のほうにある薄暗い部屋にいました。この子供たち、4歳から10歳ぐらいの子供たちが輪になって胡坐に座り、静かに絵を描いているのを見ていました。私たちの存在に、もじもじするわけでもなく、騒ぐわけでもなく、気をそらされることもありませんでした。念入りに描いているあいだの彼らは、異様に静かでした。

この子供たちは、深刻な心的外傷後ストレス障害を患っていると診断されています。私たちが居たのは、パレスチナ・トラウマ・センターが設立した遊戯療法を行なうグループのところです。センターは、昨年の攻撃がガザの子供たちに与えた破壊的な衝撃に、応えてあげたいと思っています。来る日も来る日もミサイルや銃弾や爆弾や悲鳴を耐えなければならなかった子供たちの衝撃に。

先生が、子供たちに立ちあがって一人ひとり自分の絵を説明するように勧めました。子供たちが自分の絵を手に持って淡々と説明すると、案内役が私たちにその意味を囁きました。数分たつ間もなく、私は壁のほうに顔を向けました、泣いているのを子供たちに気づかれないようにと。

瓦礫の下の闇に捕らわれて、叫んでさらに叫んで、もがき出てきて、やっと見つけたのは廃墟に横たわる家族の遺体だけだった話がありました。攻撃の後にしがみついた父母や祖父母の体から命が消えていくまで抱きしめていた子供の話がありました。一緒に過ごした姉妹や兄弟やいとこたちの話がありました。そして、かつて住んでいた家の絵がありました。それも今や石の欠片や瓦礫と化しています。

この絵のいくつかを下記で見ることができます。
http://www.flickr.com/photos/76492737@N…/sets/72157623173926557/

これがガザの幼い子どもたちの話です。決して彼らが見るべきではなかった、想像すべきではなかった、まして自分たちで経験すべきではなかったことの話です。

でも彼らは経験しました。そして今、ガザの子供たちは、占領と包囲攻撃がもたらす悪夢の中のトラウマという悪夢を生きています。それが彼らの具合を悪くさせます。不眠におちいり、内向的になり、気力を失い、怒りにかられます。そして体も病に冒される。

ガザ地区パレスチナ人の大半がトラウマ症状を抱えており、子供たちとその家族の41%が重い精神障害や精神疾患を患っていると、パレスチナ・トラウマ・センターが行なった調査は結論付けています。およそ300名の子供を含む1400名以上が殺害された昨年のガザ攻撃以降、この数字は今ではもっと悪化しているでしょう。

もうひとつ、私の息をとめた絵がありました。10歳の少女による絵で、紙上には大きな目がひとつだけでした。丁寧に描かれたその目は、輪郭と眉毛が黒で、薄青色に塗られた眼球の中に白い瞳がありました。そしてまたもや、目から滴る涙がありました。今回は血の涙で、暗い赤に塗られていました。

私たちと一緒にいた英国の児童心理学者が、この絵には典型的な子供の絵の特徴がまったくないのを診てとりました。彼が言うには、少女はそれを描くとき精神疾患状態にあったに違いありませんでした。もしかして、ガザの数え切れないほど多くの子供たちと同様、生きる意志をなくしていたのでしょうか。

血の涙を流す目、そして泣いている太陽、こんなイメージが、ガザの幼い少女や少年の心の奥から湧いています。

いつの日か、このガザの幼い子どもたちも成長します。

今からそのときまでに、この涙を取り除くために、いったい何がなされるべきなのでしょう。

皆さんの巡礼者
ドナより

追伸:これがガザにおける最後の回想です。こんなに長くかかってしまってすみません。パレスチナ・トラウマ・センターのウェブサイトは以下です。
www.ptcgaza.com
http://www.ptcgaza.cjb.net/

追追伸:お勧めのビデオクリップがあるサイトのリンクで、あなたはこんな状況で生きていけますかと問うています。
http://www.informationclearinghouse.info/article15693.htm

追追追伸:お勧めするもうひとつのサイトは、昨年のガザ攻撃について信頼できる優れた情報と現在の状況を載せているパレスチナ人権センターで、
http://www.pchrgaza.org/ です。センターは新報告『23日間の戦争、928日の封鎖――2008年12月27日から2009年1月18日までにイスラエルがガザ地区に加えた最後の攻撃から1年後の生活』を出したばかりです。

追追追追伸:私の本の出版まで、わずかな日にちとなりました! ジャーナリストであり作家であるアントニー・ローウェンツタインを開会人として迎え、なんと素晴らしい夜となることでしょう。出席なさるなら、出欠返答をすまされましたか。もしまだなら、メールで、XXXXXX@X… に、または電話番号XXXXXXXXXでお知らせください。お祝いしましょう![訳者注:メールアドレスと電話番号は伏字にしている]

追伸×5:セントラル・ステーションからフットブリッジ・シアターのすぐ外側に停まるバスがあります。もし車で来られるなら、グリーブのアランデル通りかその近くに駐車して、フットブリッジを歩いて渡るのが最適です。地図をご覧ください。
http://maps.google.com/maps?f=q&source=s_q&hl=en&geocode=&q=Footbridge+Theatre,&sll=-33.884632,151.188215&sspn=0.006172,0.009645&ie=UTF8&hq=Footbridge+Theatre,&hnear=&ll=-33.884872,151.188247&spn=0.00595,0.009645&z=17&iwloc=A

追伸×6:「あなたはここで暮らせる? できる? 無理だよ、だって状態は最悪だし、怯えてしまうよ。ミサイルが撃ち込まれるたびに、壁が割れ始めるんだ」――ガザの少年、前述のリンクの「ガザの現実」ビデオクリップより

原文:The Sun that cries
URL: 
http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/244